断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

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「見てください、サイラス様! この『王宮秘伝の金箔入りフォンダンショコラ』! 中から溢れ出すチョコの奔流は、まさに貴方の内側に秘められた熱い情熱のようですわ!」


ミミルは、スプーンでケーキを割った瞬間に広がる甘美な香りに、うっとりと目を細めた。
先ほどの激しいワルツで消費したカロリーを補填するかのように、彼女の手は止まることを知らない。


「……情熱がチョコと同じ温度なら、俺の心臓は今頃火傷しているぞ。……。だが、確かに……。この濃厚な甘みは、脳の芯まで痺れるな」


サイラスもまた、ミミルに勧められるがまま、一口サイズのショコラを口に運んでいた。
彼の無骨な指先が、小さなスイーツを扱うギャップに、周囲の令嬢たちからは「尊い……」という溜息が漏れている。


そんな平和な(?)糖分摂取の現場から少し離れた場所で、この世の終わりかというほど険悪な空気を醸し出している二人がいた。


「……ねえ、殿下。あんな品のない方々、無視してあちらのテラスへ行きましょう? わたくし、少し気分が悪くなってしまいましたわ」


カレンが、縋るような瞳でジュリアスの腕を引く。
だが、ジュリアスの視線は、楽しそうに笑い合うミミルとサイラスに釘付けのまま動かない。


「……カレン。君はさっき、ミミルがショックで寝込んでいると言わなかったか? ……。どう見ても、僕といた頃より幸せそうじゃないか」


「それは……きっと強がっていらっしゃるんですわ! 公爵家としてのメンツを守るために、無理をして食べていらっしゃるのよ!」


「無理をしてあの量を食えるわけがあるか! あいつは、僕との婚約中、一度もあんな顔は見せなかった! ……。あんな、腹の底から湧き上がるような、下品で……楽しそうな笑顔は!」


ジュリアスの声が、徐々に大きくなっていく。
周囲の招待客たちが、ちらちらと「真実の愛」のカップルを窺い始めた。


「殿下! 声が大きいですわ! ……。わたくしとの愛があれば、あんな元婚約者のことなんて、どうでもよろしいはずではありませんか!」


「……愛? ああ、そうだ、愛だな。……。……だがカレン、君、さっきからずっと同じことを言っていないか? ……。……それに、君のその顔。……。……ミミルが指摘していた通り、なんだか少し、テカっていないか?」


「っ!? な、なんですって!?」


カレンは絶句した。
最愛の王子から、よりによって一番気にしている「浮腫み」と「脂浮き」を指摘されるとは。


「殿下こそ、さっきからサイラス団長ばかり見て……。……。……わたくしのドレスを一度でも褒めてくださいました!? ……。……わたくし、殿下のためにこんなに我慢して、小食を装っているのに!」


「我慢しろなんて頼んだ覚えはない! ……。……君が『ミミルは冷酷で、自分は控えめで愛らしい』と言うから、僕は婚約を破棄したんだ! ……。……なのに、蓋を開けてみればミミルの方がよっぽど健康的で、騎士団長という強力な後ろ盾まで作っている!」


「それは殿下が情けないからでしょう!? ……。……あんな、ただの筋肉ダルマに気圧されて……!」


「筋肉ダルマだと!? ……。……サイラスは我が国最強の盾だ! ……。……それを侮辱することは、王族である僕への侮辱と同じだぞ!」


二人の言い争いは、もはや隠しきれないレベルに達していた。
「真実の愛」という美しい看板は、ミミルが放つ「本能の輝き」の前で、みるみるうちに色褪せ、醜いなすりつけ合いへと変貌していく。


「もういいですわ! ……。……殿下なんて、鏡の中の自分とだけ結婚していればよろしいんですわ!」


カレンが、ついに堪忍袋の緒を切らして、ジュリアスの足を思い切り踏みつけた。


「痛っ!? ……。……貴様、僕に対してなんという無礼を!」


「さようなら! ……。……わたくし、帰らせていただきます!」


カレンがドレスを振り乱して会場を飛び出し、ジュリアスがそれを罵声と共に追いかけようとする。
その阿鼻叫喚の光景を、ミミルはショコラを口に含んだまま、ぼんやりと眺めていた。


「……あら。サイラス様、あちらで派手な余興が始まりましたわよ。……。……カレン様、なかなかの脚力ですわね」


「……。……見るな、ミミル。……。……糖分の味が落ちる」


サイラスは、そっとミミルの視界を遮るように、自分の身体を割り込ませた。
彼の広い背中が、醜い喧嘩を完璧にシャットアウトする。


「……それもそうですわね。……。……サイラス様、あちらに『特製ラムレーズンのアイスクリーム』が到着しましたわ! ……。……溶けないうちに、全力を尽くしましょう!」


「……ああ。……。……俺たちが守るべきは、王宮の平和ではなく、そのアイスの温度だな」


二人は、崩壊していく「偽りの愛」には目もくれず、甘い幸福の真っ只中へと再び突き進んだ。
会場の誰よりも自由で、誰よりも満たされている二人の姿は、皮肉にもこの夜、一番の「真実」として人々の目に焼き付いたのである。
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