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「……テリーヌ。返事を聞かせてもらえないだろうか」
アリスティア様が、私の両手を握ったまま、期待と不安が入り混じったような目で見つめてきます。
先ほどの情熱的な告白。私の『たくましさ』が好きだなんて、そんなこと、生まれて初めて言われましたわ。
私は一度深呼吸をし、肺いっぱいに漂う唐辛子の粉末(さっきのクシャミの名残ですわね)を吸い込みました。
「アリスティア様。……貴方の覚悟、しかと受け止めましたわ」
私は居住まいを正し、公爵令嬢としての気品を……いえ、一人の『激辛料理人』としての誇りを胸に、彼を真っ直ぐに見据えました。
「私からも、一つ提案がございます。……これは、ただの婚約ではございません。『一生涯、貴方の胃袋を私の刺激で防衛し続ける』という、不可侵かつ超攻撃的な安全保障条約ですわ!」
「……安全保障条約?」
アリスティア様が、呆気に取られたように目を瞬かせました。
「ええ! 私が作る料理は、並大抵の男では命を落とす劇物。それを笑って……いえ、悶絶しながらも愛してくれるのは、世界中で貴方だけですわ。……だからこそ、私が貴方を守ります。他国のマイルドな料理に胃袋を軟弱にされないよう、一生、私の火力で鍛え上げて差し上げますわ!」
私は、鞄から一番大きなジョロキアの瓶を取り出し、それを聖火のように高く掲げました。
「アリスティア・フォン・スパイス公爵! 私の情熱(物理)を、一生浴び続ける覚悟はありますの!?」
普通なら「もっとロマンチックな返事はないのか」とガッカリされる場面でしょう。
ですが、私の目の前にいる男は、やはり常人ではありませんでした。
アリスティア様は、一瞬の沈黙の後、腹の底から響くような快活な笑い声を上げました。
「ははは! 安全保障条約か! 最高だ、テリーヌ! その攻撃的な愛、喜んで受け入れよう!」
彼は私の手から瓶を奪うと、中に入っていた乾燥唐辛子を一つ、そのまま口に放り込んで噛み砕きました。
「……ッ、ぐ、……熱い……! だが、これで契約成立だ。私の胃袋も、心も、すべて君に捧げよう」
「公爵様……! おほほほ! 流石ですわ、私の最愛の試食係!」
私たちは、中庭の唐辛子畑のど真ん中で、熱烈な抱擁を交わしました。
周囲からは、防護マスクをした料理人たちによる、むせ返るような拍手が沸き起こります。
「おめでとうございます、師匠ー! お祝いに、今夜は『ジョロキアの赤ワイン煮込み』ですわね!」
シャルロット様が、涙と鼻水を流しながら(スパイスのせいです)祝福してくれました。
翌日。
この『激辛婚約』は、公式に隣国中に発表されました。
「冷徹公爵、ついに赤い愛を見つける」という見出しと共に、私の「悪役令嬢」としての汚名は、いつの間にか「隣国の食を救った英雄」という謎の評価へと上書きされていたのでした。
一方、その知らせを耳にしたショコラ王国の執務室。
「……計算が、合わない。……なぜだ、なぜテリーヌ様は、あの軍神を選んだのだ……」
側近ヴィクターは、ひび割れた眼鏡をかけ直す気力もなく、机に突っ伏していました。
目の前には、修正の終わらない書類がさらに増殖し、もはや壁のようになって彼を圧迫しています。
「ヴィクターさん、報告です……。地方領主たちから『予算が出ないなら独立する』という脅迫状が、ハバネロ入りの封筒で届きました……」
「……テリーヌ様。……貴女が植え付けた『刺激』という名の呪いが、この国を……私の合理的な世界を壊していく……」
ヴィクターは、テリーヌがかつて愛用していた羽ペン(なぜか激辛オイルの香りが染み付いている)を握りしめ、静かに絶望の淵へと沈んでいきました。
彼の緻密な計算術も、一人の令嬢が放つ「一万スコヴィル」の情熱の前には、何の意味もなさなかったのです。
そして、スパイス公爵邸。
「テリーヌ、結婚式の準備だが……」
「ええ、分かっておりますわ、アリスティア様! 衣装は真っ赤なシルク、花束は乾燥唐辛子のブーケ、そして披露宴のケーキは……」
「……まさか、あれか?」
「ええ! 世界一辛い特製スパイスケーキですわ! 参列者全員に、私の幸せを『痛み』として刻み込んで差し上げますわよ!」
「……はは、楽しみだな。……念のため、教会の外に大量の牛乳を用意させておこう」
