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駆け出しアイドル、異世界に行く
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私、縷々宮花子16歳。
トップアイドル目指して頑張る駆け出しアイドル。
歌はちょっぴり下手だけど、リアクションなら誰にも負けないぞっ。
「よーし、今日も熱湯風呂頑張らなきゃ☆」
はぁ、と語尾に☆がつくような勢いからは考えられない程に深い溜息が暗い車内に響き渡る。
「ねえ、社長。私いつまでこんな事続けなきゃいけないんですか?」
「花子はもうそういう路線なんだからさっさと諦めろ」
「そもそも話が違うじゃないですか。私は、頑張れば歌のお仕事が貰えるって聞いたから身体張ってるんですよ」
今度は、社長と呼ばれた若い男の溜息が車内に響く。
「話が違う、はこっちの台詞だ。なーにが、歌はちょっぴり下手だけど、だよ。ちょっと下手どころか世界中最下位争いに参戦しててもおかしくないレベルだろうが」
「酷っ。それが未来の歌姫に対する言葉ですか?」
「お前が歌姫なら、マライアキャリーは何になるんだよ」
「負け犬、とかじゃないですか?」
「なんでお前が勝つ前提なんだよ」
「当然の結果ですよ」
「……俺が悪かったよ。少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「休むも何もスケジュールほぼ真っ白じゃないですかー」
やいのやいのと車内で口論になる2人だったが、それは今回に限った話ではなかった。
仕事へと向かう車内で2人の口論は最早恒例の行事となりつつある。
そして、口論は決まって2人の重い溜息で締めくくられる。
今回もその筈だった。
「あれ、あのトラック凄いスピード出てません?」
「怖いな。夜道だからってハメを外しすぎだろ」
「……こっちに突っ込んできてません?」
飲酒運転か居眠り運転か、はたまた別の理由なのか。
彼らにそんな事知る由も無い。
そこにあるのは、大型のトラックが常軌を逸したスピードで突っ込んでくるという事実をのみだ。
「嫌あああああ、避けて避けて避けて」
「わっ、バカ。腕を掴むな。ハンドルがきれないだろうが」
テンパる花子と腕を掴まれる社長。
次の瞬間、彼らの眼前には既にトラックが迫っていた。
グシャリ。
2人が乗っていた車は見るも無惨に潰れる。
縷々宮花子の人生はここで一度終了することとなる。
***
「んっ……。んーー?」
重い瞼を擦りながら花子は薄っすらと目を開ける。
そっか、私死んじゃったんだ。
彼女は誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
そして、起き上がりキョロキョロと周りを見渡す。
眼に映るのは全く見覚えのない天井だ。
「あれっ、私トラックに轢かれて……その後どうなったんだっけ……?」
ゆっくりと上体を起こし小首を傾げながらもう一度周囲を確認する。
彼女が元いた東京のコンクリートジャングルからは考えられないほどにレトロで簡素な作りの木造の部屋に彼女は居た。
そして、自分の下にある物に気付き彼女はギョッとする。
藁だ。
「何これ、ドッキリ?」
およそトラックに轢かれた人間に対する仕打ちでは無かったが、それもその筈。
彼女の生は一度終わっているのだから。
けれども彼女にそれを知る由も無い。
藁と簡素な部屋に驚く刹那、ドンドンドンと強くドアを叩く音がする。
「いつまで寝とる気じゃ、おどれはー」
それは、突如現れた。
まるでドアを叩き壊すかのような勢いで。
突然の来訪者に花子は一瞬身を縮こませたが、来訪者の顔を見るや否や態度が一変する。
「やっぱドッキリじゃないですかーーー」
来訪者は花子にとって馴染みの深い顔––––社長であった。
「もう、分かってるんですよ。今日のお仕事は熱湯風呂じゃなくて寝起きドッキリか何かですか?もう分かってるんですからね。」
「いや、そうじゃなくてな」
「さあ、早く看板を出したらどうです?」
さあ、さあ、と催促する花子に対し社長は煮え切らない態度だ。
「いいか、花子。落ち着いて聞いてほしい。俺たちはどうやら異世界に転生してしまったらしい」
「いやいや、いくらドッキリのネタバラシの前にバレたからってそれはいい無理がありますって」
HAHAHAと笑い合う2人だが、2人とも目が笑っていなかった。
「え、マジですか?」
「残念ながらな」
「待って待って、私死んじゃったんですか」
「残念ながらな」
「ちょっと待ってくださいよ、異世界転生って普通チートアイテムとか能力を女神様からもらえますよね?私は女神様に会ってませんよ?あ、もしかして私が女神?」
「勝手に自称歌姫から自称女神にランクアップしてんじゃねーよ。女神様とは俺が話をつけておいた」
「ちょ、私も女神様に会いたかったんですけど!?まあいいです。それで、何貰ったんですか?」
「仕事だ」
「へっ?」
「魔王を倒しこの世界を平和にするという、お前向きの仕事を取ってきたぞ」
「チートな何かとかじゃなくて、お仕事?」
「ああ、だってお前現世ではいつも仕事取ってこいだのスケジュール帳真っ黒にしたいなーだの言ってただろ?」
「言ってましたよ。言ってました、けどっ」
