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第二部 少年期のはじまり
第百十六話 授業の前に…
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外にでると、そこそこな広さの空間に、同年代の男女がひしめき合っていた。
まだ教師は来ていないが、至る所で魔法の発動する際の魔力のきらめきが感じられる。
フィリアとしっかり手をつないだシュリは、きょろきょろと周囲を見回しながら、
「先生は来てないですけど、魔法は自由に使っていいんですか?姉様」
「そうね。実技の授業中に関して言えば、基本的には自由だわ。他人を害するような使い方をしないのであれば。後は、放課後とかの自由時間も、先生に許可を得れば魔法の練習をすることは出来るわよ」
「ふぅん。そうなんですね」
「シュリは魔法に興味があるの?」
「魔法、ですか?」
「そう。何か使ってみたい魔法とか、ある?」
「えっと、僕、使えますよ?」
「はえ??」
「そんなに上手じゃないけど、使えますよ、魔法」
「つ、使えるの?魔法??」
「はい、使えます。上手じゃないですけど」
そう、上手じゃないけど、使えることは使える。全然、ちっとも上手じゃないけど。
フィリアはびっくり仰天と言う顔で、こっちを見ている。
(僕くらいの年の子供が魔法を使えるって珍しいことなのかなぁ?)
そんなことを思いながら、ルバーノ家の次女で、二番目の従姉妹・リュミスの顔を思い浮かべる。
確かリュミスは、シュリと出会った頃にはもう魔法を使っていた様に思う。
まあ、リュミスは魔法の天才児と呼ばれるくらいだったから、較べるのもおこがましいが。
それに、シュリと出会った頃のリュミスは八歳だった。
(そういえば、何歳から魔法を使い始めたのか、リュミス姉様に聞いてみたことなかったなぁ)
今度機会があったら聞いてみようと、ぼんやり考えていると、フィリアの手ががしっとシュリの肩をつかんだ。
びっくりして見上げれば、フィリアがなぜかキラキラした目でシュリを見つめている。
「ね、シュリ。魔法、使って見せてくれないかしら?」
その唇から飛び出したのはそんなおねだりだ。
シュリはちょっと考えた後、頷いた。
フィリアなら、シュリの魔法がどんなにしょぼくても、笑ったりはしないだろうとの信頼の元。
「いいですけど、なんの魔法がいいですか?」
小首を傾げて問いかける。
魔法の威力は切ないほどだが、種類はそれなりに覚えている。
何気ないその問いかけに、フィリアがびっくりするほど食いついた。
「なんのって、シュリ、もしかして複数の魔法を使えるの!?」
「使え、ますけど??」
「どんな!?」
「えっと、とりあえず、水と風と土と火の魔法は使えます」
「五歳なのに四属性も……すごいわ」
フィリアが呟き、それを聞いたシュリは、
(なるほど。普通の五歳児は四属性の魔法を使えたりしないものなのか)
ふむふむと頷きながら、さて、なんの魔法を使おうかなぁと考える。
正直、どの魔法も似たり寄ったりの威力だから、どれを使っても変わりはないんだろうけれども。
まあ、フィリアが水属性だし、水の初級にしとこうかなと思いながらフィリアを見上げ、
「とりあえず、ウォーターでいいですか?姉様」
「もっ、もちろんよ!やってみせて?」
「うん……でも、大事なことだからもう一回言っておくけど、ほんっとうに魔法は上手じゃないから、失敗しても笑わないで下さいね?」
「笑わないわ。約束する」
「分かりました。じゃあ、行きますね。ウォーター」
ぽそりと魔法の名前を口にすれば、水が手の平からちょろちょろと。
五年間、必死に練習して、やっとこの威力である。
