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I am アイドル
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「全く、なんて事してくれるんですか」
「まあそんな怒るなって。女神サイドも結構大変らしくて、最近じゃあんまりチートな何かは渡せないらしいぞ」
だからってお仕事は無いだろうと思う花子であったが、これ以上は何を言っても無意味と悟り、ただただ頬を膨らませるしかなかった。
「お前、顔がブサイクになったら本当に取り柄なくなるな」
「ぷーくすす、やっかみですか?」
「お前、俺社長だぞ社長。もう少し敬えって」
「あくまで、前世の話じゃ無いですか。もうそんなの関係ないですし」
それもそうだが、と社長はまだ少し納得がいかない風ではあったが、2、3どわざとらしい咳払いをすると先程までとは打って変わり真面目な顔になる。
「で、花子。いや、ルル。やれるか?」
ルルというのは、花子の芸名である。
彼は花子に厳しい仕事を振る時は毎回同じ台詞を言う。
熱湯風呂もポロリがありそうな水泳大会の時も。
そして、それに対する花子の答えもまた決まって同じものだった。
「私を誰だと思ってるんですか?未来のドップアイドルですよ?」
サラッと普段の仕事に行くように彼女は世界を救うことを決断する。
「よし、そうと決まれば早速行動だ」
「具体的言うと?」
「まずは冒険者ギルドに行って、冒険者として登録してもらうところからだな」
***
花子は部屋の外に出て、自分が本当に元いた世界とは別の場所に居るのだと再認識することとなる。
どこか懐かしさを感じる木造の建物が並び、行き交う人の服もオシャレさの欠片も無いおとぎ話に出てくるような簡単でどこか特徴的なものだった。
その中でも花子がとりわけ驚いたのは、鎧だった。
町には普通の服の人間に混じってチラホラと鎧を身に付けている人間がいた。
「社長、みてみて。鎧。鎧ですよ!」
「だぁー、そんな事でいちいち騒ぐんじゃあ無い。田舎者じゃないんだから。それに、そんなもん珍しくもなんとも無いだろうが。少ししたらお前もつけるかもしれないんだぞ?」
その言葉を聞いて、先程まで新鮮な世界に顔を綻ばせていた花子の顔が一瞬で凍る。
「あれをつけるんですか?」
「可能性の話だ」
「ちっとも可愛く無いから嫌です」
理由を聞いて社長はため息を吐く。
「なら、後衛職につけるように祈るしか無いな」
「職?」
「ああ、冒険者ギルドに登録する際に魔法で自分の適正によって職が分けられるらしい」
「へぇ、じゃあ私は回復役とかですかね?」
「いや、盾職だろ……って痛い、無言で蹴るな」
普段から身体を張る花子にはぴったりだろ、と社長が付け加えると、花子の蹴りはさらに勢いを増した。
「さて、着いたぞ。ドッキドキだな」
周囲に並ぶ木造建築の中でもとりわけ大きい建物を社長は指差す。
周囲の家や、花子が元いた小屋の軽く5倍以上はあるのでは無いかと思えるほどに巨大かつどこか華やかさを感じさせる建物だ。
巨大な両開きのドアを開くと中には町中でチラホラと見た鎧を身につけた人間がたむろしている。
食堂やレストランのような、よくあるファンタジー風に言うなれば酒場とでも言うだろう施設が2人の目の前に広がる。
これぞ異世界と言う光景に花子は思わず歓声を上げていた。
「こっちだ」
「社長、詳しいですね」
「まあな、お前が寝てる間にひと通り町は見て回ったんだ」
酒場の奥に進んでいくと、大きなカウンターがある。
カウンターの奥には、橙色の可愛らしいメイド服を着た女性が何人か座っていた。
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件で?」
「俺たち2人を冒険者として登録してもらえないだろうか」
