関白の息子!

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千姫ルート 上海要塞防衛戦4

失態の責任(エロ度☆☆☆☆☆)

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 前日の勢い任せの攻城と違い、2日目の明軍の攻城は何とも淡泊なものだった。

 弩の最大射程に近い半町先からの射撃。
 ほぼそれに徹しており、日本軍もまた銃撃だけで応戦する。

 だが、その被害は大きく異なる。
 明兵たちは木の盾に隠れながらだが、日本は城壁に隠れながらの射撃。
 ただし、弓で城壁は破ることはできないが、銃弾は木の盾を貫通し、なお兵に殺傷性の傷を与えうる。

 実はそれだけではなく、明側からは見えないところで日本兵には圧倒的に被害が少ない理由があった。

 銃が登場していない時代。
 攻城の度に城壁越しの弓の撃ち合いが行われてきた。
 攻城側は遠くから城壁の上の兵や、城壁の向こうで同様に弓を放つ敵兵の数を減らすのだ。
 そして、長梯子を掛け、兵に城壁を越えさせ、内側から門を開いて兵を中に入れ、政庁つまり敵本陣を襲う。
 これが言ってしまえばオーソドックスな攻城であった。

 攻城のための兵器が生まれてからはその限りではなかったが、それが未だ戦場に到着していない。
 ゆえに、そのオーソドックスな攻城を用いて、攻城兵器が到着した後で邪魔となる敵兵を減らすことが今の明兵の目的である。

 しかし、結論から言って、ほぼまったくと言って良いほど効果を発揮しない。
 その理由もやはりこの廓構造の要塞にあるのだ。
 今現在城壁の上に日本兵の姿はない。
 従って、明兵は城壁の裏にいるであろう兵を狙って射撃している。

 だが、長い戦乱を越える中で、中華の城壁はより高く、より高くと進化したが、日本は物理的に弓の威力を軽減するように進化した。
 投射型の射法を採る時、放たれた矢がもっとも威力を持つのは、放った直後は別として、地面に落着した時となる。
 矢が上昇する間はその上昇に力が使われ、その最高点に達した時威力は最も低くなり、落下するにしたがって威力が増していくからだ。

(物理用語で言えば、運動エネルギーを位置エネルギーに変換していき、上死点において位置エネルギーが最大となり、落下に従い位置エネルギーが運動エネルギーとなる。この運動エネルギーがすなわち弓の威力、位置エネルギーは潜在的な威力ではあるが、運動エネルギーに変換されねば害にはならない)

 さらに上方に向けて撃っていれば、そちらに力を使う分、横方向の力は弱くなる。

 そして、盛り土により地面が高くなり、その最高点に近い城内では矢は大した威力を持たないのだ。
 もちろん威力の高い投射型ではなく、直射型の射法では城壁が邪魔をする。
 城壁の上に兵を配さないのは無駄死を防いでいるだけなのだ。
 更に言えば、銃弾を防ぐために作られた具足は威力の低い矢など通じない。

 通った歴史の違いゆえに、両者に差が生まれるのは仕方のないことだった。



 さて、そんな戦場の喧騒はさておき、日本軍の本陣では別の戦いが繰り広げられていた。

「皇后様、この度の失態。軍の作戦を預かるものとしてあってはならぬことです。軍規に照らし、某を処罰していただきたく」

 交渉から戻ってからというもの、井頼は自分の処分を求めていたのだ。
 叶うことなら切腹させてほしい、と。
 もっとも、切腹は最低限の武士の名誉。
 罰に対してそれを許されるかは大将である千姫の判断次第。

「ですから、そんなものは必要ありません。今、井頼殿を罰してどうします。敵が予想を超えていただけのことでしょう? 勝敗は兵家の常と言うではないですか」

「・・・・・・いえ、やはり今回の私の失態は重すぎる。敵を見誤っていたのではありません。敵を侮っていたのです。もっとも、忌むべきことです」

 井頼はそれがどうしても許せなかった。
 そもそもが敵の日本への侮りを利用する策を練っておきながら、自分の方が侮り、取り返しのつかないことになるところだったことが。

「井頼殿。人は学び成長することができるものです。敗戦は特にその学びが大きいと聞きます。今日、井頼殿は負けたかも知れませんが、明日はきっと成長して勝ってくれるでしょう。それは明後日かもしれませんが、結局のところ生きていなければ成しえません。井頼殿、負けたまま、悔しいままで死んでしまって良いのですか?」

「・・・・・・皇后様」

 自分より4つも年下の少女に教え諭される。
 18の少年にとっては本来恥ずかしさすら覚えることだろう。
 だが、千姫のその慈愛に満ちた表情がそう言った感情を起こさせない。
 だからだろうか、井頼の張りつめた表情も少しずつ解けていく。

「・・・・・・それと」

 千姫の視線の先には先程戦場の全ての視線を奪った漢。
 本多平八郎忠勝がそこに立っている。

「それで、平八じーじがどうして此処に?」

「ぬ、ぬぉっ!? 随分と懐かしい呼び名を」

 それは初孫である千姫のもとを家康が訪れた時、いや、千姫の方が訪れた時であったか。
 家康は自らをじーじと呼ぶように言い、共にいた忠勝を平八じーじと呼べと言ったのだ。
 忠勝としてはそんなことを覚えているとは露ほども思っていなかった。
 なにせ、あれはまだ千姫がほんの4歳。
 徳川がもっとも栄華を誇っていた頃の記憶。
 もう、10年も経つ。

「高い高いが高すぎて泣いてしまったのを覚えています」

「う、申し訳ない」

 忠勝が少し小さくなって謝ってくるが、千姫としてもそんな事は正直どうでも良い。

「いえ、もう小さい頃のことですし。それよりも! なんで此処にいるんですか!? じー、じゃなくて、お爺様は!?」

 千姫としてはまず一番気になるのはそこだ。

「も、申し訳ございませぬ姫様。ですが、某にも殿が今どちらに連れ去られてしまったのか分かりませぬ。誠に情けないことですが、某だけが残されてしまいました」

「・・・・・・じゃぁ、平八じーじがお爺様を連れ出したわけではないのですね?」

「はい。同時に正信でもございませぬ。殿もそのようなことは決して望んでおりませんでした。何者かは判然としませんが――」

「攫われてしまったのですか・・・・・・」

 千姫にとっては少しだけ救われた気分だった。
 自分の祖父が一族のことを無視して逃げ出したのではないと言うだけで、まだ精神的には良い。
 もちろん、結果は変わらないし、自分の祖父の行方も気になるのだが・・・・・・。

「それを告げに大阪に行き、陛下から姫様の助っ人を依頼されたのです」

「そう、ですか。では来られたのは先日の補充の時、ですよね? じゃぁどうして今まで」

 それは当然の質問ではあった。
 だが、その答えは忠勝らしくないもの。

「ぐむ、あ、会わせる顔が無く・・・・・・」

「は? プッ、フフフ。徳川の守護神が何を」

「うぐ、申し訳ない」

 戦神の姿を見た直後でもあり、千姫にはそれがおかしくて仕方なかった。

「本多忠勝殿。私を助けてくださいますか?」

「ははっ! この命にかけて!」

 家康が見つかるまでの間とは言え、千姫は万夫不当の猛将の助けを得ることとなった。



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