風のなかの日記帳

吉谷新次

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風のなかの日記帳4

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 それは、突然の出来事だった。
 晴れの日に、外に出てみれば、そこに女の子が待っていた。

 とても、元気そうではある。
 女の子はいきなり、手伝ってほしい、と言ってきた。



 俺の名前は、藤崎翼。これといって有名人ではない。
 ちょっぴり、変わった学校に通っている、変わった学生なだけ。

 今日は、この女の子についていくことにした。
 日々の学生生活で培った勘とでもいうのだろうか。

 女の子は、持田、と紹介してくれた。
 そんな彼女は、困っている様子だった。



 持田は、探し物をしているのだという。けれど、ここからは遠いみたいだ。
 持田が、あえて俺に助けを求めた理由は、わからないまま。

 意外にも口数は多く、電車のなかの持田は明るかった。
 自然や動物が好きで、両親と頻繁に外出することもある、活発な子のようだ。

 俺にも、活発な妹がいるからか、話は合わせやすかった。
 俺は、持田の趣味の話をたくさん聞いてあげた。



 駅に到着すると、持田は進行方向を指した。
 ここから先はあっちにいる子の話を聞いて、と謎めいたことを言う。

 持田の指す場所には、誰もいない。
 歩行者もいないため、誰を指しているのか、わからなかった。

 きっと、ここからが、持田が俺を選んだ理由になるのかもしれない。
 俺の今の状態では、持田が紹介している相手を見ることができないとわかった。



 俺はベンチに座って、感覚を研ぎ澄ませた。
 なぜなら、今の状態では、持田の指す相手を見ることができないからだ。

 持田は、誰を紹介してくれているのだろうか。
 周囲の暖かい風を感じながら目を開けて、ベンチから立ち上がってみた。



 そこには三人の女の子がいた。
 そのうえ、その女の子達はなんと、全員が持田だった。

 さらに驚くことに、ここまで連れてきてくれたほうの持田は、いなくなっていた。
 目的を達成した人のように、どこかへと消えてしまったようだ。

 改めて三人の持田を見れば、様子がおかしいのはすぐにわかった。
 それぞれの持田に、それぞれの汚れが付着しているのだ。

 ずぶ濡れなっている持田は、探し物はなかった、と言う。
 枯れ葉まみれになっている持田も、探し物はなかった、と言う。



 唯一、煤まみれの持田が、探し物が見つかった、と言っていた。
 そんな持田は俺の手を引き、山奥へと導いてくれた。
 それがまた、かなりの距離だった。

 途中、兄妹の話になった。妹がいる俺に対して、このシスコンめ、と言ってくる。
 大変失礼ですね、なんてツッコミを入れる、そんな会話が続いた。

 冗談を言える持田は、煤汚れの見た目とは違い、意外にも明るかった。
 なぜそこまでして、執着する探し物があるのだろうか。



 たどり着いた場所は、ゆるやかなカーブのある坂道だった。
 持田は、そのカーブの奥を指した。
 そこで探し物を見つけた、と最後の情報をくれる。
 カーブを進むにつれて、ちょっとした小道も目に入った。



 大きな通りと小道のある交差点に到着した。
 不思議なことに、このあたりは、なにかが焼けている匂いがした。

 持田は、そんな小道の脇にある茂みまで案内してくれた。
 俺は、その茂みをじっと見てみた。



 探し物は見つかった。茂みのなかに、それはあった。
 乗馬用の立派な手綱が落ちていた。

 動物が好きな持田は、乗馬も趣味としているらしい。
 なにかの拍子に、ここに手綱を落としたようだ。

 落とした原因もすぐにわかった。
 煤汚れの持田と、この場所の焼けた匂いで。

 持田は、俺に手綱の場所を教えきると、姿を消した。
 まるで、駅まで案内してくれた持田と同じように。

 持田という少女は、短距離霊力を、リレー形式で使っていた。
 さらにそれを工夫して、霊感の強い俺を見つけ、ここまで連れてきたといった感じだ。

藤崎「さて、この手綱を取りに行こうか」

 久々に、強めの霊力を使ったような気がする。
 持田は、大した女児だった。



 長い時間の幽体離脱だった。
 ようやく、俺は霊界から人界へと戻ってきた。



 俺が見ていたさっきの景色は、あくまで霊界での景色だった。
 人界にあるその景色は違った。



 どうやら、あの手綱が落ちていた道路で、交通事故があったようだ。
 その延長で、一部の木々が燃えて、山火事に発展した場所だった。

 あの現場や、持田の霊力から察すると、持田とその両親は生きている。
 持田の生霊が、手綱をなくした本人を助けよう、と行動を起こしたようだ。



 持田のあの力強い訴えなら、まだ手綱は燃えていない。
 俺は、あの茂みのある事故現場へと向かった。

 乗馬用の手綱は無事だった。偶然にも、火の行く手から逸れていた。
 あとから、近所の住民に聞いてみると、ここで事故があったことは間違いなかった。

 ここで、持田の一家が乗る車が、追突事故を起こされたのだという。
 車内にあったたくさんの荷物が道路へと投げ出された。

 手綱を含めた荷物のいくつかが、茂みに落ちたと予想された。



 俺は、この手綱を持って、駅へと戻ろうとした。
 けれど、またしても別の持田がいた。

 今度は、病院へ案内をしてくれるみたいだ。
 私は最寄りの病院で入院をしている。

 そんなことを言っていそうな持田のあとをついて行くことにした。



 持田の案内もあり、俺は、病院の受付担当に持田の手綱を渡すこととなった。
 もちろん、落とし物として。拾った場所は、あえて言わなかった。

 持田の幽霊から教えてもらった、なんて言えないからね。
 持田の落し物は見つかり、目標は達成できたのだ。

 俺は、受付担当に名前を名乗らずに、帰ることにした。
 やがて、持田の霊力は、すべて感じ取れなくなった。

 何人もの持田の生霊さん、ご苦労様。
 そして、持田さんご本人へ。はやく元気になってね。



 俺は、いつもと変わらずに、変わった学校に通っている。
 そう、霊感の強い生徒が集まる学校だ。



川村「よう、藤崎。そこでなに突っ立ってんだ?」

二階堂「おはよう、藤崎」

藤崎「あ、おはよう。ちょっと、ぼーっとしてた」



芹沢「おはよう、フージー。今日は、転校生が来る日なんだよねー」

藤崎「おはよう。先生が言うには、その転校生は霊感が強いみたいだね」

川村「可愛い子だったら、手を出すんだろ?」

藤崎「出しませんから。俺、そんな男子じゃないから」



幸野「どうも、みんな! 初めまして!」

藤崎「お、転校生かな?」

幸野「正解! 俺、幸野。よろしく!」



モモ「どうも! お兄ちゃん、お弁当を忘れたよ!」

藤崎「あ、こら。勝手に入っちゃだめだよ」

モモ「校門で立ってる警備員八人に許可をもらったよー」

藤崎「その八人全員が、警備のコスプレをした幽霊なんだよ」

 俺達は霊能者。
 
 だけど、それはそれでなんとか楽しく過ごせている。
 学生生活以外の成仏活動も、俺達の日記に刻まれていくのだろう。

藤崎「みんな、これからもよろしく! それじゃあ、教室に行こうか」


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