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15. 変わらない食卓
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(変わらない食卓)
夜の食卓、珍しく父親も早く帰ってきていて、良一は、にぎやかに迎えられた。
「良く来てくれたね。僕も一人は息子が欲しかったのだが……、やっぱり男同士はちがうな!」
良一はただ返事に困り笑っているしかなかった。
「でも、妙子が男みたいなものじゃないっ!」
紗恵子がからかった。
「よく言うわねー、私ほど女らしい人はいないわよ」
「へーえ、女らしいというのは、夕食のしたくも手伝わずに、ごろごろしていることかしら。良一君の方がよっぽど、女らしいわよー!」
そこに父親が割って入った。
「おいおい、その言い方は手伝ってくれた良一君に失礼だよ!」
紗恵子は、かわいらしく舌を出した。
良一は、たくさんの食材を抱えて帰ってきた紗恵子を出迎えて……
「僕も手伝います…」と申し出た。
キッチンの中の良一は水を得た魚とばかりに、野菜の下ごしらえから、煮物焼き物と紗恵子の手を煩わす暇も無く手際よく仕上げてしまった。
妙子はその間もピアノを練習していた。
「私だって手伝いたいけど、夜中にピアノ練習するわけにはいかないでしょう。でもお風呂、沸かしたのは私よ!」
「そうねー!、何年ぶりかしら。良一君に刺激されたんでしょう」
紗恵子は、日ごろのうっ憤を晴らすかのように攻めた。
しかし、父親は機嫌よく……
「妙子の良い見本になりそうだ。良一君、遠慮なくずーといて欲しいよ」
妙子は当てつけに言われたと思い……
「ちょっと、その言い方、私が何もやってないみたいじゃないのよ!」
妙子の抗議にも、良一は笑っているだけだった。
小さい頃の懐かしい食卓が今も変わらずそこにはあった。
食事が終ると良一は紗恵子より早く食器を片付けだした。
「いいわよー、私やるから……」と、紗恵子。
「いえ、これくらいはさせてください。家ではいつもやっていることですから」
「偉いわね。妙子につめの垢でも飲ましたいわ」
紗恵子は、まだお皿を箸で突っついている妙子に聞こえるように言った。
「……、後で片付けるわよ!」
しかし食べるのが何故か一番遅い妙子は、食器が一つ空くと 良一がそれを片付け、一つ空くと片付け、そのうち妙子が片付けるものが無くなってしまった。
それを見て紗恵子が笑った。
「あんたたちって、小さい頃と全然変わってないわねー」
小さい頃も食べるのが遅い妙子の食器が空くのを待ち通しそうに横でじっと見ていた良一であった。
早く食事を終わらせて一緒に遊びたかったわけだが、今こうして妙子の側にいると、あの頃の習慣が蘇ってきたことに、懐かしい我が家に帰ってきたような、ほっとした気持ちになっていた。
「良一が片付けるのが早いのよ!」
良一が最後のお椀を持っていくと、妙子はむくれながら毎日の日課であるピアノをまた弾きに戻った。
紗恵子の視界から妙子がいなくなったことで……
「良一君も妙子にばかりに気を使わなくてもいいのよ。たまには私の面倒も見て欲しいわ!」
隠していた本音が少し顔を出した。
「え、……」
「うそうそ、そういうことじゃなくって、自分の好きなことを自由にやっていいのよ!」
「……、でも、なんかほっとけなくって、つい手が出てしまうんです」
「いいわねー、私もそんな旦那さんが欲しいわー!」
良一は、顔を赤らめて、これ以上、妙子の側にはいられないと思い自分の居場所を探した。
父親は、食事を済ませると和室にこもり持ち帰った仕事をしているようだった。
妙子は相変わらずピアノを弾いている。
良一は仕方なく、ピアノの近くの居間のソファーに座って妙子のピアノを聴くことにした。
妙子のピアノは夜の雰囲気らしく静かな曲だった。
長い曲がひとまず終わると妙子が良一の前のソファーに座った。
「私の後についていなくていいわよー」
「そういうわけではないけど……」
「なになに、やっぱり私の魅力に取り付かれてしまったのかな?」
「あ、ははは……、でもそうかもしれない。音楽好きだから、それにとてもいい曲だし、心が落ち着くよ。やっぱりCDとはちがって生の演奏は胸にずっしりとくるねー」
