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「さあ、吐け! 貴様が王室の金を横領したことは明白なのだ!」
王宮の地下にある取調室。
薄暗いランプの光の下、手錠をかけられた私は、粗末な木の椅子に座らされていた。
私の目の前にいるのは、勝ち誇った顔のジェラルド殿下と、悪徳商人のガレス叔父。そして、買収されているのが見え見えの捜査官だ。
「……吐けと言われましても。昨晩の夕食は野菜スープだけでしたので、胃の中は空っぽですが」
「減らず口を叩くな! 罪を認めろと言っているんだ!」
ジェラルド殿下が机をバンと叩く。
「認めれば、辺境への追放だけで済ませてやろう。だが、拒否するなら死罪もあり得るぞ!」
典型的な脅し文句だ。
しかし、私はあくびを噛み殺しながら、冷ややかな視線を返した。
「お言葉ですが殿下。私を死罪にしたら、国の財政が完全に破綻しますよ? 今の王室予算の複雑な資金繰りを理解しているのは、世界で私一人ですから」
「ふん! 強がりを言うな。証拠は挙がっているのだ!」
ガレス叔父がニヤニヤしながら、一枚の羊皮紙を突きつけてきた。
それは、彼らが捏造したと思われる『偽の帳簿』のコピーだった。
「見ろココア。昨年の十月五日、『予備費』名目で金貨五百枚が引き出されている。そして同日、お前の個人口座に同額が入金されている記録があるぞ!」
「これが横領の動かぬ証拠だ!」
捜査官が畳み掛ける。
なるほど。私が公金を自分の懐に入れたように見せかける書類を作ったわけか。
私はその羊皮紙を覗き込み、わずか三秒で鼻で笑った。
「……あの、これを作ったのはどなたですか? 詰めが甘すぎますわ」
「な、なんだと?」
「まず日付。十月五日は日曜日です。王宮の財務局は定休日で、金庫は開きません。物理的に引き出し不可能です」
「うっ……!?」
ガレス叔父が動揺する。
「次に、私の個人口座への入金記録。これ、筆跡が違いますね。私は数字の『5』を書くとき、もっと上の棒を長く書く癖があります。これは私の筆跡を真似ようとして失敗した素人の字です」
「そ、そんな細かいこと……!」
「そして極め付けはここ!」
私は手錠をかけられた指で、計算式の一箇所を指差した。
「消費税の計算が間違っています。昨年の秋、税率は五%から八%に改正されましたよね? この書類、旧税率で計算されていますよ。……偽造工作をするなら、最新の税法くらい勉強してからになさい」
「なっ……! ば、馬鹿な!」
ガレス叔父が慌てて計算機を取り出し、パチパチと叩く。
「……あ、合わない。計算が合わない……」
「プッ。素人がプロの帳簿を偽造しようとするから、そんなボロが出るんです」
私は呆れて肩をすくめた。
「やり直しですね。赤点です。出直してらっしゃい」
「き、貴様ぁぁぁ!!」
ジェラルド殿下が顔を真っ赤にして叫んだ。
「屁理屈をこねるな! 細かいミスなどどうでもいい! とにかく金が消えているのは事実だ! 貴様が盗んでいないと言うなら、その金はどこへ消えたと言うんだ!」
「どこへ? ……ふふっ」
私は不敵に笑い、目を細めた。
「知りたいですか? 本当に?」
「あ、ああ! 言ってみろ!」
「わかりました。では、私の頭の中にある『真実の帳簿』から、一部を読み上げさせていただきます」
私は姿勢を正し、天井の一点を見つめて、まるでコンピューターのようにデータを暗唱し始めた。
「十月五日。金貨五百枚の出金。……使途は、『ジェラルド殿下がカジノで負けた際の補填金、およびバニーガールへのチップ代』」
「ぶっ!!」
ジェラルド殿下が噴き出す。
「ちょ、待て! そ、それは……」
「同月十日。金貨三百枚。使途、『マシュマロ様が誤って割った王家の壺の隠蔽工作費』」
「や、やめろ!」
「同月二十日。金貨千枚。使途、『殿下が自分へのご褒美に買った黄金の等身大銅像(ただし似ていないので即倉庫行き)』の購入費」
「わぁぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!! 大声で言うなァァァ!!」
ジェラルド殿下が耳を塞いで絶叫する。
捜査官が目を丸くして殿下を見ている。
「で、殿下? これは一体……?」
「う、嘘だ! デタラメだ! そんな記録、どこにもないはずだ!」
「いいえ、ありますよ」
私はニッコリと微笑んだ。
「私が毎日つけていた『裏帳簿』に、日付、場所、金額、そして殿下が泣きついてきた時の言い訳まで、一言一句漏らさず記録してあります。もちろん、領収書の原本も添えてね」
「う、裏帳簿だと……!?」
ガレス叔父が青ざめる。
「まさか、そんなものが実在するのか……?」
「商売人の基本です。金銭の出入りを記録しないなんて、パンツを履かずに外を歩くようなもの。……その帳簿は今頃、私の最も信頼するパートナーの手によって、安全な場所で保護されているはずです」
そう。
私が逮捕される直前、ルーカスに伝えたあの場所。
***
同時刻。ココアの部屋。
ルーカスは、ココアの寝室にある巨大な金庫を開けていた。
「……これか」
中には、壁のように積み上げられた大学ノートの山があった。
背表紙には『アホ王子の浪費記録 Vol.1』~『Vol.58』と几帳面な文字でナンバリングされている。
「五十八冊……。わずか数年でこれだけの浪費を記録するとは、ココアの執念も凄いが、殿下の浪費癖も想像を絶するな」
ルーカスは一冊を手に取り、パラパラとめくった。
そこには、レシートや誓約書が几帳面に糊付けされ、ココアの容赦ないコメントが添えられている。
『×月×日 殿下、また騙される。「開運の壺」など買う金があったらドリルを買え』
『△月△日 マシュマロ嬢のドレス代。布面積と金額が反比例している。理解不能』
ルーカスは思わず吹き出した。
「ははっ……。これはもはや、帳簿という名の『観察日記』だな」
彼は愛おしそうにノートを閉じ、背後に控えていたヴァレンタイン家の私兵団に命じた。
「総員、この『国家機密』を運び出せ。一冊たりとも紛失するなよ。……これがあれば、あの国を一つ買い取れるほどの破壊力がある」
「はっ!」
屈強な男たちが、次々と「アホ王子の記録」を運び出していく。
「待っていろ、ココア。すぐに迎えに行く」
ルーカスは最強の武器(証拠)を手に、不敵に笑った。
***
再び、取調室。
「う、嘘だ……ハッタリだ……」
ジェラルド殿下は震えながら、自分に言い聞かせるように呟いていた。
「そんな帳簿があるわけがない。あいつはハッタリをかましているだけだ!」
「そうですよ殿下! 証拠がなければただの妄言です!」
ガレス叔父も必死に同調する。
「おい捜査官! さっさと調書を作れ! 『私がやりました』と書かせて指印を押させるんだ!」
「は、はい!」
捜査官が私の手を取り、無理やりインクをつけようとする。
その時。
ガチャン、と重い鉄の扉が開く音がした。
「……面会だ」
看守が不機嫌そうに告げた。
「なっ、取り調べ中だぞ! 誰の許可で!」
「私の許可だ」
低い、地響きのような声が響いた。
入ってきたのは、国王陛下……ではなく、ヴァレンタイン公爵家の紋章が入ったスーツを着た、エリート弁護士団の集団。
そして、その中央にはルーカスが立っていた。
「やあ、ココア。待たせたね」
「オーナー! 思ったより早かったですわね」
「優秀な運び屋(私兵)がいたものでね」
ルーカスは私の手錠を見ると、一瞬で目を細め、部屋の温度が五度下がるほどの冷気を放った。
「……私の大切な『共同経営者』に、随分な真似をしてくれたものだ。ジェラルド殿下」
「ル、ルーカス……! 部外者は出て行け!」
「部外者ではない。私は彼女の身元引受人であり、債権者だ」
ルーカスは合図を送ると、弁護士たちがドサドサドサァァッ!! と机の上に「何か」を積み上げた。
それは、山のような大学ノートだった。
『アホ王子の浪費記録 Vol.1』~『Vol.58』。
