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王宮の一角にある、豪華絢爛な談話室。
そこでは、第一王子ジュリアスと男爵令嬢カレンが、優雅にティータイムを楽しんでいた。
「ふふっ。殿下、見てください。今日のマドレーヌは、ミミル様がいらっしゃった頃よりずっと甘くて美味しい気がいたしますわ」
カレンが猫撫で声で囁き、ジュリアスの腕にそっと寄り添う。
本来であれば、ここでジュリアスが「ああ、君の笑顔のおかげだね」と甘い言葉を返すはずの場面だった。
しかし、ジュリアスの眉間には深い皺が刻まれていた。
彼の視線は、手元のティーカップではなく、窓の外……騎士団演習場がある方向へと向けられている。
「……解せぬ」
「え? 殿下、何かおっしゃいましたか?」
「カレン、解せぬと言ったのだ。ミミル・フォン・ラングレーのことだ。あのアバズレ……失礼、あの冷酷な女が、なぜまだ泣きついてこない?」
ジュリアスは苛立ちを隠そうともせず、カップをソーサーに乱暴に置いた。
彼の計算では、婚約破棄を突きつけられたミミルは今頃、公爵邸の自室に引きこもり、枕を濡らしているはずだった。
そして数日後には、ボロボロの姿で「どうかお許しを、私が悪うございました」と縋り付いてくる……。
その優越感に浸るのが、ジュリアスの隠れた楽しみだったのだ。
「そんなの、決まっていますわ。あまりのショックで、お顔をお見せできないほど老け込んでしまったのではなくて?」
「いや、違う。……おい、報告を」
ジュリアスが合図を出すと、影から一人の隠密が姿を現した。
彼は騎士団周辺の監視を命じられていた男だ。
「はっ。ミミル嬢の動向ですが……連日、騎士団演習場に出入りしているとの報告が入っております」
「何だと? やはりそうか! 騎士団の連中に泣きついて、私の悪評を流しているのだな? なんとも見苦しい女だ」
ジュリアスが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
しかし、隠密の報告は続いた。
「いえ……それが。彼女は泣いているどころか、昨日も今日も、見たこともないほど巨大な『肉まん』なる食べ物を頬張り、満面の笑みを浮かべておりました」
「……肉……まん?」
「はい。それも一つや二つではありません。籠いっぱいに詰め込まれたそれらを、サイラス団長と共に、実に幸せそうに平らげていたと……」
「サイラスだと!? あの鉄面皮の団長が、女と食事を共にするはずがないだろう!」
ジュリアスが立ち上がる。
彼にとってサイラス・ヴォルガードは、自分ですら扱いづらい、愛想の欠片もない部下だ。
その男が、あのみっともない食いしん坊(ミミル)と仲睦まじくしているなど、到底信じがたい。
「さらに……ミミル嬢は、団長が素振りを終えるたびに『素晴らしい広背筋ですわ!』『上腕二頭筋のカットが昨日より冴えていますわ!』と、叫び声を上げているそうで」
「………………」
談話室に、気まずい沈黙が流れた。
ジュリアスは、自分の耳を疑った。
婚約破棄された公爵令嬢が、あろうことか騎士団長の筋肉を品評し、肉を喰らっている。
「……殿下。きっと、その。ミミル様はショックのあまり、頭がおかしくなってしまわれたのですわ」
カレンが必死にフォローするが、ジュリアスの自尊心はボロボロだった。
自分という至高の婚約者を失ったというのに、筋肉と肉まんに現を抜かしているなど、あってはならないことだ。
「許せん……。私の気を引くために、あえてサイラスを利用しているのだな! どこまで汚らわしい女だ!」
「殿下、もう放っておきましょう? あんな品の無い方、殿下の視界に入る価値もございませんわ」
「いや、そうはいかん! カレン、明日だ。明日の昼、私も騎士団の視察に行く。この目で、その醜態を確かめてやる!」
ジュリアスの瞳に、歪んだ対抗心が燃え上がる。
一方、その頃ミミルは。
「グゥ……。明日こそは、サイラス様の胸板の厚みをセンチ単位で推測してみせますわ。そのためには、スタミナをつけるための焼肉弁当が必要ですわね……」
寝言で明日の献立を呟きながら、ミミルは幸せな夢の中にいた。
元婚約者が自分を監視し、勝手にイライラしていることなど、一ミリも気づかずに。
