悪役令嬢は婚約破棄がお好き。

ちゃっぴー

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「邪魔だ、この石っころがぁぁぁ!」

ガキンッ!!

鋭い金属音が荒野に響き、冒険者の男が持っていたツルハシが根元から折れた。

「あああ! 新品のツルハシが! 畜生、なんだよこの黒い石は! 硬すぎるだろ!」

男が地面を蹴り飛ばす。

私たちの拠点建設予定地には、握り拳大の、炭のように真っ黒でゴツゴツした石が無数に転がっていた。

整地しようにも、重くて硬く、普通の道具では砕けない。

作業員たちの間には、疲労と苛立ちが蔓延していた。

「お嬢(ボス)、こりゃダメですぜ。この『黒邪魔石(くろじゃまいし)』のせいで、基礎工事が全く進みません。撤去するだけで数ヶ月はかかります」

現場監督として雇ったドワーフの棟梁、ガンテツが髭をさすりながら渋い顔をする。

「黒邪魔石?」

私は手元の図面から顔を上げ、片眼鏡(モノクル)を光らせた。

「ええ。この辺りの厄介者ですわ。農作物は育たないし、家を建てるにも邪魔。文字通り『百害あって一利なし』のゴミ石です。王家がこの土地を手放した理由の一つも、これでしょうな」

「へぇ……ゴミ、ねぇ」

私はスカートの裾が汚れるのも構わず、地面に膝をついた。

転がっている「黒邪魔石」を一つ拾い上げる。

ずっしりと重い。

普通の石の三倍はある密度だ。

そして、表面をよく見ると、太陽の光を受けて微かに虹色の光沢を放っている。

(……この重さ。この質感。そして、ミスリル製のツルハシをへし折る硬度)

私の脳内で、前世(ではなく現世で読んだ数多の文献)の知識と、公爵家で叩き込まれた鉱物学のデータがリンクする。

心臓が早鐘を打った。

ドクン、ドクン、チャリン、チャリン(最後のは金貨の音)。

「ガンテツ。ちょっと貸して」

私は近くにあった鉄のハンマーを借りると、その石に向かって思い切り魔力を流し込みながら叩きつけた。

ガァァァンッ!!

凄まじい音がして、ハンマーの頭がひしゃげた。

石は無傷。

いや、表面の黒い煤(すす)のような汚れが剥がれ落ち、中から『夜空を切り取ったような深い群青色』の輝きが顔を覗かせている。

「なっ……!?」

ガンテツの目が飛び出さんばかりに見開かれた。

「こ、この輝きは……まさか……!?」

「ええ、その『まさか』よ」

私は震える手で、その美しい石を天に掲げた。

「これは『黒邪魔石』なんて卑屈な名前じゃないわ。古代語で『天の欠片』……最高純度の魔導金属、『オリハルコン・ナイト』の原石よ!!」

シーン……と、現場が静まり返る。

「オ、オリ……ハルコン……?」

誰かが掠れた声で呟いた。

オリハルコン。

伝説の金属。その硬度はダイヤモンドを超え、魔伝導率は金の百倍。

指輪一つ分の量で、王都の一等地に屋敷が建つと言われる幻の素材だ。

それが。

「見渡す限り……全部、これなの?」

私は荒野を見回した。

足の踏み場もないほど転がっている、無数の黒い石。

作業員たちが「邪魔だ」「ゴミだ」と言って蹴飛ばしていた石ころ。

その全てが、国家予算レベルの宝石だったとしたら?