そのタイトルを見た瞬間、ジェラルド殿下の目が飛び出た。
「そ、それは……まさか……」
「本物の帳簿だ。殿下の筆跡によるサイン入り領収書も完備されている」
ルーカスは一番上のノートを手に取り、パラパラとめくって見せた。
「さて、殿下。ガレス殿。これから『公開監査』を始めようか。この記録と、貴殿らが作った偽造帳簿。……どちらが真実か、法廷でじっくりと突き合わせよう」
「ひぃっ……!」
ガレス叔父が腰を抜かす。
ジェラルド殿下は白目を剥いて泡を吹いた。
「あ、あばばばば……」
勝負あり。
私は捜査官の手を振り解き、悠然と立ち上がった。
「言ったでしょう? 計算間違いをしているのは、そちらだと」
私はルーカスの隣に並び、勝ち誇った笑顔で宣言した。
「さあ、ここからは私のターンです。不当逮捕への慰謝料、弁護士費用、そして精神的苦痛による逸失利益……きっちりと請求させていただきますから、覚悟しておいてくださいね?」
「……あ、悪夢だ……」
殿下の呟きを無視して、私はルーカスと共に取調室を後にした。
だが、これで終わりではない。
私はまだ「釈放」されたわけではないのだ。
「手続き上、釈放には明日の朝までかかるそうだ」
廊下でルーカスが申し訳なさそうに言う。
「今夜一晩だけ、独房に入ってもらうことになる。……すまない、僕の力が及ばず」
「いえ、構いませんよオーナー。むしろ好都合です」
「好都合?」
「ええ。刑務所の中って、暇を持て余した囚人がたくさんいますよね?」
私の目がキラリと光った。
「彼らもまた、潜在的な『顧客』であり『労働力』です。一晩あれば、この刑務所の経済圏を掌握できますわ」
「……君は本当に、どこにいても逞しいな」
ルーカスは呆れつつも、愛おしそうに私の頭を撫でた。
「明日の朝、一番高い馬車で迎えに来る。それまで、囚人たちを搾取しすぎないようにな」
「善処します」
私は看守に連れられ、意気揚々と独房へと向かった。
待ってなさい、囚人たち。
退屈な刑務所ライフに、刺激的な『賭け(ギャンブル)』と『商売』を持ち込んであげるわ!
王宮の地下にある取調室。
薄暗いランプの光の下、手錠をかけられた私は、粗末な木の椅子に座らされていた。
私の目の前にいるのは、勝ち誇った顔のジェラルド殿下と、悪徳商人のガレス叔父。そして、買収されているのが見え見えの捜査官だ。
「……吐けと言われましても。昨晩の夕食は野菜スープだけでしたので、胃の中は空っぽですが」
「減らず口を叩くな! 罪を認めろと言っているんだ!」
ジェラルド殿下が机をバンと叩く。
「認めれば、辺境への追放だけで済ませてやろう。だが、拒否するなら死罪もあり得るぞ!」
典型的な脅し文句だ。
しかし、私はあくびを噛み殺しながら、冷ややかな視線を返した。
「お言葉ですが殿下。私を死罪にしたら、国の財政が完全に破綻しますよ? 今の王室予算の複雑な資金繰りを理解しているのは、世界で私一人ですから」
「ふん! 強がりを言うな。証拠は挙がっているのだ!」
ガレス叔父がニヤニヤしながら、一枚の羊皮紙を突きつけてきた。
それは、彼らが捏造したと思われる『偽の帳簿』のコピーだった。
「見ろココア。昨年の十月五日、『予備費』名目で金貨五百枚が引き出されている。そして同日、お前の個人口座に同額が入金されている記録があるぞ!」
「これが横領の動かぬ証拠だ!」
捜査官が畳み掛ける。
なるほど。私が公金を自分の懐に入れたように見せかける書類を作ったわけか。
私はその羊皮紙を覗き込み、わずか三秒で鼻で笑った。
「……あの、これを作ったのはどなたですか? 詰めが甘すぎますわ」
「な、なんだと?」
「まず日付。十月五日は日曜日です。王宮の財務局は定休日で、金庫は開きません。物理的に引き出し不可能です」
「うっ……!?」
ガレス叔父が動揺する。
「次に、私の個人口座への入金記録。これ、筆跡が違いますね。私は数字の『5』を書くとき、もっと上の棒を長く書く癖があります。これは私の筆跡を真似ようとして失敗した素人の字です」
