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第二部一章 第七王家の所領で盗賊退治
3、通りすがりのボランティア~とあるダイコン役者達
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ボク達は、町並みや店を見てまわった。三匹を連れ歩くと、時々困ったことになる。
ぽち、たま、うさ子を追ってくる子供がいた。三匹の可愛さにつられて、親の元を離れてしまったようである。
ある程度大きな子供なら良いのだが……。どうみても5歳程度で、まだ本人は気が付いていないが迷子になっているのだろう。
花音ちゃんが、屈み込み目線をあわせて聞いてみる。
「こんにちは、お名前とお家は分かるかな?」
「ナディア……分かんない……。ここ……? お母さん……」
ようやく状況に気が付いた子供が泣きそうになる。
うわっ、ヤバイ。と、三匹が素早く子供の近くに寄って行くと、注意を引いて宥めてくれた。
『ぽち、たま、うさ子、ナイス! ぽち、この子のいた場所まで頼む』
三匹が笑顔のイメージを送ってくる。『任せて』と、ぽちが歩き出した。
引き返して、子供を送っていく。少し歩くと、幸いにも直ぐに母親が見つかった。
次の朝ボク達は、第七王都へ向かうことにした。
特に急ぐ必要もないので、門の開くのを待って宿を出る。天気も良いので、のんびりピクニック気分である。
街道を王都に向かって、のんびり歩いていたのだが前方に人影が見えてくる。どうやら子供がいるようで、こちらよりスローペースになっているようだ。
近づいていくと、大人二人と子供ひとりに見えていたが、一人子供を背負っていて4人だったと分かる。
『カイト、きのうの子供~』『ちっちゃい子、心臓の音おかしい』
『おんぶしてる子、病気みたい』
「……ナディアちゃん?」
「うん、……だったかな。背負われてるのは、妹か弟だろうね」
だんだんと距離が縮まっていき、普通に声が届く所まで来ると声をかけた。
「「こんにちは~」」
こちらを見て、ナディアちゃんが直ぐに気が付いた。
「きのうのお姉ちゃんとお兄ちゃんだ~!」
「ナディアちゃんは、今日もお出かけ?」
「うん、クララちゃんを治しに行くの! ナディアは、お姉ちゃんなんだよ」
病気の子供はクララと言うらしい。生まれつき体が弱いという。
もうエンワイルドの治癒師には診せていて、それでも治らず。最後の頼みと王都の最高位の治癒師の元へ向かうようである。
病気の子供がいるのに馬車を使わず背負っていくのだから、とても裕福とは思えない。普通の治療でさえ、かなりお金が掛かる。最高位の治癒師ともなると、どのくらい掛かるのか。
花音ちゃんが期待を込めてこちらを見ているような気がする。確かにボクと三匹は、治癒魔法を使える。だが、先天性の病気を確実に治せるとは言えないだろう。それに……。
『ボクは治癒魔法を使えるけど、治せるとは限らない。それに、病気の子供や困ってる人を探してまで助けて回る気はないよ』
花音ちゃんが目に見えてしょんぼりしていく。だが、人一人の力には限界がある。そんな事をしたら、ボクと三匹の自由な時間は無くなるのだ。そして他の治癒師の仕事と生活への侵害行為にもなりかねない。
ボクに出来るのは、無理なく手の届くところまでだ……。
『だから、これからやろうとする事は我がままでしかない。ボクの寝覚めが悪いからやるだけだよ』
『はい!』と、花音ちゃんが目をキラキラさせる。
『カイト、手伝う~』『『お手伝い~』』
『うん、花音ちゃんは、幻影魔法でカモフラージュお願い。こっそり治せるか試してみるよ。
王都で、病人に囲まれるような目にあいたくないからね……』
クララちゃんはすやすやと眠っていた。治癒魔法の光を診断を行う感覚器官として行きわたらせる。
心臓に先天的な欠陥があるようだ。治癒魔法を当てると状態が良くはなるのだが、欠陥自体は治らない。
正常な自分の心臓をサンプルに、治癒魔法で形の違いを矯正していく……。
どこが悪いのか、どうすればよいのか分からなければ、MPを消費するだけで空回りしていただろう。それでは、よほどの力がなければ、なかなか直すには至らない。
『『治った~!』』『もう、心臓の音だいじょうぶ~!』
