悪役令嬢は婚約破棄がお好き。

ちゃっぴー

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「お嬢様。王都から荷物が届きました」

オリハルコン鉱脈の発見から一週間。

急速に「街」としての体を成しつつある拠点の仮設執務室で、ベッキーが眉をひそめて小包を持ってきた。

差出人の名前はない。

だが、封蝋に押された紋章は、見紛うことなき王家の……それも、王太子の私的な印章だった。

「あら? アレクサンダー殿下から? まだ私に追加請求されるおつもりかしら」

私は書類仕事(主にオリハルコンの先行予約販売契約書)の手を止め、包みを受け取った。

「気を付けてください。あのバカ……いえ、殿下がまともな贈り物をするとは思えません。中から毒蛇が飛び出してくるかもしれませんよ」

「毒蛇なら蒲焼きにして食堂のメニューに加えましょう。さあ、開封の儀よ」

私はペーパーナイフで丁寧に封を切る。

中に入っていたのは、一通の手紙と、黒いベルベットの小箱だった。

まずは手紙を開く。

『愚かなるミルクへ。

辺境での暮らしはどうだ? 泥水をすすり、野垂れ死にする日を震えて待っていることだろう。
慈悲深いマリアが「せめて最期くらいは綺麗なものを身に着けさせてあげたい」と涙ながらに言うので、この宝石を恵んでやる。
これを着けて、自分の醜さと罪深さを呪いながら果てるがいい。

――次期国王 アレクサンダー』

「……文章の端々から、性格の悪さが滲み出ていますね」

ベッキーが軽蔑の眼差しで手紙を見る。

「本当ね。『野垂れ死に』なんて言葉、王族が使うべきではないわ。品位(ブランドイメージ)に関わるもの」

私は鼻で笑い、手紙をくしゃっと丸めてゴミ箱へ投げた(後で焚き付けにする)。

「さて、肝心なのはこっちよ」

私は黒い小箱を開けた。

そこに入っていたのは、大粒の赤い宝石があしらわれた、豪奢なネックレスだった。

薄暗い部屋の中でも、その宝石はドクンドクンと脈打つように怪しげな光を放っている。

「……うわぁ」

ベッキーが一歩下がった。

「お嬢様、これはいけません。鑑定スキル持ちの私が断言します。真っ黒です。呪いが濃縮還元されています」

「ええ、私にも見えるわ」

私は片眼鏡(モノクル)を装着し、宝石を覗き込んだ。

レンズ越しに見えるのは、宝石に渦巻く禍々しい紫色のオーラ。

耳を澄ませば、怨嗟の声のようなノイズまで聞こえてきそうだ。

「『鮮血のルビー』……いえ、別名『持ち主殺しの首飾り』ね。身に着けた者の生気を吸い取り、一週間でミイラにしてしまうという、特級呪物だわ」

「ひぃっ! 捨てましょう! 今すぐ溶岩に投げ込みましょう!」

ベッキーが慌てふためく。

マリアの仕業だろうか。「綺麗なものを」と言いつつ、私を殺す気満々だ。

普通なら、恐怖に震えて泣き叫ぶところだろう。

だが。

「……ふふっ」

私は宝石をピンセットで摘まみ上げ、光にかざした。

「素晴らしいわ……!」

「はい?」

「見て、ベッキー。この呪いの密度! これだけの呪いを定着させるには、少なくとも三百年は怨念を熟成させる必要があるわ。つまり、これは歴史的価値のある『一級アンティーク』よ!」

「お嬢様、美的感覚がバグっています」

「それに、呪いというのは強大な『負の魔力エネルギー』の塊なの。これを正しく制御すれば、強力な魔導兵器のコアや、結界の動力源として転用できる!」

私は電卓を弾き始めた。

「通常のルビーなら金貨五十枚。でも、この『由緒正しい呪い付き』なら、闇オークションの相場は……最低でも金貨五百枚! マニア垂涎の逸品よ!」

「……殺意を『付加価値』として計上するのはやめてください」

「善は急げよ。すぐにカタログを作りなさい」

私はニヤリと笑った。

「キャッチコピーはそうね……『王家伝来! 悲劇の王女が愛した(という設定の)呪いの首飾り。貴方のコレクションに、戦慄の輝きを』。ターゲットは帝国の黒魔術研究家か、あっち系の収集家(コレクター)ね」

   ◇

数日後。

私たちの拠点に、黒いローブを深々と被った怪しげな一団が訪れていた。

噂を聞きつけた、帝国の闇商人たちだ。

「……ほぅ。これが噂の品ですか」

商人の一人が、特殊な結界箱に入れられた『鮮血のルビー』を見て、ゴクリと喉を鳴らした。

「素晴らしい……! この禍々しさ、この怨念の濃度! 最近の量産品の呪いアイテムとは格が違う! まさに芸術品(アート)だ!」

「でしょう? 王国の次期国王からの『直筆の呪詛状(手紙)』もセットでお付けしますわ。来歴(プロビナンス)は完璧です」

私は営業スマイルで畳みかける。

「現在、他の方からも引き合いが来ておりますの。即決していただけるなら、特別に消費税サービスいたしますけれど?」

「か、買います! 金貨六百枚で!」

「毎度あり!」

商談成立。

呪いの首飾りは、厳重に封印され、帝国の彼方へとドナナナされていった。

机の上に積み上げられた、ピカピカの金貨六百枚。

私はそれをうっとりと眺め、一枚一枚丁寧に数えた。

「……アレクサンダー様、マリア様。本当にありがとうございます。貴方たちの悪意のおかげで、当面の運転資金が潤いましたわ」

「お嬢様、皮肉が過ぎます」

ベッキーがお茶を淹れながら呆れている。

「お礼状を書かなくちゃね」

私は最高級の羊皮紙を取り出し、サラサラと筆を走らせた。

『拝啓 アレクサンダー殿下、マリア様。

心のこもった贈り物をありがとうございました。
頂いた宝石は、私の肌には少々派手すぎましたので、より相応しい場所(闇市場)へと旅立たせました。
おかげさまで、金貨六百枚という破格の評価額がつき、我が街の発展のための貴重な財源となりました。
お二人の「愛(という名の殺意)」が、こうして形(現金)になって私を支えてくれていることに、心から感謝いたします。
またのご不用品(寄付)をお待ちしております。

――ミルク・ド・ラテより、愛を込めて(領収書を添えて)』

「……これを送るのですか?」

「ええ。王都に着く頃には、私がまた一回り裕福になっていることを知って、殿下もさぞお喜びになるでしょう(悔しさで血管が切れるかしら)」

私は手紙に封をし、邪悪な笑みを浮かべた。

「さあ、このお金で次は『温泉掘削機』を買うわよ! 呪いを売って健康を買う。これぞ究極の錬金術ね!」

王都の王宮で、私の手紙を読んだ王子とマリアが、泡を吹いて卒倒するニュースが流れてくるのは、それから数日後のことである。
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