第19回漫画大賞 秋の陣

第19回漫画大賞 秋の陣

選考概要

今回、編集部内で大賞候補作としたのは「僕とイタチ」「ひかりのいろは」「モネと先生」「勇者がお姫様を救うありふれたお話」「東国のリガルティア~ポチは人並みの幸せを望んでる!~」「使者革命シャンティレガリア」「星屑ラプソディ」「ネイバーフッド」「僕と人魚の生活」「素直になれない直美ちゃん」「ゼンマイ仕掛けの鳥」「お菓子が繋ぐ恋のはじまり」「戦跡の巫女」「アビーくんとオオカミの少年」「オジサンでも恋がしたい!」の15作品。

バラエティに富んだ候補作の中から、編集部内で高い評価を集めた「モネと先生」を大賞(賞金50万円)に選出した。「大賞」作の選出はこれで7大会連続となり、回を重ねるごとに投稿作品がレベルアップしていることを実感する結果となった。

続く各賞の選考では、次いで支持を集めた「戦跡の巫女」を編集長賞(賞金10万円)に、「ひかりのいろは」をネコ部長賞(賞金10万円)に、「アビーくんとオオカミの少年」を優秀賞(賞金10万円)に選出。
さらに作品の完成度と今後の活躍への期待感から、「東国のリガルティア~ポチは人並みの幸せを望んでる!~」、「勇者がお姫様を救うありふれたお話」の2作品をそれぞれ特別賞(賞金各5万円)に選出した。

「モネと先生」は、魚人が住む不思議な離島で暮らす研究者と記憶喪失の幼子の生活を描いた日常ファンタジー。華やかな絵柄で、モネの挙動を魅力たっぷりに描きあげた点が高い評価を得た。美しい情景を表現する色彩のセンスも光っている。反面、静止画の連続に見えて、絵本のような印象を受けるのが惜しい。効果線や描き文字を増やしたり、もう少し体のひねりや動作のタメを描いたりして、漫画として動きのある見せ方を追求してみてほしい。

「戦跡の巫女」は、戦死したはずの人外の青年が、なぜか敵国の巫女となって目覚める所から始まるダークファンタジー。意外性のある発想で、冒頭から読者の心を掴むことに成功している。綿密に作りこまれた設定や壮大なストーリー展開も見事。読者の幅を広げるにあたっては、絵柄を洗練させることが必要だろう。まずは、より線を滑らかにして強弱をしっかりとつけることで画面にメリハリを持たせていきたい。

「ひかりのいろは」は、親に殺されかけた少年が、自らを保護してくれた忍びの青年達との交流を通して成長していく和風ファンタジー。美しく繊細な絵柄、今風のキャラクターデザインは非常に大きな武器だ。設定も丁寧に練られているため、物語に没入しやすくなっている。ストーリーが淡々としているので、はっきりと目的を持たせ起伏をつけることで物語としての深みや面白さを追求していってほしい。

「アビーくんとオオカミの少年」は、アルビノタヌキとオオカミ、偶然出会ったふたりの獣人少年の日常を描いた物語。キャラクター作りが上手く、真逆の性格の者同士のコミカルでテンポの良い掛け合いが高い評価を得た。一方でストーリーの練り込みが物足りなく、ほぼ会話のみで話が展開されるため広がりが小さい。キャラクターの感情を揺さぶる展開をもっと組みこんで盛り上がりを作っていくことが今後の課題となるだろう。

「東国のリガルティア~ポチは人並みの幸せを望んでる!~」は、性別を明かさずに王子の側仕えとなった元兵士の少女の奮闘を描く作品。背景や小物、衣装などが丁寧に描かれているため、ファンタジー世界にぐっと引き込まれる。キャラクターの動作をよりナチュラルに描くことができると、臨場感が一気に増すはず。ヒロインと王子の関係性はまだ掘り下げる余地があるので、さらに濃く描いていってほしいところだ。

「勇者がお姫様を救うありふれたお話」は、勇者に救われ魔王城から脱出した姫が自らにまつわる真相に迫っていく物語。タイトルや導入からは想像できない、ダークなストーリー展開にインパクトがあった。クオリティアップを目指すには、画力の更なる向上が必要。立体感を意識して線の強弱をつけること、細かな部分の書き込みや、仕上げを増やすことで見ごたえのある画面作りを目指してほしい。

