婚約破棄?悪役令嬢は愛より小銭を稼ぎたい!

ちゃっぴー

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「エントリーナンバー1番! 愛の狩人、隣国の『情熱カップル』!」

「エントリーナンバー2番! 氷と炎の共演、ヴァレンタイン公爵ペア!」

隣国の建国記念パーティー、メインイベントであるチークダンスコンテスト。

会場の熱気は最高潮に達していた。

私たちココア&ルーカスペアは、スポットライトを浴びてダンスフロアの中央に立っていた。

周囲には、各国の有力貴族や、見るからにダンス慣れした強豪カップルたちがひしめき合っている。

「……オーナー。ライバルたちの装備(ドレス)を分析しました」

私は扇子で口元を隠し、小声で報告する。

「右側の侯爵夫人のネックレス、推定金貨五千枚。左側の伯爵令嬢のドレスは、最新の魔法繊維を使用しています。……強敵(金持ち)揃いですわ」

「問題ない。装備の金額で勝負が決まるなら、戦争は銀行家が最強ということになる」

ルーカスは私の腰に手を回し、不敵に笑った。

「我々の武器は『効率』と『同期(シンクロ)』だ。……ココア、私のリードについてこられるか?」

「愚問ですわ。貴方の資産管理と同じくらい、完璧に合わせてみせます!」

音楽が始まった。

優雅で、少しテンポの速いワルツ。

周囲のカップルたちが、甘い愛の言葉を囁きながら踊り出す中、私たちは異質なオーラを放って動き出した。

「ワン、ツー、スリー……角度、右へ十五度修正」

「了解。回転速度、一・二倍に上げます」

「よし。遠心力を利用して、ドレスの裾を最大限に広げろ。視覚効果(ビジュアル・インパクト)を最大化する」

「はい! ……あ、あそこの審査員、貴金属に弱そうですわ。ターンした時に、私のイヤリングの輝きを直撃させます!」

私たちは、まるで精密機械のように正確なステップを踏みながら、小声で「作戦会議」を行っていた。

端から見れば、熱い視線を交わし、顔を寄せ合って愛を語らっているように見えるだろう。

実際は、「いかに審査員の加点を稼ぐか」という戦略ミーティングなのだが。

「見ろ、あの二人……なんて情熱的なんだ」

「公爵様があんなに真剣な目でパートナーを見つめるなんて……」

「きっと『世界で一番愛している』と囁いているに違いないわ!」

会場の令嬢たちが頬を染めて噂している。

ごめんなさい。

今、彼が囁いたのは「次のターンの遠心力係数は0.8だ」です。

ダンスは中盤へ差し掛かる。

優勝候補の『情熱カップル』が、派手なリフト技を決めて歓声を浴びた。

「……ココア。向こうが仕掛けてきたぞ」

「負けていられませんね。オーナー、私たちも必殺技(奥義)で対抗しましょう!」

「ああ。……『ハイリスク・ハイリターン・スピン』だ!」

ルーカスが私の手を強く引き、体を独楽(こま)のように回転させる。

普通のダンスではない。

限界ギリギリの高速回転。

一歩間違えれば二人とも吹っ飛んで大怪我(そして治療費の請求)になる危険な技だ。

しかし、私たちは互いを完全に信頼していた。

(絶対に落とさない。この人は、私の利益を守る男だから!)

(絶対に離さない。彼女は、私の人生を黒字にする女だから!)

ギュンッ!!