「そんなの当たり前よー、それより、君の美しい素顔にくらべたら、ピアノの曲なんかかすんでしまうよ。とか言えないの……」
「あ、ははは、笑うしかない……」
良一も、実はそう思っていた。小さい頃とは違う成長した妙子に見とれていたのだった。
妙子も考えていた。なぜ良一とはこんなに自然に話せるのだろうと。10年間もまったく話していなかったのに、あの頃がつい昨日のように思えてしまう。
「そう言えば、お風呂どうするのよ?」
妙子の口から自然にお風呂という言葉が出てしまった。
しかし、良一にはその言葉は、妙子と一緒に入っていた頃を思い出させ、目の前にいる妙子とダブり全身の血が頭に昇ってきて、同時に胸がドキドキ高鳴り、小さい頃とは違った体の変化に戸惑った。
「え、あそうだねー! 一日だけだから、着替えは持ってきてないし、今日は入らないつもりだったから……」
妙子も良一の表情の変化に気づき、二人でお風呂に入っていたときのことが頭に浮かんだ。
思わず視線をそらして立ち上がった。
「きき、汚いわね。汗になったでしょう。そのままの格好で寝るつもりなの?」
妙子の顔が薄っすらピンク色に染まっていくのがわかった。
「パジャマは持ってきたから、着替えて寝るよ」
良一も妙子の動揺に気づき目を合わせないように立ち上がった。
「じゃ、私はお風呂に入ろうかな……、覗かないでよねー」
しかし、妙子の中で良一となら小さい時のようにお風呂に入ってもいいと思うと何故か心は落ち着いた。
「あ、ははは……、一緒に入ってもいいよー!」
良一の心の中でも、小さい時のように妙子と一緒に入りたいと思っていたことはいうまでもなかった。
「バカっ! ……、それより夜はいつも何をしているの?」
妙子は良一を誘ってしまいそうな自分を抑えながら話題を変えた。
「勉強……」
「あ、ほんとう! 勉強道具は持ってきたのね?」
「もちろん、問題集だけね。じゃ、僕は書斎に引っ込むよ……」
良一が二階に上がろうとしたとき、妙子が言いにくそうに訊いた。
「……、本当のこと言ってよ。本当は凄く迷惑だと思っているんでしょう?」
「まさか! 1億円持ってきても泊まりに来たい家だよ!」
良一は微笑んで答えた。
夜の食卓、珍しく父親も早く帰ってきていて、良一は、にぎやかに迎えられた。
「良く来てくれたね。僕も一人は息子が欲しかったのだが……、やっぱり男同士はちがうな!」
良一はただ返事に困り笑っているしかなかった。
「でも、妙子が男みたいなものじゃないっ!」
紗恵子がからかった。
「よく言うわねー、私ほど女らしい人はいないわよ」
「へーえ、女らしいというのは、夕食のしたくも手伝わずに、ごろごろしていることかしら。良一君の方がよっぽど、女らしいわよー!」
そこに父親が割って入った。
「おいおい、その言い方は手伝ってくれた良一君に失礼だよ!」
紗恵子は、かわいらしく舌を出した。
良一は、たくさんの食材を抱えて帰ってきた紗恵子を出迎えて……
「僕も手伝います…」と申し出た。
キッチンの中の良一は水を得た魚とばかりに、野菜の下ごしらえから、煮物焼き物と紗恵子の手を煩わす暇も無く手際よく仕上げてしまった。
妙子はその間もピアノを練習していた。
「私だって手伝いたいけど、夜中にピアノ練習するわけにはいかないでしょう。でもお風呂、沸かしたのは私よ!」
「そうねー!、何年ぶりかしら。良一君に刺激されたんでしょう」
紗恵子は、日ごろのうっ憤を晴らすかのように攻めた。
しかし、父親は機嫌よく……
「妙子の良い見本になりそうだ。良一君、遠慮なくずーといて欲しいよ」
妙子は当てつけに言われたと思い……
「ちょっと、その言い方、私が何もやってないみたいじゃないのよ!」
妙子の抗議にも、良一は笑っているだけだった。
小さい頃の懐かしい食卓が今も変わらずそこにはあった。
食事が終ると良一は紗恵子より早く食器を片付けだした。
「いいわよー、私やるから……」と、紗恵子。
「いえ、これくらいはさせてください。家ではいつもやっていることですから」
「偉いわね。妙子につめの垢でも飲ましたいわ」
紗恵子は、まだお皿を箸で突っついている妙子に聞こえるように言った。