そこでは、第一王子ジュリアスと男爵令嬢カレンが、優雅にティータイムを楽しんでいた。
「ふふっ。殿下、見てください。今日のマドレーヌは、ミミル様がいらっしゃった頃よりずっと甘くて美味しい気がいたしますわ」
カレンが猫撫で声で囁き、ジュリアスの腕にそっと寄り添う。
本来であれば、ここでジュリアスが「ああ、君の笑顔のおかげだね」と甘い言葉を返すはずの場面だった。
しかし、ジュリアスの眉間には深い皺が刻まれていた。
彼の視線は、手元のティーカップではなく、窓の外……騎士団演習場がある方向へと向けられている。
「……解せぬ」
「え? 殿下、何かおっしゃいましたか?」
「カレン、解せぬと言ったのだ。ミミル・フォン・ラングレーのことだ。あのアバズレ……失礼、あの冷酷な女が、なぜまだ泣きついてこない?」
ジュリアスは苛立ちを隠そうともせず、カップをソーサーに乱暴に置いた。
彼の計算では、婚約破棄を突きつけられたミミルは今頃、公爵邸の自室に引きこもり、枕を濡らしているはずだった。
そして数日後には、ボロボロの姿で「どうかお許しを、私が悪うございました」と縋り付いてくる……。
その優越感に浸るのが、ジュリアスの隠れた楽しみだったのだ。
「そんなの、決まっていますわ。あまりのショックで、お顔をお見せできないほど老け込んでしまったのではなくて?」
「いや、違う。……おい、報告を」
ジュリアスが合図を出すと、影から一人の隠密が姿を現した。
彼は騎士団周辺の監視を命じられていた男だ。
「はっ。ミミル嬢の動向ですが……連日、騎士団演習場に出入りしているとの報告が入っております」
「何だと? やはりそうか! 騎士団の連中に泣きついて、私の悪評を流しているのだな? なんとも見苦しい女だ」
ジュリアスが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
しかし、隠密の報告は続いた。
「いえ……それが。彼女は泣いているどころか、昨日も今日も、見たこともないほど巨大な『肉まん』なる食べ物を頬張り、満面の笑みを浮かべておりました」
「……肉……まん?」
「はい。それも一つや二つではありません。籠いっぱいに詰め込まれたそれらを、サイラス団長と共に、実に幸せそうに平らげていたと……」
「サイラスだと!? あの鉄面皮の団長が、女と食事を共にするはずがないだろう!」
ジュリアスが立ち上がる。
彼にとってサイラス・ヴォルガードは、自分ですら扱いづらい、愛想の欠片もない部下だ。
その男が、あのみっともない食いしん坊(ミミル)と仲睦まじくしているなど、到底信じがたい。
「さらに……ミミル嬢は、団長が素振りを終えるたびに『素晴らしい広背筋ですわ!』『上腕二頭筋のカットが昨日より冴えていますわ!』と、叫び声を上げているそうで」
「………………」
談話室に、気まずい沈黙が流れた。
ジュリアスは、自分の耳を疑った。
婚約破棄された公爵令嬢が、あろうことか騎士団長の筋肉を品評し、肉を喰らっている。
「……殿下。きっと、その。ミミル様はショックのあまり、頭がおかしくなってしまわれたのですわ」
カレンが必死にフォローするが、ジュリアスの自尊心はボロボロだった。
自分という至高の婚約者を失ったというのに、筋肉と肉まんに現を抜かしているなど、あってはならないことだ。
「許せん……。私の気を引くために、あえてサイラスを利用しているのだな! どこまで汚らわしい女だ!」
「殿下、もう放っておきましょう? あんな品の無い方、殿下の視界に入る価値もございませんわ」
「いや、そうはいかん! カレン、明日だ。明日の昼、私も騎士団の視察に行く。この目で、その醜態を確かめてやる!」
ジュリアスの瞳に、歪んだ対抗心が燃え上がる。
一方、その頃ミミルは。
「グゥ……。明日こそは、サイラス様の胸板の厚みをセンチ単位で推測してみせますわ。そのためには、スタミナをつけるための焼肉弁当が必要ですわね……」
寝言で明日の献立を呟きながら、ミミルは幸せな夢の中にいた。
元婚約者が自分を監視し、勝手にイライラしていることなど、一ミリも気づかずに。
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