カタリーナのお店の人々

マッシ

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6. 破けているジャンダルムの絵

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(破けているジャンダルムの絵)

 カタリーナのお店の入り口近くの壁に、一枚の奥穂高岳ジャンダルムの絵が掛けられている。
 どっしりとした存在感で荒々しく、黒々と描かれている。
 しかし、右下半分は破けている。

 お姉さんが三年前に奥穂高に行って崖から滑り落ちかけたところを見知らぬ男性が手を差し伸べて捕まえてくれたそうだ。
 お姉さんは男に捕まったことは覚えているが、その後、気絶してしまったそうだ。
 それから、通りすがりの別の男性に起こされたが、助けてくれた男性ではなかったという。その時に足に引っ掛かっていたのが、このジャンダルムの絵だった。

 あれからお姉さんは、その男を探している。
 抱きかかえられたときに、テレピント、油絵の具の強烈な匂いがしたという。
 足に引っ掛かっていた絵も彼の作品ではないかと思っている。
 破れてしまったのでそのまま捨てていったのではないかと……

 山の頂で、絵を描く人は稀だから、すぐに見つかると思って、奥穂高山荘にしばらく滞在したが、彼は現れなかった。
 それで、毎年奥穂高に登っていれば、そのうち逢えると思って、今年で三年目になる。
 もしかして、別の山を描いているのではないかと思って、周辺の槍ヶ岳、常念岳、劔岳、白馬岳と、回っているが、残念ながら未だに逢えていない。

「お姉さん、その男の人っていい男だったの?」
「そうねー、ちょっといい男だったわよ。髪はぼさぼさで、線の細い、何処か弱々しい男に見えたわー」
「でも、お姉さん、すぐに気絶しちゃったんでしょう」
 お姉さんは、胸の上に乗って乳首で遊んでいる私を横に寝かして、更に私を仰向けにして、私の胸の上に乗っかり、口で口を塞いだ。
 そして、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。

「それが良く思い出せないのよー、助けてもらってから、彼に抱き着いたまま、怖くて震えて、しばらくは彼から離れられなかったのよ。お礼は行ったと思うけど、言わなかったかもしれないわ、もう、気が動転していたから、でも抱き着いていて、何か言われたような気がするんだけど、思い出せないの。夢だったのかもしれないけど……」
「でも、もう三年なんでしょう。もう結婚しているかもしれないわねー」
「それでもいいわ、ちゃんとお礼が言いたいし、あの絵も返したい……」
「捨てていったんじゃないの?」
「それも良く分からないから……」
「お姉さん、……、重いわー」
「失礼ねー、私、肥ってないわよ……」
 いくら何でも、大の大人が、女子高生の体の上に乗っかれば重い……

「それで、今年は良いことを思いついたのよ。私もジャンダルムを描こうと思って、あそこで、絵を描いていれば、絵の好きな人なら覗きに来るでしょう、その一人が、彼だったらいいなって思って……」
「それも、雲を掴むような話ね」
「それでもいいのよ、絵を描くのは好きだから……」

 私は、重いお姉さんを払いのけるように、私の横に転がして、抱かれている腕の中で乳首を探した。

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