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閑話 虎人族のカジム
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俺はバーキラ王国のバルガ氏族のカジム。
優れた戦士を輩出してきたバルガ氏族の中でも、神童と持て囃される程に強き雄だと思って来た。
そう、アニキに会うまでは…………。
俺はバーキラ王国からロマリア王国の学園へ留学する事になった。
ロマリア王国は、大陸の中央付近に位置する多種族国家だ。二十数年ほど前に周りの国から侵攻された、今では大戦と呼ばれる戦争を乗り越え、現在は安定している。
まあ、トリアリア王国がロマリア王国に侵攻するのに合わせ、攻め込んだのは俺の祖国バーキラ王国だけどな。
だけどその戦争でバーキラ王国の前国王は失脚した。当たり前だ、正々堂々と勝負する事を重んじる俺達獣人族の王が、他国の侵攻を利用して、美味しいところだけを掠め取ろうとしたんだから。
結局、精強で鳴るバーキラ王国の獣人兵は、前国王に反抗して戦いを放棄したんだ。
その時、現国王のバジェラ王が立ち上がり、前国王を倒して国をまとめ上げ、ロマリア王国と早期和平を果たしたんだ。
その所為もあって、ロマリア王国とバーキラ王国の仲は良好だ。こうして俺達獣人族の留学を受け入れる下地になっているんだ。
入学試験に合格し、俺のクラスはBクラスだった。成績で決まるクラスがBクラスなのは、これは獣人族には仕方ない。何故なら俺達獣人族は、魔法が苦手なんだ。魔法実技の試験で点数が取れない獣人族がBクラスでも自慢出来る出来だと思う。
実際、俺はこの学園の中では魔法無しなら一番強いと思っていた。……そう、あの日までは。
アニキと姐さんを見たのはその日が初めてだった。
Aランクにエルフが二人居ると噂では聞いていたが、俺はエルフには興味が無かった。俺は毛並みの良い雌が好みだからな。
アニキ達は、武術実技授業を免除されていたらしく、その日はたまたまアニキが姐さんに稽古をつける為に、実技教練場へ顔を出したようだった。
その日、俺は二人のエルフが繰り広げる模擬戦に衝撃を受けた。
男のエルフが女のエルフに稽古をつけている様に見えた。ただ、その内容が濃密過ぎた。
「……嘘だろ、なんだ彼奴ら」
あの雄エルフと闘いたい。
バルガ氏族の誇りをかけて、あの雄エルフに挑まない訳にはいかない。
「そこのエルフ!俺と勝負しろ!」
思わず俺は大声で叫んでたでいた。
「俺はバーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
「ホクト・フォン・ヴァルハイムです」
後に、俺が師事する偉大なアニキの名を初めて聞いた瞬間だった。
「勝負だ!」
俺は気合いを入れて身体に魔力を纏う。獣人族は魔法は苦手だが、魔力を使った身体強化とは相性が良い。
訓練用の大剣を担ぎ、一気に走り寄り大剣を上段から振り下ろした。
アニキは正眼に構えたまま動かない。
俺の振り下ろした大剣が、アニキの頭を潰したと思った時、アニキがゆらりと動いたかと思うと、信じられない事が起こっていた。
訓練用の大剣でも頭に当たれば命に関わる。そんな心配はアニキには無用だった。
かすかに聞こえた小さなコツッという音がしたあと、俺の大剣はいつの間にか押さえ込まれていた。
しかも、押しても引いてもビクともしない。
体格の差は歴然としているけど、その時俺はまるでオーガキングと力比べしているのかと錯覚したくらいだ。
あの身体の何処にこんな力があるのか、多分力だけじゃないんだろうけど、今の俺じゃ分かんねぇ。
「なっ?!何でだ!動かねえ!」
その時の俺の混乱たるや、今考えても恥ずかしくなる。
「チッ!」
俺は一か八かアニキの足に蹴りを入れようとしたんだ。だけど次の瞬間、俺は実技教練場の天井を眺めていた。
しかもその時になって、首筋と手首に痛みを感じる。俺は気付かぬうちに二撃も打たれていた事をその時になって初めて知った。
「大丈夫かい?」
手を差し出すアニキの手を取り起き上がった俺がする事は決まっていた。
俺は起き上がるなり、アニキに土下座をして頼みこんだ。
「ちょ、いきなりどうしたんだい」
俺がいきなり土下座するもんだから、アニキも驚いていたけど、俺の気持ちは決まっていた。
「アニキ、俺を弟子にして下さい!
この学園のどの実技教官よりアニキの方が強い!
