悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

文字の大きさ
21 / 28

21

しおりを挟む
「……はぁ。やっぱり、自宅の床暖房が世界で一番落ち着きますわね」

激闘から一夜明け。ネイビーは離宮のサロンで、特大のビーズクッション(断熱素材入り)に身を沈めていました。
昨夜、絶対零度の魔石を粉砕したことで、離宮の熱供給システムは完全に復旧。
むしろ、イグニスの過剰な魔力供給のおかげで、室温は安定の摂氏三十二度をキープしています。

「お嬢様、昨夜の戦いで捕らえたボルドー宰相ですが、地下の『特別温熱独房』にて収容を完了いたしました」

セバスが冷たい(温度的な意味ではない)報告を入れます。

「あら、ご苦労様。それで、彼は反省しているかしら?」

「ええ。あまりの湿気と熱気に、眼鏡が曇って何も見えないと泣き言を漏らしております。さらに、一時間おきに提供される『超激辛ジンジャースープ』のおかげで、冷え切っていた彼の胃腸も今や燃え盛っていることでしょう」

ネイビーは満足げに頷きました。
復讐とは、相手を凍えさせることではありません。
自分と同じ「熱さ」を強制的に叩き込み、寒さを二度と望まない身体にしてあげること。それこそが、ネイビー流の慈悲なのです。

「さて、イグニス様。ボルドーを倒しただけでは、王都の連中はまた別の刺客を送ってくるかもしれませんわ」

隣で上半身裸に近い軽装(本人はシャツを着ているつもり)で休んでいたイグニスが、片目を開けました。

「だろうな。王室にとって、お前のこの『熱源』は喉から手が出るほど欲しい利権だ。力で奪えないと分かれば、次は法や権力で攻めてくるだろう」

「ふふふ、だからこそ先手を打ちますわ。……イグニス様、武器で戦うのはもう終わりです。これからは『文化』で王都を攻略いたしますわよ!」

ネイビーは、セバスに用意させていた大量の木箱を指さしました。

「中身は何だ? まさか、また魔法瓶か?」

「それだけではありませんわ! 公爵家の権力と、この地の地熱を使って量産した『ネイビー印のポカポカ・セット』ですわ! 中には、一度火をつければ三日三晩消えない魔石カイロに、飲めば全身から汗が噴き出す発汗茶、そして……離宮特製『温泉の素』が入っていますの!」

ネイビーの計画は大胆でした。
これらを王都の平民たち、特に冬の寒さに苦しむ貧困層へ向けて、格安……いえ、一部は無償で配布するというのです。

「……なるほどな。民衆を味方につけるか。冬の寒さに凍える王都の人間にとって、お前の配る『熱』は、王権よりも価値がある救いになるわけだ」

「その通りですわ! 『ネイビー様を呼び戻せば、我々もこの温かさを享受できるのでは?』という世論を爆発させるのです。……名付けて、『全人類・温熱教化作戦』ですわ!」

数日後。
王都の広場では、ネイビーからの「贈り物」を受け取った人々が、かつてない熱狂に包まれていました。

「おい、見ろよ! この魔石、全然冷めないぞ! おかげで赤ん坊が夜泣きしなくなった!」

「このお茶を飲んだら、長年の腰の冷えが治ったわ! ネイビー様は、本当に聖女様だったんだ!」

王都の冬は厳しく、毎年多くの者が寒さで命を落としていました。
そこに届いた、圧倒的なまでの「物理的な温もり」。
ネイビーを悪役令嬢として蔑んでいた噂は、瞬く間に「北の地で民のために太陽を掘り当てた伝説の聖女」へと書き換えられていきました。

王宮では、アレン王子が市民たちのデモ……いえ、「ネイビー様への感謝の行進」を窓から見て、顔を青ざめさせていました。

「……どういうことだ。あいつは追放されたはずだろう!? なぜ、王都の民が全員、彼女の名前が刺繍されたマフラーを巻いているんだ!」

「殿下、もはや止められません……。ネイビー様が送ってくる『温泉の素』がなければ、この冬を越せないと、兵士たちまでが言い出しております……」

側近の言葉に、王子は膝をつきました。
武器を持たず、ただ「温度」だけで国家を掌握し始めたネイビー。

一方、北国の離宮では。

「あはは! 見てください、イグニス様! 王都の商会から、提携の依頼が殺到していますわ! これで私の『世界一暖かい帝国』の建国も間近ですわね!」

「……お前、本当に楽しそうだな。……まあ、俺も。お前のその暑苦しい笑顔を見ているのは、嫌いじゃないが」

イグニスは、ネイビーの頭を乱暴に、しかし優しく撫でました。
二人の周囲には、冬の北国とは思えない、幸せで熱い春の風が吹き抜けていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで

ほーみ
恋愛
王都ベルセリオ、冬の終わり。 辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。 この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。 「リリアーナ……本当に、君なのか」 ――来た。 その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。 振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。 「……お久しぶりですね、エリオット様」

処理中です...