90 / 108
章の四
第九十話/ひろがる戦火
しおりを挟む
アンナがイアモニの通信を切る。
「よし、これでいいだろ…メイ、どうだ?」
メイは微笑みを返す。
「ええ、もうすっかり良さそうです。ありがとうございます、クロ」
クロは嬉しそうに目を細めると、シュテンの肩へ飛び移った。
「それにしても、まさかカガセオの仕業だったとはな…」
「ええ…『勇者を終わらせる』、彼等は本気で国家転覆をやろうとしているのでしょうか」
「現に、王宮まで火を放っているからな…陛下たちが心配だ、急いで戻ろう」
メイはアンナを見上げて、強く頷いた。
そして三人が早足で動き出した、その時である。
「っ…!?」
雷が落ちたかのようなとてつもない轟音に思わず足が止まる。
「今のはっ!?」
「おィ」
シュテンが横を向いて、斜め上へと指を差した。
メイとアンナが指の先を追うと、一筋の黒煙が上がっている。
その方角は向かっている宮殿では無く、王京内部の市街地中心部であった。
「おいおい…」
アンナが思わず息を飲んでいると、メイが走り出した。
「あ、おいメイ!」
急いで後を追うアンナの後ろを、シュテンも追いかけた。
王京内の入り組んだ路地を、メイはまるで自宅の庭かのように、迷うこと無く進んで行く。
「メイの奴、結構速ぇぞ…!」
対するアンナは、見失わないように追いかけるので精一杯といった様相だ。
その道中では、爆発音が次々に聞こえ、逃げ惑う住人の悲鳴はどんどん折り重なって大きくなっていく。
メイが歯を食いしばっていると、進行方向の建物が突如爆発を起こした。
「っ!」
慌てて足を止めようとしたメイは、勢い余って尻餅をつく。
直後、建物の一部が瓦礫となってメイの前方数メートルの位置に降り注いだ。
「メイ!」
後ろで叫ぶアンナに手を上げて無事を伝えると、息を整える間もなく立ち上がり、尻の汚れを払うとそのまま瓦礫に飛び乗って越えていく。
その間にも爆発は続いている。
とにかく走り続けたメイが、中央の大通りへ出た時、その元凶が目に飛び込んできた。
「ふははははははっ!良い、良いですよ!もっとあたくしに悲鳴を聞かせてください!」
メイの目の前を、大勢の市民が流れていく。
皆、突然の出来事にパニックを起こしている様子で、まさに阿鼻叫喚の巷と化していた。
メイには人波の隙間からしか姿を確認出来ないが、その声を聞き間違える事は無い。
「ワドゥ…っ!」
前へ出ようにも、人が多過ぎて身動きが取れない。
「あっ!」
「!」
メイの目の前で、小さな子供が転んだ。
咄嗟に抱え上げて立たせる。
「大丈夫ですか?」
「うん…」
周りを見回す。親と思しき姿は無い。
「お母様は?」
「わかんない、はぐれちゃった」
メイが思案していると、ワドゥが居た方向から数人の声が聞こえてきた。
「お前らか!これをやったのは!」
「見れば分かるでしょう」
「この野郎!」
剣を抜く音。
その時ちょうど、メイの前にあった人の流れが途切れた。
開けた視界に飛び込んできたのは、ワドゥとフード付きローブを来た男を取り囲む数人の冒険者たちだった。
「お前らのせいで、店も宿もめちゃくちゃだ!」
「痛い目見てもらうからな…っ!」
冒険者の一人が強化ポーションを飲み、ワドゥへ斬りかかった。
対するワドゥは、指先を振って隣に立つフードの男に指示を出した。
「っ!?」
ぞくり、とメイの背中を冷たいものが通り過ぎる。
その直後、斬りかかった冒険者の身体が、激しく燃え上がった。
「ああああああああぁぁぁ!?」
冒険者は剣を捨てて地面をのたうち回る。
「がああ…あぁ…っ!」
その断末魔は、他の冒険者たちを怯ませるのに十分な効果があった。
「ち…ちくしょうがーっ!」
自棄になったのか、冒険者の一人が絶叫と共に突進する。
「だめ…だめ!」
メイの絞り出すような声は届かない。
フードの男に手をかざされた冒険者の足が爆発し、冒険者はその場に倒れ込んだ。
「ぐ…ああああああっ!」
足を抑えて蹲る冒険者に、フードの男は更に手をかざす。
二人目の火達磨が誕生し、短い命を燃やし始めた。
メイは抱えていた子供の目と耳を塞ぐ。
だが自身は目が離せずに、光景にただただ鼓動が早まっていく。
「メイ!」
追い付いたアンナは、メイの尋常ではない雰囲気を感じ、視線を目で追う。
その時、残った二人の冒険者が同時に発火した。
一帯に冒険者たちの悲鳴が木霊する。
それに混じって聞こえるのは、ワドゥの高らかな笑い声だ。
「嗚呼、やはり弱い者の悲鳴は良い!あたくしはやはり、この為に生きている!」
冒険者達の声が止んだ頃、メイは子供の目と耳から手を離す。
「…お姉ちゃん?」
メイは自身が通ってきた路地を指さした。
「こちらから、できるだけ遠くへ逃げて下さい。大丈夫、お母様には必ず会えます」
メイが頭を撫でると、その幼子は力強く頷く。
「お姉ちゃん、元気でね」
そう言い残し、走り去って行った。
「メイ、あの魔法って…………っ!」
アンナが問いかけようとするが、振り向いた途端とてつもない気迫を放つメイに驚き、言葉が詰まる。
そんなメイは徐ろに短剣を抜くと、脇目も振らず飛び出した。