俺をアニキの弟子にして欲しいんだ!」
実技教練場全体に響くような大声で俺は頼みこんでいた。
その日から俺はアニキの弟子になった。
アニキと姐さんは、学園の中で少し浮いた存在らしい。エルフ故の万人の目を惹きつける容姿もその理由の一つらしいんだけど、俺みたいな獣の因子が強い獣人族から見ると、人族やエルフの美醜はわからねぇ。獣人族でも耳や尻尾以外は人族に近い奴等は、美醜の基準は人族と同じらしいけどな。
それとアネキと姐さんは、当然の如く魔法が凄えらしい。当たり前だよな、エルフだもん。
魔法が凄えのに、剣も凄えってどんだけだよ。
アニキに鍛えられたらバジェラ王よりも強くなれるかもしれねぇ。
わざわざ留学して良かったぜ。
優れた戦士を輩出してきたバルガ氏族の中でも、神童と持て囃される程に強き雄だと思って来た。
そう、アニキに会うまでは…………。
俺はバーキラ王国からロマリア王国の学園へ留学する事になった。
ロマリア王国は、大陸の中央付近に位置する多種族国家だ。二十数年ほど前に周りの国から侵攻された、今では大戦と呼ばれる戦争を乗り越え、現在は安定している。
まあ、トリアリア王国がロマリア王国に侵攻するのに合わせ、攻め込んだのは俺の祖国バーキラ王国だけどな。
だけどその戦争でバーキラ王国の前国王は失脚した。当たり前だ、正々堂々と勝負する事を重んじる俺達獣人族の王が、他国の侵攻を利用して、美味しいところだけを掠め取ろうとしたんだから。
結局、精強で鳴るバーキラ王国の獣人兵は、前国王に反抗して戦いを放棄したんだ。
その時、現国王のバジェラ王が立ち上がり、前国王を倒して国をまとめ上げ、ロマリア王国と早期和平を果たしたんだ。
その所為もあって、ロマリア王国とバーキラ王国の仲は良好だ。こうして俺達獣人族の留学を受け入れる下地になっているんだ。
入学試験に合格し、俺のクラスはBクラスだった。成績で決まるクラスがBクラスなのは、これは獣人族には仕方ない。何故なら俺達獣人族は、魔法が苦手なんだ。魔法実技の試験で点数が取れない獣人族がBクラスでも自慢出来る出来だと思う。
実際、俺はこの学園の中では魔法無しなら一番強いと思っていた。……そう、あの日までは。
アニキと姐さんを見たのはその日が初めてだった。
Aランクにエルフが二人居ると噂では聞いていたが、俺はエルフには興味が無かった。俺は毛並みの良い雌が好みだからな。
アニキ達は、武術実技授業を免除されていたらしく、その日はたまたまアニキが姐さんに稽古をつける為に、実技教練場へ顔を出したようだった。
その日、俺は二人のエルフが繰り広げる模擬戦に衝撃を受けた。
男のエルフが女のエルフに稽古をつけている様に見えた。ただ、その内容が濃密過ぎた。
「……嘘だろ、なんだ彼奴ら」
あの雄エルフと闘いたい。
バルガ氏族の誇りをかけて、あの雄エルフに挑まない訳にはいかない。
「そこのエルフ!俺と勝負しろ!」
思わず俺は大声で叫んでたでいた。
「俺はバーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
「ホクト・フォン・ヴァルハイムです」
後に、俺が師事する偉大なアニキの名を初めて聞いた瞬間だった。
「勝負だ!」
俺は気合いを入れて身体に魔力を纏う。獣人族は魔法は苦手だが、魔力を使った身体強化とは相性が良い。
訓練用の大剣を担ぎ、一気に走り寄り大剣を上段から振り下ろした。
アニキは正眼に構えたまま動かない。
俺の振り下ろした大剣が、アニキの頭を潰したと思った時、アニキがゆらりと動いたかと思うと、信じられない事が起こっていた。
訓練用の大剣でも頭に当たれば命に関わる。そんな心配はアニキには無用だった。
かすかに聞こえた小さなコツッという音がしたあと、俺の大剣はいつの間にか押さえ込まれていた。
しかも、押しても引いてもビクともしない。
体格の差は歴然としているけど、その時俺はまるでオーガキングと力比べしているのかと錯覚したくらいだ。
あの身体の何処にこんな力があるのか、多分力だけじゃないんだろうけど、今の俺じゃ分かんねぇ。
「なっ?!何でだ!動かねえ!」
その時の俺の混乱たるや、今考えても恥ずかしくなる。
「チッ!」
俺は一か八かアニキの足に蹴りを入れようとしたんだ。だけど次の瞬間、俺は実技教練場の天井を眺めていた。
しかもその時になって、首筋と手首に痛みを感じる。俺は気付かぬうちに二撃も打たれていた事をその時になって初めて知った。
「大丈夫かい?」
手を差し出すアニキの手を取り起き上がった俺がする事は決まっていた。
俺は起き上がるなり、アニキに土下座をして頼みこんだ。
「ちょ、いきなりどうしたんだい」
俺がいきなり土下座するもんだから、アニキも驚いていたけど、俺の気持ちは決まっていた。
「アニキ、俺を弟子にして下さい!
この学園のどの実技教官よりアニキの方が強い!
俺をアニキの弟子にして欲しいんだ!」
実技教練場全体に響くような大声で俺は頼みこんでいた。
その日から俺はアニキの弟子になった。
アニキと姐さんは、学園の中で少し浮いた存在らしい。エルフ故の万人の目を惹きつける容姿もその理由の一つらしいんだけど、俺みたいな獣の因子が強い獣人族から見ると、人族やエルフの美醜はわからねぇ。獣人族でも耳や尻尾以外は人族に近い奴等は、美醜の基準は人族と同じらしいけどな。
それとアネキと姐さんは、当然の如く魔法が凄えらしい。当たり前だよな、エルフだもん。
魔法が凄えのに、剣も凄えってどんだけだよ。
アニキに鍛えられたらバジェラ王よりも強くなれるかもしれねぇ。
わざわざ留学して良かったぜ。
応援ありがとうございます!
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