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「……テリーヌ嬢、急な話で申し訳ないが、我が国に他国から『通商使節団』がやってくることになった」
公爵邸の朝食。
私は、自作の『燃えよ唐辛子ジャム』をトーストに厚塗りしながら、アリスティア様の報告を聞きました。
「あら、素敵なニュースですわね。おもてなしのメニューは、もう決まっておりますの?」
「いや、それが問題なんだ。相手は隣の小国・ハッカ連邦の外交官たちでな。あそこは『清涼感』を何より尊ぶ、極度のミント好き国家として有名なんだ」
「ミント……。あの、歯磨き粉のような味がする草ですのね?」
私は思わず顔をしかめました。
刺激はあっても、それは私の求めている「熱」ではありませんわ。
「彼らは我が国のスパイス文化を『野蛮で暑苦しい』と否定していてね。今回の会談が決裂すれば、北部の交易ルートが閉ざされる恐れがある」
「……なるほど。私への挑戦状、と受け取ってもよろしいかしら?」
「いや、外交の話なのだが……。……まあいい。君に任せよう、テリーヌ。彼らの『清涼な価値観』を、君の火力で焼き尽くしてやってくれ」
「お任せくださいまし、公爵様! 私の辞書に『マイルド』という文字はございませんわ!」
数日後。公爵邸の晩餐会会場。
現れたのは、全身を青と白の服で固めた、いかにも「冷ややか」な印象の使節団でした。
「フン。スパイス公爵の屋敷と聞いて構えていたが……。なんだね、この会場の空気は。少しばかり、鼻がムズムズするが」
使節団長のミント卿が、ハンカチで鼻を押さえながら席に着きました。
「ようこそ、ハッカ連邦の皆様。今日は我が国の……いえ、我が公爵邸が誇る『食の革命児』による、特別なおもてなしをご用意いたしました」
アリスティア様の合図で、私が料理を運び込みます。
今日のために用意したのは、見た目だけは涼しげな『クリスタル・ファイヤー・冷製スープ』です。
「ほう。これは珍しい。真っ白なスープに、透明なオイルが浮いているだけか。我が国の好みに合わせた、清涼感のある料理のようだね」
ミント卿は満足そうに頷き、スプーンを口に運びました。
……ふふふ。騙されましたわね。
その透明なオイルこそ、私が三日間かけて抽出した『超高濃度ブート・ジョロキア・エッセンス』ですのに。
「では、いただきます……。…………ッッッ!!!」
ミント卿の動きが、彫刻のように止まりました。
数秒後、彼の額から噴水のような汗が噴き出し、青白かった顔面が、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤に変色します。
「……ッ、……ッ!! な、な、な、なんだこれはぁぁぁッ!!」
「あら、お口に合いませんでしたかしら? それは『氷の中の太陽』をイメージした、清涼感(の皮を被った熱地獄)スープですわ」
「氷……だと!? 私の喉を、今まさに溶岩が流れ落ちたような気がしたぞ! 水! 水をくれぇぇ!!」
「残念ながら、そのスープの後に水を飲むと、辛味成分が口内全体に拡散して、さらに地獄を見ることになりますわよ?」
私が優雅に扇で仰ぐと、他の使節団員たちも次々と「スープの洗礼」を受けて沈没していきました。
会場は、清涼感のかけらもない、呻き声と熱気で満たされます。
「……貴様ぁ! これは我が国への宣戦布告か!? こんな非人道的な食べ物を出して……!」
「いいえ、団長。よく味わってみてくださいまし。その熱さの向こう側に……突き抜けるような『快感』がありませんこと?」
「え……?」
ミント卿は、荒い息を吐きながら、自分の中にある「変化」に気づいたようでした。
「……な、なんだ。この、脳が痺れるような……体が浮き上がるような感覚は。いつも我々が求めていた『清涼感』よりも、ずっと……ずっと刺激的で……」
「そうでしょ? 極限の熱さを通り越すと、人は宇宙(そら)が見えるのですわ」
「宇宙……。……ああ、見える。私には今、真っ赤な銀河が見えるぞ……!」
ミント卿は、憑き物が落ちたようなスッキリとした表情で、フラフラと立ち上がりました。
「アリスティア公爵……! 我々は、あまりに狭い世界で生きていたようだ。この『熱き友情』のスープがあれば、通商条約など安いものだ! 今すぐサインしよう!」
「……そうか。分かってもらえて何よりだ」
アリスティア様は、平然と(というか、すでに半分トリップしている)使節団長と握手を交わしました。
こうして、一触即発だった外交問題は、一皿の激辛スープによって「真っ赤な友好」へと塗り替えられたのです。
「やりましたわね、公爵様! これで北部の交易も安泰ですわ!」
「ああ。……だがテリーヌ、使節団の半分が『もう自国のご飯では満足できない』と言って、帰国を拒否し始めているのだが……」
「あら、それは光栄ですわね。では、彼らには明日から『激辛開拓団』として、裏山の唐辛子畑で働いていただきましょう!」
テリーヌの「激辛外交」は、思わぬ形で隣国の労働力を確保する結果となったのでした。
一方、その報告を聞いた王国(元婚約者の方)の文官たちは。
「……ハッカ連邦が、隣国と軍事同盟ならぬ『スパイス同盟』を結んだだと……!?」
「テリーヌ様が……テリーヌ様が世界のパワーバランスを『赤く』塗り替えていく……! もう、我々の手に負える存在ではありません……!」
