鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手

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章の二

第五十六話/クロタケ様

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「そうか、王京に…」
 ケンゲンが用意した、ギルドからヘイシ村へ帰る馬車にて、事の次第をエイジにも伝える。
「それにしても明日なんて急っスよね」
「もう少しゆっくり出来れば良かったのにな」
 マンジュの愚痴に、少し寂し気にエイジが笑い返す。
「せっかくだから整備したい魔道具も沢山あったんスけどねー」
 マンジュはそれを知ってか知らずか、両足をパタパタしながら唇を尖らせる。
「離れる前に、あの亀さんにも挨拶に行きましょうか」
 メイがシュテンへ提案する。
「んァ?あァ、いィんじゃねェか?」
「…なぁ、あの亀ってシュテンがテイムしてる訳じゃないんだよな?」
 ふと、怪訝な顔をしたエイジが問う。
 シュテンは首を傾げた。
「あァ?知らねェぞ」
「最初は向こうに見えるデカイ山の中から現れたんだよな」
 アンナは、森の奥に鎮座する以前と少し形の違う山を指差した。
「…なんだって?あの山から出てきた?」
 エイジはシュテンと山を交互に見る。
「どういう事っスか?」
 疑問を投げかけるマンジュにエイジはため息を漏らす。
「マンジュお前、知らないのか?クロタケ様だよ」
「はぇ?」
 マンジュはポカンとした様子だ。
 代わりにアンナが返す。
「クロタケ様って?」
「この辺りに伝わる守護魔獣なんだ。神話の時代から土地を守ってくれててる亀の魔獣で、クロタケ様の放つ魔力のおかげで周辺には魔物が寄り付かないって話だ」
「あ、この辺で魔物が出ないのはそういう事なんですね」
 メイが手を叩く。
「ああ、なんでも勇者神話では、北方平定の時に勇者タイカ様に協力したって書かれてるらしい」
「確かに、大きな魔獣と共に大規模討伐を行った話が幾つかあった気がしますね」
「まあ、俺も村の爺さん達に聞いた程度の事しか知らないけど、クロタケ様はあの山の中で眠ってるらしいし…」
「へぇー、知らなかったっス」
 マンジュが船を漕ぐ。
「なんなら、エイジも一緒に行くっスか?そのクロタケ様のところ」
「え、いいのか?」
「もちろんっスよ!ね、アニキ」
「あァ?好きにしろォ」
「よーしそうと決まれば!御者さん寄り道頼むっス~!」




 馬車が入れるギリギリで待ってもらい、一行は森を抜け山の麓に辿り着く。
 先日来た時とは違い、大きな洞窟のような穴が正面に開いていた。
 その穴から、シュテン達の気配を察知したのであろうクロタケ様が頭を出す。
「あ、これ頭出す穴だったんスね」
「昨日見たばかりだが…やはり圧巻だなこれは」
 呑気なマンジュに対し、エイジはまだクロタケ様に慣れきれていない様子だ。
「クロタケ様、で宜しかったでしょうか」
 メイが問うと、クロタケ様はゆっくりと瞬きをした。
「えっと…我々は次の土地へ旅立つ事になりましたので、ご挨拶に参りました!」
 メイの言葉を聞き、クロタケ様はゆっくりと喉を鳴らす。
 そして、シュテンの眼前へと頭を伸ばした。
「んァ?なんだァ?」
 クロタケ様の鼻先がシュテンの右肩に触れると、そこから白く光が漏れた。
 その発光体は細長くなっていき、シュテンのうなじを通って左肩まで到達する。
 そしてクロタケ様が離れた時、光が消えて中から白蛇が姿を現した。
 白蛇はシュテンと目を見合せている。
「なんだァ…?」
「もしかして、分身体か?」
 アンナが呟いた言葉に、クロタケ様はゆっくりと瞬きをした。
「付いては行けないからせめて、という事でしょうかね」
「中々可愛げあるっスねぇ」
 クロタケ様は全員をしっかり見てから、穴の中へ頭を戻して行った。
「クロタケ様!必ずまた来ます!」
 メイはもう見えなくなったクロタケ様へ大きく手を振る。
「守護魔獣の分身体、か…」
 その後ろで エイジは苦笑いを浮かべていた。
「この子の名前、どうします?」
「確かに名前があった方が良いかもな」
「クロタケ様の分身体っスから…クロでどうっすかアニキ!」
「あァ、構わねェ」
 クロも「シャー」と嬉しそうに鳴く。
「…白蛇のクロか」
「ややこしいな」
 エイジとアンナはそれぞれボソリと呟くと、互いを見て頷きあった。




 その晩、またシュテンの寝床を巡ってマンジュとエイジの攻防戦が繰り広げられた。
「とにかくダメだ!シュテンはウチで寝せる!」
「なーんでっスかー!昨夜はアニキもウチで一緒に寝たんスよ!?」
「は?…シュテン、どういう事だ?」
「あァ?…いや、俺ァ寝たがマンジュは寝てねェだろ」
「な、んだと…?マンジュが寝られないくらい…???シュテン、お前ー!」
「あー!エイジ!アニキに何する気っスか!」
「はいはいはい!お二人とも一旦落ち着きましょう!ね?」
「エイジは深呼吸して変な誤解やめろー、マンジュはいい子だからもう諦めろー、な?」
「…なんで俺の寝床でこんな揉めてんだァ?」
 賑やかに夜は更けていくのであった。
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