「かしこまりました。では、適正審査と登録を兼ねた術式を展開します。お一人ずつこの魔法陣に手をかざしてください」
受付嬢がそう言うと、卓にカードのような物を置き呪文を詠唱する。
詠唱が終わると淡い紫色の魔法陣がカードの上に現れる。
促されるがままに、花子はそのカードに手をかざす。
花子は、バチっと、まるで自分の体に電流が走るかのような感覚を覚える。
その直後、淡い紫色に輝いていた魔法陣の輝きが増していき紫色だった光はいつのまにか黄金色の輝きへと変化する。
「これはっ!?」
受付嬢は黄金色の光を前に驚きを隠せない様子だ。
だが、驚いていたのは受付嬢だけではない。
先程まで、新人冒険者になど目もくれず酒場で飲んだくれていた冒険者たちもこぞって花子の方を向いて目を見開く。
「わわっ、眩し。これ何なんですか?」
「知るか。花子、お前またなんかやっただろ!?うちの花子が申し訳ありません」
「大丈夫です。むしろ、これは凄いことです!ユニーク職が現れる兆候ですよ!」
「「……何ですか、それ?」」
やや興奮気味な受付嬢に対し、社長と花子の2人は少し置いてきぼりを食らっていた。
「職システムは、冒険者様の資質に合わせて5つの基本的な職が存在して本来はその5つの枠組みに冒険者様を振り分けます。ですが、稀に、本当にごく稀にその枠組みに収まらない特異な才能を持った方が存在します。そのような方に振り分けられる、世界でも2つとないその方の才能に合わせた職。それがユニーク職なんですよ!」
ようやく光が治っていくと、2人の背後から拍手喝采や歓喜の声が聞こえてくる。
「すげえな、姉ちゃん。なんて職になったんだ?」
どこからかそんな声が聞こえてくると、喧騒に包まれていた冒険者ギルドが一気に静まり返る。
皆、花子の一言を待っていた。
ええと、と言いながら花子は手元のカードに目をやる。
そして、そこに書いてある職名を見て目を見開く。
「私、私はっルル」
さっきの喧騒よりも大きな声で、彼女は胸を張って叫ぶ。
「職業は、歌姫ですっ!」
「まあそんな怒るなって。女神サイドも結構大変らしくて、最近じゃあんまりチートな何かは渡せないらしいぞ」
だからってお仕事は無いだろうと思う花子であったが、これ以上は何を言っても無意味と悟り、ただただ頬を膨らませるしかなかった。
「お前、顔がブサイクになったら本当に取り柄なくなるな」
「ぷーくすす、やっかみですか?」
「お前、俺社長だぞ社長。もう少し敬えって」
「あくまで、前世の話じゃ無いですか。もうそんなの関係ないですし」
それもそうだが、と社長はまだ少し納得がいかない風ではあったが、2、3どわざとらしい咳払いをすると先程までとは打って変わり真面目な顔になる。
「で、花子。いや、ルル。やれるか?」
ルルというのは、花子の芸名である。
彼は花子に厳しい仕事を振る時は毎回同じ台詞を言う。
熱湯風呂もポロリがありそうな水泳大会の時も。
そして、それに対する花子の答えもまた決まって同じものだった。
「私を誰だと思ってるんですか?未来のドップアイドルですよ?」
サラッと普段の仕事に行くように彼女は世界を救うことを決断する。
「よし、そうと決まれば早速行動だ」
「具体的言うと?」
「まずは冒険者ギルドに行って、冒険者として登録してもらうところからだな」
***
花子は部屋の外に出て、自分が本当に元いた世界とは別の場所に居るのだと再認識することとなる。
どこか懐かしさを感じる木造の建物が並び、行き交う人の服もオシャレさの欠片も無いおとぎ話に出てくるような簡単でどこか特徴的なものだった。
その中でも花子がとりわけ驚いたのは、鎧だった。
町には普通の服の人間に混じってチラホラと鎧を身に付けている人間がいた。
「社長、みてみて。鎧。鎧ですよ!」
「だぁー、そんな事でいちいち騒ぐんじゃあ無い。田舎者じゃないんだから。それに、そんなもん珍しくもなんとも無いだろうが。少ししたらお前もつけるかもしれないんだぞ?」