本当に魔法の才能がないなぁと改めて感じながら、フィリアを見上げれば、彼女は心底びっくりしたように目を見開いてシュリの手から流れる水を見ていた。
(やっぱり呆れるよね、そりゃ。でもさ、フィリア。これでも上達したんだよ。五年前は、ちょろちょろですらなく、ぽたぽただったんだから……)
自嘲気味にそんなことを思っていたら、
「シュ、シュリ?呪文の詠唱は??」
フィリアの口からそんな問いかけ。
それを聞いたシュリは、ああ、そんなものもあったなと思いつつ、
「えっと、詠唱した方がいいですか?よく覚えてないんですけど??」
素直に正直にそう返した。
それを聞いたフィリアが愕然とする。基本的に魔法には詠唱は欠かせないものだからだ。
ごく一握り、魔法の才能に恵まれた者であれば、詠唱を省略出来る者もいるとは聞いていたが、実際にそんな人物を目にするのは初めてであった。
魔法の天才との呼び声も高い妹のリュミスでも、まだ詠唱を省略するまでには至っていないのだ。
それなのにシュリはたった五歳で、そんな天才を超える領域に足を踏み込んでいる。
確かに、威力は今一だが、それがなんだというのだ。
シュリがすごいと言うことに変わりはない。
「すごいわシュリ。詠唱なしで魔法を発動するなんて、才能のある人でも中々出来ないことなのよ?」
「そうかなぁ??」
「そうなの!すごいことなんだから!!」
「姉様の、贔屓目じゃないですか??」
「ち、ちがうわよぅ!!贔屓なんかじゃなくて、んう~~!!」
またまたぁと、中々フィリアの言葉を信じようとしないシュリにじれたように、フィリアがじたばたする。
そして、周囲をきょろきょろと見回して、
「シュリ、ちょっとだけここで待ってて!すぐに戻るわ!!」
そう言うなり、ダッシュでどこかへ言ってしまった。
残されたシュリは、ぽかんとした顔でその後ろ姿を見送った。
そして他にやることもないので、さっきのフィリアの言葉を反芻する。
(詠唱しないって、そんなにすごいことなのかぁ。っていっても、覚えてないものは唱えようもないしなぁ?みんな、いろんな魔法の呪文、全部覚えてるのかなぁ?正直、そっちのほうがずっとすごいとおもうけど……)
そんな見当違いの感心をしながら、大人しくフィリアを待っていると、ばたばたと淑女らしからぬ足音と共にフィリアが帰ってきた。
その右手で、親友を引きずるようにしながら。
「な、なんだい?フィリア??急に……って、あれ?シュリじゃないか。今朝ぶりだね??確か、フィリアと一緒に学園長のところへ行ったんじゃなかったかな??」
「シュ、シュリ。お、お待たせ!」
引きずられた来たリメラがシュリを見つけて首を傾げ、フィリアは荒い息を整えつつ、シュリに向かって微笑みかけた。
「さ、シュリ。もう一回、お願い!」
「ん?もう一回??」
なにそれ?と首を傾げるシュリに、
「もう、とぼけちゃって。魔法よ、魔法。シュリの魔法をリメラにも見せてやって!!私以外の評価があれば、シュリだって納得するでしょう?」
「あ、魔法か。別にいいですけど……」
「なんだい?シュリは魔法が使えるのか!その年ですごいじゃないか!!」
「んふふ。リメラ、これくらいで驚いてたら身が持たないわよ?シュリってば、本当にすごいんだから!!」
鼻息荒くシュリを持ち上げてくれるフィリアを見上げながら、シュリはあんまりハードルを上げないで欲しいなぁと思いつつ、リメラの顔を上目遣いで見上げる。
「えっと、魔法は使えるけど、上手じゃないんだ。あんまり期待しないでよ?」
シュリは唇を尖らせてそう訴える。
「ああ、分かっているとも。フィリアはびっくりするくらいのシュリバカだからな。ちゃんと話半分に聞いている」
リメラは鷹揚に頷き、さ、やってみせてくれとシュリを促した。
