私の一番大切なもの

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42. 朋子は中学生

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(朋子は中学生)

 明け方、妙子が目を覚ますと朋子はいなかった。
 慌てて布団から飛び起き、良一の部屋のドアを蹴破る勢いで飛び込んだ。
「良一、なにしたのよっ! 朋子ちゃんをどこにやったのよー!」
と、妙子は叫びながら良一の寝ている布団を引っぺがした。
 良一は、眠れない夜をやっと寝付いたところだったので事態の状況がわからず……
「なに、……、どうしたの……?」
 妙子は良一の部屋を見回して朋子がいないことがわかると……
「朋子ちゃんがいないのよー?」
「……、牧場に帰ったんじゃないの?」
「そっかー! 帰ったのか……」
 妙子はその言葉に納得したが、ちょっぴり寂しい気持ちもあった。
 朝食の時間になっても朋子は現れなかった。
「どうしたのかね? 何もいわずに出て行ったの……?」
 紗恵子も心配顔で訊いた。
「みんな寝ていたから、言えなかったんじゃないかなー」
 良一は、もともと母親朋子の無意識の中の少女朋子なので、現実の世界に二人の朋子がいること事態が不自然なことだと思っていた。
 無意識の世界の少女朋子がいなくなったことで内心ほっとしていた。

 学校でも妙子は、朋子のことが気になって授業に身が入らなかった。
 そして、妙子も一つ不思議なことに気がついた。 
 良一は実体がないと言っていたのに、なぜ夢の中の少女に実態があったのだろうと……
 夢の中の少女だから影のように映画のように触れられないはずだ。
 しかし、自体があるということは存在しているということで、でも本当のお母さんも存在している。
 体が二つに裂けてない限りありえない。
 そんなことを考えながら、ふと教室の入り口を見たとき妙子は思わず立ち上がって叫んだ。
「朋子ちゃん……」
 そこには、見たことのないセーラー服姿の朋子がドアを少しだけ開けて教室を覗いていた。
 妙子は、クラスの注目の中、朋子のもとに駆け出した。
「先生ちょっと知り合いが……」
 妙子は、そう言って教室を出た。
「どこ行ってたの? 急にいなくなったから心配しちゃったー!」
「私も一緒に勉強したい……」
 朋子は下を向いたまま呟いた。
「そんなことできるわけないでしょう」
「どうして……?」
「どうしてって言っても、その服どうしたの?」
 妙子は、昨夜と違ってセーラー服を着ていることに驚いた。
 それに背も高くなっているし、顔も大人びて見えた。
「朋子ちゃん何年生……?」
「三年生ー!」
「そんな、私と同じじゃない」
「一緒に勉強したい……」
「そんな……」
 妙子はしばらく考えてから、このまま家に帰すわけにも行かないと思った。
 そして、朋子を少し教室から放して、耳打ちした。
「いい、絶対に良一と一緒に住んでいるなんて言っちゃだめよっ! クラスのみんなには内緒なんだから。こんなことがばれたら、学校にはいられなくなっちゃうからね。絶対にだめよー!」
 妙子は、念には念を押して朋子に言い聞かせた。
「わかった!」
 うなずく朋子を連れて、妙子は教室に入った。
「湯川の知り合いか?」
 教科の担任が二人を招き寄せた。
「実は、……」
 妙子は昨日、紗恵子に言ったことを繰り返して説明した。
「それで、彼女も三年生で、受験生なんです。勉強が遅れることを心配しています。できたら、内緒で授業を受けさせてもらえませんか?」
「……、さあー、どうかな? まあ、事情が事情だから、一応、校長に聞いてみないといけないし……」
「いいじゃん、いいじゃん、そんな硬いこと言わずに一緒に授業受ければ……」
 妙子の話を聞いていた達也は、一番に声を出した。
 もちろん、朋子が美人であったことも大きな原因だった。
「私も賛成です。困っているときはみんなで助け合わなければいけないと思います」
 幸恵も声を上げた。
「俺たちも面倒見るから……」
 他の男子生徒も後に続いた。
「でも、先生がたに言って、それで借金取りにばれませんか?」
 妙子が心配したのはもちろん借金取りではなく、騒ぎが大きくなることだった。
 それと担任を始めクラスの皆に嘘をついている自分が嫌だった。
「そんな密告するような先生はいないと思うけど、それより今の彼女の格好だとよけいに目立つぞ」
 朋子は見たこともない他校の制服を着ていた。
「まあ、とりあえず今は湯川の席で一緒に授業を受けなさい……」
「ありがとうございますー!」
 良一はその間も、相変わらず無口に椅子に座っているだけだった。
 しかし、妙子が気付いたように、良一も朋子の代わりように気付いていた。
 昨夜見たときよりも成長している。
 でも、最初会ったときは確かに小学校一、二年生にしか見えなかった。
 しかし、今は夢の中と現実の世界との差はあっても、たった5日で五年間は進んでいると思った。
 もし、このまま成長すれば、後二十日すれば、実際の母親の年齢になる。
 その時にこそ目を覚ますのではないかと想像して期待を持った。
 授業が終わり他の生徒が朋子の周りに集まってきた。
「どこから来たの……?」
 小夜子が聞いた。
「それは内緒ー!」
 妙子が朋子の代わりに答えた。
「でも、修学旅行はどうするの? 来週よ……」
 理恵子が言った。
「修学旅行か? まあ、何とかなるさ……」
 そう言えば、このところの話題は修学旅行の話題で持ちきりだった。
 正確な名称は修学登山と言う。以前は、修学旅行といえば奈良京都と相場は決まっていたが、今どきの子は奈良京都など珍しくなかった。
 それなら、生涯体験することがないかもしれない山岳登山を中学時代の最後の授業にしようと思ったのは今の校長だった。
「山か、……」
 妙子は、良一と一緒に暮らしていること事態大変なことなのに、それにも増して夢の中の朋子というもう一つの難問を抱えてしまったことに頭が壊れそうなストレスを感じていた。
 学校での朋子は元気がよかった。
「はい!」
 どの生徒よりも積極的に手を上げ発言し、どれも正解だった。
 成績は、かなりよいことが誰の目にも明らかだった。
「また、朋子君だけか? 他の者はいないのか?」
 妙子は、朋子が発言するたびに自分のことのようにどきどきした。
 それに、朋子が発言するたびにクラス中の生徒が妙子に注目するのが嫌だった。
「ちょっと、遠慮してよね。……、私まで恥ずかしいんだから……」
「どうして? 楽しいじゃないー!」
「私は、気が重いわよ……、良一を見習いなさい。答えがわかっていても絶対に手を上げないのよー!」
 妙子は、朋子に耳打ちした。
 すると朋子は、突然立ち上がり……
「先生ー! 次の問題は良一が答えます」
 クラス中がどよめいて良一に注目した。
 妙子は、慌てて朋子を椅子に座らせて頭を低く押さえつけた。
 しかし、先生の反応は素直だった。
「そうか、それじゃ、良一、ご指名だ……」
 良一は、何も言わずに黒板に正解を書いた。
「できるじゃないか……」
 先生のお褒めの言葉。
「本当だ……」
 朋子もなるほどと思った。
 しかし、それでも活発な朋子は良一などお構いなしに、元気よく手を上げて発言していた。
 妙子にとって、冷や汗のかきどうしだった学校もようやく終わって、急いで朋子を連れて家に帰った。
「もう、黙ってどこか行っちゃだめよー!」
 妙子にとって、厄介なお荷物のような朋子だけれども、いなくなったときの不安な気持ちとは打って変わって、今は晴れ晴れして嬉しかった。
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