「よし、これでいいだろ…メイ、どうだ?」
メイは微笑みを返す。
「ええ、もうすっかり良さそうです。ありがとうございます、クロ」
クロは嬉しそうに目を細めると、シュテンの肩へ飛び移った。
「それにしても、まさかカガセオの仕業だったとはな…」
「ええ…『勇者を終わらせる』、彼等は本気で国家転覆をやろうとしているのでしょうか」
「現に、王宮まで火を放っているからな…陛下たちが心配だ、急いで戻ろう」
メイはアンナを見上げて、強く頷いた。
そして三人が早足で動き出した、その時である。
「っ…!?」
雷が落ちたかのようなとてつもない轟音に思わず足が止まる。
「今のはっ!?」
「おィ」
シュテンが横を向いて、斜め上へと指を差した。
メイとアンナが指の先を追うと、一筋の黒煙が上がっている。
その方角は向かっている宮殿では無く、王京内部の市街地中心部であった。
「おいおい…」
アンナが思わず息を飲んでいると、メイが走り出した。
「あ、おいメイ!」
急いで後を追うアンナの後ろを、シュテンも追いかけた。
王京内の入り組んだ路地を、メイはまるで自宅の庭かのように、迷うこと無く進んで行く。
「メイの奴、結構速ぇぞ…!」
対するアンナは、見失わないように追いかけるので精一杯といった様相だ。
その道中では、爆発音が次々に聞こえ、逃げ惑う住人の悲鳴はどんどん折り重なって大きくなっていく。
メイが歯を食いしばっていると、進行方向の建物が突如爆発を起こした。
「っ!」
慌てて足を止めようとしたメイは、勢い余って尻餅をつく。
直後、建物の一部が瓦礫となってメイの前方数メートルの位置に降り注いだ。
「メイ!」
後ろで叫ぶアンナに手を上げて無事を伝えると、息を整える間もなく立ち上がり、尻の汚れを払うとそのまま瓦礫に飛び乗って越えていく。
その間にも爆発は続いている。
とにかく走り続けたメイが、中央の大通りへ出た時、その元凶が目に飛び込んできた。
「ふははははははっ!良い、良いですよ!もっとあたくしに悲鳴を聞かせてください!」
メイの目の前を、大勢の市民が流れていく。
皆、突然の出来事にパニックを起こしている様子で、まさに阿鼻叫喚の巷と化していた。
メイには人波の隙間からしか姿を確認出来ないが、その声を聞き間違える事は無い。
「ワドゥ…っ!」
前へ出ようにも、人が多過ぎて身動きが取れない。
「あっ!」
「!」
メイの目の前で、小さな子供が転んだ。
咄嗟に抱え上げて立たせる。
「大丈夫ですか?」
「うん…」
周りを見回す。親と思しき姿は無い。
「お母様は?」
「わかんない、はぐれちゃった」
メイが思案していると、ワドゥが居た方向から数人の声が聞こえてきた。
「お前らか!これをやったのは!」
「見れば分かるでしょう」
「この野郎!」
剣を抜く音。
その時ちょうど、メイの前にあった人の流れが途切れた。
開けた視界に飛び込んできたのは、ワドゥとフード付きローブを来た男を取り囲む数人の冒険者たちだった。
「お前らのせいで、店も宿もめちゃくちゃだ!」
「痛い目見てもらうからな…っ!」
冒険者の一人が強化ポーションを飲み、ワドゥへ斬りかかった。
対するワドゥは、指先を振って隣に立つフードの男に指示を出した。
「っ!?」
ぞくり、とメイの背中を冷たいものが通り過ぎる。
その直後、斬りかかった冒険者の身体が、激しく燃え上がった。
「ああああああああぁぁぁ!?」
冒険者は剣を捨てて地面をのたうち回る。
「がああ…あぁ…っ!」
その断末魔は、他の冒険者たちを怯ませるのに十分な効果があった。
「ち…ちくしょうがーっ!」
自棄になったのか、冒険者の一人が絶叫と共に突進する。
「だめ…だめ!」
メイの絞り出すような声は届かない。
フードの男に手をかざされた冒険者の足が爆発し、冒険者はその場に倒れ込んだ。
「ぐ…ああああああっ!」
足を抑えて蹲る冒険者に、フードの男は更に手をかざす。
二人目の火達磨が誕生し、短い命を燃やし始めた。
メイは抱えていた子供の目と耳を塞ぐ。
だが自身は目が離せずに、光景にただただ鼓動が早まっていく。
「メイ!」
追い付いたアンナは、メイの尋常ではない雰囲気を感じ、視線を目で追う。
その時、残った二人の冒険者が同時に発火した。
一帯に冒険者たちの悲鳴が木霊する。
それに混じって聞こえるのは、ワドゥの高らかな笑い声だ。
「嗚呼、やはり弱い者の悲鳴は良い!あたくしはやはり、この為に生きている!」
冒険者達の声が止んだ頃、メイは子供の目と耳から手を離す。
「…お姉ちゃん?」
メイは自身が通ってきた路地を指さした。
「こちらから、できるだけ遠くへ逃げて下さい。大丈夫、お母様には必ず会えます」
メイが頭を撫でると、その幼子は力強く頷く。
「お姉ちゃん、元気でね」
そう言い残し、走り去って行った。
「メイ、あの魔法って…………っ!」
アンナが問いかけようとするが、振り向いた途端とてつもない気迫を放つメイに驚き、言葉が詰まる。
そんなメイは徐ろに短剣を抜くと、脇目も振らず飛び出した。
20
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる