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「作戦会議を始めます。議題は『王国軍5,000名の有効活用について』です」
ミルク・シティ、緊急対策本部(という名の大会議室)。
中央の巨大なテーブルには、周辺地図と電卓、そして「求人票」が広げられていた。
集まったのは、私、皇帝シリウス、ドワーフのガンテツ、冒険者ギルドの代表、そして警備隊長だ。
「お嬢(ボス)。有効活用って……向こうは殺す気で来てますぜ? こっちもオリハルコン製の魔導砲で吹き飛ばしちまいましょう」
ガンテツが鼻息荒く提案する。
彼の背後には、開発したばかりの『対城塞用・超振動ドリル(本来はトンネル工事用)』が唸りを上げている。
「却下よ」
私は即答した。
「弾薬費の無駄です。それに、戦場が荒れたら整地コストがかかるし、何より……相手の兵士たちがもったいないわ」
「もったいない?」
「ええ。王国軍の兵士たちは、基礎訓練を受けた貴重な労働力(リソース)よ。彼らをただ肉片に変えるなんて、経営者としてあり得ない損失だわ」
私は地図上の「敵軍」の駒を指で弾いた。
「私の狙いは『全軍買収(M&A)』よ」
「……ぶっ」
シリウスが飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「全軍買収だと? 戦わずして、敵兵5,000人を寝返らせるつもりか?」
「可能ですわ。事前情報によれば、王国軍の補給線はボロボロ。給料は三ヶ月未払い。装備は錆びついているそうです」
私はニヤリと笑った。
「対して、我が軍(ラテ商会)は? 高給・厚遇・三食昼寝付き。……勝負は見えています」
「ククク……恐ろしい奴だ。剣を交える前に、財布で殴り倒す気か」
シリウスは面白そうに顎をさすった。
「いいだろう。俺の近衛師団は後方で待機させておく。貴様の『商談』とやらを見せてもらおうか」
「感謝します、パートナー。……さあ、皆の者! 武器(拡声器)と弾薬(契約書)を準備しなさい! これより『第1回・ミルク・シティ合同企業説明会』を開催するわよ!」
◇
一方、街から数キロ離れた荒野。
土埃を上げて進軍する王国軍の隊列は、遠目に見ても悲惨だった。
兵士たちの鎧は薄汚れ、足取りは重い。
馬は痩せ細り、掲げられた国旗すらもどこか薄汚れている。
「進めぇぇ! 進むのだぁぁ!」
その中央で、豪華な御輿(みこし)に乗ったアレクサンダー王子だけが、空元気な声を張り上げていた。
「この先には黄金の都がある! 憎きミルクから全てを奪い返せば、お前たちに未払い給与を払ってやれるぞ!」
「はぁ……はぁ……」
兵士たちは返事をする気力もない。
彼らの腹の虫が、行進曲の代わりに鳴り響いている。
「もうダメですぅ、アレク様ぁ。砂っぽくて喉がイガイガしますぅ」
王子の隣で、マリアがハンカチで口を押さえて不平を漏らす。
「我慢だマリア。あと少しで温泉に入れる。そうしたら、オリハルコンの浴槽で背中を流させてやるからな」
「本当ですかぁ? あいつを召使いにするんですね? 楽しみぃ!」
二人はまだ気づいていない。
自分たちが向かっているのが「戦場」ではなく、「現実」という名の断崖絶壁であることを。
「殿下! 敵影確認! ミルク・シティの前方に、部隊が展開しています!」
斥候の報告に、王子が身を乗り出した。
「ほう! あいつも少しは抵抗する気か! だが、所詮は急造の傭兵部隊だろう。我が正規軍の敵ではない!」
王子は剣を抜き放ち、高らかに号令した。
「全軍、突撃準備! あの生意気な女を捕らえろ! 抵抗する者は斬り捨てて構わん!」
