セルリアン

吉谷新次

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チャプター07-01

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 惑星マシスでは、深夜の大嵐がやってきていた。

 そんななか、ランスは、広い通路から監獄へと歩かされていた。時折、立哨警備をしている魔術師の会話とその内容が耳に入っていた。

 この発電所施設に、侵入者が来る可能性が高いのだという。というのは、反銀河連邦団のバズが持ち込んだ情報によれば、問題を解決したがる節介な賞金稼ぎが、ここで一暴れするかもしれない、とジャンに吹き込んでいた。それを聞いた警備担当の魔術師が、罠を張るように、あえて警備が手薄のふりをして、巨大連絡通路に誘い込んで、約三〇人の魔術師を配置しておくのだという。その巨大連絡通路の先こそが、こちらが投獄される、監獄のある場所だった。

 賞金稼ぎ、という名前を聞いて、リップルを期待してしまっているのが自分である。彼なら、ここにいる魔術師などは蹴散らすことが可能だからだ。ただ、危険なのは、ジャンとレッグスの二人の存在だった。この惑星にいる魔術師も立派な魔術師ではあるが、ジャンと比べてしまえば、足元にも及ばないのだ。ジャンは、魔女とほぼ同等の魔力を備えている。

 そして、なによりも、バズが率いる反銀河連邦団の小隊は、この惑星の周囲を見張っている。侵入が出来ても、脱出は不可能に近い。

 カッツィ団は、リップルを危険な場所へ誘い込もうとしている。

 絶望と希望が入り乱れた情報に、ランスの気持ちに不安がのしかかっていた。

 さらなる追い打ちは、監獄通路を歩いている時の、警備隊の私語だった。彼らの会話によれば、この人造人間の製造に関わっている魔術師に加えて、ほかの惑星で滞在している魔術師達も、この惑星に徴集されるようだ。もう少し時間が経過すれば、発電所の警備だけでなく、この惑星全体の警備が強化されてしまう。

 しばらくして、ランスは、監獄の一室にたどり着いた。狭く薄暗い部屋に、小さな水まわりと小窓があり、椅子と一体化されたベッドが供えられている。地元の監獄とさほど変わらないが、まだここのほうが綺麗ではあった。ただ、小窓から漏れる風と塩は、足場を滑りやすくさせていた。

 ランスにとって、ここ数日間も入っていた部屋ではあったが、今でも抵抗があった。ここで身にしみて感じることは、人の言いなりになりたくない、ということだった。

「入れ!」魔術師の一人から大声を上げられたと同時に、彼から魔気を感じ取った。

 ランスは、攻撃魔法を与えられると勘違いし、思わず顔を両手で塞ぎ込みながら、防御魔法を展開し、青色の光壁で全身を包んだ。すると、予想どおり、背後にいた魔術師は、こちらの背中に稲妻を発射していたらしく、その稲妻が弾かれると、稲妻を発射した本人に跳ね返って命中し、吹き飛んでいった。

 少しのあいだ沈黙が走り、それを見ていた魔術師ですら、固まっていた。ただ、我に返った魔術師が、こちらの身体を押してくると、監獄の一室へと追いやられてしまった。

 ランス自身も、自分のやったことに驚いてしまい、気づけば、格子状のドアが閉められて監禁されている状態だった。さすがに、この格子状の扉は、簡単な魔術では破壊できないものである。ジャンが設置した継続魔法により、結界術の溶け込んだ格子となり、耐久力が見た目以上に上がっている。

 またしても監禁される立場となり、ランスは落ち込みながら椅子に座った。

 時間が経ったあと、風の強さを耳に入れ、椅子に上がって立ち上がり、小窓に顔を覗かせた。そこは、紫色に染まる曇り空と、靄のような視認性の悪い地上だった。そのなかでかすかに見える白い花が、こちらの心を癒してくれていた。


