異世界ライフは前途洋々

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62.刺客の目的

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 目的地に到着したのは14時少し前。ここは川沿いに丘があるので水辺を好むボア類が棲みつきやすい。ただ基本的に群れはひとつの山にひとつだけなので討伐が済めばそれほど危険はない。今持っている魔除け香で充分効果がある。

 まずは川沿いを探す。ボア自体がいなくても痕跡が見つかれば情報が得られるからだ。

 雨でも降ったのか若干泥濘んでいる川沿いを歩き始めてすぐ、横の林の中に馬車が隠してあるのを見つけた。人の気配は無いが知らんぷりして通り過ぎる。それにしてもあんまり隠し方が上手くないようだ。もしかしてわざとかな?若干緊張しながら進む。

 馬車のところから少し進むとボアの足跡を発見。足跡の大きさや数などからしても私たちの標的の群れである事は明確で、そのまま川上へ向かっている痕跡を追った。鼻の良いボアだがこちらが風下なので匂いでバレる可能性は低いらしい。この辺りに例の避妊薬の素材があるそうで、採取と木の調達もちょろっとした。もし刺客を捕まえたらそんな暇は無くなるからだ。

 見晴らしの良い場所で足を止めるとレオンさんが呟く。

「…つけても来ねえのか…馬車の隠し方もプロとは思えねえし…刺客にしては甘すぎる」
「わざと下手に見せてるってことは無いの?」

 私はさっき思った事を言ってみた。

「油断させる手段として無くはねえが…上級の隠密スキルでも持ってなけりゃ意味がねえ」
「それだと昨夜もわざと気付かせた事になるけど…そうなるとこっちが本当の事を話さない可能性もあるよね」
「…繋がらねえな。わざとじゃ無さそうだ」
「なら野営の時に襲う気かな?」
「確かにそれが1番成功しやすいが…野営に適した場所なんてこの辺りだけでも数カ所ある。1人くらいつけて来るのが常套手段なんだがな」

 レオンさん詳しいね…私も頭を捻るがあまり役立てそうもない。

「契約獣とか…もないか…全然魔物に遭わないしね」
(いない、いたらスノウわかるの)
「…仕方ねえ、警戒しながら依頼済ませるか」

 結局相手の狙いが分からないまま進むことになったが、やがて争ったような跡を発見した。人の足跡も混じっていて血痕も残っている。血の乾き具合から見ると少々時間が経過しているという。これが私たちを狙っている人物なのかは定かで無いが可能性は高そうだ。更に警戒を強めて跡を辿る。

 と、スノウが小さく鳴く。

(いたの)
「魔物か?」
(どっちもいるの)
「数は」
(7と1)
「…1人かよ。仲間が隠れてる可能性も…おそらくねえな」
「…1人でオレたちをどうするつもりだったんだろうね?」

 スノウの報告に呆れる2人。でもその1人が強者ということだって有り得るので警戒は怠らない。少し行くと危機察知に反応有り。遠目だが一応視認出来た。誰かがゴールドボアとワイルドボアに追い詰められている。双方こちらには気が付かない。人の方は男に見えるがそれ以外は分からなかった。

「居たな。確かに7体の群れだ。スノウ、お前はキラと一緒だ。ボアはいいから奴から目を離すな」
(わかったの)
「キラ、ボアは凄い勢いで突進して来る。距離をとって魔法で攻撃だ」
「オレもキラと一緒に魔法で攻撃するよ。オレからあまり離れないでね」
「うん、分かった」
「モタつけば男が何するか分からねえ、ちゃっちゃとケリつけるぜ」
「了解」
「はい」
(はいなの!)