「そ、そんな細かいこと……!」
「そして極め付けはここ!」
私は手錠をかけられた指で、計算式の一箇所を指差した。
「消費税の計算が間違っています。昨年の秋、税率は五%から八%に改正されましたよね? この書類、旧税率で計算されていますよ。……偽造工作をするなら、最新の税法くらい勉強してからになさい」
「なっ……! ば、馬鹿な!」
ガレス叔父が慌てて計算機を取り出し、パチパチと叩く。
「……あ、合わない。計算が合わない……」
「プッ。素人がプロの帳簿を偽造しようとするから、そんなボロが出るんです」
私は呆れて肩をすくめた。
「やり直しですね。赤点です。出直してらっしゃい」
「き、貴様ぁぁぁ!!」
ジェラルド殿下が顔を真っ赤にして叫んだ。
「屁理屈をこねるな! 細かいミスなどどうでもいい! とにかく金が消えているのは事実だ! 貴様が盗んでいないと言うなら、その金はどこへ消えたと言うんだ!」
「どこへ? ……ふふっ」
私は不敵に笑い、目を細めた。
「知りたいですか? 本当に?」
「あ、ああ! 言ってみろ!」
「わかりました。では、私の頭の中にある『真実の帳簿』から、一部を読み上げさせていただきます」
私は姿勢を正し、天井の一点を見つめて、まるでコンピューターのようにデータを暗唱し始めた。
「十月五日。金貨五百枚の出金。……使途は、『ジェラルド殿下がカジノで負けた際の補填金、およびバニーガールへのチップ代』」
「ぶっ!!」
ジェラルド殿下が噴き出す。
「ちょ、待て! そ、それは……」
「同月十日。金貨三百枚。使途、『マシュマロ様が誤って割った王家の壺の隠蔽工作費』」
「や、やめろ!」
「同月二十日。金貨千枚。使途、『殿下が自分へのご褒美に買った黄金の等身大銅像(ただし似ていないので即倉庫行き)』の購入費」
「わぁぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!! 大声で言うなァァァ!!」
ジェラルド殿下が耳を塞いで絶叫する。
捜査官が目を丸くして殿下を見ている。
「で、殿下? これは一体……?」
「う、嘘だ! デタラメだ! そんな記録、どこにもないはずだ!」
「いいえ、ありますよ」
私はニッコリと微笑んだ。
「私が毎日つけていた『裏帳簿』に、日付、場所、金額、そして殿下が泣きついてきた時の言い訳まで、一言一句漏らさず記録してあります。もちろん、領収書の原本も添えてね」
「う、裏帳簿だと……!?」
ガレス叔父が青ざめる。
「まさか、そんなものが実在するのか……?」
「商売人の基本です。金銭の出入りを記録しないなんて、パンツを履かずに外を歩くようなもの。……その帳簿は今頃、私の最も信頼するパートナーの手によって、安全な場所で保護されているはずです」
そう。
私が逮捕される直前、ルーカスに伝えたあの場所。
***
同時刻。ココアの部屋。
ルーカスは、ココアの寝室にある巨大な金庫を開けていた。
「……これか」
中には、壁のように積み上げられた大学ノートの山があった。
背表紙には『アホ王子の浪費記録 Vol.1』~『Vol.58』と几帳面な文字でナンバリングされている。
「五十八冊……。わずか数年でこれだけの浪費を記録するとは、ココアの執念も凄いが、殿下の浪費癖も想像を絶するな」
ルーカスは一冊を手に取り、パラパラとめくった。
そこには、レシートや誓約書が几帳面に糊付けされ、ココアの容赦ないコメントが添えられている。
『×月×日 殿下、また騙される。「開運の壺」など買う金があったらドリルを買え』
『△月△日 マシュマロ嬢のドレス代。布面積と金額が反比例している。理解不能』
ルーカスは思わず吹き出した。
「ははっ……。これはもはや、帳簿という名の『観察日記』だな」
彼は愛おしそうにノートを閉じ、背後に控えていたヴァレンタイン家の私兵団に命じた。