フィリアは目をキラキラさせて今か今かと待っているし、リメラもなま暖かく見守ってくれている。
仕方ないなぁと思いつつ、シュリは再び魔法を発動するのだった。
まだ教師は来ていないが、至る所で魔法の発動する際の魔力のきらめきが感じられる。
フィリアとしっかり手をつないだシュリは、きょろきょろと周囲を見回しながら、
「先生は来てないですけど、魔法は自由に使っていいんですか?姉様」
「そうね。実技の授業中に関して言えば、基本的には自由だわ。他人を害するような使い方をしないのであれば。後は、放課後とかの自由時間も、先生に許可を得れば魔法の練習をすることは出来るわよ」
「ふぅん。そうなんですね」
「シュリは魔法に興味があるの?」
「魔法、ですか?」
「そう。何か使ってみたい魔法とか、ある?」
「えっと、僕、使えますよ?」
「はえ??」
「そんなに上手じゃないけど、使えますよ、魔法」
「つ、使えるの?魔法??」
「はい、使えます。上手じゃないですけど」
そう、上手じゃないけど、使えることは使える。全然、ちっとも上手じゃないけど。
フィリアはびっくり仰天と言う顔で、こっちを見ている。
(僕くらいの年の子供が魔法を使えるって珍しいことなのかなぁ?)
そんなことを思いながら、ルバーノ家の次女で、二番目の従姉妹・リュミスの顔を思い浮かべる。
確かリュミスは、シュリと出会った頃にはもう魔法を使っていた様に思う。
まあ、リュミスは魔法の天才児と呼ばれるくらいだったから、較べるのもおこがましいが。
それに、シュリと出会った頃のリュミスは八歳だった。
(そういえば、何歳から魔法を使い始めたのか、リュミス姉様に聞いてみたことなかったなぁ)
今度機会があったら聞いてみようと、ぼんやり考えていると、フィリアの手ががしっとシュリの肩をつかんだ。
びっくりして見上げれば、フィリアがなぜかキラキラした目でシュリを見つめている。
「ね、シュリ。魔法、使って見せてくれないかしら?」
その唇から飛び出したのはそんなおねだりだ。
シュリはちょっと考えた後、頷いた。
フィリアなら、シュリの魔法がどんなにしょぼくても、笑ったりはしないだろうとの信頼の元。
「いいですけど、なんの魔法がいいですか?」
小首を傾げて問いかける。
魔法の威力は切ないほどだが、種類はそれなりに覚えている。
何気ないその問いかけに、フィリアがびっくりするほど食いついた。
「なんのって、シュリ、もしかして複数の魔法を使えるの!?」
「使え、ますけど??」
「どんな!?」
「えっと、とりあえず、水と風と土と火の魔法は使えます」
「五歳なのに四属性も……すごいわ」
フィリアが呟き、それを聞いたシュリは、
(なるほど。普通の五歳児は四属性の魔法を使えたりしないものなのか)
ふむふむと頷きながら、さて、なんの魔法を使おうかなぁと考える。
正直、どの魔法も似たり寄ったりの威力だから、どれを使っても変わりはないんだろうけれども。
まあ、フィリアが水属性だし、水の初級にしとこうかなと思いながらフィリアを見上げ、
「とりあえず、ウォーターでいいですか?姉様」
「もっ、もちろんよ!やってみせて?」
「うん……でも、大事なことだからもう一回言っておくけど、ほんっとうに魔法は上手じゃないから、失敗しても笑わないで下さいね?」
「笑わないわ。約束する」
「分かりました。じゃあ、行きますね。ウォーター」
ぽそりと魔法の名前を口にすれば、水が手の平からちょろちょろと。
五年間、必死に練習して、やっとこの威力である。
本当に魔法の才能がないなぁと改めて感じながら、フィリアを見上げれば、彼女は心底びっくりしたように目を見開いてシュリの手から流れる水を見ていた。
(やっぱり呆れるよね、そりゃ。でもさ、フィリア。これでも上達したんだよ。五年前は、ちょろちょろですらなく、ぽたぽただったんだから……)
