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「……見つけましたよ、テリーヌ様。そんな真っ赤な顔をして、はしたなく笑うのはお止めなさい」
突如として、公爵邸のテラスに魔法の残光が散りました。
現れたのは、銀縁の眼鏡を冷たく光らせたショコラ王国の側席、ヴィクターです。
彼は、手に持った魔導書をパタンと閉じ、私を値踏みするように見つめました。
「ヴィクター? あら、王宮一の『冷え性』で有名な事務官が、こんな熱い場所へ何の用ですの?」
「貴女を連れ戻しに来たのです。殿下は無能ですが、貴女の事務能力は我が国の資産だ。……さあ、その汚れたエプロンを脱ぎ、私と共に戻りましょう。貴女に相応しいのは、静寂と秩序に満ちた執務室です」
ヴィクターが私に手を差し出しました。
その目は、私を一人の女性としてではなく、最高性能の『計算機』として見ている、冷え切った色でした。
「お断りしますわ。執務室なんて、今の私には狭すぎますわよ。私のフィールドは今や、この広大な唐辛子畑なんですの!」
「強情ですね。貴女の今の生活は、ただの現実逃避だ。スパイス? 刺激? そんなものは一時の麻薬に過ぎない。……私の計算によれば、貴女は一ヶ月以内に今の生活に飽き、私の元へ泣きついてくるはずでした」
「計算間違いですわね! 私の情熱は、貴方の算盤(そろばん)で弾けるほど安くありませんわ!」
私が叫んだ瞬間。
私の肩を、大きな、そして非常に熱い手が抱き寄せました。
「……私の婚約者に、随分な言い草だな、眼鏡の男」
アリスティア様です。
彼はヴィクターの放つ冷気を、その身から溢れ出す圧倒的な『熱量』で一瞬にして掻き消しました。
「アリスティア公爵……。味覚を失った貴方に、彼女の価値が分かるとは思えませんが? 貴方はただ、自分の欠落を埋めるための『道具』として彼女を利用しているだけだ」
「……道具、だと?」
アリスティア様が、低く、低く笑いました。
それは地響きのような、軍神の咆哮でした。
「ヴィクターと言ったか。君の計算には、決定的な欠陥がある。……私がテリーヌを愛しているのは、彼女が作る料理のためだけではない」
「……何ですって?」
アリスティア様は、私を抱き寄せる力を強めました。
そして、私の目を見つめて、確固たる口調で告げたのです。
「私は、彼女のその『たくましさ』に惚れたんだ。……婚約破棄されてもガッツポーズで笑い飛ばし、裸足で泥道を駆け抜け、どんな逆境も唐辛子の種一つで燃やし尽くす。……その、鋼よりも強く、太陽よりも眩しい魂にだ!」
「…………ッ!!」
私は、心臓がハバネロを食べた時以上に激しく跳ねるのを感じました。
……料理ではなく、私自身?
私の、この可愛げのない『暴走』そのものを愛していると、仰るの?
「君が彼女を『事務機』として縛り付けようとするなら、私は彼女を『自由な炎』として解き放つ。……彼女が世界中を真っ赤に染めたいと願うなら、私はそのための風になろう。……それが、私の愛だ」
「……理解不能だ。そんな非合理な感情……私の計算にはない……!」
「計算できないものこそが、人生を彩るスパイスなのだよ。……さあ、消えろ。二度と私のテリーヌに、その冷たい指を向けないことだ。……さもなくば、君の脳細胞をすべて、彼女特製の『超激辛オイル』で洗浄してやるぞ」
アリスティア様が指をパチンと鳴らすと、屋敷中の料理人たちが防護マスクを装着し、霧吹き(中身は劇薬)を手にヴィクターを包囲しました。
「……くっ、今日のところは退散しましょう。ですがテリーヌ様……! 貴女はいつか、刺激の果てに虚しさを知るはずだ!」
捨て台詞と共に、ヴィクターは魔法で姿を消しました。
静寂が戻ったテラスで、私はアリスティア様の胸の中で、呆然と立ち尽くしていました。
「……公爵様。今の、本当ですの?」
「……何がだ?」
「私の料理の腕ではなく……私の、この『悪役令嬢』らしい、図太い性格を愛しているなんて」
アリスティア様は、少しだけ照れたように視線を逸らし、それから優しく私の頬を撫でました。
「ああ。……君のその、一切の妥協を許さない強引な生き方が……どうしようもなく好きなんだ。……テリーヌ。私と一緒に、世界一熱い未来を作ってくれないか?」
「……はい! もちろんですわ! 私の胃袋、そしてこの魂……一生貴方に捧げますわ!」
私は、アリスティア様の首に飛びつきました。
そこにはもう、打算も計算もありません。
あるのは、お互いを焦がし合うほどの、純粋で真っ赤な情熱だけ。
そんな私たちの様子を、柱の影で見ていたシャルロット様が、号泣しながら叫びました。
「うわぁぁぁん! 最高ですわー! 師匠、お幸せにー! ……あ、それはそれとして、お祝いの『激辛唐揚げ』を千個ほど揚げてくださいましー!!」
「おだまりなさい、シャルロット様! 今はいいところなんですのよ!」