惜しくも受賞を逃した9作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。

「僕とイタチ」は、ペットのフェレットと、振り回される飼い主の日常を描いたコメディ。リアルなタッチでありながら挙動や表情が愛らしいフェレットの描写が秀逸。ストーリーは、とりとめない内容の連続になっているのがもったいない。創作ストーリーかエッセイのどちらかにもっと強く軸足を置いて、この飼い主とフェレット独自の関係性を見せていくと更に読者を掴める作品に仕上がるだろう。

「使者革命シャンティレガリア」は、ごく普通の少年が、いわくつきの刀を抜いてしまったことで旅に出ることになる冒険ファンタジー。ストーリーの目的が序盤で明確に示されるため物語にスムーズに没入できるが、旅に出た後からの展開が駆け足気味で、情報量が詰め込まれすぎている。設定の説明に終始せずに、キャラクターの心情をじっくりと掘り下げることができるかが今後の課題だ。

「星屑ラプソディ」は記憶喪失の子供ふたりが、記憶を取り戻す鍵となる流星群を探して旅をする物語。カラー漫画で大賞を受賞したおさかなランウェイ氏によるモノクロ漫画である。柔らかみのある画風に魅力があり、見せゴマとそれ以外で大小メリハリのついたネーム構成も光る。ストーリーは淡々としており、食い足りない。キャラクターが目的を果たすうえでの障壁を設け、乗り越える過程での心情の変化やふたりの関係性の深まりなどを描くと、より読者を引き込める物語になるはず。

「ネイバーフッド」は、幼なじみの男子高校生と絶対に両想いになりたい女子高生を描くギャグコメディ。表向きは可愛らしい女子高生が繰り出す毒舌や変顔は大いにインパクトがあり、この作品ならではの個性的なキャラクター作りができていた。懸念点は、常にハイテンションで勢い任せなストーリーであるため、読者が置いて行かれてしまいそうなこと。読み手を意識しながらメリハリのある物語を目指す必要がある。

「僕と人魚の生活」は、人間の青年と人魚の女性の結婚生活を描くラブストーリー。キャラクター設定が深く掘り下げられており、ふたりの距離が縮まる過程を丁寧に描くストーリー構成も上手い。一方、画力は向上の余地がある。人物、背景ともに細かな書き込み不足で画面が寂しく単調になっているので、まずは仕上げの精度をアップし画面の密度を上げることを目指していってほしい。

「素直になれない直美ちゃん」は、意地っ張りな女子高生とコワモテだけど優しい男子高校生のラブコメディ。描きたいものがはっきりしているため、物語がブレないのが好印象。ここぞという場面で女子高生の可愛い表情を引き出せている。設定に目新しさはないため、キャラクターを更に掘り下げ、この作品ならではのひとひねりを足すことで、オリジナリティを出していってほしい。

「ゼンマイ仕掛けの鳥」は、ゼンマイ式の羽で飛ぶ少女が気ままに世界を巡る物語。難しい構図も正確に描けており、画力の高さを感じる。アップや遠景をバランス良く織り交ぜた、メリハリのある画面作りも見事。ストーリー面では、読者に継続して読ませる工夫がほしい。断片的なエピソードに繋がりを持たせたり、主人公の目的や思惑を設定し、それを阻む壁を用意してドラマを作ると、より読み応えある物語に仕上がるだろう。

「お菓子が繋ぐ恋のはじまり」は、ショップ店員の女性が、可愛い物好きなコワモテの男性に恋をするラブストーリー。可愛らしく華やかな絵柄が強みで、特に女性キャラクターは表情豊かに描けている。ネーム運びも、すっきりとしていて読みやすい。ストーリー展開にやや突飛な部分があるので、読み手を意識して設定の説明をしたり、キャラクターの心情描写を加える必要があるだろう。

「オジサンでも恋がしたい!」は、女性との理想のやりとりをオジサンが妄想する4コマ。あるあるネタを散りばめたエピソードは共感性が高い。想像とリアルの落差の表現も上手く、優れた構成力を感じさせる。ストーリーが形式化されているゆえに、徐々に新鮮味が損なわれていくのが難点。現実サイドのキャラクターを掘り下げることで話に広がりを持たせ、読者を飽きさせない展開を作っていってほしい。

「第19回漫画大賞 秋の陣」は1,242作品と、前回に引き続き1,000件を超え、過去最多の応募数であった。さらに、7回連続の大賞選出という大変喜ばしい結果に。
豊富なジャンル、独創性溢れるネタや作風の作品が集まり、充実した選考となった。今回よりタテ読み漫画の参加も始まり、より一層応募作品の幅が広がっていることも感じられた。次回も新しい発想を持った、個性と才能に満ちた作品が大賞をかけて競い合うことを期待している。

