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41.待ちに待った品々
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私たちはギルドを出た足でそのまま道具屋へ向かっていた。レックスの初仕事、ワイバーン討伐の準備の為である。今から行くのは2人の馴染みの店で、野営に必要な物は全て揃う品揃えの豊富さが売りらしい。いつもそこで準備してから発つのだとか。
到着したのは、ギルド前の通りに並ぶたくさんの店の中でも目立つ大きな建物だった。他がコンビニくらいなのに比べると、ここは一般的なスーパーくらいはありそうだ。店構えは全然違うけど。
武骨な扉を開けて入ると中は意外と整頓されていて、異世界版ホームセンターという感じ。奥へ進むと、カウンター近くで丸い体の中年男性が作業をしていた。
「トラム」
「ん?おお、レオンにエヴァ。お揃いとは珍し…」
トラムと呼ばれた男性は2人親しげに返事を…している途中で私を見てストップする。
「トラムさん、彼女はキラ。オレたちの大事な女です」
「俺ら、3人でパーティーを組んだんだ。…キラ、トラムさんには俺らが冒険者になりたての頃から世話になってんだ」
「そうなんだ。…トラムさん、初めまして、キラです。よろしくお願いします」
2人が紹介してくれたので私も挨拶するが、トラムさんはまだストップしている。
「……はッ!あ、ああ、よろしくね」
覚醒した彼は息を吐いてから続けた。
「…しかし…えらい美人さんじゃないか。わしが聞いたのはレオンに恋人ができたって噂だったが…オレたち、って言わなかったか?それにお前さんらがパーティー…何だかこんがらがってきたよ。レオンは頭に小鳥乗っけとるし…」
彼はレオンさんの頭ですやすや眠っているスノウを見て目尻を下げる。
「…小鳥は可愛いがな…」
「こいつはスノウ、キラの契約獣だ。トラムさん、噂は本当だがちょいと古いな。キラは俺とエヴァの女だ」
「…ほぉ~…全く女っ気がなかったレオンと、いつも違う女連れてたエヴァがなぁ…だがまあ、お嬢さんを見れば納得だな」
腕を組んでウンウン頷くトラムさん。
…へぇ~…いつも違う女…いえ、分かってましたよ?初めて市場通りに行った時もたっくさんの女性に親しげに声掛けられてましたし。とってもモテる人だと確認が取れただけです。
ちらっとエヴァさんを見ると、情けない顔をしていた。
「勘弁してくださいよ、トラムさん。今はキラ一筋なんですから」
「ん?ハハハ!すまんすまん。気にせんでくれ、お嬢さん」
「ふふ、はい」
楽しそうに笑うトラムさん。レオンさんもニヤニヤして成り行きを眺めていた。
「で?今日は何を探してるんだ?」
「ああ、今日は大きめのテントと…」
エヴァさんだけがちょっとヘコんでいる中、私たちは目的の物を探し始めた。
■
道具屋の他にも数件で買い物を済ませて帰ってきた私はとってもご機嫌です。
理由は2つある。まずはショウユとミソ、更にお酒やミリンまでが手に入った事、そしてもうひとつは家にお風呂が付く事です!しかも今日!昇級テストがあった日、私からお風呂が欲しいと聞いてすぐに頼んでくれたらしい。
私も代金を払うと申し出たら2人にすっごく渋い顔をされた。ベッドやドレッサーも結局買ってもらったし、何だか悪い。でもそれを言ってみたらそんなに甲斐性が無いように見えるか、と怒られてしまいました。
リビングでコーヒーを飲んでいると待ち望んでいたものがやって来た。すぐに立っていこうとした私はレオンさんに止められ、エヴァさんだけが取り付けに来た業者さんたちに対応する。
業者さんたちが帰ってから完成したバスルームへ。するとそこには、あの豪華な宿のバスルームに勝るとも劣らない立派なお風呂が設置されていた。この短時間でどうやったのか、壁も床も綺麗な白い石で覆われている。透明感のある淡いグリーンの石で出来たバスタブは手触りも良くて広い。バスチェアなども同じ石で作られていた。隅に背の高いランプが置いてあり柔らかな色合いの光でバスルームを照らしている。