「お、おおー……(棒読み)」
やる気のない鬨の声と共に、王国軍がジリジリと前進する。
対するミルク・シティ側。
正門前に陣取ったのは、武装した警備隊……ではなく、巨大なスピーカーを積んだトラックと、スーツ姿の事務員たちだった。
そして、その中央には、真っ赤なドレスを纏い、片手にマイクを持ったミルク・ド・ラテが仁王立ちしていた。
『あー、あー。マイクテスト。……本日は晴天なり』
戦場に、不釣り合いなほどクリアな美声が響き渡る。
「な、なんだ!? 魔術か!?」
王国兵たちが動揺して足を止める。
『ようこそお越しくださいました、王国軍の皆様! 長旅、お疲れ様です!』
ミルクの声は、まるで歓迎パーティの司会者のように明るかった。
『お腹、空いていませんか? 喉、渇いていませんか? お財布の中身、寒くありませんか?』
ズキン。
兵士たちの心臓(と胃袋)に、言葉が突き刺さる。
「き、貴様ぁぁ! 何をふざけたことを!」
アレクサンダー王子が前線に出て叫ぶ。
「黙れミルク! 貴様は包囲されている! 大人しく投降し、財産を全て差し出せ!」
『あら、殿下。相変わらず声だけは大きいですわね。……でも、私の声はもっと大きいですわよ』
ミルクは拡声器のボリュームを最大にした。
キィィィン!というハウリング音の後、彼女は宣言した。
『さあ、ここからはビジネスの時間です! そこの兵士さんたち、よく聞きなさい!』
彼女は懐から、巨大なフリップ(パネル)を取り出した。
そこには、驚くべき数字が書かれていた。
**【緊急求人募集:ミルク・シティ警備隊&開拓作業員】**
* **月給:** 王国軍の3倍(金貨払い・遅配なし)
* **ボーナス:** 年2回(業績連動)
* **福利厚生:** 温泉入り放題、社員食堂(食べ放題)無料、社宅完備
* **採用条件:** 今すぐ武器を捨てて「こちらの列」に並ぶこと。履歴書不要!
『今なら入社祝い金として、その場で「焼肉弁当」と「冷えたビール」を支給します! 先着5,000名様限定!』
その瞬間。
ゴクリ。
5,000人の喉が鳴る音が、戦場に響いた。
「さ、三倍……?」
「温泉入り放題……?」
「や、焼肉弁当……?」
兵士たちの目が、王子ではなく、ミルクの後ろ――湯気を立てて積まれている弁当の山に釘付けになる。
そこからは、炭火で焼いた肉の、暴力的なまでに食欲をそそる匂いが漂ってきていた。
「う、嘘だ! 騙されるな!」
王子が必死に叫ぶ。
「あれは罠だ! 毒が入っているぞ! 私についてくれば名誉が――」
『名誉で腹は膨れますかー!?』
ミルクが一喝した。
『王家は貴方たちに何をくれましたか? 錆びた剣と、空腹と、未払いの給料明細だけでしょう?』
『私は違います。私は対価を払います。働いた分だけ、命をかけた分だけ、必ず報います!』
ミルクは両手を広げた。
『さあ、選びなさい! 飢えて死ぬ「名誉」か、腹一杯食べて温かい布団で眠る「未来」か! ゲートは開いています!』
シーン……。
一瞬の静寂。
カラン……。
誰かが、剣を取り落とした。
「……俺、もう嫌だ」
一人の若い兵士が泣き出した。
「実家の母ちゃんに、半年も仕送りできてねぇんだ……。三倍なら……三倍なら、母ちゃんに薬を買ってやれる!」
彼は兜を脱ぎ捨て、全速力で走り出した。
「お、おい待て! 脱走罪だぞ!」
「知るかぁぁ! 俺は焼肉が食いたいんだぁぁ!」
その一人が引き金となった。
「俺もだ!」
「私も行きます!」
「殿下、すんません! あっちの方がホワイト企業です!」
ドドドドドッ!!
