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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【プロローグ】

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 国のごちゃごちゃした問題はさておき、ここが秘密裏の施設に指定されているのは、実にシンプルな理由だと考えていい。――このアンダープリズンには、死刑判決を受けていながら、国の意向により生かされている殺人鬼がいる。ここはその殺人鬼を閉じ込めておくための施設であると言っても過言ではない。政治家の先生達は神にでもなったつもりなのだろうか。

 彼はきっと、今後も刑を執行されることはないだろう。世間体を考えて、すでに刑が執行されていることになっているのだから――。そして、倉科が会いに来たのもまた、その掟破りの殺人鬼なのである。

「玩具でもなんでも構わんが、ちゃんと協力してくれるかが問題だな。まったく……警察が殺人鬼の力を借りなきゃ事件を解決できないなんぞ、情けなくて涙が出てくる」

「まぁ、彼一人のために、こんな大掛かりな体勢でここを管理していますから、それなりの成果は見せてくれるんじゃないですか?」

 あの男と直接的な関与がないから、中嶋は呑気のんきなことが言えるのだ。実際に会うことになる倉科は、やはり気が重たくて仕方がなかった。あんな天邪鬼あまのじゃくな狂人の機嫌とりをしなければならない身にもなって欲しいものだ。ここでの勤務も相当にストレスフルなのだろうが――。

「それにしてもマスコミでも連日取り上げられていますよね。殺人蜂――。まぁ、あれだけ異常性の強い事件が立て続けに起きたとなれば、マスコミにとっても良い飯の種なんでしょうが」

 自分が無責任なことを言ってしまい、倉科が少しばかり機嫌を損ねたのに気付いたのであろう。中嶋は少し手前の話題へと話を戻した。

「狙われるのは未成年の少女。凶器は千枚通しやアイスピックなどの先端の尖ったものだと思われる。事件発生時刻はまちまちだが、背中から滅多刺しだよ、滅多刺し。今のところ被害者に共通点も見つかっていない。目撃証言もないし、これといった証拠もない。常識人しかいない捜査本部は、正直行き詰まっているわけだ」

 中嶋の思惑に乗ってやるみたいで面白くはないが、ただでさえこれから大きなストレスを抱えるというのに、余計なストレスを抱えたくない。自分自身で整理するためにも、事件のことを振り返るのも悪くない。

「目には目を、歯に歯を、殺人鬼には殺人鬼を――。日本のお偉いさん方もクレイジーなことを考えますよね」

「……俺らも同類さ。そのクレイジーな考えに仕事として従事してるお前も、事件との橋渡しをしなきゃならない俺もな」
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