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書籍該当箇所こぼれ話

閑話 何だあいつら?

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冒険者・ランディ視点
遠征中の話です。


**********


 俺はランディ。二十歳。
 Dランクの冒険者で、Bランクパーティ『黒の双剣』の一員だ。
 今回、騎士団と合同のガヤの森魔物討伐の依頼を受けてシーリンの街にやって来ていた。
 俺は初めてだが、グレイさん達は以前に一度、依頼を受けたことがあるらしい。
 本来、俺くらいの実力でガヤの森に入るのは危険だ。だから、俺だけシーリンの街で待機するようにと言われていた。
 だけど、置いて行かれるのは嫌だ!
 グレイさん達の実力には及ばないものの、これでももうすぐCランクに上がれると言われている。俺の年でCランクになれるのは早い方だ。
 そんな頑なな俺の態度にグレイさんの方が折れてくれた。連れて行ってくれる代わりに絶対、命令に従うことを約束させられた。
 もちろん了承したさ。これで一緒に依頼に行ける!

 依頼日当日。
 出発前、集合場所の西門で待機していると、俺よりも三、四歳 若そうな男が小さな子どもを二人も連れてやって来た。

「おはようございます、ヴァルト様」

 子連れの男は遠征の総隊長である騎士のところに挨拶にいった。
 なっ! もしかしてあいつらもガヤの森に行くのか!?
 あいつバカか? ピクニックにでも行くつもりでいるのか?
 そう思ったのは俺だけではないはずだ。グレイさん達もそう思っただろうし、準備を進めていた他の騎士達もあの男に厳しい視線を送っていた。
 しかし、あの隊長の騎士が強引に参加を決めたような話しをしていた。
 その途端、騎士達の態度は軟化した。あの隊長は人望が厚いようで、その人が決めたことなら仕方がないって感じだ。
 でも本気で連れて行くのか? 足手纏いだろ?
 まあ、俺達のパーティとは違う隊になるみたいだし、関わることはないなら別に構わないか。
 せいぜい死なないように頑張れ、俺はそう思った。


 森の調査が始まった。
 初日は進行途中でジャイアントボアとオークに遭遇した。だけど、グレイさんや騎士達が問題なく倒した。俺も少しは役に立ったぞ!
 だけど、どうやら森の様子がおかしいらしい。
 本来ならばもう少し魔物と遭遇するはずなんだとか。それに森自体が異様に静かに感じるだってさ。俺にはわかんないけど、グレイさんもそう言うから、そうなんだろう。

 二日目も初日と変わらない感じだった。

「ぶ、ブラッディウルフだ!!」

 変わらないと思っていたのが、突然の襲撃で呆気なく崩れた。

「こんな処で群れだとっ!? ランディ! お前は身を守ることに集中しろっ!」
「は、はいっ!」

 Bランクの魔物。ブラッディウルフが群れで襲ってきた。
 一匹でも厄介な魔物なのに、相手は群れだ。一、二、三………、七匹もいやがる。
 それに対して、俺達『黒の双剣』のメンバーが五人とシーリン支部の騎士が十二名。
 ブラッディウルフ一匹に対して半数の人数で対峙しても倒せるかどうか、というところだろう。
 圧倒的に不利な状態だった。
 騎士の一人が直ぐさま赤の照明弾を使った。救援を呼ぶためだ。
 今日の夜に同じ野営ポイントに集合する予定だったといえ、どのくらい離れた場所にいるのかはわからない。それまで何とか持ちこたえなければ、俺達に明日は無い。
 次々と飛び掛かってくるブラッディウルフに俺達は防戦を強いられた。
 攻撃する隙がなく、じりじりと追いつめられていく。襲いくる爪を剣で弾き飛ばすが、あまりの力に体勢が崩れてしまう。