「……ふっ」

私の口から、抑えきれない笑いが漏れた。

「ふふふ……あははははッ!!」

「お、お嬢様? 壊れましたか?」

ベッキーが心配そうに覗き込んでくるが、私の笑いは止まらない。

「馬鹿ね! 王家の連中は大馬鹿よ! 『ゴミ捨て場』を押し付けたつもりでしょうけど、彼らはとんでもないことをしたわ!」

私はオリハルコンの原石に頬ずりした。

「ここはゴミ捨て場じゃない。地面に『札束』が敷き詰められているようなものよ! 王国の全財産を合わせても、この土地の資産価値には勝てないわ!」

「な、なんてこった……俺たちは、宝の上で寝泊まりしてたのか……」

ガンテツがへなへなと座り込む。

「総員、聞けぇぇぇッ!!」

私はひしゃげたハンマーをマイク代わりに叫んだ。

「作業内容を変更する! 『整地』ではない! これは『採掘』だ! この石を一つ残らず拾い集めろ! 小石一つたりとも見逃すな!」

「「「うおおおおぉぉぉっ!!」」」

作業員たちの目の色が変わった。

さっきまで疲労困憊していたのが嘘のように、血走った目で地面を這いずり回り始める。

「あったぞ! ここにも!」

「俺が見つけたんだ! 俺の手柄だ!」

「喧嘩するな! 山ほどあるんだから!」

私はベッキーに指示を飛ばす。

「ベッキー、至急『選別所』を作りなさい! それと、ガンテツ! このオリハルコンを加工できる炉を設計して! 燃料は先日手に入れたサラマンダーの火炎袋と、そこら辺から吹き出している魔石炭を使うのよ!」

「お、おう! オリハルコンを加工なんて、鍛冶師の夢だぜ! 腕が鳴らぁ!」

ドワーフの職人魂に火がついたようだ。

「お嬢様。しかし、こんな貴重な金属が出たと知れたら、王家が『返せ』と言ってくるのでは?」

ベッキーが冷静な指摘をする。

「言ってくるでしょうね。あの強欲な元婚約者なら絶対に」

私はニヤリと笑い、懐からあの『契約書』の写しを取り出した。

「でも無駄よ。ここには『地下資源の独占採掘権を含む』と明記してあるし、王家の署名入りで『一切関知しない』という念書もある」

私は契約書を指で弾いた。

「もし返還を求めてきたら、国際司法裁判所に提訴して、王家の信用を地に落としてやるわ。……まあ、その前に」

私は拾い集められたオリハルコンの山を見つめる。

「この金属を使って、最強の『防衛設備』と『商品』を作ってしまうのが先ね」

「商品、ですか?」

「ええ。オリハルコン製の武具なんてありきたりな物は作らないわ。もっと付加価値が高く、世界中の富裕層が狂ったように欲しがる……そう、『ブランド品』を作るのよ」

私の頭の中には、すでに新しいビジネスモデルが構築されていた。

オリハルコンの「絶対に錆びない」「魔力を通すと光る」「極めて軽い」という特性を活かした、超高級日用品。

一生モノのフライパン、美肌効果のある魔導バスタブ、そして貴婦人向けの光るジュエリー。

「軍需産業だけじゃない。民需を制する者が経済を制するのよ!」

「……わかりました。お嬢様がそう言うなら、たぶん石ころが金貨に見える魔法でも使うのでしょう」

ベッキーは諦めたように手帳を開いた。

「記録。本日、お嬢様が『石ころ』を『国宝』に変える錬金術(物理)を発動。……王国の財務大臣が知ったら、泡を吹いて倒れるでしょう」

太陽が沈み、荒野が夕闇に包まれる。

しかし、私たちの現場は、オリハルコンの原石が放つ幻想的な青い光に包まれていた。

それはまるで、地上に降りた星空のようだった。

「綺麗……」

誰かが呟く。

「ええ、綺麗ね」

私は頷いた。

「金(カネ)の光だと思うと、一層輝いて見えるわ」

こうして、辺境開拓都市『ミルク・シティ』の礎となる、莫大な資金源が確保されたのである。

だが、光あるところには影が落ちる。

この噂は、風の便りに乗って、すぐに王都の「あの二人」の耳にも届くことになるだろう。

――次回、王子とマリア、嫉妬に狂う。
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