「…素敵…」
感嘆の息と共に呟くと、2人が左右から肩と腰を抱く。
「どうだ、気に入ったか?」
「はい、とっても。ありがとうございます。…あ」
「フフ、良いよ。今のは大目に見てあげる。気に入ってもらえてよかったよ」
「くくっ…意識してねえとまだ無理か」
つい敬語に戻ってしまった。
「おふろってなに?」
スノウが胸の谷間から首を伸ばしてきょろきょろとバスルームを見ている。
「…そういやお前昨日産まれたばっかだったな…」
「言われてみればそうだったね。タマゴだったんだから知らないか」
「お風呂はね、体を綺麗に洗う場所。とっても気持ち良いよ。…あ、でもスノウは鳥だからお湯には入らないのかな?」
「ん?スノウはふぇにっくすだからあついのへいきなの」
「そっか、じゃあ後で一緒に入ろうね。洗ってあげる」
「わーいなの」
スノウに一緒に入ろうと言ったキラを、レオハーヴェンとエヴァントはニヤニヤしながら眺めていた。
さて、夕食ですよ。メインは豚…いや、オーク肉のジンジャー(生姜)焼き、主食はもちろんご飯ですが一応パンも用意しました。鰹節や昆布、煮干しさえ見つかっていないけど、エビ頭でお味噌汁を作ってみました。お椀がないので器はスープ皿ですが。エビはボイルしてサラダになっています。
「これがキラの故郷の料理?このスープがみそしるっていうの?」
「うん」
「肉すげえ良い匂いする」
「はやくたべたいの!」
「どうぞ。正直な感想聞かせてほしいな」
「ああ」
「もちろん」
私はみんなの反応を待つ。
「…へえ…エビの旨味が凄く出てる。ミソは殆ど使った事ないけど、こんな味になるんだ…うん…美味しいよ」
「肉も美味いぜ。俺はこの味好きだ。飯に合う」
「にくおかわりなの!」
「口に合ったみたいで良かった」
感想を聞いてホッとしているとスノウが翼を広げて催促する。
「にく!」
「はいはい」
まだ赤ん坊の部類に入るスノウは、主の魔力だけでも育つが何でも食べられるらしい。みんなと同じのが食べたいと可愛くお願いされて、ご飯を少しと肉を小さく切ってあげたのだが…もうない。くちばしの周りがジンジャー焼きのタレでベトベトだ。
こんなに食べさせて大丈夫かな?と少々不安になりつつ、私も久々の和食を楽しみました。
到着したのは、ギルド前の通りに並ぶたくさんの店の中でも目立つ大きな建物だった。他がコンビニくらいなのに比べると、ここは一般的なスーパーくらいはありそうだ。店構えは全然違うけど。
武骨な扉を開けて入ると中は意外と整頓されていて、異世界版ホームセンターという感じ。奥へ進むと、カウンター近くで丸い体の中年男性が作業をしていた。
「トラム」
「ん?おお、レオンにエヴァ。お揃いとは珍し…」
トラムと呼ばれた男性は2人親しげに返事を…している途中で私を見てストップする。
「トラムさん、彼女はキラ。オレたちの大事な女です」
「俺ら、3人でパーティーを組んだんだ。…キラ、トラムさんには俺らが冒険者になりたての頃から世話になってんだ」
「そうなんだ。…トラムさん、初めまして、キラです。よろしくお願いします」
2人が紹介してくれたので私も挨拶するが、トラムさんはまだストップしている。
「……はッ!あ、ああ、よろしくね」
覚醒した彼は息を吐いてから続けた。
「…しかし…えらい美人さんじゃないか。わしが聞いたのはレオンに恋人ができたって噂だったが…オレたち、って言わなかったか?それにお前さんらがパーティー…何だかこんがらがってきたよ。レオンは頭に小鳥乗っけとるし…」
彼はレオンさんの頭ですやすや眠っているスノウを見て目尻を下げる。
「…小鳥は可愛いがな…」
「こいつはスノウ、キラの契約獣だ。トラムさん、噂は本当だがちょいと古いな。キラは俺とエヴァの女だ」
「…ほぉ~…全く女っ気がなかったレオンと、いつも違う女連れてたエヴァがなぁ…だがまあ、お嬢さんを見れば納得だな」
腕を組んでウンウン頷くトラムさん。
…へぇ~…いつも違う女…いえ、分かってましたよ?初めて市場通りに行った時もたっくさんの女性に親しげに声掛けられてましたし。とってもモテる人だと確認が取れただけです。