「……、後で片付けるわよ!」
しかし食べるのが何故か一番遅い妙子は、食器が一つ空くと 良一がそれを片付け、一つ空くと片付け、そのうち妙子が片付けるものが無くなってしまった。
それを見て紗恵子が笑った。
「あんたたちって、小さい頃と全然変わってないわねー」
小さい頃も食べるのが遅い妙子の食器が空くのを待ち通しそうに横でじっと見ていた良一であった。
早く食事を終わらせて一緒に遊びたかったわけだが、今こうして妙子の側にいると、あの頃の習慣が蘇ってきたことに、懐かしい我が家に帰ってきたような、ほっとした気持ちになっていた。
「良一が片付けるのが早いのよ!」
良一が最後のお椀を持っていくと、妙子はむくれながら毎日の日課であるピアノをまた弾きに戻った。
紗恵子の視界から妙子がいなくなったことで……
「良一君も妙子にばかりに気を使わなくてもいいのよ。たまには私の面倒も見て欲しいわ!」
隠していた本音が少し顔を出した。
「え、……」
「うそうそ、そういうことじゃなくって、自分の好きなことを自由にやっていいのよ!」
「……、でも、なんかほっとけなくって、つい手が出てしまうんです」
「いいわねー、私もそんな旦那さんが欲しいわー!」
良一は、顔を赤らめて、これ以上、妙子の側にはいられないと思い自分の居場所を探した。
父親は、食事を済ませると和室にこもり持ち帰った仕事をしているようだった。
妙子は相変わらずピアノを弾いている。
良一は仕方なく、ピアノの近くの居間のソファーに座って妙子のピアノを聴くことにした。
妙子のピアノは夜の雰囲気らしく静かな曲だった。
長い曲がひとまず終わると妙子が良一の前のソファーに座った。
「私の後についていなくていいわよー」
「そういうわけではないけど……」
「なになに、やっぱり私の魅力に取り付かれてしまったのかな?」
「あ、ははは……、でもそうかもしれない。音楽好きだから、それにとてもいい曲だし、心が落ち着くよ。やっぱりCDとはちがって生の演奏は胸にずっしりとくるねー」
「そんなの当たり前よー、それより、君の美しい素顔にくらべたら、ピアノの曲なんかかすんでしまうよ。とか言えないの……」
「あ、ははは、笑うしかない……」
良一も、実はそう思っていた。小さい頃とは違う成長した妙子に見とれていたのだった。
妙子も考えていた。なぜ良一とはこんなに自然に話せるのだろうと。10年間もまったく話していなかったのに、あの頃がつい昨日のように思えてしまう。
「そう言えば、お風呂どうするのよ?」
妙子の口から自然にお風呂という言葉が出てしまった。
しかし、良一にはその言葉は、妙子と一緒に入っていた頃を思い出させ、目の前にいる妙子とダブり全身の血が頭に昇ってきて、同時に胸がドキドキ高鳴り、小さい頃とは違った体の変化に戸惑った。
「え、あそうだねー! 一日だけだから、着替えは持ってきてないし、今日は入らないつもりだったから……」
妙子も良一の表情の変化に気づき、二人でお風呂に入っていたときのことが頭に浮かんだ。
思わず視線をそらして立ち上がった。
「きき、汚いわね。汗になったでしょう。そのままの格好で寝るつもりなの?」
妙子の顔が薄っすらピンク色に染まっていくのがわかった。
「パジャマは持ってきたから、着替えて寝るよ」
良一も妙子の動揺に気づき目を合わせないように立ち上がった。
「じゃ、私はお風呂に入ろうかな……、覗かないでよねー」
しかし、妙子の中で良一となら小さい時のようにお風呂に入ってもいいと思うと何故か心は落ち着いた。
「あ、ははは……、一緒に入ってもいいよー!」
良一の心の中でも、小さい時のように妙子と一緒に入りたいと思っていたことはいうまでもなかった。
「バカっ! ……、それより夜はいつも何をしているの?」
妙子は良一を誘ってしまいそうな自分を抑えながら話題を変えた。
「勉強……」
「あ、ほんとう! 勉強道具は持ってきたのね?」
「もちろん、問題集だけね。じゃ、僕は書斎に引っ込むよ……」
良一が二階に上がろうとしたとき、妙子が言いにくそうに訊いた。
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