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四章 ホワイトコードの叛逆
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ミュウがわざわざ――本当は嫌だったが――海上に現れた目的は、エントの艦隊の目視での補足とマーキング処理。最初のオーギル空戦で人形部隊が行った防空システムへの連絡、そしてシンカナウス軍への敵軍位置の告知と同じものである。
洗礼のような光の雨が止み、ちらりと後ろを向けば、ある意味、目に馴染みつつある第三艦隊がやってきている。戦闘機が次々と背後から飛び出してエントの艦隊へ向かっていき、再び海上からどうにか浮き上がったドリウスも、形勢の悪化を察知して舌打ちをしたのが聞こえてきた。これでこちらに絡んでくることもないだろう。
(わざわざ勝ちを捨ててまでこだわりを取りに来ないあたりは、雇われの傭兵ということか……)
仕事を忘れない冷徹さだけは評価に値する相手だが、性根は最悪だ、とミュウは目を細めた。
『――やぁ、ご親切なアンドロイドくん。わざわざ敵軍の侵攻と位置を知らせてくれてありがとう。ところで君は一人かい? 迷子なら親御さんたちのところに連れて行ってあげるんだが』
『その声はいつぞやのカント・シスリー司令ですね。戦艦の戦闘機運用の際は大変ご迷惑をおかけしました。あれからα-TX3の対処法も確立されつつあるようで、各地からひっぱりだことか。大変お忙しいところを呼びつけた無礼を心よりお詫びいたします。そして――ご心配には及びません。私は一人で帰れます』
慇懃無礼な挨拶をしてきた通信の主にそう返すと、相手はしばらく沈黙した。
『――君、我々を救ってくれた、あのアンドロイドか』
いくぶん及び腰の様子の声が響く。きっと通信越しの相手は、ミュウの痛烈な返しに引きつった顔をしているに違いない。
『親元にも帰らずに素行不良かい。感心しないね』
『迷子のアンドロイドに火器を向けておいて、言うことがそれですか』
隙あらばと照準が合わさっていることを指摘する。
『君一人なら、我々にもいくらかの分はあると思うけどね?』
『……、』
ミュウは沈黙した。それをどうとったのか、シスリー中将は鼻を鳴らす。
『君がまだ暴走を続けるなら、君以外のアンドロイドも危険だとみなし、廃棄処分を決定しなければならない。お友達を溶かされたくはないだろう?』
『……構いません』
『――何だと』
『構いません、と言ったのです。もう、あの機体たちの目に、再び光が宿ることはありません。私が許可していないのだから。彼らは、人間で言えば死んだようなものだ』
『……君は一体、何が目的だい? ……いや、待て。許可だと? そんな権限が君にあるはずが――』
そこで、シスリー中将は言葉を止めた。
まさか、と吐息のような音が聞こえた。
そして、ミュウに機体識別コードの問い合わせが届いた。問い合わせ元はカント・シスリーの乗る艦船だ。勘のいいものがいたものだ、とミュウは嘆息しながら応答した。別に隠すことはない。
巷でもっぱらの噂であった、シンカナウスの怪談――MOTHERの亡霊の正体を明かしてやるだけのことである。
『――っ!』
息を呑む気配。
シンカナウス空軍第三艦隊に、激震が走った。
『機体識別コード、出ました。TYPE:――これは、μはない……!? ……は!? た――っ、TYPE:MOTHER!? 機体識別コード、TYPE:MOTHERです、司令!』
『馬鹿な!?』
驚倒と共に絶叫したシスリーの声が、この不可解な七日間の全てを、漠然とながら理解したことを示していた。
『君のようなちっぽけな身で、この七日間、全ての、シンカナウス全体のシステムリクエストを処理していたというのか!? あまりに荒唐無稽すぎる……! いや、しかし、エメレオ・ヴァーチンならば……』
迷う声に、肯定する。
そうだ。――彼は、本当の本当に、天才だったのだ。
『はい。ご推察の通りです。今の私はTYPE:MOTHER――個体名をミュウ。名前の由来ではありますが、もう機体番号ではありません、ご了承ください』
『人形風情が、個人を主張するとはね……!』
『そう言われることが分かっていたので、親元を離れました。今の私は、あなた方に積極的に敵対するつもりはありませんが、だからといって必ず味方をするというものでもないことをご理解いただけますと幸いです』
痛いところを突かれたと思ったのか、シスリーはしばらく黙した。
『……答えられるのなら答えて欲しい。我が国のMOTHERの亡霊役をわざわざ担っていただけたのは、どうしてかな?』
『大きくは二つ。ひとつには、曲がりなりにも作り出していただいたご恩がありますので、義理立てを』
ミュウは答えた。
『もうひとつは――この国を回すことでしか得られないものを、準備したかったからです』
『…………!』
それは、一体、何なのか。今頃猛然と頭を巡らせて考えていることだろう、と、ミュウは冷徹に眺め。
