処刑回避で海賊に就職したら、何故か船長に甘やかされてます。

蒼霧雪枷

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「いや~ん♡か~わ~い~い~♡」
「ふっ…私たちにかかれば、どんなずぼら女もこんなもんよ!!」
「髪が短いのが残念だわ~」
「折角だからこれから伸ばしましょうよ!」
「貴女の茶髪は色が薄いから、綺麗な金髪にも負けないわ!」
「あははは…気が向きましたら、そうします…」

 娼館のお姉様たちに揉みくちゃにされ、私は二年ぶりにきらびやかな女物の服を着せられていた。
 なんというか、流石大人の女性と言うか、むしろこの職故なのか、彼女らには私が女だと秒でバレていたのである。まぁ、だからこそ風呂に突っ込まれたのだろうけど。
 痛んでいた毛先はトリートメントでトゥルントゥルンにされ、日に焼け満足に手入れもしていなかった肌もオイルを揉みこまれモチモチプルンにされた。
 いくらノリノリで男装して海賊をやっていても、私だって女の子である。久しぶりにこんな綺麗にされて悪い気はしない。というか、むしろ嬉しい。
 それでも、お姉様たちに着せ替え人形にされたのは流石に疲れた。あれもいいこれもいいと、可愛らしいものや少しセクシーなものまで色々と着せられた。
 今着ているものは、藍色を基調とした袖がゆったりとしたシースルーのマーメイドワンピースだ。片側にスリットが入っていて、ちょっと大人っぽい。

 そして、私は彼女らの会話を聞いていて気づいたことがある。どうやら、皆私をこの娼館の新人だと誤解しているようなのだ。
 何も言っていないのに仕事の話を聞かされた。普通にホワイト営業っぽかったけど、正直生々しい仕事内容の話はあんまり聞きたくなかった気もする。
 こう言う仕事してる人、本当に凄いと思う。私は多分無理だ。ほとんど知らない男の人と、なんて。
 いくらオババがきちんとまともな人を選別してるとしても、だ。多分、というか絶対に無理。怖くなって泣くかも知れない。
 話を聞いて不安定そうにする私に、お姉様たちは安心させるように微笑む。

 と言うか、別に私ここで働きませんけどね!?

 どうにか誤解を解き、私はようやく本題に入ることが出来た。

「─と、言うわけなんです。船から降りたくないし、でも女だってバレて関係が変わるのもイヤで…」
「うーん…あの船の人達がそんなことで変わるとは思えないけど、そこは仕方ないわね。誰でも不安になるわ。一人でよく頑張ったわね」
「お姉様…!」
「アレの臭いを誤魔化せればいいんでしょ?確かに、バレてるのは恥ずかしいわ!」
「香水なんてどうかしら。日頃から付けるようにしておけば、周期が来てもバレにくいと思うわ」
「後はたまに薬で周期をずらせばいいんじゃないかしら?そうすればバレる確率は低くなるんじゃないかしら」

 ぽんぽんと出てくる案に、私はほっと息を吐き出す。これで「手は何もないわ」なんて言われたら、今度こそ船から降りる決意を固めねばいけなかった。
 結局、私はゲンさんから薬を貰い、お姉様たちにオススメされた庶民向けの香水店で香水を購入することにした。
 お試し的にこの場にあった香水を嗅がせて貰ったが、いい匂いだけど少し強すぎる気がした。あと、やっぱり女性っぽすぎると思う。

「男物の香水ってないんでしょうか?もう少し、こうスッキリした匂いのやつとか」
「そうね…ミントを使ったものならスッキリしていて、男性がつけてても違和感がないものだけれど…やっぱり、男性は香水なんかつけないから」
「ですよねぇ…あんまり、船の上で邪魔にならないような匂いがいいんですけど」
「邪魔って?」
「風の匂いとか、潮の匂いとかでも海の様子が知れるんだって。だから、スッキリしたようなやつがいいなって」
「なるほどねぇ。でも、そうなるとお店に行ってみないことには何も分からないわ。ここにあるものが全てじゃないもの」
「それもそうですね!明日、早速行ってみます!」

 そこからはキャッキャッと女子トークが始まった。私が今まで行ったことのある街や島などの話もしたが、もっぱら彼女らが聞きたがったのはやはり恋バナである。
 いくら男装してても、船の上で気になる人はいないのか、と。
 ここはうちの海賊団のクルーがよく来る店らしく、ある程度顔を知っているのだろう。彼はどうだ、あの人はどう思ってる?等々…うーん、どうしたものか。
 そのうち、何故か船長と副船長のどちら派かという話になった。確かに、うちのトップ2は顔が良い。荒々しい海の様な船長と、穏やかな海の様な副船長。勿論二人もこの店を利用したことがあるため、ここの女性たちの中で意見が割れているらしい。

 私はその話を聞いたとき、何故か胸がもやっとした。でもそれはあまりに小さくて、気のせいだとすぐに思考の隅へと追いやった。

「で?アレクちゃん的にはどっちが好み?」
「えぇー?どっちと言われても……うーん…強いて言うなら、船長?」
「キャー!何で何で?」
「え、えと、あ!船長の剣が凄い格好よかったんです!まさにイメージ通りって言うのかな…副船長も性格に似合わず結構豪快な戦い方なんですけど、船長はもっと、こう、勢いが違くて!気づいたら敵が全員倒れてるんです!!敵を倒すことに特化してるんですけど、それでいて皆を守ろうとしてる剣で、その姿が凄く格好良かったんです…」

 ふと、私が船に乗ってから初めての"同業者"との戦闘を思い出した。船長から、私は絶対に人を殺すなときつく言われたあの戦闘。
 沢山の荒くれが船の甲板に乗り込んできた。私は剣を握っていたけれど、本物の殺気と空気に飲まれて一歩も動くことが出来なかった。
 それに気づいた船長が、私を庇いながら戦ってくれたのだ。
 敵を真っ直ぐに見据え、決して目を逸らすことはしなかった。それでも後ろの私を、他の仲間たちを気にしていた。何かがあれば、すぐに助けられるように。
 あの敵を確実に倒す剣は、確かに誰かを守るための剣に見えた。
 あの光景は今も鮮明に目に焼き付いている。

 私はあの日、改めて船長が、ロクサス・サッチがということを実感したのだ。

 それを思い出しながら語った私は、一体どんな顔をしていたのか。向けられる熱い視線にハッと周りを見れば、その場にいたお姉様たちが物凄くニマニマしながらこっちを見ていた。

 まって、私今何言った!?!?






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