私の一番大切なもの

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34. 紗恵子と結婚

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(紗恵子と結婚)

 その夜の午前1時を回ったころ、風呂上がりの紗恵子と会えるこの時間、良一はキッチンに降りていった。
「今日は災難だったわね。妙子のことだから、ちゃんと胸、触らしてもらえなかったでしょう?」
 紗恵子はいつもように裸ではなく、パールに輝くシルクのパジャマを着て、ビールを片手に良一を迎えた。
 良一は、まだ生々しい記憶の中で普段着の装いを必死で演じていた。
「触ったなんて、触った内には入りませんよ……」
 良一は冷蔵庫の中からウーロン茶を出して、いつものように紗恵子の前に座った。
「でも本当は明日、帰るつもりだったのね。やっぱり自分の家の方が過ごしやすいのかな?」 
 紗恵子は少し寂しそうに良一を目で追った。
 前々からなんとなく気付いていたが、紗恵子には良一が堅苦しく、いつも緊張して過ごしているように見えていた。
「そうなんですけどね。ほんと言うと、いつまでもここにいたいですけどね……」
 良一は改めて湯上り姿の紗恵子を見ながら、いつまででも紗恵子の側にいたいと思った。
「そんなに気を使わなくてもいいのよ。私にも妙子にも、もっともっとリラックスして、わがまま言っていいのよ。家の中では、本当の自分を出してもかまわないんだから。妙子だって、ほら胸、触らせたり、あんな色仕掛けを使うとは思わなかったけど、それもやっぱり家の中にいたせいで、あんなに大胆なことができるのよ。今度、夜這いでも行ってみたら、きっと喜ぶわよー」
 良一は急にあの日の出来事が蘇ってきた。
「えいえい、とんでもないです……」
「そうかなー? ここは良一君の家よ。若い奥さんが二人もいると思えば、凄いことよ。今日は私のところ、明日は妙子のところ、て日替わりで行ったりして、楽しいと思うけど……」
 良一は本人を目の前にして想像して興奮した。
 慌てて、コップのお茶を飲んで、激しく噎せた。
「そんなことないですよ。申し分ないくらいに自由に何でもやらせてもらっているから……」
 良一自身よくわからなかった。
 確かに自分の家にいるときとは、少しは違うかもしれない。
 しかし、一人で生活しているときよりも、今の方が格段に生き生きと生活していると最近、感じていた。
「それならいいけどね……」
 紗恵子には、そう言っている良一の姿自体が他人行儀に見えた。
「でも僕、思うんですけどね。結婚生活というのはこんな感じじゃないかって。恋愛して幸せを感じていた二人でも、結婚して一緒に暮らすことになれば、家族というよりも、どこか他人行儀なところが出るんじゃないかなって」
 良一は湯上り姿の紗恵子から、目線をテーブルに落とし、何気なくウーロンちゃのグラスを見つめた。
「そうかなー、聞いた話によると結婚生活は自我と自我のぶつかり合いで、弱肉強食の世界だそうよ。強いものが勝ち弱者が従う。そうね、考えてみれば妙子と良一君の関係かもしれないわね。でも、そうやってぶつかり合っていく中で、他人から家族になるものかも知れないけどね。一度も結婚の経験のない私には理解できない世界だから……」
「ほんと言うと、よく思っていたんですよね。もし結婚したらこんなふうかなって……」
 妙子との結婚生活……
 僕はきっと毎朝、寝起きの悪い君を無理矢理起こして食卓につかせる。
 君は、膨れた顔をして半分寝たままで、まるでコアラのようにゆっくりと箸を運ぶ。
 僕は、急いでご飯を駆け込み後片付けをしながら、君の食器が空くのを待っているんだ。
「そうね。今と変わらないかもね。……、幻滅した?」
 紗恵子も良一との結婚生活を想像していた。
「幸せだと思いますよ……」
「でも、もし今の良一君との生活が結婚していたとしたら私、うまくやっていけそうな気がするけどなー!」
 紗恵子は、良一をまっすぐ見ながら、笑みを浮かべて良一に言った。
「僕もそんな気がします…、きっと今みたいに夜遅くまで語り明かせる夫婦ですよねー!」
 良一は紗恵子が結婚してくれると思って、嬉しさのあまり身を乗り出して言った。
「あら、語り明かすだけでいいの……。夫婦なんだから、…毎日、毎日よ。胸、触ったり、あれしちゃってもいいのよー!」
 紗恵子も、少し体を乗り出して、良一に近づいてから、良一を誘うように言った。
「……、え、あれって、……?」
 良一の心臓の高鳴りが、紗恵子の耳にも聞こえそうなほど大きく響き、顔のほてりと共に、目の前に迫ってくる紗恵子を見た。
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