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間章2 勇者達、シルフィーユ王国へ

夕食に潜む罠

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○○○ 桜木春人 視点

俺達は、ゴブリンが30体現れた森をくまなく探索したけど、異常は見当たらなかった。バーンさんとリフィアさんと夕実の3人だけが気付いた奇妙な視線も気になるところだな。

「師匠、森の中は異常なしですね。やはり村の中か、王都への道中で何かが起こったとみるべきですか?」

「森の中は、確かに異常なしだ。ただな、異常がなさ過ぎる。普通ならゴブリン以外の邪族とも遭遇するはずが、周辺にはその気配がない。これまで多くの国を見てきたが、道中で1日に必ず数体の邪族と遭遇していた。今日に限って、1体も見ていないのが気にかかるな」

確かに、今日は珍しく邪族と遭遇していない。この周辺にもいないということは、誰かが討伐したと考えるべきだろう。

「バーンさん、とりあえず戻りませんか?」
「そうだな、もうここには用がないからな」

村に戻り、村長に異常なしと報告すると、リフィアさん達が戻ってきた。

「バーン、こちらは異常なしよ」

「こっちもだ。ただ、邪族と1体も遭遇していないし、周辺にはその気配も感じられんのが気になるな。何か引っかかる」

バーンさんの直感か。確かに、さっき村人達を観察したけど、数人何というかこれまで会ってきた人達と何か違うんだよな。

「バーンさん、さっき村人達を見て、ふと思った事があるんです」
「なんだハルト、言ってみろ」

「これまでに会った村人達の中で、顔色の悪い人達が数人いたんです。その人達から、何か妙な違和感を感じたんです。『精神一到』で見ていないのでなんともいえませんが、何かこう身体の中に別の何かがあるような」

「なるほど、別の何かか。上出来だ!邪族ばかりに囚われていて、村人を詳細に見ていなかったか」

「うーん、視線に気を取られて、私も見落としていたわね。ハルト、よく気付けたわね」

お~、褒められたよ!

「確かに、顔色の悪い人はこちらも数人見かけたね。私も視線の事を言われて、そっちにばかり気がいってたよ」

美香の方でもいたのか。

「顔色の悪い数人の村人、気になるな奇妙な視線か。とりあえず、今日はここで泊まり、様子を見てみるぞ」

「「「「「「はい!」」」」」


夕食の時間までは、自由行動となったのはいいが暇だな。依頼遂行中だから、模擬戦も出来ないか。それなら『精神一到』の練習をしてみるか!お、あの木しっかりしているな。あれなら登っても問題なさそうだ。


---よし、ここまで登れば大丈夫だろう。

まずは目を閉じ、精神を集中させる。ふうーー、これでいい。精神一到は雑念を捨て、相手を見据える事が大事だ。あそこにバーンさんがいるな。現状バーンさんと本気で戦った場合、勝てる見込みがあるかな?

-------うん、わかってはいたけど、勝てる確率0%かよ!俺がどういう手段で挑んでも、跳ね返される場面がフラッシュバックしたぞ。ただ、この精神一到は集中すればするほど、相手の本質が見極められるし、討伐方法も精密に教えてくれるはずだ。問題は、どうやって今以上に集中するかだな。こういう場合、気配を断ち心を無にすればいいんだが、確か言葉では【無想】というんだよな。今でも、こうやって考えている時点で、雑念に入るのかもしれない。あの時の精神一到を獲得した時のことを思い出して、あれ以上に心を無に気配察知を拡げてみよう。何か感じても無視して、拡げるだけに集中だ。


!!!

○○○ 


夕食の時間になったため、一旦村長が用意してくれた家に戻った。

「春人、どうしたの?深妙な顔して」

「うん、ちょっとな。目を閉じて精神一到の訓練をしていたら、妙な気配を見つけたんだ」
「妙な気配?」

「それを見つけた時、目を開けてその方向を見ると、顔色の悪い村人達が普通に談笑していただけだった。気配も消えていたんだ。それで、目を閉じてもう1度探ると、やはり妙な気配があるんだよ。それも顔色の悪い村人達に感じた」

「おい、ハルト、その気配をもっと深く探ったのか?」

「ええ、ただどんなに集中しても、気配の中身がわからないんです。気配を感じ、探ると中は空だったというのが第1印象ですね。精神一到自体は発動しているので、俺の集中が不足しているだけとは思うんですが---」

その気配自体も、正直なんと言ったらいいのかわからない。邪族とは違うし、エルフや人間とも違う。邪族の場合は、ドス黒い塊のような感じがするが、この気配からは感じるものはないのだ。そう、矛盾している。気配は感じるのに、中は空なのだから。

「ふーむ、村人達から感じる気配、探ると中は空---か」

「今迄、聞いたこともないわね。邪族が村人を乗っ取っても、なんのメリットもないし、この村で何が起こっているのかしら?こんな奇妙な感覚は初めてね」

バーンさんやリフィアさんでも、わからないこともあるんだな。

《コンコン》

俺が玄関のドアを開けると、村長さん達が夕食を運んで来てくれた。

「皆さん、今日は見回りをして頂きありがとうございます。何分小さな村ですので、あまり豪華な食事というわけにはいきませんが、ご夕食を用意させて頂きました。テーブルに置かせて頂きます」

あの~村長、凄く豪華です。軽く周辺を見回りしただけで、こんなに頂いて良いのだろうか?美味しいそうな匂いが漂って来てるよ。エルフは野菜を主体とした料理だから、サラダや和え物、天ぷらなど多くの料理が並べられた。あれ?これって唐揚げ?

