悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「……は? 王都へ戻れですって?」

離宮のサンルームで、キンキンに冷えた(しかし氷は魔法で溶けない)特製ジュースを飲んでいたネイビーは、素っ頓狂な声を上げました。

目の前には、王都から派遣された特使が、滝のような汗を流しながら平伏しています。
彼は王都を出発する際、北国の寒さを警戒して最高級の防寒着を着込んできましたが、今やその毛皮はただの「重石」と化していました。

「は、はい……。国王陛下が、ネイビー様のこれまでの功績……あ、あの、北国全体の暖房化および温泉資源の開拓を高く評価されまして。……正式に、婚約破棄の撤回と、王都への凱旋を命じられました」

「撤回? 今さらアレン殿下の隣に戻れとおっしゃるの?」

ネイビーは扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、隣に座るイグニスに視線を送りました。
イグニスは不機嫌そうに、特使を睨みつけています。

「おい、冗談はやめろ。殿下はリリィとかいう娘と仲睦まじくやっているんだろう? 今さらネイビーを呼び戻してどうするつもりだ」

「それが……民衆の間で『ネイビー様こそが真の聖女』という声が爆発しておりまして。彼女を北国に留めておくのは国家の損失だというデモが、連日王宮を取り囲んでいるのです。……陛下も、背に腹は代えられないと」

特使は震えながら(暑さで朦朧としながら)続けました。

「もし戻っていただけるなら、公爵家の地位の完全復帰はもちろん、王都の一等地に新たな宮殿を用意すると……!」

ネイビーは鼻で笑いました。
彼女にとって、地位や名誉など、今や「快適な室温」の足元にも及びません。

「特使さん。お聞きしますが、その新しい宮殿とやらは、床暖房は完備されていますの? 壁には三層の断熱材が詰められ、窓は全て強化ガラスの二重構造になっていて?」

「えっ……? い、いえ、それは……王都の伝統的な石造りで、非常に風通しの良い……」

「却下ですわ!!」

ネイビーはテーブルを叩いて立ち上がりました。

「風通しが良い!? それはつまり『隙間風が入り放題』ということでございましょう! あんな冷蔵庫のような王都に戻るなんて、死んでも御免ですわ!」

「そ、そんな!? では、どうすれば戻っていただけるのですか!」

特使が泣きつくと、ネイビーは不敵な笑みを浮かべ、腰に手を当てました。

「いいですわ。戻ってあげてもよろしくてよ。……ただし、条件が三つありますわ」

「な、何なりとお申し付けください!」

「一つ! 私とイグニス様の婚約を、陛下直々に公認すること! アレン殿下なんて、もうお顔を見るのも寒気がしますわ!」

隣でイグニスが、驚いたように、しかし嬉しそうにネイビーを見ました。

「二つ! 王都の私の宮殿まで、ここ氷晶の離宮から直接『温泉パイプライン』を敷設すること! 一滴たりとも温度を下げずに、王都で私の露天風呂を実現なさい!」

「……三、三百キロありますよ!? そんな距離のパイプラインなんて……!」

「そして三つ目! ……これが一番重要ですわ。……王都にある私の宮殿の敷地内を、常時『摂氏二十八度』に保つ魔導障壁を、王宮魔導師団全員で維持し続けること! 一瞬でも冷えたら、私は即座に北国へ帰りますわよ!」

ネイビーの突きつけた条件は、もはや一国家の予算を揺るがすほどの「わがまま」でした。
しかし、彼女は本気でした。
暖かさを失うくらいなら、王妃の座すらゴミ箱に捨てる覚悟です。

「……さあ、持ち帰って陛下に伝えなさい。……『私が王都を温めてあげるか、それとも王都が私を温めるか、選びなさい』と!」

特使は真っ青になりながら(そして脱水症状を起こしかけながら)、逃げるように離宮を後にしました。

「……ネイビー。お前、本気であんな条件が通ると思っているのか?」

イグニスが呆れたように尋ねると、ネイビーは彼の腕に抱きつき、幸せそうに目を細めました。

「通らなくても構いませんわ。ここが一番温かいんですもの。……でも、もし陛下が折れたら、それはそれで面白いと思いません?」

「……フン。お前らしいな。……まあ、どこへ行くにしても、俺が離してやらないけどな」

二人の熱い抱擁の熱気で、サンルームの温度はさらに一度上昇するのでした。
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