※※※


 惑星マシスの重力場に接近すると、赤紫色を印象とさせる惑星の表面が目の前に広がった。

 リップルは、操縦室の助手席に座りながら、目標の惑星を睨みつけていた。

「ハッキング完了。監視システムの弱体化を確認」とエギーから合図が出た。

「こっちもオッケー」ミアも全身を黄色に光らせながら合図をくれた。

「ありがとう。脱出ハッチまで向かってて」リップルは、ミアとエギーを食堂から船の奥へと向かわせた。そのあと、ブーチに言う。「……それじゃ、行ってくる」

「ねえ」冷や汗を垂らしながら腹部を抑えるブーチは、こちらを見た。「いつも、賞金稼ぎの仕事は、こんな感じだったの?」

「ここまで緊張することはなかったかも」とあっさり答えてみた。「いつも、事前準備はするけど、ここまでの準備をしてても緊張するのは初めて。ただ、すぐに好奇心に変わるだろうね」

「これだけは言わせて」ブーチは、痛みに耐えながらも、強引に微笑んだ。「あなたは死なないでね。……私に代わる人はたくさんいるとしても、リップルみたいな人の代わりなんていない」

「サリーもそこまで褒めなかったな」リップルは照れ隠しに頭をかいた。そして、助手席を立った。「……無理するなよ。俺は、魔術師の宇宙船も盗めるから、俺以外の皆は、いざとなったら逃げるんだぞ」そういった注意をし、エギーに購入してもらった通信パットを首に張りつけて、ブーチとの簡易通信をできるようにした。

「わかってる」ブーチは、すぐに答えてくれるも、息の荒さは変わらなかった。「リップル達がここから離脱したら、私は重力場から離れる。そして、二度目の合図で、重力場に戻ってくる。私にとって激しい動きがないから、身体に支障はない」

「一つだけ言っておく。この件はあくまで、俺の作戦だぞ」リップルは、事前情報を彼女に与えた。「エギーがなにかしらの私情を持って、ブーチに対して船体移動の指示をしても、言うことは聞いちゃだめ。俺の指示だけに従って。もし、それが守れないなら、準発電石は返品してもらう。また、俺になにがあっても情を入れず、逃げること。これが賞金稼ぎの掟だし、俺からの指示だ」

「わかった」ブーチは頷いた。「……それで、エギーは見た?」

 彼女のその確認は、目の前にした惑星マシスに到着するまでに、こちらがエギーの調整をした結果の確認だった。というのは、ブーチは、エギーが人間にかなり近い様子であることに違和感をおぼえ、分解してまでも中身の基盤を見るべきだ、と考えたのだ。

 そして、航海中にリップルがエギーの背中にまわり、調整をする、ということでエギー内部を確認していたのが、先程までの時間だった。

「エギーの調整は終わったし、その中身は見たよ。エギーは、誰かの遠隔操作によって動いているかも」リップルは素直に答えた。

 驚いたことといえば、エギーは、誰かしらの指示で動いている、と思われる遠隔操作の基盤設計図だったのだ。それが確認できたのは、修理を得意とするこちらの分解作業によって判明していた。ただ、こちらに対する隠密活動を疑うことはなかった。エギーの内部は、すべて個人でしか入手できない安価の部材で集まっており、巨大な団体が扱うような優れた部材は発見できなかった。これは高価なものだ、と強いて判断するならば、手足に装着された原動機や兵器だけである。エギーの内部は、情報の送受信性能のみであり、それが複数の場所と伝達しているわけでもなかった。一人の人間がエギーを操作して、会話相手との受け答えもしていることになる。

「そんなエギーを、どうするの?」ブーチは、まだ不安要素として、エギーを見ていた。

「信じる。それだけ。ちゃんと、花も回収する」そう答えながら、雷刀がしっかりと動くかどうかも確認した。「エギーも、なにか事情があって苦しんでる奴かも。……それじゃ、行ってくるよ」

 リップルは、操縦室から食堂へ歩き、そこからさらに奥へと進んで、惑星クラウでの練習と同じように、船尾の脱出用ハッチに到着して準備を整えた。

 今は、不安はなかった。いざとなった時の剣術や念力は習得しており、今回の件についても、事前準備はしてきたからだ。あとは、自信を持って行動するだけだった。

 一つ目のハッチを通過し、リップルは、エギーの背中に乗り、ミアをこちらの肩に乗せた。その時に、エギーの両手を確認してみると、片方は拳を握っており、もう片方は拳が開いている状態だった。両手の力に統一性がないことが見てわかる。今のエギーに対してどんな調整をしても、不調は続いてしまう。