その言葉を聞いて、先程まで新鮮な世界に顔を綻ばせていた花子の顔が一瞬で凍る。
「あれをつけるんですか?」
「可能性の話だ」
「ちっとも可愛く無いから嫌です」
理由を聞いて社長はため息を吐く。
「なら、後衛職につけるように祈るしか無いな」
「職?」
「ああ、冒険者ギルドに登録する際に魔法で自分の適正によって職が分けられるらしい」
「へぇ、じゃあ私は回復役とかですかね?」
「いや、盾職だろ……って痛い、無言で蹴るな」
普段から身体を張る花子にはぴったりだろ、と社長が付け加えると、花子の蹴りはさらに勢いを増した。
「さて、着いたぞ。ドッキドキだな」
周囲に並ぶ木造建築の中でもとりわけ大きい建物を社長は指差す。
周囲の家や、花子が元いた小屋の軽く5倍以上はあるのでは無いかと思えるほどに巨大かつどこか華やかさを感じさせる建物だ。
巨大な両開きのドアを開くと中には町中でチラホラと見た鎧を身につけた人間がたむろしている。
食堂やレストランのような、よくあるファンタジー風に言うなれば酒場とでも言うだろう施設が2人の目の前に広がる。
これぞ異世界と言う光景に花子は思わず歓声を上げていた。
「こっちだ」
「社長、詳しいですね」
「まあな、お前が寝てる間にひと通り町は見て回ったんだ」
酒場の奥に進んでいくと、大きなカウンターがある。
カウンターの奥には、橙色の可愛らしいメイド服を着た女性が何人か座っていた。
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件で?」
「俺たち2人を冒険者として登録してもらえないだろうか」
「かしこまりました。では、適正審査と登録を兼ねた術式を展開します。お一人ずつこの魔法陣に手をかざしてください」
受付嬢がそう言うと、卓にカードのような物を置き呪文を詠唱する。
詠唱が終わると淡い紫色の魔法陣がカードの上に現れる。
促されるがままに、花子はそのカードに手をかざす。
花子は、バチっと、まるで自分の体に電流が走るかのような感覚を覚える。
その直後、淡い紫色に輝いていた魔法陣の輝きが増していき紫色だった光はいつのまにか黄金色の輝きへと変化する。
「これはっ!?」
受付嬢は黄金色の光を前に驚きを隠せない様子だ。
だが、驚いていたのは受付嬢だけではない。
先程まで、新人冒険者になど目もくれず酒場で飲んだくれていた冒険者たちもこぞって花子の方を向いて目を見開く。
「わわっ、眩し。これ何なんですか?」
「知るか。花子、お前またなんかやっただろ!?うちの花子が申し訳ありません」
「大丈夫です。むしろ、これは凄いことです!ユニーク職が現れる兆候ですよ!」
「「……何ですか、それ?」」
やや興奮気味な受付嬢に対し、社長と花子の2人は少し置いてきぼりを食らっていた。
「職システムは、冒険者様の資質に合わせて5つの基本的な職が存在して本来はその5つの枠組みに冒険者様を振り分けます。ですが、稀に、本当にごく稀にその枠組みに収まらない特異な才能を持った方が存在します。そのような方に振り分けられる、世界でも2つとないその方の才能に合わせた職。それがユニーク職なんですよ!」
ようやく光が治っていくと、2人の背後から拍手喝采や歓喜の声が聞こえてくる。
「すげえな、姉ちゃん。なんて職になったんだ?」
どこからかそんな声が聞こえてくると、喧騒に包まれていた冒険者ギルドが一気に静まり返る。
皆、花子の一言を待っていた。
ええと、と言いながら花子は手元のカードに目をやる。
そして、そこに書いてある職名を見て目を見開く。
「私、私はっルル」
さっきの喧騒よりも大きな声で、彼女は胸を張って叫ぶ。
「職業は、歌姫ですっ!」
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