「ランディ! 避けろっ!」
「くっ!!」

 グレイさんの声で咄嗟に地面を転がり、襲ってきたブラッディウルフを避けようとしたが、腕に爪を掠めてしまった。

「っ……」
「ランディ、大丈夫かっ?」
「なんとか……」

 そう答えたものの、疲労がどんどん重なり、足が重くなってきた。
 立ち上がらなければ! そう思うが体が言うことを聞いてくれない
 ちくしょう! このままでは!!
 死を覚悟しなければならない、そう思ったその時――

 ――ドーンッ。

「なっ! 何だっ!?」

 !!!? 何が起きたんだ!?
 突然の爆発音と暴風。さらに砂埃で視界が一気に悪くなった。
 しかし、その砂埃は一瞬で消え去った。
 視界が良くなると、何匹かのブラッディウルフが蹌踉めいていた。

「ギャウン!」

 ブラッディウルフの尋常じゃない鳴き声に慌てて背後を振り向くと、男がブラッディウルフの体の上から剣で斬りつけていた。
 男は突き刺した剣を引き抜くと、すぐ側にいたもう一匹のブラッディウルフを切り捨てた。その一撃で確実にブラッディウルフを仕留めていた。
 見覚えのある人物だった。
 あいつだ! 子供を連れてきていた男だ。
 違う隊に同行していたはずた。ということは、救援に来てくれたのか? ……と思ったが、他の者の姿は見当たらなかった。

 ――ドコンッ!

「なっ!!!?」

 今度は俺の目の前で起きた。
 子供が空から降ってきて、ブラッディウルフを下に押しつぶして着地していた。
 はぁ!? 嘘だろう!? 地面がめり込んでるぞ!!
 確実に下敷きにされたブラッディウルフは死んでいるだろう。なんてことだ。あっという間に四匹のブラッディウルフを倒してしまった。

「気をつけるんだよ」
「「はーい!」」
「おっ、おい!?」

 子供が残っているブラッディウルフのうちの一匹に向かって走っていった。
 グレイさんも慌てたような声を出していた。
 はぁ!? ちょっと待てっ! あの二人とブラッディウルフを戦わせる気かっ!?
 無謀だろっ! あんた保護者だろう? なんで見送ってんだよっ!
 子供は一匹のブラッディウルフを挟み込むと、交互に攻撃をしかけ始めた。

「やっ!」
「ほいっ」
「とう!」
「はっ!」

 はぁ!? ブラッディウルフと対等に渡り合っている!? 冗談だろう!?
 グレイさんだってブラッディウルフ相手なら、一対一でも苦労するはずだ。そんな魔物相手に子供が対等だとっ!?
 夢か? これは夢だよな?
 いやいや、ブラッディウルフにやられた傷がズキズキと痛む。これは現実だ。
 だが、夢のような出来事なのは間違いない。

「ほりゃあー」
「んしょ!」

 攻撃を仕掛けては距離をとり、相手が迫ってくればさらりと避ける。
 子供達の戦い方は余裕さえ感じる見事なものだった。

「「こっちこっちー♪」」

 うわー。挑発までしてやがる……。何なんだいったい……。

「よぉ!」
「ほいっ」

 あっ、ブラッディウルフが体勢を崩した。

「「とう!」」
「ギャウン!」

 それを見逃さず、二人が息を合わせて渾身の跳び蹴りを繰り出す。
 ブラッディウルフはその蹴りに耐えきれずに吹っ飛んでいった。

「「あっ」」

 あっ……。飛んでいったブラッディウルフが、子供達の保護者っぽい男が相手していたブラッディウルフに激突した。
 ぶつかり合った二匹のブラッディウルフは縺れるように転がっていた。
 男も驚いたようにこっちを見ていたが、そこにいたのが子供達だったことに納得したような顔をしていた。そして転がっていったブラッディウルフに近づくと、首を斬りつけていた。
 トドメを刺したんだよな?
 てことは、こいつら…全部……倒したってことだよな……。

「おい! 無事かっ!?」

 あっ、……他の隊の騎士が来た。もう終わっちゃっているけどな……。
 ……ああ、うん。ていうか俺達、助かったんだな……。
 衝撃的なことが有りすぎて、本当に助かったと実感できるまで少し時間が掛かってしまったのは仕方がないよな?



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