それはまるで、決壊したダムのようだった。
5,000人の兵士たちが、我先にと武器を捨て、ミルク・シティのゲートへと殺到する。
「うわぁぁ! 並べ! 順番だ!」
「採用担当の方はこちらですー!」
「はい、君は第3小隊ね! まずはお弁当コーナーへどうぞ!」
ミルク側の事務員たちが、手慣れた様子で彼らを捌いていく。
「ま、待て……! 戻れ! お前たち、王家への忠誠心はないのかぁぁぁ!」
アレクサンダー王子が絶叫するが、誰も振り返らない。
彼の周りから、人が消えていく。
数分後。
荒野に残されたのは、呆然と立ち尽くす王子とマリア、そして数名の側近(逃げ遅れた老人たち)だけだった。
風が吹き抜け、空になった弁当箱が転がっていく。
『はい、採用枠が埋まりましたー! 本日の説明会は終了です!』
ミルクの明るい声が、無慈悲に響き渡った。
「……う、嘘だろ……」
王子はその場に膝から崩れ落ちた。
戦う前に、彼の軍隊は「好条件」によって消滅したのだ。
これが、悪役令嬢ミルク・ド・ラテの戦い方。
血を一滴も流さず、金と胃袋で制圧する、究極の経済戦争だった。
ミルク・シティ、緊急対策本部(という名の大会議室)。
中央の巨大なテーブルには、周辺地図と電卓、そして「求人票」が広げられていた。
集まったのは、私、皇帝シリウス、ドワーフのガンテツ、冒険者ギルドの代表、そして警備隊長だ。
「お嬢(ボス)。有効活用って……向こうは殺す気で来てますぜ? こっちもオリハルコン製の魔導砲で吹き飛ばしちまいましょう」
ガンテツが鼻息荒く提案する。
彼の背後には、開発したばかりの『対城塞用・超振動ドリル(本来はトンネル工事用)』が唸りを上げている。
「却下よ」
私は即答した。
「弾薬費の無駄です。それに、戦場が荒れたら整地コストがかかるし、何より……相手の兵士たちがもったいないわ」
「もったいない?」
「ええ。王国軍の兵士たちは、基礎訓練を受けた貴重な労働力(リソース)よ。彼らをただ肉片に変えるなんて、経営者としてあり得ない損失だわ」
私は地図上の「敵軍」の駒を指で弾いた。
「私の狙いは『全軍買収(M&A)』よ」
「……ぶっ」
シリウスが飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「全軍買収だと? 戦わずして、敵兵5,000人を寝返らせるつもりか?」
「可能ですわ。事前情報によれば、王国軍の補給線はボロボロ。給料は三ヶ月未払い。装備は錆びついているそうです」
私はニヤリと笑った。
「対して、我が軍(ラテ商会)は? 高給・厚遇・三食昼寝付き。……勝負は見えています」
「ククク……恐ろしい奴だ。剣を交える前に、財布で殴り倒す気か」
シリウスは面白そうに顎をさすった。
「いいだろう。俺の近衛師団は後方で待機させておく。貴様の『商談』とやらを見せてもらおうか」
「感謝します、パートナー。……さあ、皆の者! 武器(拡声器)と弾薬(契約書)を準備しなさい! これより『第1回・ミルク・シティ合同企業説明会』を開催するわよ!」
◇
一方、街から数キロ離れた荒野。
土埃を上げて進軍する王国軍の隊列は、遠目に見ても悲惨だった。
兵士たちの鎧は薄汚れ、足取りは重い。
馬は痩せ細り、掲げられた国旗すらもどこか薄汚れている。
「進めぇぇ! 進むのだぁぁ!」
その中央で、豪華な御輿(みこし)に乗ったアレクサンダー王子だけが、空元気な声を張り上げていた。
「この先には黄金の都がある! 憎きミルクから全てを奪い返せば、お前たちに未払い給与を払ってやれるぞ!」
「はぁ……はぁ……」
兵士たちは返事をする気力もない。
彼らの腹の虫が、行進曲の代わりに鳴り響いている。
「もうダメですぅ、アレク様ぁ。砂っぽくて喉がイガイガしますぅ」
王子の隣で、マリアがハンカチで口を押さえて不平を漏らす。
「我慢だマリア。あと少しで温泉に入れる。そうしたら、オリハルコンの浴槽で背中を流させてやるからな」
「本当ですかぁ? あいつを召使いにするんですね? 楽しみぃ!」
二人はまだ気づいていない。
自分たちが向かっているのが「戦場」ではなく、「現実」という名の断崖絶壁であることを。
「殿下! 敵影確認! ミルク・シティの前方に、部隊が展開しています!」
斥候の報告に、王子が身を乗り出した。
「ほう! あいつも少しは抵抗する気か! だが、所詮は急造の傭兵部隊だろう。我が正規軍の敵ではない!」
王子は剣を抜き放ち、高らかに号令した。
「全軍、突撃準備! あの生意気な女を捕らえろ! 抵抗する者は斬り捨てて構わん!」
「お、おおー……(棒読み)」