愛の告白は、唐辛子の香りに包まれて、最高潮の熱気に達したのでした。
突如として、公爵邸のテラスに魔法の残光が散りました。
現れたのは、銀縁の眼鏡を冷たく光らせたショコラ王国の側席、ヴィクターです。
彼は、手に持った魔導書をパタンと閉じ、私を値踏みするように見つめました。
「ヴィクター? あら、王宮一の『冷え性』で有名な事務官が、こんな熱い場所へ何の用ですの?」
「貴女を連れ戻しに来たのです。殿下は無能ですが、貴女の事務能力は我が国の資産だ。……さあ、その汚れたエプロンを脱ぎ、私と共に戻りましょう。貴女に相応しいのは、静寂と秩序に満ちた執務室です」
ヴィクターが私に手を差し出しました。
その目は、私を一人の女性としてではなく、最高性能の『計算機』として見ている、冷え切った色でした。
「お断りしますわ。執務室なんて、今の私には狭すぎますわよ。私のフィールドは今や、この広大な唐辛子畑なんですの!」
「強情ですね。貴女の今の生活は、ただの現実逃避だ。スパイス? 刺激? そんなものは一時の麻薬に過ぎない。……私の計算によれば、貴女は一ヶ月以内に今の生活に飽き、私の元へ泣きついてくるはずでした」
「計算間違いですわね! 私の情熱は、貴方の算盤(そろばん)で弾けるほど安くありませんわ!」
私が叫んだ瞬間。
私の肩を、大きな、そして非常に熱い手が抱き寄せました。
「……私の婚約者に、随分な言い草だな、眼鏡の男」
アリスティア様です。
彼はヴィクターの放つ冷気を、その身から溢れ出す圧倒的な『熱量』で一瞬にして掻き消しました。
「アリスティア公爵……。味覚を失った貴方に、彼女の価値が分かるとは思えませんが? 貴方はただ、自分の欠落を埋めるための『道具』として彼女を利用しているだけだ」
「……道具、だと?」
アリスティア様が、低く、低く笑いました。
それは地響きのような、軍神の咆哮でした。
「ヴィクターと言ったか。君の計算には、決定的な欠陥がある。……私がテリーヌを愛しているのは、彼女が作る料理のためだけではない」
「……何ですって?」
アリスティア様は、私を抱き寄せる力を強めました。
そして、私の目を見つめて、確固たる口調で告げたのです。
「私は、彼女のその『たくましさ』に惚れたんだ。……婚約破棄されてもガッツポーズで笑い飛ばし、裸足で泥道を駆け抜け、どんな逆境も唐辛子の種一つで燃やし尽くす。……その、鋼よりも強く、太陽よりも眩しい魂にだ!」
「…………ッ!!」
私は、心臓がハバネロを食べた時以上に激しく跳ねるのを感じました。
……料理ではなく、私自身?
私の、この可愛げのない『暴走』そのものを愛していると、仰るの?
「君が彼女を『事務機』として縛り付けようとするなら、私は彼女を『自由な炎』として解き放つ。……彼女が世界中を真っ赤に染めたいと願うなら、私はそのための風になろう。……それが、私の愛だ」
「……理解不能だ。そんな非合理な感情……私の計算にはない……!」
「計算できないものこそが、人生を彩るスパイスなのだよ。……さあ、消えろ。二度と私のテリーヌに、その冷たい指を向けないことだ。……さもなくば、君の脳細胞をすべて、彼女特製の『超激辛オイル』で洗浄してやるぞ」
アリスティア様が指をパチンと鳴らすと、屋敷中の料理人たちが防護マスクを装着し、霧吹き(中身は劇薬)を手にヴィクターを包囲しました。
「……くっ、今日のところは退散しましょう。ですがテリーヌ様……! 貴女はいつか、刺激の果てに虚しさを知るはずだ!」
捨て台詞と共に、ヴィクターは魔法で姿を消しました。
静寂が戻ったテラスで、私はアリスティア様の胸の中で、呆然と立ち尽くしていました。
「……公爵様。今の、本当ですの?」
「……何がだ?」
「私の料理の腕ではなく……私の、この『悪役令嬢』らしい、図太い性格を愛しているなんて」
アリスティア様は、少しだけ照れたように視線を逸らし、それから優しく私の頬を撫でました。
「ああ。……君のその、一切の妥協を許さない強引な生き方が……どうしようもなく好きなんだ。……テリーヌ。私と一緒に、世界一熱い未来を作ってくれないか?」
「……はい! もちろんですわ! 私の胃袋、そしてこの魂……一生貴方に捧げますわ!」
私は、アリスティア様の首に飛びつきました。
そこにはもう、打算も計算もありません。
あるのは、お互いを焦がし合うほどの、純粋で真っ赤な情熱だけ。
そんな私たちの様子を、柱の影で見ていたシャルロット様が、号泣しながら叫びました。
「うわぁぁぁん! 最高ですわー! 師匠、お幸せにー! ……あ、それはそれとして、お祝いの『激辛唐揚げ』を千個ほど揚げてくださいましー!!」
「おだまりなさい、シャルロット様! 今はいいところなんですのよ!」
愛の告白は、唐辛子の香りに包まれて、最高潮の熱気に達したのでした。
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