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「さあ、サイラス様! 本日の差し入れは趣向を変えてみましたわ。題して『公爵家の威信をかけた、究極のホカホカ肉まん』ですわ!」
騎士団の休憩室に、ミミルの快活な声が響き渡る。
彼女が抱えてきたのは、大きな竹の蒸し籠だ。
蓋を開けた瞬間、真っ白な湯気と共に、食欲をそそるラードと醤油の香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「……肉まんだと? ラングレー家の令嬢ともあろう者が、なぜそのような庶民の食べ物を」
サイラスは呆れ顔を見せつつも、その鼻腔をくすぐる暴力的なまでに良い香りに、わずかに喉を鳴らした。
今日の彼は、模擬戦の後なのか、額に薄っすらと汗をかいている。
その濡れた前髪と、乱れた襟元から覗く鎖骨のラインに、ミミルの双眼鏡(心の目)が火を吹いた。
「庶民の食べ物と侮ることなかれ、ですわ。この皮を見てくださいまし。最高級の小麦を三度挽きし、中の具材は我が領地でどんぐりだけを食べて育った希少な黒豚。そこへ隠し味として、干し帆立の出汁を凝縮させておりますの!」
「……こだわりが過ぎるだろう。貴様、いつか食い道楽で国を傾けるのではないか?」
「あら、国を傾けるほどの美貌がないので、せめて胃袋で歴史を刻もうと思っているだけですわ。さあ、熱いうちに召し上がれ!」
ミミルは真っ白でふわふわの肉まんを、二つに割って差し出した。
中からは溢れんばかりの肉汁が滴り、粗挽き肉の弾力が視覚からも伝わってくる。
「……。では、いただく」
サイラスが大きな口で肉まんにかぶりつく。
ハフハフと熱さに耐えながら咀嚼するその姿。
ミミルはそれを見守りながら、自らも別の肉まんを頬張った。
「んん~っ! この皮の甘みと肉の旨みのハーモニー! まるでサイラス様の強靭な肉体としなやかな動きが、口の中でダンスを踊っているようですわ!」
「……。例えが気味悪いぞ。だが、味は……認めざるを得ないな。この満足感、訓練後の身体に染みる」
サイラスが無我夢中で肉まんを平らげていく。
そんな彼を満足げに眺めていたミミルだったが、ふと悪戯っぽく微笑んで、蒸し籠の底に隠していた「別の包み」を取り出した。
「実は、もう一種類用意してありますの。こちらは『口直し』ですわ」
「口直し? まだ食わせるつもりか」
「ええ。ですが、こちらは少し趣向が違いますわよ。中身は……内緒ですわ」
ミミルが差し出したのは、先ほどの肉まんよりも一回り小さく、表面に赤い印がついたもの。
サイラスは不審げにそれを受け取り、一口齧った。
その瞬間、彼の動きがピタリと止まった。
「…………っ!?」
「いかがかしら? それはお肉ではなく、超高級小豆を練り上げた特製あんこと、とろけるような大福餅を包み込んだ『究極のあんまん』ですわ。しかも、隠し味に宮廷御用達のハチミツを練り込んでありますの」
サイラスの瞳が、一瞬だけ少女のようにキラリと輝いたのを、ミミルは見逃さなかった。
彼は無言で、しかし先ほどの肉まんよりも明らかに「慈しむような」手つきで、あんまんを口に運んでいく。
「サイラス様。……今、とっても幸せそうなお顔をされましたわね?」
「……。気のせいだ。甘すぎる。騎士が食うものではない」
そう言いながらも、サイラスの手は止まらない。
最後の一口を惜しむように飲み込んだ彼は、耳の先を少しだけ赤くして視線を逸らした。
「……。余ったら、部下たちに分けてやる。置いていけ」
「あら、もう全部召し上がったではありませんか。部下の方々の分は、あちらの大きな籠に別途用意してありますわよ。そちらの小籠は、完全に『サイラス様専用』ですわ」
「……貴様、計算したな」
「ふふふ。筋肉にはタンパク質、そして疲れた脳には糖分が必要ですもの。サイラス様が実は『甘いものに目がない』という仮説が立証されて、私は満足ですわ!」
ミミルは勝利のポーズを決めた。
強面で無口な騎士団長が、あんまんの甘さに頬を緩める。
そのギャップは、ミミルにとってどんな高級な宝石よりも価値のある「ご馳走」だった。
「……ラングレー嬢」
「はい、何かしら?」
「……。明日は、何を持ってくるつもりだ」
「あら! それは『明日も来ていい』という予約注文と受け取ってよろしいのかしら?」
サイラスは返事をせず、ただフンと鼻を鳴らして、空になった蒸し籠をミミルに突き返した。
しかし、その態度は昨日までのような「追い払いたい」という拒絶ではなく、どこか気恥ずかしさを隠すためのものに見えた。
「楽しみにしていてくださいな! 明日はサイラス様のその甘いお顔をさらに引き出す、とっておきのスイーツを用意いたしますわ!」
「……。スイーツではなく、食事を持ってこいと言っているだろうが……!」
夕暮れの休憩室に、ミミルの高笑いとサイラスの困惑した声が響く。
