暗闇の灯~Another Story~

兎都ひなた

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#04

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「さーくやっ!何してんの?チャイム鳴るよ。」
廊下の窓から、亮が顔を出し、手を振る。その声に、ハッと顔を上げた。いつの間にか昼休みが終わりかけていた。鞄を持ったまま、どのくらい立ち尽くしていたのだろう。
鞄の中には、食べ損ねた昼食のメロンパンと、余分に買ってしまった焼きそばパン。何してんだろ...と、頭をかく。
「今行く。後でちょっと話付き合って。」
亮に相談しよう。自分1人で動いてもいい方向に事が運ぶとは限らない。自分が思っている以上に、自分は無力だ。亮は無言のまま、咲夜へ笑顔を向けた。
急いで教室に戻り、授業の準備を始める。神無月は...と、また無意識に瀬津の姿を追った。何事もなく、戻ってこられたんだな、と一安心する。
授業はスムーズに進み、担当教諭はチャイムと同時に出ていった。亮に話をしに行こうと、席を立つと、目の端で瀬津が慌てた様子で出ていくのが見えた。なんだろう...と思いつつ、追うことはせず、亮の席へ向かう。
「話って何?」
亮がいつもの、にこやかな表情で咲夜の目を真っ直ぐに見る。その亮に対し、咲夜は身を屈め、小声でヒソヒソと耳打ちをした。悪いことをしている気分だ。
「神無月を助けようと思う。」
その言葉を聞いた亮は、笑顔をなくし、目を見開いた。「正気か?」とだけ、聞く。その言葉に、無言で頷く咲夜。大学進学は考えていたが、その為だけに今目の前で怒っている虐めを無視することは出来なかった。可哀想とか、同情の気持ちだけではない。ただ、自分のクラスで行われている気持ち悪さが嫌だった。
真っ直ぐ目を見て頷く咲夜に、根負けしたように、亮は深く、ため息をつく。
「お前、やっぱりすごいよなー...」
吐息混じりに言う亮を不思議に思い、咲夜はキョトンとしてしまった。何が凄いのかがわからない。現に、助けようと思って手を出したが、いい方に動いているとは全く思えていない。自信が無い。
「俺さ、去年から好きだったんだよ。神無月のこと。ただ...篠原に目ぇ付けられてるってわかって、怖気付いて、声掛けることも出来なくてさ。」
初耳だった。亮に好きな人がいたことも、知らなかった。でもそれと同時に、だから、あんなに神無月のことに詳しかったのかと納得する。
そしていつもにこやかで誰とでも分け隔てなく話せていると思っていた亮が...話せない相手もいたのかと、驚く。また、クラスのムードメーカー的な存在の亮の秘密を知れた気がして、少し嬉しかった。
「話してみたらいいじゃん。何か関係が変わるかもよ?」
「でもさ...篠原、容赦ないって噂だぜ?」
「噂は噂。どうなるかはやってみないとわかんないじゃん。」
コソコソと話す、咲夜と亮の姿は、クラスでも浮いているだろう。周りがチラチラの自分たちを見ながら、何やら聞こえないように話していることに気が付き、言葉を止める。
「じゃあ、また後で話そうぜ。」
亮の席から離れ、自分の席へ戻る途中、クラスのメンツの顔を見てみた。篠原と取り巻きが居ない。...神無月も、戻ってきていない。
大丈夫かな、と思いつつ席に着いた。チャイムが鳴っても神無月は戻ってこない。担当教諭が出欠を取り、周りに事情を聞いていたが、わかる者はいなかった。
瀬津の状況がわからず、ソワソワと逸る気持ちを抑え、咲夜は普段と何も変わらないように、周りに振舞った。
気付けば頭の中は神無月のことばかりを考えていた。どこに行ったんだ...。何があった。篠原たちのニヤニヤした顔が、不気味に見えた。絶対関わっているとは思うのに、確認が出来ない。何を恐れているのかと言われれば、篠原のバックに付いている教頭の存在だろう。
帰りの挨拶をし、咲夜は真っ先に廊下に出た。後ろからガヤガヤと部活に行く生徒や、友達と話している生徒の声が聞こえてくる。
何かあったとすれば、また例の多目的教室だと思い、真っ直ぐに向かう。しかし、教室の扉を開いても、中はもぬけの殻だった。...ここじゃないのか。
だとしたら、どこだ。誰にも知られることがなく、人も寄り付きにくい場所。...どこがあったかな。周りのガヤガヤとした音に集中力を削がれる。こういう時は...亮に連絡!
『女子がいてもおかしくなくて、人が寄り付かなそうなとこ、思い当たったら教えてくれ。』
勢い任せにメールを打った。とりあえず、自分でも探そうと、歩き始める。同じ階の使われていない教室を、片っ端から覗き込んでみた。ほとんどの教室がしっかりと施錠されており、中に入ることは出来ない。
教室の中も、薄暗く、ホコリっぽくて、最近人が入った形跡は見当たらなかった。ここが最後か、と空き教室を覗いていると、ポケットに入れた携帯のバイブがなった。急いでメールを確認する。
『空き教室、階段裏の倉庫、あとは3階の使われてない女子トイレ。』
さすが亮。複数の回答に感心しつつ、まだ確認していない、階段裏の倉庫へ向かう。女子トイレは...最後にしよう。中に入ることは出来ないから、最終手段として残すしかない。
外では運動部が走っていた。掛け声が、建物に響くように聞こえてくる。
階段裏の倉庫には、居なかった。...というか、人は寄り付かないが、人が入れるスペースもなかった。何故見る前に気付かなかったのかと、愕然とする。
しかし、ショックを受けている場合でもない。3階の女子トイレ。そこが最後だ。居てくれ、と願いつつ、廊下を走り、階段を駆け上がる。
着いた女子トイレは、思っていた以上に、古びていた。中から物音はしない。本当に、ここにいるのか不安になる。3階にいた生徒は、女子トイレの前で止まっている咲夜を不思議そうに一瞥しながら、階段を下りていく。もし、ここに居なかったら、入れ違いで今日はもう帰ってしまったのだと思うことにしよう。とりあえず、部活が終わり、生徒の帰宅時間ギリギリまで粘ってみることにした。
しばらくして、3階の残った生徒は1人も居なくなり、廊下が静かになった。どこかの教室の窓が空いたままになっているのか、嫌な風が吹く。不気味なその風に身震いしながらも、咲夜はじっと、女子トイレの扉横から動かなかった。
廊下が静かになって、しばらくして女子トイレの扉が、少しだけ開いた。急に扉が動いたことに、ドキッとする。
一旦閉まった扉が、もう一度開き、中から瀬津が出てきた。1歩、踏み出した瞬間、咲夜の姿を見つけ、中に勢いよく戻っていく。
怖がらせてしまった罪悪感と、本当にここに居たという安心感で、心がぐちゃぐちゃしていた。
「やっぱりここに居たか…神無月。」
なるべく優しく、怖がらせないように務めながら、扉の向こうの神無月へ、声をかける。「大丈夫だよ。」と伝えたい。伝わって欲しい。
「......竜木くん?なんで残ってるの。学校…終ったよね?人もいないよね……?どうして...」
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