 私たちはボアの群れ目掛けて走り出した。




「おい、そこの奴!お前が倒す気ねえなら俺らがやる!どうだ!?」

 相手が冒険者かどうかは分からないがルールに則ってレオンさんが聞く。すると林の方へ追い詰められていた人が細い声で『頼む…』と言った。

 ボアたちがこちらに気が付き、地面を引っ掻いて突進の準備をする。

「よし、行くぜ!」

 レオンさんの合図とともに戦闘開始。彼は巨大な金のイノシシに向かって猛然と駆け出し、途中に立ち塞がるワイルドボアを鮮やかに一刀両断していく。エヴァさんはこちらへ突進し始めた3体のワイルドボアに次々とサンダーショットを放った。

「キラ!」
「うん!【ウォータージェット!】」

 私は痺れて動けないワイルドボアにジェットを続けざまに撃ち込む。動けないのだから当然ワイバーンの時より断然やりやすく、狙い通り命中してそのまま動かなくなった。

 ホッとして追い詰められていた男を見ると、先ほどの場所に居ない。

(うしろなの!)

 スノウの声が響く。振り返ると男が筒のようなものを口に当てているのが目に入った。

「【ストーンウォール!】」
「【サンダーショット!】」

 私が咄嗟に土魔法で防御したのとエヴァさんが魔法を放ったのはほぼ同時。

「…ぐッ…!」

 土壁の向こうから短く呻く声と倒れる音。エヴァさんが私を背に庇った時壁が崩れる。男はビクビク痙攣しながら気絶していた。











 すっかり日が暮れて青い月が出る頃、私たちは野営をしていた。あれから男を縛り上げ、仲間が隠れていないか捜索した。結果仲間は無く刺客は本当に1人だった。隠されていた馬車で街へ戻ろうとしたのだが、何故か馬が見つからず断念して野営することになった。

 解析によると男の名はザロ、まだ18才だった。レベルは低いが、遠耳(C)・暗器(D)・隠密(D)という天職はスパイか暗殺者か、というスキルが揃っていた。使っていた武器はクナイのようなナイフと吹き矢、ザロが持っていた筒は吹き矢だったのだ。毒、眠り、痺れなどの効果が付与された矢を所持していたのでアイテムバッグは没収、暗器が隠せないように服も脱がせて全裸で縛られている。

 そしてこの男も奴隷だった。おそらくダグラムに命令されてきたのだろうが、主人には逆らえないので聞いてもブルブル震えているだけで何も話さない。それでもレオンさんは威圧を放ちながらザロに尋問を続けていた。



「もう一度聞く。目的はなんだ?」
「…」
「…俺らを殺す事か?」
「…」
「傷つける事か?」
「…」
「なら…キラを攫う事か」

 その一際低く怒気の篭った声に、ザロの体がビクッと跳ねる。それを見てダグラムの狙いを理解した2人は怒りを露わにし、加減など無い威圧を思いっきりぶつけた。

「グッ…!」

 ザロはガクガクと痙攣しながら気を失った。

「あのクソ野郎…!」
「…どうしようもない奴だね…」
「さ、攫う…」

 私があの気持ち悪い視線を思い出して思わず身震いすると、2人が左右から肩を抱いてくれる。

「大丈夫だよキラ」
「ああ、どんな奴が来たって返り討ちにしてやるぜ」
「ん…ありがとう」
「…休もうぜ」
「そうだね」

 今夜はレオンさんとエヴァさんが交代で見張り、明日は街に戻って商業ギルドにザロを突き出す予定だ。

 スノウは途中までザロに向かってちっちゃなくちばしを開き、羽を広げて威嚇していたが眠気に勝てず私の手の平で眠ってしまった。ザロのスキルのうち暗器(D)と隠密(D)は気絶中に複製。触れていなければ出来ないので、2人にガードされながら髪をちょいとつまんで済ませた。

 隠密を持っていながら何故魔物に見つかったのだろうかと不思議だったが、理由は単に隠密のランクが低かったかららしい。ゴールドボアの群れ討伐はBランク以上のパーティーが受けられる依頼。つまりゴールドボアは其れ相応の強さだという事だ。
 
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