お前の不敬には愛想が尽きた!と婚約破棄されましたが、これ幸い!

ちゃっぴー

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セシル様の別邸の前に、仰々しい蹄の音が響き渡った。

現れたのは、王室直属の「白百合騎士団」の面々。白いマントをなびかせ、いかにも「正義の味方」といった風情だが、私に言わせればただの着せ替え人形集団である。

「アスタール公爵令嬢ノノカ! エドワード殿下への不敬、および国家反逆の疑いにより、同行願おう!」

先頭に立つ小太りの騎士団長――名前は何といったかしら、確かパンを喉に詰まらせそうな名前だったはず――が、巻物を広げて怒鳴り散らした。

私はテラスで優雅に紅茶を啜りながら、扇の隙間から彼らを一瞥する。

「……あら。セシル様、あちらの騎士団長様、ヘルメットのサイズが合っていなくて頬の肉がはみ出しておりますわよ。あのような『美しくない』方に連行されるなんて、私の経歴に泥が塗られてしまいますわ」

「……貴様、あんな状況でまず肉の心配をするのか」

隣で同じく茶を嗜んでいたセシル様が、呆れたように、しかしどこか楽しげに口角を上げた。

「当然ですわ。連行されるにしても、せめて目の保養になるような美男子を用意するのが、令嬢に対する最低限のマナーというものです」

私は椅子から立ち上がり、テラスの柵越しに騎士団長を見下ろした。

「そこの、頬肉が溢れている団長さん。三行で説明しますわね」

「な、なんだと!? 私は王命を受けて……」

「一つ、その汚い靴でセシル様の屋敷の庭を踏まないでいただけます?」

「二つ、その巻物の文章、語尾が『です・ます』と『だ・である』で混在していて、読み手への配慮が欠けていますわよ」

「三つ、私を連れて行きたければ、最低でも殿下より顔面偏差値が20は高い者を用意してきなさい。……お引き取りを」

騎士団長の顔が、茹で上がった蛸のように真っ赤になった。

「不敬だ! これは正式な逮捕状だぞ! セシル伯爵、貴殿も反逆者を匿うつもりか!」

ここでようやく、セシル様がゆっくりと立ち上がった。

彼が影から一歩前へ出た瞬間、騎士たちの動きが凍りついた。

陽光を浴びて輝く銀の瞳、そして氷点下の殺気を含んだ美貌。

「……私の客人が、私の庭で茶を楽しんでいる。それを邪魔するのは、どの国の礼儀だ?」

セシル様の低い声が響くだけで、馬たちが怯えて後退りする。

「バ、バレンシア伯爵……。しかし、これはエドワード殿下の直接の命令で……」

「殿下は、国境の守護者である私に喧嘩を売るつもりか? それとも、兵站の報告義務を怠っている自派閥の不手際を隠すために、この令嬢を口封じしようとしているのか?」

セシル様の言葉に、騎士団長が露骨に動揺した。

「そ、それは……何のことか……」

「図星のようね。団長さん、動揺してさらに顔が歪んでいますわよ。あぁ、見ていられませんわ。セシル様、早く追い払ってくださいな。私の網膜が腐ってしまいます」

私はわざとらしく目を覆った。

セシル様は鼻で笑い、騎士たちに向かって冷たく言い放った。

「帰って殿下に伝えろ。ノノカ・フォン・アスタールは現在、私の『私設顧問』として保護下にある。文句があるなら、正式な御前会議で受けて立つとな」

「……くっ、覚えていろよ!」

捨て台詞を残し、騎士団長たちは転がるように撤退していった。

静寂が戻った庭園で、私は深くため息をついた。

「ふう……。セシル様、助かりましたわ。あんなに顔の整っていない集団に囲まれるなんて、一生の不覚になるところでした」

「……貴様、本当に怖いもの知らずだな。王家を正面から敵に回して、後悔はないのか?」

セシル様が私を覗き込む。

私は彼に一歩近づき、その完璧な顎のラインを指先で軽く示した。

「後悔? まさか。こんなに近くで国宝級の美形が私を守ってくださるのですもの。むしろ、殿下に感謝したいくらいですわ。おかげであなたという『目の保養』に出会えたのですから」

セシル様は一瞬、呆気に取られたような顔をしたが、やがて顔を背けた。

「……やはり貴様は、ただの変わり者だ」

「あら、耳のあたりが少し赤いですわよ、セシル様。……もしかして、照れていらっしゃいます?」

「……茶が冷めた。中に入るぞ」

早足で屋敷へ戻る彼の後ろ姿を見送りながら、私は確信した。

この氷の伯爵、意外と「チョロい」のかもしれない――と。
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