やる気のない鬨の声と共に、王国軍がジリジリと前進する。
対するミルク・シティ側。
正門前に陣取ったのは、武装した警備隊……ではなく、巨大なスピーカーを積んだトラックと、スーツ姿の事務員たちだった。
そして、その中央には、真っ赤なドレスを纏い、片手にマイクを持ったミルク・ド・ラテが仁王立ちしていた。
『あー、あー。マイクテスト。……本日は晴天なり』
戦場に、不釣り合いなほどクリアな美声が響き渡る。
「な、なんだ!? 魔術か!?」
王国兵たちが動揺して足を止める。
『ようこそお越しくださいました、王国軍の皆様! 長旅、お疲れ様です!』
ミルクの声は、まるで歓迎パーティの司会者のように明るかった。
『お腹、空いていませんか? 喉、渇いていませんか? お財布の中身、寒くありませんか?』
ズキン。
兵士たちの心臓(と胃袋)に、言葉が突き刺さる。
「き、貴様ぁぁ! 何をふざけたことを!」
アレクサンダー王子が前線に出て叫ぶ。
「黙れミルク! 貴様は包囲されている! 大人しく投降し、財産を全て差し出せ!」
『あら、殿下。相変わらず声だけは大きいですわね。……でも、私の声はもっと大きいですわよ』
ミルクは拡声器のボリュームを最大にした。
キィィィン!というハウリング音の後、彼女は宣言した。
『さあ、ここからはビジネスの時間です! そこの兵士さんたち、よく聞きなさい!』
彼女は懐から、巨大なフリップ(パネル)を取り出した。
そこには、驚くべき数字が書かれていた。
**【緊急求人募集:ミルク・シティ警備隊&開拓作業員】**
* **月給:** 王国軍の3倍(金貨払い・遅配なし)
* **ボーナス:** 年2回(業績連動)
* **福利厚生:** 温泉入り放題、社員食堂(食べ放題)無料、社宅完備
* **採用条件:** 今すぐ武器を捨てて「こちらの列」に並ぶこと。履歴書不要!
『今なら入社祝い金として、その場で「焼肉弁当」と「冷えたビール」を支給します! 先着5,000名様限定!』
その瞬間。
ゴクリ。
5,000人の喉が鳴る音が、戦場に響いた。
「さ、三倍……?」
「温泉入り放題……?」
「や、焼肉弁当……?」
兵士たちの目が、王子ではなく、ミルクの後ろ――湯気を立てて積まれている弁当の山に釘付けになる。
そこからは、炭火で焼いた肉の、暴力的なまでに食欲をそそる匂いが漂ってきていた。
「う、嘘だ! 騙されるな!」
王子が必死に叫ぶ。
「あれは罠だ! 毒が入っているぞ! 私についてくれば名誉が――」
『名誉で腹は膨れますかー!?』
ミルクが一喝した。
『王家は貴方たちに何をくれましたか? 錆びた剣と、空腹と、未払いの給料明細だけでしょう?』
『私は違います。私は対価を払います。働いた分だけ、命をかけた分だけ、必ず報います!』
ミルクは両手を広げた。
『さあ、選びなさい! 飢えて死ぬ「名誉」か、腹一杯食べて温かい布団で眠る「未来」か! ゲートは開いています!』
シーン……。
一瞬の静寂。
カラン……。
誰かが、剣を取り落とした。
「……俺、もう嫌だ」
一人の若い兵士が泣き出した。
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彼は兜を脱ぎ捨て、全速力で走り出した。
「お、おい待て! 脱走罪だぞ!」
「知るかぁぁ! 俺は焼肉が食いたいんだぁぁ!」
その一人が引き金となった。
「俺もだ!」
「私も行きます!」
「殿下、すんません! あっちの方がホワイト企業です!」
ドドドドドッ!!
それはまるで、決壊したダムのようだった。
5,000人の兵士たちが、我先にと武器を捨て、ミルク・シティのゲートへと殺到する。
「うわぁぁ! 並べ! 順番だ!」
「採用担当の方はこちらですー!」
「はい、君は第3小隊ね! まずはお弁当コーナーへどうぞ!」
ミルク側の事務員たちが、手慣れた様子で彼らを捌いていく。
「ま、待て……! 戻れ! お前たち、王家への忠誠心はないのかぁぁぁ!」
アレクサンダー王子が絶叫するが、誰も振り返らない。
彼の周りから、人が消えていく。
数分後。
荒野に残されたのは、呆然と立ち尽くす王子とマリア、そして数名の側近(逃げ遅れた老人たち)だけだった。
風が吹き抜け、空になった弁当箱が転がっていく。
『はい、採用枠が埋まりましたー! 本日の説明会は終了です!』
ミルクの明るい声が、無慈悲に響き渡った。
「……う、嘘だろ……」
王子はその場に膝から崩れ落ちた。
戦う前に、彼の軍隊は「好条件」によって消滅したのだ。
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