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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【エピローグ】

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 岡田が発した一言。そのたった一言こそが、殺人蜂の正体を暴いた。縁もこの事実に引っかかりを覚えたからこそ、岡田に疑いを抱いたのだ。

「犠牲者の顔写真を見ただけで、お前達が刑事であると察することができるのは犯人だけだ。逆説的に言えば、犯人でなければ、あの場でお前達が刑事だなんて思わねぇってこと――。つまり、岡田は自らが犯人だって自白していたってことだな」

 坂田は得意げに言い切ると、鉄格子を掴んだ。そして、気味が悪いほどの笑顔を見せる。さながら檻に入った猛獣である。

「それにしても、五人の人間が死んでいながら、粗末な事件だったなぁ。岡田とかいう奴も調子に乗った挙げ句に自爆したんだからよ。馬鹿としか言いようがねぇ――。いざ蓋を開いてみたら、ここまでつまらねぇとは思いも寄らなかったぜ」

 坂田は九十九殺しの殺人鬼――。それを彷彿ほうふつさせるような一言を、坂田は満面の笑みで続けざまに言い放った。

「まぁ、いい暇つぶしにはなったがよ――」

 五人もの人間が殺された事件であるのに、坂田にとってそれは大した問題ではない。彼にとって興味の対象となるのは、事件そのものであって、犠牲者のことなど頭にないのだ。人を人と思わず、だからこそ追悼ついとうの意を示すこともない。思わず口を挟んでやろうと思ったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。どうせ噛み付いたところで、そもそもの感覚が普通ではないのだ。持っている価値観自体が異常であるため、さとそうとしたところで徒労とろうに終わるだろう。

「ただ、俺ならもっとスマートに殺ってたなぁ。岡田が五人殺している間に、俺なら十人は殺ってる――。まぁ、岡田は程度の低い殺人鬼だったってことだな」

 坂田はふと真顔を見せると、しゃっくりをするかのごとく「ひゃっ!」と音を発し、それが皮切りだったかのように笑い始めた。握ったままだった鉄格子を揺さぶりながら――。元より普通の人間だとは思っていないが、この狂いようは異常というカテゴリーを遥かに超越している。彼を見ていると、何が正常で何が異常なのか分からなくなりそうだ。引き金を思わず引いてしまいそうになってしまった。

 もう慣れてしまっているのか、深く溜め息をつくだけの倉科。坂田の狂気に触れて、少しばかり戸惑っているかのような尾崎。そして、複雑な事情を抱えながらも、坂田に一歩近付くことができた縁。

 これからどうなるのだろうか――。自分の中に眠る復讐心と、まるで手のつけられない姉。そして、試験的な試みである0.5係。坂田の笑い声が響く独房で、縁は一抹いちまつの不安を抱かずにはいられなかった。

 ともあれ、これが山本縁と坂田仁の出会いとなった事件であることだけは間違いなかったのであった。


【事例1 九十九殺しと孤高の殺人蜂 ―完―】
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