ちらっとエヴァさんを見ると、情けない顔をしていた。
「勘弁してくださいよ、トラムさん。今はキラ一筋なんですから」
「ん?ハハハ!すまんすまん。気にせんでくれ、お嬢さん」
「ふふ、はい」
楽しそうに笑うトラムさん。レオンさんもニヤニヤして成り行きを眺めていた。
「で?今日は何を探してるんだ?」
「ああ、今日は大きめのテントと…」
エヴァさんだけがちょっとヘコんでいる中、私たちは目的の物を探し始めた。
■
道具屋の他にも数件で買い物を済ませて帰ってきた私はとってもご機嫌です。
理由は2つある。まずはショウユとミソ、更にお酒やミリンまでが手に入った事、そしてもうひとつは家にお風呂が付く事です!しかも今日!昇級テストがあった日、私からお風呂が欲しいと聞いてすぐに頼んでくれたらしい。
私も代金を払うと申し出たら2人にすっごく渋い顔をされた。ベッドやドレッサーも結局買ってもらったし、何だか悪い。でもそれを言ってみたらそんなに甲斐性が無いように見えるか、と怒られてしまいました。
リビングでコーヒーを飲んでいると待ち望んでいたものがやって来た。すぐに立っていこうとした私はレオンさんに止められ、エヴァさんだけが取り付けに来た業者さんたちに対応する。
業者さんたちが帰ってから完成したバスルームへ。するとそこには、あの豪華な宿のバスルームに勝るとも劣らない立派なお風呂が設置されていた。この短時間でどうやったのか、壁も床も綺麗な白い石で覆われている。透明感のある淡いグリーンの石で出来たバスタブは手触りも良くて広い。バスチェアなども同じ石で作られていた。隅に背の高いランプが置いてあり柔らかな色合いの光でバスルームを照らしている。
「…素敵…」
感嘆の息と共に呟くと、2人が左右から肩と腰を抱く。
「どうだ、気に入ったか?」
「はい、とっても。ありがとうございます。…あ」
「フフ、良いよ。今のは大目に見てあげる。気に入ってもらえてよかったよ」
「くくっ…意識してねえとまだ無理か」
つい敬語に戻ってしまった。
「おふろってなに?」
スノウが胸の谷間から首を伸ばしてきょろきょろとバスルームを見ている。
「…そういやお前昨日産まれたばっかだったな…」
「言われてみればそうだったね。タマゴだったんだから知らないか」
「お風呂はね、体を綺麗に洗う場所。とっても気持ち良いよ。…あ、でもスノウは鳥だからお湯には入らないのかな?」
「ん?スノウはふぇにっくすだからあついのへいきなの」
「そっか、じゃあ後で一緒に入ろうね。洗ってあげる」
「わーいなの」
スノウに一緒に入ろうと言ったキラを、レオハーヴェンとエヴァントはニヤニヤしながら眺めていた。
さて、夕食ですよ。メインは豚…いや、オーク肉のジンジャー(生姜)焼き、主食はもちろんご飯ですが一応パンも用意しました。鰹節や昆布、煮干しさえ見つかっていないけど、エビ頭でお味噌汁を作ってみました。お椀がないので器はスープ皿ですが。エビはボイルしてサラダになっています。
「これがキラの故郷の料理?このスープがみそしるっていうの?」
「うん」
「肉すげえ良い匂いする」
「はやくたべたいの!」
「どうぞ。正直な感想聞かせてほしいな」
「ああ」
「もちろん」
私はみんなの反応を待つ。
「…へえ…エビの旨味が凄く出てる。ミソは殆ど使った事ないけど、こんな味になるんだ…うん…美味しいよ」
「肉も美味いぜ。俺はこの味好きだ。飯に合う」
「にくおかわりなの!」
「口に合ったみたいで良かった」
感想を聞いてホッとしているとスノウが翼を広げて催促する。
「にく!」
「はいはい」
まだ赤ん坊の部類に入るスノウは、主の魔力だけでも育つが何でも食べられるらしい。みんなと同じのが食べたいと可愛くお願いされて、ご飯を少しと肉を小さく切ってあげたのだが…もうない。くちばしの周りがジンジャー焼きのタレでベトベトだ。
こんなに食べさせて大丈夫かな?と少々不安になりつつ、私も久々の和食を楽しみました。
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