『おめでとうございま~す』
『あっ……。治ったってどうやって伝えようか?』
『……』『『『……?』』』
ボク達は、お昼にさそい。ナディアちゃんクララちゃんにチョコレートなどを食べさせる。そして……。
「あっ、しまった。ダンジョンで手に入れた万能薬を間違えてクララちゃんに食べさせちゃった」
「まあ、大変。せっかく手に入れた万能薬だけど、仕方ないわね……」
「うん、しょうがないね。もう一度、ダンジョンで手に入れればいいさ」
ぽち、たま、うさ子もボクの失敗を、ぽんぽんぽんと前足で叩いて慰めてくれる。
ナディアちゃんのお父さんお母さんは、何が始まったのかと驚いている。セリフを言いながら思った、ボク達ダイコン役者だ……。
「クララちゃん、もう病気は治ってるハズだよ」
「ええ、そうね。クララちゃん少し体を動かして確かめてみて」
クララちゃんが不思議そうな顔でこちらを見る。……ばれてる? うん、実はクララちゃん食事前から不思議そうに自分の体の調子を確かめていた。
クララちゃんが、ぴょんぴょんと少し跳ねてみる。笑顔で顔がほころぶ。
「苦しくならない、苦しくならない!」
手をバタバタさせて、お父さんお母さんに話してる。すでに喜びのあまり何を喋っているのか意味不明だ……。
ナディアちゃんクララちゃんの家族は、エンワイルドの町に引き返すそうだ。
王都へ向かうボク達を見送り、深々と頭を下げている。
100メートルくらい離れた筈だが……。
『まだ、お礼してる~』
たまの視界で見ると、まだ頭を下げている姿が見えなくなるまで続けるつもりかも……。
これは恥ずかしい。ボク達は足を速めて、急いで姿をくらました。
その夜女神様からの着信メールがあった。
《演技の道は、一日にしてならず》
☆☆☆
その日アークライト・R・アールファン公爵の耳元で突然声が響いた。声の主は、マリアとの戦いを避け立ち去った男である。
「剣鬼カーク・スチュアートは、戦いに敗れ死んだ。これでカークとの義理は果たした……」
「カーク・スチュアートが敗れただと!?」
公爵の声に答えるべき声の主は、すでにその場には無かった。終始、姿を見せることなく伝えるべきことを伝えると聖王都を立ち去った。
◇==========================◇
応援よろしくお願いします。
ぽち、たま、うさ子を追ってくる子供がいた。三匹の可愛さにつられて、親の元を離れてしまったようである。
ある程度大きな子供なら良いのだが……。どうみても5歳程度で、まだ本人は気が付いていないが迷子になっているのだろう。
花音ちゃんが、屈み込み目線をあわせて聞いてみる。
「こんにちは、お名前とお家は分かるかな?」
「ナディア……分かんない……。ここ……? お母さん……」
ようやく状況に気が付いた子供が泣きそうになる。
うわっ、ヤバイ。と、三匹が素早く子供の近くに寄って行くと、注意を引いて宥めてくれた。
『ぽち、たま、うさ子、ナイス! ぽち、この子のいた場所まで頼む』
三匹が笑顔のイメージを送ってくる。『任せて』と、ぽちが歩き出した。
引き返して、子供を送っていく。少し歩くと、幸いにも直ぐに母親が見つかった。
次の朝ボク達は、第七王都へ向かうことにした。
特に急ぐ必要もないので、門の開くのを待って宿を出る。天気も良いので、のんびりピクニック気分である。
街道を王都に向かって、のんびり歩いていたのだが前方に人影が見えてくる。どうやら子供がいるようで、こちらよりスローペースになっているようだ。
近づいていくと、大人二人と子供ひとりに見えていたが、一人子供を背負っていて4人だったと分かる。
『カイト、きのうの子供~』『ちっちゃい子、心臓の音おかしい』
『おんぶしてる子、病気みたい』
「……ナディアちゃん?」
「うん、……だったかな。背負われてるのは、妹か弟だろうね」
だんだんと距離が縮まっていき、普通に声が届く所まで来ると声をかけた。
「「こんにちは~」」
こちらを見て、ナディアちゃんが直ぐに気が付いた。
「きのうのお姉ちゃんとお兄ちゃんだ~!」
「ナディアちゃんは、今日もお出かけ?」
「うん、クララちゃんを治しに行くの! ナディアは、お姉ちゃんなんだよ」
病気の子供はクララと言うらしい。生まれつき体が弱いという。
