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千姫ルート 上海要塞防衛戦2

副将の悩み(エロ度☆☆☆☆☆)

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 多少の事情はあるものの、工作兵の中で作業を行う忠勝。
 それに対し、(後藤)基次の方はどっしりと軍議の間に構え、練兵でもなければ動くことはなかった。

 常に悠然と鎮座する副将がいるというだけで、将兵に多分に安心感を与えることができる、そう考えていたからだ。

 だが、基次とて人の子。
 何があっても迷わないというわけではない。

 憮然と眺めるその視線の先には加藤隊や島津隊より次々と届けられる報。
 進軍の速度と規模、見える範囲での武装、それに士気。
 そう言った基本的な情報は非常にありがたいものである。
 ただし、一点だけ、彼らの行いについて記されたその文に頭を悩ませていた。

「・・・・・・真田殿、ご意見を伺いたい」

 立場上、本来は千姫にくっついて護衛するべきなのではあるが、少し無理を言って来てもらったのだ。

 今、この上海要塞にいるもので20歳を超え、尚且つ戦場を経験している将は限りなく少ない。
 忠勝は例外として、それが基次と信繁のたった二人だけ。

「後藤殿、某は――」
「分かっておる。しかし、拙者には皇后様のことが良く分からんのじゃ。本来なら大将と言うのなら、全てに目を通せと言いたいところじゃが・・・・・・」

 自分にも他人にも厳しいというのは(黒田)長政の評価だが、こういう立場の者はこうあるべきという考えが固定されているのだ。
 そして、本来であれば大将たる者はどっしりと構え、全てのことを知りつつも、戦場においても泰然自若。
 そうあるべきであり、そうでないのなら大将にあらず、と考えていた。
 その考えにおいて、如水は認められ、長政は認められなかったということだ。

 さて、その考えに照らせば、この明軍の非道を詳細に語った報も千姫に見せる必要がある。
 しかし・・・・・・。

「およそ、戦の最も醜悪な面が全て書かれておる。これを見ても果たしてあの姫君は崩れずにおられるじゃろうか?」

 基次とて人の子。
 事情を知っている上に、健気に頑張る年端もいかない少女を見て、苦しむ姿を見ていたくないと考えてしまう。
 こういう部分は自分たち大人が受け止めればいい、と。

「・・・・・・これは、明軍はこれほどの無道を?」

「うむ。敵の進発が早過ぎるとは思うたが、これが理由ということじゃ。加藤殿や島津殿も当初の予定を変更し後続と援軍の排除に勤めておられるようじゃ」

 護衛を勤めている信繁にとって、その報に接するのは初めてのこと。
 ただ、やはり戦国に生きる武将としては、この程度では動じない。
 沸々と怒りがこみ上げ、肩が震えようとも。

「・・・・・・ふぅ、成る程、確かにこれを皇后様にお見せするのは・・・・・・」

「うむ。それにじゃ、今この城の士気は間違いなく皇后様のおかげで昂揚しておる。その分ずいぶんと無理をしているようじゃがな。まさかあそこまでやるとは思わなんだ」

 そう言って障子を開け、城壁を見る。
 そこに千姫がいるかどうかは分からないが、少なくとも城壁は完成間近に見える。
 ここに来た当初は絶対に無理だと思ったのに、だ。

「ええ。それについては某も同感です。なればこそ――」

「皇后様が少しでも気落ちすれば城全体の問題になりかねん。良くも悪くも大将になれておる、ということじゃな」

 そして、だから見せるべきかを迷うのだ。

「・・・・・・この報せは見せずに敵の到着予想のみを伝えることにした方がよいでしょう」

「うむ。そうじゃの」

 しかし、曲がりなりにも問題を解決したというのに基次の顔は暗いままだった。

「まだ何か?」

「南京に行くにも何度か村は通らねばならん。どうあがいても知らぬままとはいかんじゃろうな」

 村や町は交通の要衝で発展するもの。
 商工業の中心である上海と、旧王都であり大都市の南京の間の町や村は自然と発達する。
 そして、この時代においても発展すれば当然人も増える。

 ・・・・・・時間のないこの戦で大回りすることなど出来ない。
 地獄絵図の中を行かなければならないということだ。

「まったく、大将の心配とは拙者も歳をとったものじゃ」

 ふ、と自嘲気味に笑い立ち上がる。

「真田殿」

「・・・・・・はい」

「いざ戦が始まれば、拙者は先駆けをいただく。そうすれば皇后様の守りはどうしたって薄くなってしまう。どうか、よろしく頼むぞ」

「はい、お任せください。後藤殿も武運長久をお祈りいたします!」

 どちらともなく手を差し出し合い、両雄は固く握手を交わす。



 報で知らされた明軍の到着予想はもう、三日後にまで迫っていた。

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