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第一章 リュータ、アールガルズに立つ

第三話 リュータの初遭遇と失敗

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「はぁはぁはぁはぁはぁ」

 ざざざざざっ。

 酷い息切れと大きな音を立てて走る俺。超走る。マジやばい。
 ゴブリンだ。
 森の中でゴブリンに出会った。

 そしてゴブリンなんて最弱じゃないかと思い、後ろからどついた。
 ガイン、なんて金属を叩くような音がした。
 振り向くゴブリンを『鑑定』したら、HP29/30だった。
 背後からのクリティカルで1しか減らせなかった。
 振り向いたゴブリンに2発目をぶち当てたけど、今度はHPが減らなかった。
 ゴブリンが、あ?やんのか?とメンチを切ってきたので慌てて逃げた。
 今ココ。

 ゴギャギャギャギャと喚きながら迫ってくるゴブリン。
 ちらりと見れば小枝を指で切り裂く姿が見えた。

「あれはヤバいよ!! 誰だよ最弱とか言ったの!!」

 俺だよ、畜生め!!
 マジでごめんなさいゴブリンさん。謝るんで許してー。



 走っていたら拠点の近くまで来ていた。
 これ以上は逃げれない!

「畜生! やってやるよ!」

 そう覚悟を決めて、えい、と棍を突き出すと、目前まで迫っていたゴブリンの腹に見事命中。思ったより近くてビビるが当たったので良しとしよう。
 しかし、渾身の突きにも関わらずHPは減っていないご様子。
 でもうまく食い込んだみたいで、それ以上前には進めないようだ。ゴブリンは身体の硬さに反して力はそれほどでもないみたいよ。
 地形的にも木に挟まれる形でゴブリンは左右に逃げれず、ただ闇雲にこちらに手を伸ばしてくる。
 生の小枝をやすやすと切り裂く指が俺の腕を掠めた。
 すぱっと腕の皮が切れた。恐怖を感じた。死を感じた。
 叫んだ。超叫んだ。

「あびゃびゃびゃびゃびゃ!? 死ぬ、死んでしまうぅぅぅぅぅ!!」

 何か、何かないかと思って辺りを見渡すも、何もない。
 左手が血に染まっている。顔が引きつってくる。
 血で手が滑った。棍の後ろ部分が地面についた。

 武器が手を離れてしまい、もうダメだと思ったが、結果的にそれは正解で、つっかえ棒よろしくゴブリンを押し留めた。
 その隙に少し下がってゴブリン指の圏外へと逃げる。

 するとゴブリンは棍を斬り始めた。棍は思ったより硬くて1回で切断はされなかったけど、折れるのは時間の問題のようだった。
 それを見てまた叫んだ。ごっつ叫んだ。

「ゴブリンがなんでこんなに強いんだよ!」

 もうヤケだった。

「魔法を温存? ばっかじゃないのか!! 火よ!!」

 右手を上げて『生活魔法』で火を出してみた。
 火は、右手の指先に灯った。
 ゴブリンがそれを見て、にやりと笑った。

 おらこいよ、それを近づけたらお前の右手ぶった切るから。

 その顔には確かにそう書いてあった。

「なんで5cmくらいしか射程がないんだよ! そりゃゴブリンさんも笑うわ!!」

 棍の先から火が出ないのかよ!とも叫んだと思う。
 棍を掴んで何でだよ何でだよ火よ火よ火よ!! と叫んでいたら、ゴブリンの顔が歪んだ。
 腹を見ていたと思ったら、突然前のめりに倒れてきた。
 ゴブリンは、白目をむいていた。

「し、死んでる」

 『鑑定』様により、ゴブリン氏、HP0により殉職なされたのが後に判明した。



 死体を見ると、腹が焦げていた。
 どうやら棍の先から火を出すことに成功した模様。
 ゴブリンの死亡を確認した後、周りを警戒してから、ひとまず傷の手当てをすることにした。
 まずは魔法水で洗浄。当然、しみる。
 しかし思ったより傷は浅かったようだ。

 そこでふと、自分のHPを見てみたら、HP11/30だった。

「ゴブリンと同じHPかよ! と言うか、このかすり傷2回で俺は死ぬのかよ!」

 この世界こえー、まじこえー。
 治癒魔法とか取ってないし、これはヤバいんじゃないだろうか。
 傷が、傷が超痛いです。

「応急手当とか、民間療法とか、そう言うのって生活に密接していませんかねぇ!!」

 なんて思っていたら(実際に声に出てたかもしれなけど)、ぽわっと光って少しだけ傷が小さくなった。

「まじかー」

 『生活魔法』の中には治癒魔法に似たものもあったのかー。
 『ステータス』で確認すると、HP14/30、MP1/12となっていて、明らかに魔法で回復したのが分かった。