「総員、この『国家機密』を運び出せ。一冊たりとも紛失するなよ。……これがあれば、あの国を一つ買い取れるほどの破壊力がある」
「はっ!」
屈強な男たちが、次々と「アホ王子の記録」を運び出していく。
「待っていろ、ココア。すぐに迎えに行く」
ルーカスは最強の武器(証拠)を手に、不敵に笑った。
***
再び、取調室。
「う、嘘だ……ハッタリだ……」
ジェラルド殿下は震えながら、自分に言い聞かせるように呟いていた。
「そんな帳簿があるわけがない。あいつはハッタリをかましているだけだ!」
「そうですよ殿下! 証拠がなければただの妄言です!」
ガレス叔父も必死に同調する。
「おい捜査官! さっさと調書を作れ! 『私がやりました』と書かせて指印を押させるんだ!」
「は、はい!」
捜査官が私の手を取り、無理やりインクをつけようとする。
その時。
ガチャン、と重い鉄の扉が開く音がした。
「……面会だ」
看守が不機嫌そうに告げた。
「なっ、取り調べ中だぞ! 誰の許可で!」
「私の許可だ」
低い、地響きのような声が響いた。
入ってきたのは、国王陛下……ではなく、ヴァレンタイン公爵家の紋章が入ったスーツを着た、エリート弁護士団の集団。
そして、その中央にはルーカスが立っていた。
「やあ、ココア。待たせたね」
「オーナー! 思ったより早かったですわね」
「優秀な運び屋(私兵)がいたものでね」
ルーカスは私の手錠を見ると、一瞬で目を細め、部屋の温度が五度下がるほどの冷気を放った。
「……私の大切な『共同経営者』に、随分な真似をしてくれたものだ。ジェラルド殿下」
「ル、ルーカス……! 部外者は出て行け!」
「部外者ではない。私は彼女の身元引受人であり、債権者だ」
ルーカスは合図を送ると、弁護士たちがドサドサドサァァッ!! と机の上に「何か」を積み上げた。
それは、山のような大学ノートだった。
『アホ王子の浪費記録 Vol.1』~『Vol.58』。
そのタイトルを見た瞬間、ジェラルド殿下の目が飛び出た。
「そ、それは……まさか……」
「本物の帳簿だ。殿下の筆跡によるサイン入り領収書も完備されている」
ルーカスは一番上のノートを手に取り、パラパラとめくって見せた。
「さて、殿下。ガレス殿。これから『公開監査』を始めようか。この記録と、貴殿らが作った偽造帳簿。……どちらが真実か、法廷でじっくりと突き合わせよう」
「ひぃっ……!」
ガレス叔父が腰を抜かす。
ジェラルド殿下は白目を剥いて泡を吹いた。
「あ、あばばばば……」
勝負あり。
私は捜査官の手を振り解き、悠然と立ち上がった。
「言ったでしょう? 計算間違いをしているのは、そちらだと」
私はルーカスの隣に並び、勝ち誇った笑顔で宣言した。
「さあ、ここからは私のターンです。不当逮捕への慰謝料、弁護士費用、そして精神的苦痛による逸失利益……きっちりと請求させていただきますから、覚悟しておいてくださいね?」
「……あ、悪夢だ……」
殿下の呟きを無視して、私はルーカスと共に取調室を後にした。
だが、これで終わりではない。
私はまだ「釈放」されたわけではないのだ。
「手続き上、釈放には明日の朝までかかるそうだ」
廊下でルーカスが申し訳なさそうに言う。
「今夜一晩だけ、独房に入ってもらうことになる。……すまない、僕の力が及ばず」
「いえ、構いませんよオーナー。むしろ好都合です」
「好都合?」
「ええ。刑務所の中って、暇を持て余した囚人がたくさんいますよね?」
私の目がキラリと光った。
「彼らもまた、潜在的な『顧客』であり『労働力』です。一晩あれば、この刑務所の経済圏を掌握できますわ」
「……君は本当に、どこにいても逞しいな」
ルーカスは呆れつつも、愛おしそうに私の頭を撫でた。
「明日の朝、一番高い馬車で迎えに来る。それまで、囚人たちを搾取しすぎないようにな」
「善処します」
私は看守に連れられ、意気揚々と独房へと向かった。
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