MagicaL WORLD~呪いの双六

兎都ひなた

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#03

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『オラッ!!だらけんじゃねぇ!! 進みたければ今からこいつを倒していけよな!!!』
土方系の人が乗り込んできたかと思う勢いで妃水の駒が叫ぶ。ずいぶんスパルタなキャラを選んだなー...。
駒が叫び、考える時間も与えず、妃水の駒が立っているマスからモクモクとドライアイスのような煙が流れ出る。その煙の影から、地響きを思わす唸り声が聞こえてくる。
煙の奥から影が揺らぎ、その姿は童話などで悪役とされる狼そのものだった。ただ、1匹ではない。煙の中からは5匹の狼が妃水に向かって飛びかかってくる。
こんなの……ホントにゲーム?
「え、ぇ...オレ1人って無理じゃね?しかも俺の能力って......不利じゃんか。」
水を操ることの出来る妃水の選んだ水術師。確かに水を操るだけで複数の狼に勝てるとは到底思えない。
「水流弾ッッ!!」
襲ってくる狼をしっかりと指さし、妃水が唱える。ザバァァッと豪快な音を立てながら、机の上にあったコップの水が大きな波となって狼を覆う。
家中水浸しだ。襖も障子も台無し。顔を赤くして酔っていた親戚の叔父たちは妃水の波で酔いが覚めたのか、ポカンとしている。そんな中、平然と食事の片付けを続ける母や叔母、祖母。何故この状況で日常生活を送れるのか、毎年不思議でならない。
波をモロに受けたはずの狼たちは、ブルブルと体を揺らし、水を振り払う。その姿は雨に濡れた大型犬のようだ。
「やっぱ、効かねぇよな...。」
妃水が確信と共に呟く。
水を使って出来ること...。物理的に、流すだけではなく、ちゃんとダメージとして効果のあることがまるで思いつかない。
頭を悩ませ、固まってしまった妃水に、黒い影が勢いよく飛んだ。狼が妃水を襲う。生暖かいものが妃水の腕を伝う。服は切り裂かれ、妃水はその場に蹲った。
「マジック・ファイヤー!!」
突如として、詩織の声が響く。ガスバーナーが狂ったような音をさせながら、炎が渦を巻き、狼たちを巻き込んでいく。
炎が消える頃、何事も無かったかのように、狼たちは消えていた。気付けば叔父たちは隣の部屋へ避難し、二次会を始めていた。まだ飲むのか。
「ひぃ兄ちゃん。大丈夫?」
蹲る妃水に詩織が駆け寄る。美紅も後に続き、自分の服を破ると妃水の傷口を抑えた。すぐに赤く染ってしまったが、時期に止まるだろう。
それにしても、双六で他の人が手助けをしてもいいなんて知らなかった。きっと物心つく頃から興味津々でみんなのプレイを見てきた詩織だからこその行動だろう。もう誰も消したくない。
「ありがとな。詩織、美紅。」
ポンッと妃水が詩織の頭の上に手を置き、美紅に笑いかける。
「ひぃ兄ちゃんが無事でよかったよ!じゃあ、次はしぃちゃんの番ね!!」
恐怖心より好奇心が勝ってしまうのか、気にすることもなく詩織はサイコロを振り、駒を進める。

____数十分後。
『さぁ試練だ。次にどちらかのサイコロから"1"が出てくるまでお前は犬の言葉しかしゃべれないよ。』
「げ!マジかよ。」
翔歌の番だ。ゲーム中盤。戦うだけでなく、ミッションやただのゲーム感覚のお遊びもあることが分かった。
翔歌がいったのと同時に、翔歌の頭から煙が出る。犬のような耳を生やし、諦めたように胡座をかいて座る翔歌。その姿はどこか凛々しくもあった。
「翔?」
「ワンッ!」
美紅の問いかけに、姿勢を崩すことなく、翔歌が答える。その横顔を覗き込みながら、恐る恐る妃水も声をかける。
「わざとじゃねぇよな?」
「ワンッワンワンッッ!!」
妃水から目を逸らし、顔は真っ赤だ。言っていることは全然わからない。姿勢を崩さない翔歌とは相反して耳はピコピコと動く。
「まあ...とにかく。しょうがないからこのまま進めるか。」
気持ちを切り替えるように妃水が言うと、サイコロを無造作に投げた。コロコロ転がり、もう濡れて焦げてボロボロになってしまった襖の目の前で止まる。
数字を確認する前に、妃水の駒は勝手にトントンと動いていく。出だしが進まなかっただけで、どんどん追い越し、今では妃水がこの双六のトップだ。その逆に翔歌は変なマスに止まることが多く、現在最下位。
あれ?ここだけマスの色が違う...。
『さぁさぁレッドゾーン突入だ。気をつけろよぉ。気をつけろ!!こいつらは一筋縄じゃあ倒せねぇ!!』
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