王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー

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「……ふっ、ふふふ。今日もまた、愛の試練が始まったようだな。ラーニャ、君の照れ隠しには、つくづく感服させられるよ」

辺境の地にひっそりと佇む、歴史からも忘れ去られたような古い塔。
その地下二階、陽の光すら届かない「反省の間」で、ウィルフレッドは一人、壁に向かって語りかけていた。

室内にあるのは、ボロボロの木箱一つと、ラーニャが「真心」を込めて発注した、世界一チクチクする藁布団だけだ。
元王子の着ていた服はすでに至る所が破れ、かつての威厳など微塵もないが、その瞳だけは異様な輝きを放っている。

「……おい、飯だ。感謝して食えよ、おひとり様」

鉄格子の隙間から、無造作にトレイが差し込まれた。
そこに乗っているのは、薄い灰色のスープと、石のように硬い黒パンが一切れ。

「おや、今日のスープは一段と『滋味深い』な。……なるほど、ラーニャ。君はこの薄味を通して、私に美食の贅沢さを再確認させようというのだね? 私を真の王へと育てるための、徹底した栄養管理……愛を感じるよ」

「……あ? 何言ってんだ、このバカ。ただの予算削減だよ。アストレア公爵家から『こいつには最低限のカロリーだけでいい』って指定が入ってんだ」

見張りの衛兵が、呆れたように吐き捨てた。
だが、ウィルフレッドは優雅な手つきでパンを手に取り、それを宝物のように見つめる。

「ふん、君のような下衆(げす)には分かるまい。このパンの硬さは、私と彼女の絆の強さを象徴しているのだ。噛めば噛むほど味が出る……いや、顎が痛いだけだが、それもまた彼女からの情熱的なメッセージ……!」

「メッセージじゃなくて、賞味期限切れの廃棄品だよ。……まあいい。それより、また変なポエムを書いたのか? ラーニャ様に送れってうるさいから、一応回収してやるよ」

衛兵が面倒くさそうに手を出すと、ウィルフレッドは大切に懐に隠していた、煤(すす)で汚れた紙の束を差し出した。
それは、彼が食事のスープの出汁(だし)をインク代わりにし、折れた小枝で綴った「愛の書簡」である。

「ああ、頼む。彼女も今頃、私の言葉を待ちわびて夜も眠れずにいるはずだ。……特に、三枚目の『君の瞳は差し押さえられた僕の家具よりも輝いている』というフレーズには、彼女も涙を禁じ得ないだろう」

「……。一応預かるが、これ、焚き火の種にしかならねえぞ。アストレア公爵邸の門番に渡した瞬間、シュレッダー行きだっての」

「フッ、カモフラージュだな。あまりに熱烈な私の手紙を部下に見せるのが恥ずかしいのだろう。彼女は昔から、そういう奥ゆかしいところがあった」

ウィルフレッドは、藁布団の上に腰を下ろした。
チクチクとした刺激が尻を刺すが、彼はそれを「ラーニャが私を眠らせないように、常に自分のことを考えさせるための刺激」だと解釈している。

「……そろそろ、迎えが来る頃かな。物語のクライマックスは、いつも絶望の淵から始まるものだ。私がこの暗闇で十分に反省したと見なせば、彼女は白馬に乗って、あるいは最新式の豪華な馬車で、私を救い出しに来る」

ウィルフレッドは暗い天井を見上げ、うっとりと目を細めた。

「その時、私はこう言うんだ。『待たせたね、ラーニャ。君の愛のムチ、しっかりと受け取ったよ。さあ、共に王宮へ戻ろう。……ああ、差し押さえられた家具の買い戻し費用は、アストレア家の経費で落としておいてくれ』とね」

「……一生言ってろ、おめでてーな」

衛兵は鍵をガチャリと閉め、足早に去っていった。
後に残されたのは、湿った壁の匂いと、ネズミの鳴き声、そして一人の男の肥大化した妄想だけだ。

「……ああ、ラーニャ。君が今、隣国の男と仲良くしているという噂も聞いているよ。だが、分かっている。それはすべて、私を嫉妬の炎で焼き尽くすための余興に過ぎない。君が本当に求めているのは、この『おひとり様』になった私なのだから……」

ウィルフレッドは、チクチクする藁を抱きしめ、幸せそうに微笑んだ。
外の世界では、ラーニャとゼクスが新国家の設立に奔走し、メリルとガウェインが三食昼寝付きの幸せな家庭を築いているというのに。

この塔の中で、彼は永遠に「待ち続ける主人公」であり続ける。
誰も来ない扉を見つめ、届かない手紙を書き、冷めたスープを啜りながら。
それが、一人の女性の献身を「当然」と切り捨てた男に与えられた、終わることのない報いなのだ。

「……ふふ。さて、明日のポエムは、君のあの扇子の閉じ方について書こうか。……愛しているよ、ラーニャ。君の救いの手を、私はいつまでも待っている……」

地下室に、独り言だけが空しく響き、夜が更けていく。
彼が再び日の光を浴びる日は、、おそらく……いや、確実に来ることはないのであった。
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