悪役令嬢は婚約破棄がお好き。

ちゃっぴー

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「これより、旧・王国の『経営再建会議』を始めます」

王都、旧・王城の玉座の間。

かつて国王が座っていた豪華な玉座は撤去され、代わりに機能的な事務机とホワイトボードが置かれている。
そこに座るのは、私、ミルク・ド・ラテ。

目の前に整列しているのは、青ざめた顔の旧・王国の大臣や貴族たちだ。

「まず、国名を変更します。本日より、この地は『ラテ・ホールディングス・王都支部』となります」

「「「し、支部ぅぅ……!?」」」

貴族たちが崩れ落ちる。

「はい、そこ。泣かない。時間はコストです」

私は指示棒でホワイトボードを叩いた。

「次に、リストラ(事業再構築)を行います。ここにいる全員、一度『解雇』とします」

「なっ、なんだと!?」
「我々は選ばれし貴族だぞ!」

「選ばれし無能でしょう?」

私は冷たく言い放ち、山積みの書類をドンと置いた.

「貴方たちの過去十年の業績を精査しました。裏金、横領、職権乱用……。真っ黒ですね。本来なら投獄レベルですが、私は慈悲深いので『再雇用のチャンス』を与えます」

私はニヤリと笑った。

「明日から実施する『一般常識・計算・実務能力テスト』に合格した者だけ、平社員として再雇用します。不合格の者は……」

私は窓の外、遠くに見える鉱山(アレクサンダーたちがいる場所)を指差した.

「あちらの『体力作りコース』へご案内します。健康にいいですよ?」

「ひぃっ! べ、勉強します! 死ぬ気で勉強します!」

貴族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、図書館へと走っていった。
これまで遊び呆けていた彼らが、必死にドリルを解く姿が目に浮かぶようだ。

「……容赦ないな、新オーナー」

後ろで見ていたシリウスが、肩を震わせて笑っている。

「当然です。赤字部門(王国)を黒字化するには、膿を出し切らなくては」

私はコーヒーを一口啜った。

「さて、次は前・経営責任者の処遇ね」

別室から連れてこられたのは、すっかり老け込んだ元国王だ。
彼は王冠の代わりにニット帽を被り、手には盆栽を持っている。

「よぉ、ミルクちゃん……いや、社長。元気かね?」

「ええ、おかげさまで。隠居生活はいかがですか?」

「悪くないよ。年金(月額金貨十枚)のおかげで、孫……いや、アレクの心配もしなくて済むし、ガーデニングに没頭できる」

元国王は憑き物が落ちたような顔をしている。
重すぎる王冠と責任から解放され、むしろ以前より幸せそうだ。

「それは何よりです。……ですが、アレクサンダー殿下のことですが」

私が切り出すと、元国王は寂しげに笑って首を振った.

「いいんだ。あやつは甘やかされすぎた。泥にまみれて働くことで、初めて『パンの重み』を知るだろう。……それが親としてしてやれる、最後の教育だ」

「……承知しました」

私は頷いた。
意外と、この元国王はまともだったのかもしれない。周りの取り巻きと、息子がダメすぎただけで。

「では、旧王城の一部を『元・国王の隠居所兼・盆栽博物館』として開放します。入場料を取りましょう。売上の二割をバックします」

「商魂たくましいねぇ! 乗った!」

元国王と固い握手を交わす。
これで、旧体制の掌握は完了した。

   ◇

数日後。
私は視察のため、アレクサンダーとマリアがいる「更生施設(という名の鉱山)」を訪れていた。

「よいしょ……よいしょ……」

地下深くの坑道。
アレクサンダーは、筋肉隆々の男たちに混じって、黙々とトロッコを押していた。
以前のような悲壮感はない。
その顔は真っ黒だが、目は死んでいなかった。

「おい、新人! 休憩だ! パン食うぞ!」

「おう! 待ってました!」

アレクサンダーは作業着の袖で汗を拭い、仲間たちと車座になって黒パンを齧り始めた。

「くぅ~っ! 働いた後の飯はうめぇ!」
「だろ? 王城のフルコースより美味いか?」
「ああ! 味はしねぇが、生きている実感がする!」

彼は大口を開けて笑っていた。
以前の、見栄っ張りで中身のない王子ではない。
ただの「労働者A」としての充実感がそこにあった。

一方、マリアは。

「こらー! ニワトリ! 逃げるなー!」

養鶏場で、泥だらけになってニワトリを追いかけ回していた。

「待てコラ! 卵産め! 私のノルマがかかってんのよ!」

髪を振り乱し、野太い声で叫ぶ姿に、「儚げな聖女」の面影は微塵もない。
むしろ、たくましい「農場のオカン」になりつつある。

「……ふっ」

物陰から見ていた私は、小さく笑った。

「どうやら、心配する必要はなさそうね」

「ああ。彼らは彼らなりに、新しい『適性』を見つけたようだ」

隣に立つシリウスが同意する。

「人間、底まで落ちれば這い上がるしかない。……彼らは今、人生で初めて『自分の足』で立っているのかもしれん」

「ええ。借金を完済する頃(推定五十年後)には、立派な現場監督になっているでしょうね」

私は踵を返した。
もう、彼らに未練も恨みもない。
彼らは私の「過去」の一部であり、今は私の会社の「いち従業員」に過ぎないのだから。

「行きましょう、シリウス。私には、まだやらなければならない『最後の大仕事』が残っています」

「大仕事? まだ何か買収するつもりか?」

シリウスが怪訝な顔をする。

「いいえ。……買収される方の準備ですわ」

「は?」

私は意味深に微笑み、彼の手を引いて歩き出した。

地上に出ると、夕日が沈もうとしていた。
黄金色に輝く空は、まるで私の未来を祝福しているようだ。

「シリウス」

「ん」

「貴方の帝国と、私のラテ・ホールディングス。……そろそろ『資本提携』の具体的な話をしませんか?」

「……資本提携?」

「ええ。人生という名の長期契約についてです」

シリウスが足を止めた。
彼は私の意図を察し、その蒼い瞳を大きく見開いた後、ゆっくりと、蕩けるような笑みを浮かべた。

「……ククッ。ようやくその気になったか、強欲令嬢」

「強欲? 褒め言葉ですわ」

風が吹き抜け、二人の影を長く伸ばす。
ビジネスパートナーから、生涯のパートナーへ。
契約書の準備は整った。
あとは、彼からの「最高額のオファー」を待つだけだ。
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