「エギー、もう少しだから、我慢しろよ」リップルはそう言ってみる。

「僕は、大丈夫です」エギーは、淡々と答えた。「ですが、お友達が心配です」

「その友達は、悪化してるの?」ここは、深入りはせず、抽象的に質問をした。

「……そうですね。通信から聞こえる声が弱くなっているようです」エギーは、いつもより落ち着いた様子で答えた。「リップル殿、ご心配をおかけして、大変申し訳ありません」

「いいや。この山場を越えたら、すぐに病院に行くから。お友達に伝えておいて」と優しく言った。「花を回収する時間はある」

 内側ハッチが閉じると同時に、ミアが球体光壁を展開し、空気の確保をした。そして、気圧調整がされたあとに外側ハッチが開き、宇宙へと飛び出した。

 目の前に広がる茶色と薄い紫色の惑星は、地上が見えず、砂埃のように歪む灰色と赤色の混じった雲だった。そこに向けて高度を下げ、皆が感覚を研ぎ澄ませた。

「この惑星の発電所は」とエギー。「一箇所に集中しているので、着陸地点は見つけやすいですね。このまま高度を下げることが出来れば、中枢地区へ到着できるでしょう」

「ただ、花の位置も探さないと」ミアが言った。「中枢地区なら、植物を伐採してるかもね」

「まず、敵に見つからないように低空飛行を続けて、ランスを捜索。見つけ次第、俺だけが構内に侵入する。そのあいだに、エギーとミアで花を捜索してくれれば良い。俺がランスの逃げ道を確保する頃には、花も見つけられるかもしれない」

 雲を抜けて見えたのは、予想以上の明るさを誇る発電所であり、鉄柵や金網などが目立つ、工場を印象づけるような密集施設だった。また、機械音も耳に入り、現在でも稼働していることがわかる。ただ、今日は発電した電力を運搬する日ではないのか、離着陸をする宇宙船は見当たらなかった。それどころか、高度を下げていくうちに、魔術師の気配すらないことも確認できた。目視で、建物と建物のあいだの通路が見えるようになっても、魔術師の巡回警備が見られず、出入口の立哨警備も確認できなかった。

 リップルは、そんな光景を前にしても、自分でも驚くほど冷静でいた。ここまで、サリーの復讐や、ランスの救出に力を注いできたものの、今は不思議なことに、感情的にはなることはなく、これまでどおりの自分だった。

「少し、移動しよう。中枢から少し離れたところにランスが捕らえられているかもしれない」リップルはエギーに指示をした。「どの惑星や施設にも、監禁所および監獄はある。どんな人種でも犯罪者は必ず出るから、密集施設の外周を伝えば、人を閉じ込めていられそうな古臭い建物があるかもしれない」

「崖の多い惑星だね。落ちたら、死んじゃいそう」ミアがこの惑星の第一印象を言った。

 この惑星は、過去に海があったのか、海水が削り取ったような大規模な浸食作用が見られ、すべての発電所施設が、峡谷の天辺につくられているような環境だった。また、崖の深い峡谷ほど、塩を表す赤色になっている。今の状況であれば、ランスに逃げ道はない。

 こういった見た目の印象が悪い惑星の地上へ接近を続けると、本当にランスは生きているのだろうか、と心配になることは、ここにいる皆が思うことだった。けれど、死亡した根拠もないため、不安になるような内容の言葉を並べる者はいなかった。

 しばらくのあいだ、峡谷を伝って高度を下げながら飛行していると、探知機を意味する巨大な鉄塔と針を見つけた。針は目に見えない探知波を放射しており、そのそばを通過する時には、緊張をしてしまった。今では、ミアとエギーのおかげで、この場で飛行ができている。

「あれが、メイン探知機ですね。発電所から少し離れたところにありましたね」エギーが小声で言った。「現在も、警備システムは弱体化させております」

「探知機の近くに、監獄があるかもしれない」リップルは、あえて探知機に接近する空路を指示した。「向こうへ行きながら高度を下げよう」

「……」すると、突如としてエギーの反応が悪くなってしまった。

 エギーが言葉を発せなくなったと同時に、彼の両足にある原動機が停止し、落下し始めてしまった。

「エギー!」リップルは、彼を呼びつけるも、高度を上昇させることはできなかった。

「うーん!」ミアが懸命に妖術を使って、落下速度を低下させようと試みてくれた。

 それでも落下の衝撃で壊れることがわかる速度であったため、リップルは苦汁の決断をした。

 ミアに、落下速度の低下を指示させたあと、あえてエギーを蹴り、まず先にリップル自身が落下を試みるため、ミアの球体光壁から地面に向かって飛び出した。ミアから離れたことにより、身体が透明範囲から離脱してしまったものの、エギーを救うことを考えれば、この判断が正しかった。