幸せの絶頂にあるはずの二人の会話は、今日も相変わらず、物騒で刺激的な熱を帯びているのでした。
アリスティア様が、私の両手を握ったまま、期待と不安が入り混じったような目で見つめてきます。
先ほどの情熱的な告白。私の『たくましさ』が好きだなんて、そんなこと、生まれて初めて言われましたわ。
私は一度深呼吸をし、肺いっぱいに漂う唐辛子の粉末(さっきのクシャミの名残ですわね)を吸い込みました。
「アリスティア様。……貴方の覚悟、しかと受け止めましたわ」
私は居住まいを正し、公爵令嬢としての気品を……いえ、一人の『激辛料理人』としての誇りを胸に、彼を真っ直ぐに見据えました。
「私からも、一つ提案がございます。……これは、ただの婚約ではございません。『一生涯、貴方の胃袋を私の刺激で防衛し続ける』という、不可侵かつ超攻撃的な安全保障条約ですわ!」
「……安全保障条約?」
アリスティア様が、呆気に取られたように目を瞬かせました。
「ええ! 私が作る料理は、並大抵の男では命を落とす劇物。それを笑って……いえ、悶絶しながらも愛してくれるのは、世界中で貴方だけですわ。……だからこそ、私が貴方を守ります。他国のマイルドな料理に胃袋を軟弱にされないよう、一生、私の火力で鍛え上げて差し上げますわ!」
私は、鞄から一番大きなジョロキアの瓶を取り出し、それを聖火のように高く掲げました。
「アリスティア・フォン・スパイス公爵! 私の情熱(物理)を、一生浴び続ける覚悟はありますの!?」
普通なら「もっとロマンチックな返事はないのか」とガッカリされる場面でしょう。
ですが、私の目の前にいる男は、やはり常人ではありませんでした。
アリスティア様は、一瞬の沈黙の後、腹の底から響くような快活な笑い声を上げました。
「ははは! 安全保障条約か! 最高だ、テリーヌ! その攻撃的な愛、喜んで受け入れよう!」
彼は私の手から瓶を奪うと、中に入っていた乾燥唐辛子を一つ、そのまま口に放り込んで噛み砕きました。
「……ッ、ぐ、……熱い……! だが、これで契約成立だ。私の胃袋も、心も、すべて君に捧げよう」
「公爵様……! おほほほ! 流石ですわ、私の最愛の試食係!」
私たちは、中庭の唐辛子畑のど真ん中で、熱烈な抱擁を交わしました。
周囲からは、防護マスクをした料理人たちによる、むせ返るような拍手が沸き起こります。
「おめでとうございます、師匠ー! お祝いに、今夜は『ジョロキアの赤ワイン煮込み』ですわね!」
シャルロット様が、涙と鼻水を流しながら(スパイスのせいです)祝福してくれました。
翌日。
この『激辛婚約』は、公式に隣国中に発表されました。
「冷徹公爵、ついに赤い愛を見つける」という見出しと共に、私の「悪役令嬢」としての汚名は、いつの間にか「隣国の食を救った英雄」という謎の評価へと上書きされていたのでした。
一方、その知らせを耳にしたショコラ王国の執務室。
「……計算が、合わない。……なぜだ、なぜテリーヌ様は、あの軍神を選んだのだ……」
側近ヴィクターは、ひび割れた眼鏡をかけ直す気力もなく、机に突っ伏していました。
目の前には、修正の終わらない書類がさらに増殖し、もはや壁のようになって彼を圧迫しています。
「ヴィクターさん、報告です……。地方領主たちから『予算が出ないなら独立する』という脅迫状が、ハバネロ入りの封筒で届きました……」
「……テリーヌ様。……貴女が植え付けた『刺激』という名の呪いが、この国を……私の合理的な世界を壊していく……」
ヴィクターは、テリーヌがかつて愛用していた羽ペン(なぜか激辛オイルの香りが染み付いている)を握りしめ、静かに絶望の淵へと沈んでいきました。
彼の緻密な計算術も、一人の令嬢が放つ「一万スコヴィル」の情熱の前には、何の意味もなさなかったのです。
そして、スパイス公爵邸。
「テリーヌ、結婚式の準備だが……」
「ええ、分かっておりますわ、アリスティア様! 衣装は真っ赤なシルク、花束は乾燥唐辛子のブーケ、そして披露宴のケーキは……」
「……まさか、あれか?」
「ええ! 世界一辛い特製スパイスケーキですわ! 参列者全員に、私の幸せを『痛み』として刻み込んで差し上げますわよ!」
「……はは、楽しみだな。……念のため、教会の外に大量の牛乳を用意させておこう」
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