婚約破棄から始まった彼女の自由時間は、今や「推し」の弱点を掌握するという、素晴らしい方向へと転がり始めていた。
騎士団の休憩室に、ミミルの快活な声が響き渡る。
彼女が抱えてきたのは、大きな竹の蒸し籠だ。
蓋を開けた瞬間、真っ白な湯気と共に、食欲をそそるラードと醤油の香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「……肉まんだと? ラングレー家の令嬢ともあろう者が、なぜそのような庶民の食べ物を」
サイラスは呆れ顔を見せつつも、その鼻腔をくすぐる暴力的なまでに良い香りに、わずかに喉を鳴らした。
今日の彼は、模擬戦の後なのか、額に薄っすらと汗をかいている。
その濡れた前髪と、乱れた襟元から覗く鎖骨のラインに、ミミルの双眼鏡(心の目)が火を吹いた。
「庶民の食べ物と侮ることなかれ、ですわ。この皮を見てくださいまし。最高級の小麦を三度挽きし、中の具材は我が領地でどんぐりだけを食べて育った希少な黒豚。そこへ隠し味として、干し帆立の出汁を凝縮させておりますの!」
「……こだわりが過ぎるだろう。貴様、いつか食い道楽で国を傾けるのではないか?」
「あら、国を傾けるほどの美貌がないので、せめて胃袋で歴史を刻もうと思っているだけですわ。さあ、熱いうちに召し上がれ!」
ミミルは真っ白でふわふわの肉まんを、二つに割って差し出した。
中からは溢れんばかりの肉汁が滴り、粗挽き肉の弾力が視覚からも伝わってくる。
「……。では、いただく」
サイラスが大きな口で肉まんにかぶりつく。
ハフハフと熱さに耐えながら咀嚼するその姿。
ミミルはそれを見守りながら、自らも別の肉まんを頬張った。
「んん~っ! この皮の甘みと肉の旨みのハーモニー! まるでサイラス様の強靭な肉体としなやかな動きが、口の中でダンスを踊っているようですわ!」
「……。例えが気味悪いぞ。だが、味は……認めざるを得ないな。この満足感、訓練後の身体に染みる」
サイラスが無我夢中で肉まんを平らげていく。
そんな彼を満足げに眺めていたミミルだったが、ふと悪戯っぽく微笑んで、蒸し籠の底に隠していた「別の包み」を取り出した。
「実は、もう一種類用意してありますの。こちらは『口直し』ですわ」
「口直し? まだ食わせるつもりか」
「ええ。ですが、こちらは少し趣向が違いますわよ。中身は……内緒ですわ」
ミミルが差し出したのは、先ほどの肉まんよりも一回り小さく、表面に赤い印がついたもの。
サイラスは不審げにそれを受け取り、一口齧った。
その瞬間、彼の動きがピタリと止まった。
「…………っ!?」
「いかがかしら? それはお肉ではなく、超高級小豆を練り上げた特製あんこと、とろけるような大福餅を包み込んだ『究極のあんまん』ですわ。しかも、隠し味に宮廷御用達のハチミツを練り込んでありますの」
サイラスの瞳が、一瞬だけ少女のようにキラリと輝いたのを、ミミルは見逃さなかった。
彼は無言で、しかし先ほどの肉まんよりも明らかに「慈しむような」手つきで、あんまんを口に運んでいく。
「サイラス様。……今、とっても幸せそうなお顔をされましたわね?」
「……。気のせいだ。甘すぎる。騎士が食うものではない」
そう言いながらも、サイラスの手は止まらない。
最後の一口を惜しむように飲み込んだ彼は、耳の先を少しだけ赤くして視線を逸らした。
「……。余ったら、部下たちに分けてやる。置いていけ」
「あら、もう全部召し上がったではありませんか。部下の方々の分は、あちらの大きな籠に別途用意してありますわよ。そちらの小籠は、完全に『サイラス様専用』ですわ」
「……貴様、計算したな」
「ふふふ。筋肉にはタンパク質、そして疲れた脳には糖分が必要ですもの。サイラス様が実は『甘いものに目がない』という仮説が立証されて、私は満足ですわ!」
ミミルは勝利のポーズを決めた。
強面で無口な騎士団長が、あんまんの甘さに頬を緩める。
そのギャップは、ミミルにとってどんな高級な宝石よりも価値のある「ご馳走」だった。
「……ラングレー嬢」
「はい、何かしら?」
「……。明日は、何を持ってくるつもりだ」
「あら! それは『明日も来ていい』という予約注文と受け取ってよろしいのかしら?」
サイラスは返事をせず、ただフンと鼻を鳴らして、空になった蒸し籠をミミルに突き返した。
しかし、その態度は昨日までのような「追い払いたい」という拒絶ではなく、どこか気恥ずかしさを隠すためのものに見えた。
「楽しみにしていてくださいな! 明日はサイラス様のその甘いお顔をさらに引き出す、とっておきのスイーツを用意いたしますわ!」
「……。スイーツではなく、食事を持ってこいと言っているだろうが……!」
夕暮れの休憩室に、ミミルの高笑いとサイラスの困惑した声が響く。
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