もうエンワイルドの治癒師には診せていて、それでも治らず。最後の頼みと王都の最高位の治癒師の元へ向かうようである。
病気の子供がいるのに馬車を使わず背負っていくのだから、とても裕福とは思えない。普通の治療でさえ、かなりお金が掛かる。最高位の治癒師ともなると、どのくらい掛かるのか。
花音ちゃんが期待を込めてこちらを見ているような気がする。確かにボクと三匹は、治癒魔法を使える。だが、先天性の病気を確実に治せるとは言えないだろう。それに……。
『ボクは治癒魔法を使えるけど、治せるとは限らない。それに、病気の子供や困ってる人を探してまで助けて回る気はないよ』
花音ちゃんが目に見えてしょんぼりしていく。だが、人一人の力には限界がある。そんな事をしたら、ボクと三匹の自由な時間は無くなるのだ。そして他の治癒師の仕事と生活への侵害行為にもなりかねない。
ボクに出来るのは、無理なく手の届くところまでだ……。
『だから、これからやろうとする事は我がままでしかない。ボクの寝覚めが悪いからやるだけだよ』
『はい!』と、花音ちゃんが目をキラキラさせる。
『カイト、手伝う~』『『お手伝い~』』
『うん、花音ちゃんは、幻影魔法でカモフラージュお願い。こっそり治せるか試してみるよ。
王都で、病人に囲まれるような目にあいたくないからね……』
クララちゃんはすやすやと眠っていた。治癒魔法の光を診断を行う感覚器官として行きわたらせる。
心臓に先天的な欠陥があるようだ。治癒魔法を当てると状態が良くはなるのだが、欠陥自体は治らない。
正常な自分の心臓をサンプルに、治癒魔法で形の違いを矯正していく……。
どこが悪いのか、どうすればよいのか分からなければ、MPを消費するだけで空回りしていただろう。それでは、よほどの力がなければ、なかなか直すには至らない。
『『治った~!』』『もう、心臓の音だいじょうぶ~!』
『おめでとうございま~す』
『あっ……。治ったってどうやって伝えようか?』
『……』『『『……?』』』
ボク達は、お昼にさそい。ナディアちゃんクララちゃんにチョコレートなどを食べさせる。そして……。
「あっ、しまった。ダンジョンで手に入れた万能薬を間違えてクララちゃんに食べさせちゃった」
「まあ、大変。せっかく手に入れた万能薬だけど、仕方ないわね……」
「うん、しょうがないね。もう一度、ダンジョンで手に入れればいいさ」
ぽち、たま、うさ子もボクの失敗を、ぽんぽんぽんと前足で叩いて慰めてくれる。
ナディアちゃんのお父さんお母さんは、何が始まったのかと驚いている。セリフを言いながら思った、ボク達ダイコン役者だ……。
「クララちゃん、もう病気は治ってるハズだよ」
「ええ、そうね。クララちゃん少し体を動かして確かめてみて」
クララちゃんが不思議そうな顔でこちらを見る。……ばれてる? うん、実はクララちゃん食事前から不思議そうに自分の体の調子を確かめていた。
クララちゃんが、ぴょんぴょんと少し跳ねてみる。笑顔で顔がほころぶ。
「苦しくならない、苦しくならない!」
手をバタバタさせて、お父さんお母さんに話してる。すでに喜びのあまり何を喋っているのか意味不明だ……。
ナディアちゃんクララちゃんの家族は、エンワイルドの町に引き返すそうだ。
王都へ向かうボク達を見送り、深々と頭を下げている。
100メートルくらい離れた筈だが……。
『まだ、お礼してる~』
たまの視界で見ると、まだ頭を下げている姿が見えなくなるまで続けるつもりかも……。
これは恥ずかしい。ボク達は足を速めて、急いで姿をくらました。
その夜女神様からの着信メールがあった。
《演技の道は、一日にしてならず》
☆☆☆
その日アークライト・R・アールファン公爵の耳元で突然声が響いた。声の主は、マリアとの戦いを避け立ち去った男である。
「剣鬼カーク・スチュアートは、戦いに敗れ死んだ。これでカークとの義理は果たした……」
「カーク・スチュアートが敗れただと!?」
公爵の声に答えるべき声の主は、すでにその場には無かった。終始、姿を見せることなく伝えるべきことを伝えると聖王都を立ち去った。
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