彼らの絶望をよそに、テリーヌの野望は、さらに激しく燃え盛っていくのでした。
公爵邸の朝食。
私は、自作の『燃えよ唐辛子ジャム』をトーストに厚塗りしながら、アリスティア様の報告を聞きました。
「あら、素敵なニュースですわね。おもてなしのメニューは、もう決まっておりますの?」
「いや、それが問題なんだ。相手は隣の小国・ハッカ連邦の外交官たちでな。あそこは『清涼感』を何より尊ぶ、極度のミント好き国家として有名なんだ」
「ミント……。あの、歯磨き粉のような味がする草ですのね?」
私は思わず顔をしかめました。
刺激はあっても、それは私の求めている「熱」ではありませんわ。
「彼らは我が国のスパイス文化を『野蛮で暑苦しい』と否定していてね。今回の会談が決裂すれば、北部の交易ルートが閉ざされる恐れがある」
「……なるほど。私への挑戦状、と受け取ってもよろしいかしら?」
「いや、外交の話なのだが……。……まあいい。君に任せよう、テリーヌ。彼らの『清涼な価値観』を、君の火力で焼き尽くしてやってくれ」
「お任せくださいまし、公爵様! 私の辞書に『マイルド』という文字はございませんわ!」
数日後。公爵邸の晩餐会会場。
現れたのは、全身を青と白の服で固めた、いかにも「冷ややか」な印象の使節団でした。
「フン。スパイス公爵の屋敷と聞いて構えていたが……。なんだね、この会場の空気は。少しばかり、鼻がムズムズするが」
使節団長のミント卿が、ハンカチで鼻を押さえながら席に着きました。
「ようこそ、ハッカ連邦の皆様。今日は我が国の……いえ、我が公爵邸が誇る『食の革命児』による、特別なおもてなしをご用意いたしました」
アリスティア様の合図で、私が料理を運び込みます。
今日のために用意したのは、見た目だけは涼しげな『クリスタル・ファイヤー・冷製スープ』です。
「ほう。これは珍しい。真っ白なスープに、透明なオイルが浮いているだけか。我が国の好みに合わせた、清涼感のある料理のようだね」
ミント卿は満足そうに頷き、スプーンを口に運びました。
……ふふふ。騙されましたわね。
その透明なオイルこそ、私が三日間かけて抽出した『超高濃度ブート・ジョロキア・エッセンス』ですのに。
「では、いただきます……。…………ッッッ!!!」
ミント卿の動きが、彫刻のように止まりました。
数秒後、彼の額から噴水のような汗が噴き出し、青白かった顔面が、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤に変色します。
「……ッ、……ッ!! な、な、な、なんだこれはぁぁぁッ!!」
「あら、お口に合いませんでしたかしら? それは『氷の中の太陽』をイメージした、清涼感(の皮を被った熱地獄)スープですわ」
「氷……だと!? 私の喉を、今まさに溶岩が流れ落ちたような気がしたぞ! 水! 水をくれぇぇ!!」
「残念ながら、そのスープの後に水を飲むと、辛味成分が口内全体に拡散して、さらに地獄を見ることになりますわよ?」
私が優雅に扇で仰ぐと、他の使節団員たちも次々と「スープの洗礼」を受けて沈没していきました。
会場は、清涼感のかけらもない、呻き声と熱気で満たされます。
「……貴様ぁ! これは我が国への宣戦布告か!? こんな非人道的な食べ物を出して……!」
「いいえ、団長。よく味わってみてくださいまし。その熱さの向こう側に……突き抜けるような『快感』がありませんこと?」
「え……?」
ミント卿は、荒い息を吐きながら、自分の中にある「変化」に気づいたようでした。
「……な、なんだ。この、脳が痺れるような……体が浮き上がるような感覚は。いつも我々が求めていた『清涼感』よりも、ずっと……ずっと刺激的で……」
「そうでしょ? 極限の熱さを通り越すと、人は宇宙(そら)が見えるのですわ」
「宇宙……。……ああ、見える。私には今、真っ赤な銀河が見えるぞ……!」
ミント卿は、憑き物が落ちたようなスッキリとした表情で、フラフラと立ち上がりました。
「アリスティア公爵……! 我々は、あまりに狭い世界で生きていたようだ。この『熱き友情』のスープがあれば、通商条約など安いものだ! 今すぐサインしよう!」
「……そうか。分かってもらえて何よりだ」
アリスティア様は、平然と(というか、すでに半分トリップしている)使節団長と握手を交わしました。
こうして、一触即発だった外交問題は、一皿の激辛スープによって「真っ赤な友好」へと塗り替えられたのです。
「やりましたわね、公爵様! これで北部の交易も安泰ですわ!」
「ああ。……だがテリーヌ、使節団の半分が『もう自国のご飯では満足できない』と言って、帰国を拒否し始めているのだが……」
「あら、それは光栄ですわね。では、彼らには明日から『激辛開拓団』として、裏山の唐辛子畑で働いていただきましょう!」
テリーヌの「激辛外交」は、思わぬ形で隣国の労働力を確保する結果となったのでした。
一方、その報告を聞いた王国(元婚約者の方)の文官たちは。
「……ハッカ連邦が、隣国と軍事同盟ならぬ『スパイス同盟』を結んだだと……!?」
「テリーヌ様が……テリーヌ様が世界のパワーバランスを『赤く』塗り替えていく……! もう、我々の手に負える存在ではありません……!」
彼らの絶望をよそに、テリーヌの野望は、さらに激しく燃え盛っていくのでした。
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