「村長、これ唐揚げですよね?」

「やはりご存知でしたか!テルミア王国で流行っていると聞きましてお作りしました。知り合いからレシピを聞いていますので、お口に合うと思います」

「「おお~~~村長、ありがとうございます!!」」

声を揃えて言ったのは、もちろん目を輝かせた美香と夕実の2人だ。マルティークで材料を買ってはいたが、揚げていなかったから相当飢えている。【野菜の天ぷらもいいけど、やはり肉の揚げ物がいい】と豪語していたなからな。

それじゃあ頂きますか!

おお、みんな美味いな。唐揚げも、きちんと味付けされていい。このスープ、あっさりしていてよかった。特にこのドス黒い実、あまりにドス黒くて、初めは遠慮したけど、残すのも悪いので思い切って食べたら、見た目とは裏腹に美味かった。

「あれ?真也、義輝、夕実、その実を食べないのか?」
「結構美味しかったわよ」

美香も食べたんだな。

「「「見た目がね~」」」

「よし、残すのも悪いから、夕実の分も食ってやるよ」
「真也君、いいんですか?助かります」

「仕方ない、俺も食べるか」

真也と義輝は、覚悟を決めて食べた。そこまで嫌だったのか?

「うう、なんか真也君に全部食べてもらうのも悪いんで、私も少し食べます」

夕実が食べようとした時、真也が突然立ち上がり、夕実のフォークに刺さっている黒い実をフォークごと叩き落とした。

「痛!真也君、急にどうしたんですか!」
「ゆ、夕実、た、食べるな。その実、何か---おかしい」

なんだ?真也の様子がおかしいぞ。

「ぐ、ぐう~~」
「え?真也君、義輝君も!」

《グアー》
《ガアーーー》

「おいおい、こいつはどういうこった?」

「これは、----大変だわ!シンヤとヨシキの体内の魔力バランスが崩れ出してる!このままだと2人とも死んでしまうわ!」

なに~~!ちょっと待てよ。俺、美香、バーン、リフィアさんが食べても異常なかったぞ。

「私はヨシキ、ミカはシンヤに回復魔法『マックスヒール』を唱えて!急いで!」
「は、はい!」

「ユミ、あなたはバーンとハルトのところにいて」
「は、はい!」

おいおい、俺はどうしたらいいんだ?

「ハルト、落ち着け!ここは2人に任せるんだ。俺達は、回復魔法は使えはするがそれだけだ。専門知識は0だからな」

「し、真也君が叩き落としてくれなかったら、-----私も---」

「ああ、なっていただだろうな。ハルト、精神一到の準備をしろ」

そうか!

「わかりました。真也と義輝を絶対に死なせたくありません。必ず治療方法を探り出します」

真也、義輝、しばらく我慢していてくれ。必ず救い出してみせる。


○○○ 島崎美香 視点


ちょっとどうなっているのよ。真也の魔力が体内で暴れ回ってる。マックスヒールを唱えても暴れ方が少し落ち着くだけで、一向に治る気配がない。魔法が止まると、再度暴れ出すから、ずっと唱えておかないといけない。

「リフィアさん、マックスヒールを唱えても暴れ方が少し落ち着くだけです。まるで、魔力が外に出て来ようとしているみたいです」

「こちらも同じよ。ミカ、状態回復魔法『ディスペル』も同時に唱えておきなさい。そうすれば、暴れは収まるわ。ただ、少しでも緩めると、再度暴れ出すから注意しなさい」

「わかりました」

ふう、ディスペルを唱えたら、なんとか収まった。でも、治療するにはどうしたらいいんだろう?真也の体内を探っても、悪い物が見当たらない。これじゃあ、対処方法がわからないよ。それに、少しずつ真也の生命力が弱くなってる。このままじゃあ、あと1時間くらいで死んじゃうよ。

「く、予想以上に厄介ね。悪い箇所が見当たらないわ」
「リフィアさん、こっちも同じです。このままじゃあ」

春人を見ると、目を瞑って集中しているのがわかる。精神一到の準備をしているんだ。春人が答えを見つけてくれるまで、こっちは全力で真也に中にある何かを抑えつけてやる。リフィアさんを見ると、頷いてくれた。同じ考えなんだ。


春人、お願い!
真也と義輝を治療する方法を探して!


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