 ある程度の高いところから飛び降りても問題のないリップルは、両足で着地しながら身を転がして受け身を取ると、すぐさまその場で上空を見上げた。

 察したミアは、球体光壁の効果を半減させて、こちらに対して、落下するエギーを目視できるようにしてくれた。

 エギーの身体がこちらの念力効果域に入ったところで、リップルは両手をかざしてエギーに向けて念力を放ち、ミアと同じように落下速度を低下させた。ただ、この対応が短時間であったため、念力は完全には間に合わず、エギーの身体と衝突する形となってしまった。

 激しい物音を立てるほどの落下音が周囲に響くも、リップルの捨て身の体当たりもあり、三人が激しく転がりながら、建物の壁に当たることなく制止させることができた。

 幸いなことに、強風が落下音を紛らわせてくれたのか、魔術師がすぐに駆けつけてくるようなことはなかった。リップルはすぐに起き上がるとエギーを起こして、砂嵐の奥へと進んで、狭い通路を見つけてそこへと歩いた。エギーは、軽度の反応はあるも、気を失っているような感じだった。

「エギー、大丈夫か?」リップルは、エギーの身体を壁に寄せて、全身の回線を確認しながら、彼の反応を待った。

「……あ、リップル殿。申し訳ありません」エギーは再起動し、反応してくれた。

「良かった」思わず安堵の吐息が漏れてしまった。「情報伝達が、うまくできていないみたいだ」

「私、このあたりをまわってくるよ」ミアが気転を効かせてくれた。「私一人だったら、このあたりを飛行できるから。ランスちゃんを探すのは任せて」

「頼む」リップルは、ミアにうなずいた。彼女が透明になって上空へと消えていく様子を見届けたあと、エギーに視線を戻した。「……エギーの友達は、まだ生きられる。そうだろ?」

「僕の目的は変わりました」エギーが言った。「ランス殿を救うだけにしましょう」

「馬鹿なことを言うなよ」リップルは微笑みながら、落下の衝撃で破損した彼の両足原動機の修理を始めた。「……このあたりに花がないだけであって、崖を越えたどこかに、あるかもしれない」

「僕は、間に合わないかもしれないので……」エギーは言葉を詰まらせたあと、急いで訂正した。「失礼しました。お友達が間に合わないかもしれないので」

「それは、俺達が判断するものじゃなく、病院の医者が判断する。俺達は、俺達のすべきことをするだけ」と会話の相手をしながら、原動機の修理を終えた。「オッケー。飛行はできるように修理した。軽い破損で良かった。あとは、頭部の回線を確認する」

 リップルは、エギーに背中を向けさせ、後頭部の蓋を開けた。すると、回線に異常はなかった。ようは、エギーの身体を操作する担当者に異常があったということになる。

「もうひと頑張りなのに、エギーを操作する人は、弱気なんだな」リップルは煽った。「ちょっと、違法な改造しちゃうけど、許してね」

「申し訳ありません」エギーは大人しくなった。「少し、こうやって休憩を入れれば、また活動ができると思います。ここに来て、ご迷惑を。……幸先が悪いですね」

「賞金稼ぎじゃ、いつものことだよ」と言ってあげた。

 ブーチから貰っていた事前情報のおかげで、エギーの予備部材を持ち出していた。また、遠隔操作型も視野にいれていたため、過去の賞金稼ぎ活動の報酬で得た違法部材も持ち込んでいた。それは、ブーチに売りつけることができなかったものであり、遠隔操作をする人物に興奮を与える快楽伝達機だった。それに抵抗を加えれば、依存性のない情報覚醒剤が完成する。これらは、脳死状態の患者を受けている、銀河連邦に所属していない医療施設にも用いられている場合もある。もし、エギーを操作している人物がいたとして、その人物の生体脳とエギーが直結しているならば、一時的な延命措置となる。

 ようは、エギーを操作している人物がいるならば、その人物は死にかけていることになる。
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