風を切る音とともに、私は空中に舞い上がり、そして重力に逆らうように優雅に着地した。

ピッタリと、ルーカスの胸の中に。

「……計算通りだ」

「……完璧な着地(ランディング)です」

その瞬間、会場が揺れるほどの拍手が巻き起こった。

「ブラボー!!」

「素晴らしい! なんて息の合ったコンビネーションだ!」

「優勝だ! あれこそ真実の愛だ!」

私たちは呼吸を整え、優雅にお辞儀をした。

額には汗が滲んでいたが、その達成感は格別だった。

***

「……優勝は、ヴァレンタイン公爵ペア!!」

ファンファーレが鳴り響き、私たちは優勝トロフィーと、目録である『関税撤廃権』を受け取った。

「やりましたわオーナー! これで輸入コストが二割削減です!」

「ああ。素晴らしい成果だ」

私たちはバルコニーへ出て、夜風に当たりながら祝杯(無料のシャンパン)をあげた。

パーティーの喧騒が遠くに聞こえる。

月明かりの下、ルーカスがふと真面目な顔になり、懐から小さな箱を取り出した。

「……ココア」

「はい? ……あ、それはもしかして、成功報酬ですか?」

私は期待に目を輝かせた。

箱の大きさからして、宝石に違いない。優勝の記念に、高価なダイヤモンドでも用意してくれたのだろうか。

「……これを受け取ってほしい」

ルーカスが箱を開ける。

そこに入っていたのは――。

「……え?」

私は目を丸くした。

宝石ではない。

それは、歪な形をした、焦げ茶色の……小さなクッキーだった。

「ク、クッキー……ですか?」

しかも、形が悪い。焦げているし、少し割れている。

市販品ではない。明らかに、素人の手作りだ。

「……昨日、厨房を借りて焼いてみたんだ」

ルーカスが少し恥ずかしそうに視線を逸らす。

「君が最初に私にくれた、『激辛クッキー』。……あれが忘れられなくてな」

「えっ……あんな罰ゲーム用のお菓子が?」

「ああ。あの味は強烈だった。だが……あのクッキーには、君の『熱』がこもっていた」

ルーカスは箱の中の、自分が焼いた不格好なクッキーを見つめた。

「私は今まで、宝石や金貨こそが価値あるものだと思っていた。形が整っていて、市場価格が安定しているからな」

彼は私に向き直り、真剣な瞳で言った。

「だが……気づいたんだ。最高級の宝石は、美しくても冷たい。食べられないし、腹も満たされない」

「……まあ、そうですね(換金性は高いですけど)」

「それに比べて、君が焼いたクッキーは……辛くて、刺激的で、食べた瞬間に目が覚めるようなエネルギーがある。……そして何より、私の心を温かくする」

ルーカスは私の手を取り、その掌に箱を乗せた。

「ココア。私は宝石よりも……君が焼いた、あの不恰好で、計算高くて、でも飛び切り美味しいクッキーがいい」

「……!」

「だから、これはその返礼だ。……初めて焼いたから、焦げてしまったし、原価も計算できていない失敗作だが」

彼は照れくさそうに笑った。

「君に食べてほしくて」

私は掌の上のクッキーを見つめた。

公爵様が、わざわざ厨房に入って、粉まみれになって焼いたクッキー。

市場価値はゼロ。

商品としては規格外の廃棄処分品。

でも。

「……馬鹿ですね、オーナー」

視界が少し滲む。

「こんなの、一銭の得にもなりませんよ」

「ああ。大赤字だ」

「でも……」

私はクッキーを一つ摘み、口に放り込んだ。

ガリッ。

硬い。そして、しょっぱい。……砂糖と塩を間違えたのかもしれない。

「……まずい」

「そ、そうか……やはり……」

「まずいですけど……」

私は涙を拭い、最高の笑顔を見せた。

「今まで食べたどんな高級菓子より、価値がありますわ。……帳簿には載せられない、『プライスレス』な味です」

「……ココア」

ルーカスが安堵したように息を吐き、私を抱き寄せた。

今度は、ダンスの時のような計算された距離ではない。

心臓の音が聞こえるほど、近く、強く。

「……愛しているよ、ココア。この国のどんな財宝よりも」

「……私もです。オーナーのその不器用なところ、……割と好きですよ」

私たちは月明かりの下、初めて『業務外』のキスをした。

甘くはない。

少し焦げたクッキーの味がする、しょっぱくて、温かいキスだった。

「……さて」

しばらくして、私は体を離し、ビジネスモードの顔に戻った。

「感動的なシーンも終わりましたし、そろそろ帰りましょうか。関税撤廃の手続き、明日の朝一でやらないと!」

「……君は本当に、色気より食い気(りえき)だな」

「当然です。愛でお腹は膨れませんが、関税撤廃なら国中が潤いますから!」

「違いない」

私たちは笑い合い、手を繋いでバルコニーを後にした。

その手は、契約書よりも強い絆で結ばれていた。

私の「悪役令嬢ビジネス」は、最高のパートナーを得て、いよいよ最終章(クライマックス)へと向かっていく。

……あ、ちなみに。

ルーカスがくれたクッキーの残りは、こっそりポケットにしまった。

これは転売しない。

私だけの、秘密の宝物にするために。
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