花子はスッと大きく息を吸う。
そういう事じゃないからーーーー
簡素な部屋に少女の怒号が響いた。
トップアイドル目指して頑張る駆け出しアイドル。
歌はちょっぴり下手だけど、リアクションなら誰にも負けないぞっ。
「よーし、今日も熱湯風呂頑張らなきゃ☆」
はぁ、と語尾に☆がつくような勢いからは考えられない程に深い溜息が暗い車内に響き渡る。
「ねえ、社長。私いつまでこんな事続けなきゃいけないんですか?」
「花子はもうそういう路線なんだからさっさと諦めろ」
「そもそも話が違うじゃないですか。私は、頑張れば歌のお仕事が貰えるって聞いたから身体張ってるんですよ」
今度は、社長と呼ばれた若い男の溜息が車内に響く。
「話が違う、はこっちの台詞だ。なーにが、歌はちょっぴり下手だけど、だよ。ちょっと下手どころか世界中最下位争いに参戦しててもおかしくないレベルだろうが」
「酷っ。それが未来の歌姫に対する言葉ですか?」
「お前が歌姫なら、マライアキャリーは何になるんだよ」
「負け犬、とかじゃないですか?」
「なんでお前が勝つ前提なんだよ」
「当然の結果ですよ」
「……俺が悪かったよ。少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「休むも何もスケジュールほぼ真っ白じゃないですかー」
やいのやいのと車内で口論になる2人だったが、それは今回に限った話ではなかった。
仕事へと向かう車内で2人の口論は最早恒例の行事となりつつある。
そして、口論は決まって2人の重い溜息で締めくくられる。
今回もその筈だった。
「あれ、あのトラック凄いスピード出てません?」
「怖いな。夜道だからってハメを外しすぎだろ」
「……こっちに突っ込んできてません?」
飲酒運転か居眠り運転か、はたまた別の理由なのか。
彼らにそんな事知る由も無い。
そこにあるのは、大型のトラックが常軌を逸したスピードで突っ込んでくるという事実をのみだ。
「嫌あああああ、避けて避けて避けて」
「わっ、バカ。腕を掴むな。ハンドルがきれないだろうが」
テンパる花子と腕を掴まれる社長。
次の瞬間、彼らの眼前には既にトラックが迫っていた。
グシャリ。
2人が乗っていた車は見るも無惨に潰れる。
縷々宮花子の人生はここで一度終了することとなる。
***
「んっ……。んーー?」
重い瞼を擦りながら花子は薄っすらと目を開ける。
そっか、私死んじゃったんだ。
彼女は誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
そして、起き上がりキョロキョロと周りを見渡す。
眼に映るのは全く見覚えのない天井だ。
「あれっ、私トラックに轢かれて……その後どうなったんだっけ……?」
ゆっくりと上体を起こし小首を傾げながらもう一度周囲を確認する。
彼女が元いた東京のコンクリートジャングルからは考えられないほどにレトロで簡素な作りの木造の部屋に彼女は居た。
そして、自分の下にある物に気付き彼女はギョッとする。
藁だ。
「何これ、ドッキリ?」
およそトラックに轢かれた人間に対する仕打ちでは無かったが、それもその筈。
彼女の生は一度終わっているのだから。
けれども彼女にそれを知る由も無い。
藁と簡素な部屋に驚く刹那、ドンドンドンと強くドアを叩く音がする。
「いつまで寝とる気じゃ、おどれはー」
それは、突如現れた。
まるでドアを叩き壊すかのような勢いで。
突然の来訪者に花子は一瞬身を縮こませたが、来訪者の顔を見るや否や態度が一変する。
「やっぱドッキリじゃないですかーーー」
来訪者は花子にとって馴染みの深い顔––––社長であった。
「もう、分かってるんですよ。今日のお仕事は熱湯風呂じゃなくて寝起きドッキリか何かですか?もう分かってるんですからね。」
「いや、そうじゃなくてな」
「さあ、早く看板を出したらどうです?」
さあ、さあ、と催促する花子に対し社長は煮え切らない態度だ。
「いいか、花子。落ち着いて聞いてほしい。俺たちはどうやら異世界に転生してしまったらしい」
「いやいや、いくらドッキリのネタバラシの前にバレたからってそれはいい無理がありますって」
HAHAHAと笑い合う2人だが、2人とも目が笑っていなかった。
「え、マジですか?」
「残念ながらな」
「待って待って、私死んじゃったんですか」
「残念ながらな」
「ちょっと待ってくださいよ、異世界転生って普通チートアイテムとか能力を女神様からもらえますよね?私は女神様に会ってませんよ?あ、もしかして私が女神?」
「勝手に自称歌姫から自称女神にランクアップしてんじゃねーよ。女神様とは俺が話をつけておいた」
「ちょ、私も女神様に会いたかったんですけど!?まあいいです。それで、何貰ったんですか?」
「仕事だ」
「へっ?」
「魔王を倒しこの世界を平和にするという、お前向きの仕事を取ってきたぞ」
「チートな何かとかじゃなくて、お仕事?」
「ああ、だってお前現世ではいつも仕事取ってこいだのスケジュール帳真っ黒にしたいなーだの言ってただろ?」
「言ってましたよ。言ってました、けどっ」
花子はスッと大きく息を吸う。
そういう事じゃないからーーーー
簡素な部屋に少女の怒号が響いた。
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