姉らぶるっ!!

此葉菜咲夜

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【本幕・第12章】清廉な加奈子さんっ

2.姉ってやっぱり風呂に来るんですかっ!

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 ドアを開いた先に加奈子さんが待っていた。
ゴールデンウィークの川遊びの日に着ていた真っ白いワンピース姿だ。
絵画の中から出てきた少女のような、神秘的な雰囲気をまとっている。

「どうぞ、部屋に上がってください……」
「お邪魔しま――」
「あぁっ!! しまったぁ!」

 花穂姉ちゃんの演技に期待した俺が馬鹿だったのか……
玄関ポーチで靴も脱がないまま、一旦帰宅の合図を出してしまった。

「……花穂さん? どうしました?」
「ごめんっ! 着替え忘れたから取りに帰る! すぐ来るね!」

 イモ演技をしたあと、姉は風のように階段を使用して降りていった。
相手が加奈子さんじゃなければ、いきなり見抜かれているところだ。
なんだか、花穂姉ちゃんの弱点を見た気がする。

「弟君、入ってください。お茶入れますね……」
「うん。お邪魔します」

 前に来た日と同じで、女の子らしいリビングの装飾だ。
白いタンスやピンクのカーテン、小物類も白とピンクで統一されている。

 俺がガラステーブルの前に座ると、加奈子さんはキッチンへと向かった。
今日は寝室のドアが開いていない。あの向こうには、天蓋つきベッドがある。

「あの……弟君、ホットとアイスどちらにしますか?」
「うーん。暑いから冷たいのがいいかな」

 六月初旬、既に三〇度越えの日もあった。
熱い飲み物より、氷入りの冷えた飲み物が欲しくなる時期だ。

 キッチンからトレーにグラスを乗せて、加奈子さんが飲み物を持って来た。
見たことがない色の飲み物だ。赤ワインのような色だが、もっと薄い気がする。

「どうぞ」
「加奈子さん、これってなに? シソジュース?」
「ローズヒップティーです……」

 加奈子さんはストローで、二度三度カランコロンと氷を混ぜた。
俺もそれに合わせるように、氷を混ぜて一口目を飲んでみる。

「うぉ! 変わった味!」
「お砂糖入れて、飲みやすくしてるんです……」
「え? これってもっとニガイんだ?」
「はい……わたしはホットを無糖で飲みます……」

 冷たい飲み物と言えば、うちではアイスコーヒーだ。
姉二人もアイスコーヒーを愛飲する。俺もその影響でコーヒー派になった。
小洒落たハーブティーなど、あの姉妹には似合いそうもない。

「今日は久しぶりに、加奈子さんと話したくて来たんだ」

 こうして見る限り、まったくいつもと変わらない加奈子さんだ。
俺を奪う、俺を狙う、ブラコン。本当なのか疑うレベルだ。

「あ……お菓子も用意しますね」
「ありがとう」

 立ち上がった加奈子さんのワンピースの裾が、ガラステーブルに引っかかった。
その勢いでテーブル上のグラスがガシャンと派手に倒れる。
赤いローズヒップティーは、加奈子さんのワンピースだけでなく、俺の白いシャツやチノパンにも大量に飛んで来た。

「ごめんなさい……弟君、ごめんなさい」

 涙目で謝りながら、ハンカチで俺のシャツを拭おうとしている。

「いいって。加奈子さんは大丈夫?」
「はい……本当にごめんなさい……」
「謝らないで。こんなの帰って洗えば済むことだから」

 テーブルの上を片づけ、ラグに飛び散った液体をティッシュで拭き取った。
加奈子さんはグラスをキッチンへ持って行って洗っている。
泣いてしまったのだろうか。鼻をすする音が聞こえて来る……

「……今からワンピースを洗います。弟君の服も洗濯してもいいですか?」
「俺、着替えがないんだ。夕飯一緒に食べて帰るつもりだったから……」
「一番大きいサイズのスウェットをご用意しますね……」

 そう言うと、加奈子さんは寝室のドアを開き中へ入って行った。
花穂姉ちゃんの言った通り、寝室に姿見は置いてないようだ。

 クローゼットを開閉する音が聞こえて、すぐに加奈子さんが姿を現した。
手に持っているのは、パジャマ代わりに使える黒のスウェット上下だ。

「加奈子さん、着替える前にシャワー借りていい? ベタベタして気持ち悪くて」
「あ、はい……今、タオルを用意しますね」

 ガムシロップを入れていたからだろう。
ローズヒップティーが付着した部分がべとついて変な感じだ。

 一旦、自宅に戻った花穂姉ちゃんが来るのは、俺の合図待ちだ。
加奈子邸でシャワーを借りるなんて言えば、強制的に俺を連れて帰るだろう。
侵入魔の姉二人がいない空間で、ゆっくりとシャワーで汗を流そう。

 加奈子さんからバスタオルとハンドタオル、着替えを受け取り風呂場へ向かう。
高級マンションだけあって、風呂場もなかなかの作りだ。
全体的に大理石を使用し、浴槽やシャワーヘッドは白を基調としている。

(鏡もやたらとでかいな……)

 シャワー正面に設置された鏡も豪勢な作りだ。
べたついた体を洗い流すために、頭から湯を浴び始めた頃だった。
風呂場のドアが開いて、花穂姉ちゃんが入って来た。

 他人の家の風呂にまで侵入する姉がブラコンではない?
冗談だろうと思いつつ、曇った鏡越しに映る姿を見て絶句したのだ。
バスタオルを巻いた人物は、花穂姉ちゃんではなかった……


「……加奈子さん……」
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