自嘲気味にそんなことを思っていたら、
「シュ、シュリ?呪文の詠唱は??」
フィリアの口からそんな問いかけ。
それを聞いたシュリは、ああ、そんなものもあったなと思いつつ、
「えっと、詠唱した方がいいですか?よく覚えてないんですけど??」
素直に正直にそう返した。
それを聞いたフィリアが愕然とする。基本的に魔法には詠唱は欠かせないものだからだ。
ごく一握り、魔法の才能に恵まれた者であれば、詠唱を省略出来る者もいるとは聞いていたが、実際にそんな人物を目にするのは初めてであった。
魔法の天才との呼び声も高い妹のリュミスでも、まだ詠唱を省略するまでには至っていないのだ。
それなのにシュリはたった五歳で、そんな天才を超える領域に足を踏み込んでいる。
確かに、威力は今一だが、それがなんだというのだ。
シュリがすごいと言うことに変わりはない。
「すごいわシュリ。詠唱なしで魔法を発動するなんて、才能のある人でも中々出来ないことなのよ?」
「そうかなぁ??」
「そうなの!すごいことなんだから!!」
「姉様の、贔屓目じゃないですか??」
「ち、ちがうわよぅ!!贔屓なんかじゃなくて、んう~~!!」
またまたぁと、中々フィリアの言葉を信じようとしないシュリにじれたように、フィリアがじたばたする。
そして、周囲をきょろきょろと見回して、
「シュリ、ちょっとだけここで待ってて!すぐに戻るわ!!」
そう言うなり、ダッシュでどこかへ言ってしまった。
残されたシュリは、ぽかんとした顔でその後ろ姿を見送った。
そして他にやることもないので、さっきのフィリアの言葉を反芻する。
(詠唱しないって、そんなにすごいことなのかぁ。っていっても、覚えてないものは唱えようもないしなぁ?みんな、いろんな魔法の呪文、全部覚えてるのかなぁ?正直、そっちのほうがずっとすごいとおもうけど……)
そんな見当違いの感心をしながら、大人しくフィリアを待っていると、ばたばたと淑女らしからぬ足音と共にフィリアが帰ってきた。
その右手で、親友を引きずるようにしながら。
「な、なんだい?フィリア??急に……って、あれ?シュリじゃないか。今朝ぶりだね??確か、フィリアと一緒に学園長のところへ行ったんじゃなかったかな??」
「シュ、シュリ。お、お待たせ!」
引きずられた来たリメラがシュリを見つけて首を傾げ、フィリアは荒い息を整えつつ、シュリに向かって微笑みかけた。
「さ、シュリ。もう一回、お願い!」
「ん?もう一回??」
なにそれ?と首を傾げるシュリに、
「もう、とぼけちゃって。魔法よ、魔法。シュリの魔法をリメラにも見せてやって!!私以外の評価があれば、シュリだって納得するでしょう?」
「あ、魔法か。別にいいですけど……」
「なんだい?シュリは魔法が使えるのか!その年ですごいじゃないか!!」
「んふふ。リメラ、これくらいで驚いてたら身が持たないわよ?シュリってば、本当にすごいんだから!!」
鼻息荒くシュリを持ち上げてくれるフィリアを見上げながら、シュリはあんまりハードルを上げないで欲しいなぁと思いつつ、リメラの顔を上目遣いで見上げる。
「えっと、魔法は使えるけど、上手じゃないんだ。あんまり期待しないでよ?」
シュリは唇を尖らせてそう訴える。
「ああ、分かっているとも。フィリアはびっくりするくらいのシュリバカだからな。ちゃんと話半分に聞いている」
リメラは鷹揚に頷き、さ、やってみせてくれとシュリを促した。
フィリアは目をキラキラさせて今か今かと待っているし、リメラもなま暖かく見守ってくれている。
仕方ないなぁと思いつつ、シュリは再び魔法を発動するのだった。
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