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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 国会中継なんかを見ていて、倉科はふっと思うことがある。まるで学級会のようであると。ひとつの意見に対して幾つもの野次が飛び交い、中には居眠りをする議員もいる。そもそも国会で取り扱う内容が不服であるとして、出席すらしない議員までいるのだ。これが国を動かすための会議であるなど到底思えないし、思いたくもない。

「事件には被害者がいて、その被害者には家族がいるんだ。そして、事件解決のために汗水を垂らしている人間が大勢いるんだよ。それなのに、お偉さんの保身のために早期解決? ふざけるのも大概たいがいにして貰いたいな」

 身内相手ということもあってか、ややヒートアップした口調が出てしまった。きっと心の中では様々な不満を抱えていても、いざ国のお偉さんを前にしたら、何も言えなくなるだろうにだ。

「気持ちは分かるし、その言い分がもっともなのも理解している。だが、私の立場というものも少しはんで欲しい。私だってアンダープリズンの案件を押し付けられた被害者のようなものなんだから」

 そう言われて、ぶつけようのない怒りを舌打ちという形で発散する。確かに、アンダープリズンのことを押し付けられた叔父が悪いわけではない。それは分かっているのだが、ならば誰が悪いというのだろうか。国の政治の在り方であるなどと、ここで余計な議論をしたくはないし、そんなことをするだけ時間の無駄である。最終的には水掛みずかけ論になってしまうのだから、ここはぐっと堪えるしかなかった。

「それで叔父さん。用件はそれだけか? 俺にプレッシャーをかけるためだけに連絡してきたわけじゃないだろう?」

 口から飛び出してきそうな愚痴を堪えながら、倉科はできる限り取り繕ってみせた。どうせ叔父に愚痴を漏らしたところで、国が変わるわけではないし、自分の立場が改善されるわけでもない。ましてや、アンダープリズンがなくなるわけでも、坂田の刑が執行されるということでもない。様々なしがらみのなかで、よくも取り繕えたものだと自分を褒めてやりたかった。

「――今夜、少し時間が取れるか? 今、そちらのほうに向かっていてね。直接話をしたいことがあるんだよ。君にとっても悪い話じゃない。むしろ、これまで一人で0.5係を任されてきた君には朗報だと思う」

 事件を解決しろとせっついてきたかと思えば、今夜は時間が取れるかときたものだ。刑事とサラリーマンを同じものだとでも考えているのだろうか。事件が起きた直後にアフターファイブに洒落込む刑事がどこにいるというのか。いるのならばぶん殴りに行きたいところだ。
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