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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「いや、待てよ――。彼ならもしかすると」

 ふいに宙へと目線を泳がすと、安堂は思い立ったかのように立ち上がり、デスクのほうへと向かうとパソコンをいじり始める。何事かと縁も立ち上がろうとするも「すいません。うちの企業秘密を弄ってますので、どうか座ってお待ちください」と、安堂からとがめられた。アンダープリズンでは機密、機密、機密で、今度は企業秘密ときたものだ。

「一応、うちのパソコンに生徒全員分のデータベースが入っているんですがね、その中にちょっと注意すべきというか、やや問題児のような生徒のデータベースがカテゴライズされてまして。あぁ、この子で間違いないな」

 安堂は独り言のように呟きながらマウスを操ると、彼の背後にあったプリンターが小さな唸りを上げて一枚の紙を吐き出す。それを手にして安堂は戻ってくると、二人の前に差し出した。その紙には、こちらを睨んでいるかのような学生服の男性の顔写真と、個人情報が羅列している。これは、完全に個人情報になってしまうのだが、幾ら警察が相手でも、勝手に見せても良いものだろうか――。そもそも、こちらは捜査力を持たぬ課外活動部にすぎないのであるが。まぁ、見せて貰えるものは見せて貰うに越したことはない。

「この子、広瀬勝典ひろせかつのり君っていうんですけどね、彼はちょっと特殊といいますか、言い方は悪いんですけど変な子といいますか――。うちの塾はクラスが細分化されているなんてお話をさせて貰いましたけどね、いつ頃くらいからだったかなぁ……。彼、勝手に他のクラスの授業にも出るようになって」

 この塾のシステムの詳細までは分からないが、クラスが細かく分けられており、生徒の数が膨大ぼうだいになることだけは明らかになっている。いや、生徒の数が膨大だからこそ、細かくクラス分けをして運営をしているのであろう。

「他の授業って、つまり自分のクラス以外の授業ってことですか?」

 縁が問うと、安堂は困ったかのような表情を浮かべて「本人には言って聞かせたらしいんですけどねぇ。困ったものですよ」と首を横に振る。

「他のクラスの授業にも出ていた――ってことは、もしかすると他の犠牲者のクラスの授業にも出ていた可能性があるってことっすか。どれくらいの頻度で、どのクラスの授業を勝手に受けていたとかは分からないっすか?」

 広瀬という生徒の情報を眺めながら尾崎が問うと、安堂が苦笑いを浮かべる。返答に困っているという感じの顔だった。
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