『……ところで。私は、初めから、ここに一人でいるとは一言も言っていないのですが』
――と。
機が熟したと思ったところで、両軍に特大の『爆弾』を投下した。
洗礼のような光の雨が止み、ちらりと後ろを向けば、ある意味、目に馴染みつつある第三艦隊がやってきている。戦闘機が次々と背後から飛び出してエントの艦隊へ向かっていき、再び海上からどうにか浮き上がったドリウスも、形勢の悪化を察知して舌打ちをしたのが聞こえてきた。これでこちらに絡んでくることもないだろう。
(わざわざ勝ちを捨ててまでこだわりを取りに来ないあたりは、雇われの傭兵ということか……)
仕事を忘れない冷徹さだけは評価に値する相手だが、性根は最悪だ、とミュウは目を細めた。
『――やぁ、ご親切なアンドロイドくん。わざわざ敵軍の侵攻と位置を知らせてくれてありがとう。ところで君は一人かい? 迷子なら親御さんたちのところに連れて行ってあげるんだが』
『その声はいつぞやのカント・シスリー司令ですね。戦艦の戦闘機運用の際は大変ご迷惑をおかけしました。あれからα-TX3の対処法も確立されつつあるようで、各地からひっぱりだことか。大変お忙しいところを呼びつけた無礼を心よりお詫びいたします。そして――ご心配には及びません。私は一人で帰れます』
慇懃無礼な挨拶をしてきた通信の主にそう返すと、相手はしばらく沈黙した。
『――君、我々を救ってくれた、あのアンドロイドか』
いくぶん及び腰の様子の声が響く。きっと通信越しの相手は、ミュウの痛烈な返しに引きつった顔をしているに違いない。
『親元にも帰らずに素行不良かい。感心しないね』
『迷子のアンドロイドに火器を向けておいて、言うことがそれですか』
隙あらばと照準が合わさっていることを指摘する。
『君一人なら、我々にもいくらかの分はあると思うけどね?』
『……、』
ミュウは沈黙した。それをどうとったのか、シスリー中将は鼻を鳴らす。
『君がまだ暴走を続けるなら、君以外のアンドロイドも危険だとみなし、廃棄処分を決定しなければならない。お友達を溶かされたくはないだろう?』
『……構いません』
『――何だと』
『構いません、と言ったのです。もう、あの機体たちの目に、再び光が宿ることはありません。私が許可していないのだから。彼らは、人間で言えば死んだようなものだ』
『……君は一体、何が目的だい? ……いや、待て。許可だと? そんな権限が君にあるはずが――』
そこで、シスリー中将は言葉を止めた。
まさか、と吐息のような音が聞こえた。
そして、ミュウに機体識別コードの問い合わせが届いた。問い合わせ元はカント・シスリーの乗る艦船だ。勘のいいものがいたものだ、とミュウは嘆息しながら応答した。別に隠すことはない。
巷でもっぱらの噂であった、シンカナウスの怪談――MOTHERの亡霊の正体を明かしてやるだけのことである。
『――っ!』
息を呑む気配。
シンカナウス空軍第三艦隊に、激震が走った。
『機体識別コード、出ました。TYPE:――これは、μはない……!? ……は!? た――っ、TYPE:MOTHER!? 機体識別コード、TYPE:MOTHERです、司令!』
『馬鹿な!?』
驚倒と共に絶叫したシスリーの声が、この不可解な七日間の全てを、漠然とながら理解したことを示していた。
『君のようなちっぽけな身で、この七日間、全ての、シンカナウス全体のシステムリクエストを処理していたというのか!? あまりに荒唐無稽すぎる……! いや、しかし、エメレオ・ヴァーチンならば……』
迷う声に、肯定する。
そうだ。――彼は、本当の本当に、天才だったのだ。
『はい。ご推察の通りです。今の私はTYPE:MOTHER――個体名をミュウ。名前の由来ではありますが、もう機体番号ではありません、ご了承ください』
『人形風情が、個人を主張するとはね……!』
『そう言われることが分かっていたので、親元を離れました。今の私は、あなた方に積極的に敵対するつもりはありませんが、だからといって必ず味方をするというものでもないことをご理解いただけますと幸いです』
痛いところを突かれたと思ったのか、シスリーはしばらく黙した。
『……答えられるのなら答えて欲しい。我が国のMOTHERの亡霊役をわざわざ担っていただけたのは、どうしてかな?』
『大きくは二つ。ひとつには、曲がりなりにも作り出していただいたご恩がありますので、義理立てを』
ミュウは答えた。
『もうひとつは――この国を回すことでしか得られないものを、準備したかったからです』
『…………!』
それは、一体、何なのか。今頃猛然と頭を巡らせて考えていることだろう、と、ミュウは冷徹に眺め。
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――と。
機が熟したと思ったところで、両軍に特大の『爆弾』を投下した。
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