開催概要はこちら
応募総数 1,242作品 開催期間 2022年10月01日〜末日

編集部より

華やかで可愛らしい絵柄で、モネの挙動がイキイキと表情豊かに描かれている点が素晴らしかったです。全編カラーの意欲作でしたが、メリハリの効いた色使いで街の情景が鮮やかに表現されており、抜群の色彩感覚が際立っています。一方、動きのない絵が多く、絵本のような印象を受けるのは惜しいです。効果線や描き文字を増やしてみるとともに、体のひねりや動作のタメをもう少し描くことを意識すると、躍動感が増すはずです。ストーリーは、軸がまだ曖昧なように感じます。最終的な目的をはっきり示して大きなドラマを作るか、キャラクターの可愛らしさを見せることに振り切ってしまうか、どちらかに絞って構成したほうがお話にまとまりが生まれ、長期的に読者を引きつけることができるでしょう。


編集部より

ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。主人公とヒーローの掛け合いが軽妙で心地良く、ページをめくらせる力がありました。物語内での現代と異世界の絡ませ方も上手く、無理なくストーリーに入り込めます。絵に関しては書き込み不足でやや寂しい印象でした。まずは背景の書き込みを増やし、人物の仕上げも細部まで丁寧に行うことで画面の密度を上げていきましょう。画面のクオリティが上がると、一目見て作品に惹きつけられる読者を増やすことができるはずです。

戦跡の巫女

208位 / 1,242件

編集部より

主人公が敵国の巫女に転生するというアイデアに面白みがあり、特に序盤はストーリーがテンポ良く進むため一気に物語の世界に引き込まれました。秘密を抱えた主人公と従者の関係性もスリルに満ちていて、魅力的な設定作りができています。現状、絵がやや粗く見えてしまっているのが残念です。まずは線を滑らかにして強弱をより繊細につけることで、質を向上させていきましょう。絵柄の幅を広げ、洗練させていくことで更に読者が心を掴まれる作品になっていくはずです。


編集部より

端正な絵柄と、美しいキャラクター造形がひときわ目を惹く作品でした。老若男女描き分ける筆力をお持ちで、獣の描写もお上手です。設定もしっかりと調べた知識に基づいて考えられており、世界観が丁寧に構築されているゆえに物語への没入度が上がっていました。一方、ストーリーが淡泊で、キャラクターの関係の深まりもあっさり描かれているため、食い足りない印象です。起伏の大きな物語を作り、その中で関係性の構築過程をじっくり描くことを意識すると、より読者が熱中できる作品になるでしょう。


編集部より

正反対なふたりのキャラクターが互いに魅力を引き立て合っており、いきいきと動いていました。テンポの良い会話劇が小気味よく、どんどん読み進められる反面、話が小さくまとまりすぎており、ややとりとめがないようにも感じました。キャラクターの関係性の深まりを主軸に話を展開するにしても、ふたり以外のキャラクターを増やしたり、ふたりの生活範囲を広げたりしてもう少しストーリーに広がりを持たせた方が、物語に変化が生まれて、読者が常に新鮮な感覚で楽しめる作品になるはずです。


編集部より

背景や衣装、小物など細部まで丁寧に書き込まれており、ファンタジーの世界を存分に表現できています。画力面での課題は、動きをつけた時に人物を滑らかに描けるようになることです。ひねりの動作など、様々な動きを描く練習を重ねていきましょう。複雑な世界観ながら、説明過多にならずにストーリーを進められている点は良かったのですが、最大の見所である主人公と王子の関係性が掘り下げられておらず、物足りない印象です。もっと関係性を深く濃く描くことで、読者の心を惹きつけていきましょう。


編集部より

意外性のあるストーリー展開にうならされました。内容とはギャップがあるタイトルのつけ方も面白く、強く印象に残ります。短いページ数の中、お話もよくまとまっていましたが、まとまりすぎて食い足りない印象です。主人公が主体性をもって動く、スケールが大きな作品に、ぜひ次回作では挑戦してみてほしいです。画力に関しては、人物背景ともに、陰影のつけ方など細部にこだわって描くようにするとぐっと見応えが上がり、更に多くの読者の目に留まる作品になるはずです。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。

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