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5. 再会と化石になった話
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(再会と化石になった話)
春の風は悪戯坊主。
きれいに整えた髪を一吹きで蹴散らして通り過ぎていく。
時には、スカートをめくりあげて私を慌てさせる。
満開の桜の花も花吹雪となって散っていく。
花の盛りは短いと教えているように……
人の盛りもまた同じと……
そんな春の嵐の中、良一も新学期を迎えた。
周りの生徒は、さっそく新しい仲間作りを始めている。
友達といえるほどの友達がいない良一にとって、どんなクラスの面々でも我関せずと、さっそく配られた真新しい教科書に目を通していた。
人と混ざることを嫌い。いつも一人孤立して遠くを眺めている。
それが良一だった。
「よっ! 良一、また同じクラスだな!」
「……、……」
そう言って、良一の肩を叩いてやってきたのが、藤井達也。
極めて明るくひょうきんなうえ、人当たりも良く、人の面倒見もいい。
どちらかというと良一とは正反対の性格の持ち主であるが、その面倒見が良い性格からか、すぐに周囲から孤立してしまう良一をいつも気遣っていた。
友達と呼べるかどうかはわからないが、唯一良一と会話する人物だ。
「どうだい! このクラスは……?」
「べつに……、……」
「相変わらずだな、俺は嬉しいぜー! また幸恵ちゃんと一緒のクラスになれた」
小声で話す嬉しそうな達也をよそに、良一は眉ひとつ動かさずにひたすら教科書を見ていた。
平静を装っている良一でも、達也と同じようにこのクラスの中に懐かしい顔を見つけたことで、少し驚きと戸惑い、焦り、そんな感情が沸き立ち、何くわぬ顔で意識しないようにつくろうことに懸命だった。
その時、良一の上着の袖をいきなり掴んで……
「ちょっと借りるわよ!」
慌てたのは良一だった。
机の角に体をぶつけながら、驚きに引きつった顔を戻す暇もなく、妙子に引きずられて廊下に出て行った。
湯川妙子、その懐かしい顔の持ち主だ。
「江崎君ちょっと話があるんだけど、今日はこれで終わりでしょう。ホームルームが終わったら第一音楽室まで来てくれる。みんなに変に思われたくないから、私が先に教室を出るから、江崎君は10分くらい後から来るのよ。もちろん一人でね!」
そう言って良一の返事も聞かずに妙子は立ち去っていった。
実は、良一には妙子の話の内容はわかっていた。
そして、その返事も良一はすでに決めていた。
しかし、なぜか声が出せなかった。
それは、もう一度妙子と話をしたいという気持ちが、良一の心のどこかにあったのかも知れない。
(化石になった話…)
妙子の話というのは昨日の夜、突然父親から聞かされた、良一を下宿させると言うことだった。
「ちょっと待ってよっ! そんなこと出来るわけないじゃない。こんな可愛いい年頃
の娘のいる家に、赤の他人の男を一つ屋根の下に住まわせるなんて、オオカミさん食べてっていっているようなものじゃない!」
妙子は、頭から猛反対で父親に喰ってかかった。
「良一君も遠慮したいと言っているそうだ」
父親は、浮かない顔で食卓の湯飲みを取った。
「それはおめでとうー! 良かったじゃない」
妙子も椅子に座りなおして紅茶の入ったカップを手に取った。
「しかしだなー、良一君は、お父さんと二人暮らしなんだ。そのお父さんがボストンに行ってしまった今、ボストンでの仕事が一年になるか二年になるかわからないのに、このまま放って置くわけにはいかないと、お父さんは思っているんだが……、紗恵子はどうだ?」
紗恵子とは、妙子の年の離れた姉であり、現在研修医として父親と同じ病院で働いていた。
「私はかまわないけど、妙子がいやなら仕方ないわね。望まれないところにいても良一君がかわいそうなだけだから……」
「そうだな……。ともかく、下宿の話を含めて一緒に食事でもしたいのだが急な話で申し訳ないが、明日の晩なら私も早く帰ってこられるから、良一君に話しておいてもらえないかな?」
「下宿は絶対反対だからねっ! ご飯くらいなら付合ってあげてもいいわ。その代わり御寿司よ。特上寿司よっ!」
「それで手を打とう。じゃあ、妙子から良一君に話しておいてくれ!」
父親は話がついたところで、湯飲みを持って立ち上がった。
「いやよ! そんなのお姉ちゃんが電話すればいいじゃない」
紗恵子は食事の後片付けをしながら、呆れ顔で、妙子の頭を小突いた。
「あなたねー、同じ学校でしょう!」
「話したことないもの!」
「昔は、お嫁さんになるって言ってたのにー」
「あのねー! そんな化石になったようなこと、持ち出さないでよねっ!」
「まあ、いいわ。とりあえず電話しておくから。でも、妙子からも気持ちよく誘ってあげるのよ。彼も遠慮して来にくいと思うから……」
「考えておくわ……」
この時はまだ同じクラスになるとは夢にも思っていなかった。
春の風は悪戯坊主。
きれいに整えた髪を一吹きで蹴散らして通り過ぎていく。
時には、スカートをめくりあげて私を慌てさせる。
満開の桜の花も花吹雪となって散っていく。
花の盛りは短いと教えているように……
人の盛りもまた同じと……
そんな春の嵐の中、良一も新学期を迎えた。
周りの生徒は、さっそく新しい仲間作りを始めている。
友達といえるほどの友達がいない良一にとって、どんなクラスの面々でも我関せずと、さっそく配られた真新しい教科書に目を通していた。
人と混ざることを嫌い。いつも一人孤立して遠くを眺めている。
それが良一だった。
「よっ! 良一、また同じクラスだな!」
「……、……」
そう言って、良一の肩を叩いてやってきたのが、藤井達也。
極めて明るくひょうきんなうえ、人当たりも良く、人の面倒見もいい。
どちらかというと良一とは正反対の性格の持ち主であるが、その面倒見が良い性格からか、すぐに周囲から孤立してしまう良一をいつも気遣っていた。
友達と呼べるかどうかはわからないが、唯一良一と会話する人物だ。
「どうだい! このクラスは……?」
「べつに……、……」
「相変わらずだな、俺は嬉しいぜー! また幸恵ちゃんと一緒のクラスになれた」
小声で話す嬉しそうな達也をよそに、良一は眉ひとつ動かさずにひたすら教科書を見ていた。
平静を装っている良一でも、達也と同じようにこのクラスの中に懐かしい顔を見つけたことで、少し驚きと戸惑い、焦り、そんな感情が沸き立ち、何くわぬ顔で意識しないようにつくろうことに懸命だった。
その時、良一の上着の袖をいきなり掴んで……
「ちょっと借りるわよ!」
慌てたのは良一だった。
机の角に体をぶつけながら、驚きに引きつった顔を戻す暇もなく、妙子に引きずられて廊下に出て行った。
湯川妙子、その懐かしい顔の持ち主だ。
「江崎君ちょっと話があるんだけど、今日はこれで終わりでしょう。ホームルームが終わったら第一音楽室まで来てくれる。みんなに変に思われたくないから、私が先に教室を出るから、江崎君は10分くらい後から来るのよ。もちろん一人でね!」
そう言って良一の返事も聞かずに妙子は立ち去っていった。
実は、良一には妙子の話の内容はわかっていた。
そして、その返事も良一はすでに決めていた。
しかし、なぜか声が出せなかった。
それは、もう一度妙子と話をしたいという気持ちが、良一の心のどこかにあったのかも知れない。
(化石になった話…)
妙子の話というのは昨日の夜、突然父親から聞かされた、良一を下宿させると言うことだった。
「ちょっと待ってよっ! そんなこと出来るわけないじゃない。こんな可愛いい年頃
の娘のいる家に、赤の他人の男を一つ屋根の下に住まわせるなんて、オオカミさん食べてっていっているようなものじゃない!」
妙子は、頭から猛反対で父親に喰ってかかった。
「良一君も遠慮したいと言っているそうだ」
父親は、浮かない顔で食卓の湯飲みを取った。
「それはおめでとうー! 良かったじゃない」
妙子も椅子に座りなおして紅茶の入ったカップを手に取った。
「しかしだなー、良一君は、お父さんと二人暮らしなんだ。そのお父さんがボストンに行ってしまった今、ボストンでの仕事が一年になるか二年になるかわからないのに、このまま放って置くわけにはいかないと、お父さんは思っているんだが……、紗恵子はどうだ?」
紗恵子とは、妙子の年の離れた姉であり、現在研修医として父親と同じ病院で働いていた。
「私はかまわないけど、妙子がいやなら仕方ないわね。望まれないところにいても良一君がかわいそうなだけだから……」
「そうだな……。ともかく、下宿の話を含めて一緒に食事でもしたいのだが急な話で申し訳ないが、明日の晩なら私も早く帰ってこられるから、良一君に話しておいてもらえないかな?」
「下宿は絶対反対だからねっ! ご飯くらいなら付合ってあげてもいいわ。その代わり御寿司よ。特上寿司よっ!」
「それで手を打とう。じゃあ、妙子から良一君に話しておいてくれ!」
父親は話がついたところで、湯飲みを持って立ち上がった。
「いやよ! そんなのお姉ちゃんが電話すればいいじゃない」
紗恵子は食事の後片付けをしながら、呆れ顔で、妙子の頭を小突いた。
「あなたねー、同じ学校でしょう!」
「話したことないもの!」
「昔は、お嫁さんになるって言ってたのにー」
「あのねー! そんな化石になったようなこと、持ち出さないでよねっ!」
「まあ、いいわ。とりあえず電話しておくから。でも、妙子からも気持ちよく誘ってあげるのよ。彼も遠慮して来にくいと思うから……」
「考えておくわ……」
この時はまだ同じクラスになるとは夢にも思っていなかった。
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