「とりあえず『応急手当』と名付けておこう」

 しかしやばい、MPが切れる寸前だ。
 仕方が無いので周りを警戒しつつ、MPの全快をその場で待った。


 およそ1時間後、HPはたったの1回復。MPは全快。
 その間にあった事は、あのゴブリンの死体が光と共に地面に吸われたことだけだった。

「天に昇るんじゃなくて、地に吸われるのか」

 そして小指の先ほどの小さな赤い石と尖った爪っぽい何かが残った。
 ひとまずそれらを拾い、拠点へと戻ることにした。

「臆病だと、笑わば笑え!! ちくしょーめ!!」



 なお、落ちていたアイテムの『鑑定』結果は、魔石小とゴブリンの中指爪だった。中指爪はアンコモン、つまり若干珍しいアイテムらしい。
 しかし若干珍しがろうが、今は使う手立てがない。
 どこかに仕舞っておけないだろうか。
 そう思っていたら石と爪が消えた。
 これはあれか、ゲームなんかである王道スキルか。

 『収納小箱』

 ステータスを見てみると、やはりあった新カテゴリー。
 しかも今しがた使ったスキルは『収納小箱』と言うらしいが、どうやら無意識に取得してしまったようだった。
 だが、小箱があるなら大きなほうもあるんだろうと思えば、下にあった。

 『収納室』

 気が付いたら両方取得していた。
 ほへーと、ゴブリンとの激戦明けで呆然としていた俺だが、気になって『ステータス』を見てみれば、MPが11/11になっていた。

 そう、実はレベルが上がって最大MPが増えていたのだ。
 のだが、12になったはずのソレが11に減ってる。何故だ。
 謎が謎を呼び、よく分からんので、『鑑定』様お願いします!!

 収納小箱-己の魔力域内に物品を収納する。その為に最大MPが減少する。内部は自分の魔力の影響を受ける。収納と取り出しに魔力を必要としない。

 収納室-分化された異界に物品を収納する。内部は時間の影響を受けない。収納と取り出しに魔力を必要とする。異界への理解が必須。

 異界かー。
 異世界から来た俺だからばっちり理解できちゃうぜ。
 でもこれ、この世界の人だったら『解説』の方じゃなきゃ、異世界なんてわかんないんじゃなかろうか。
 となると『収納小箱』の方は結構使える人がいても、『収納室』のほうは使える人少なそうだな。

「しかし、これはとても便利だなー。正直助かるわー。ポイント使わずにゲットできたのもありがたいなー」



 そしてあれから何度かゴブリンと対面し、ひとまず分かったのは、ゴブリンは火3発で倒せる事。
 つまり棍で突いて火を3個灯すだけ。
 ちなみに火3つ同時はいける。さっき確認した。
 つまり実質的には1撃必殺である。MPも3しか使わない。

 攻略法さえ分かれば、やっぱりゴブリンは『生活魔法』で死ぬただの最弱モンスターだった。
 そして安全圏から攻撃出来るリーチの長い棒を選んだ俺のチョイスを超ほめたい。

「えらいぞ、俺!!」

 そんなこんなでさっくりと晩御飯を取りに行く。
 すると昨日みた木の実やらが成っていた。同じところに。
 どうやら1日程度で植生が回復するらしい。
 本当に不思議な所だと思いながら、森の恵みに感謝した。



 肉食いたいなーなんて思った翌日。
 またまた、ゴブリンに出会った。
 目と目があった。襲ってきた。棍で突いて燃やした。1撃だった。
 うん。そう言えば、こいつ食えるのかな?

「そもそも消えるから無理なのかな?」

 そう思い死体に顔を近づけてみたら、違和感があった。
 そして気付く。

「これ、魔法水と同じ臭いだ」

 これはいかん、口に入れたら絶対に吐く。
 仕方なくゴブリンの死体が消えるのを待ってから魔石と爪を回収し、いつもの果物や野菜みたいな野草を収穫して帰る。

「肉は当分先かなー。あー、なんだか元気なくなるわー」


***

 今、浜辺で、とある石を探している。
 それはガラス系の石である。

「黒曜石とかあると嬉しい」

 そう、石器ナイフを作ろうと思ったのだ。

 と言う訳で、MPが半分になるまで『鑑定』を繰り返す。
 そしてゴブリン狩りと収穫、石探しをすること3日。
 十分な量の石が取れたので本格的に加工しようと思う。拠点で今日は一日費やすことにしよう。

 そうそう。
 『収納小箱』なんだけど、木の実を入れたら魔法水と同じ臭いがして食えない別モノになったよ。
 どうやら魔力と言うものが、そもそもああいう臭いみたいだと判明。


 さて石器ナイフだが、何十個と石を用意したのにわずか3本しか出来なかった。
 それと言うのも『生活魔法』が酷いのだ。
 どうせならと『生活魔法』で加工したら、ナイフっぽい形なのに全て角が丸かった。

「あー、確かに生活用品なら危なくないように角を取るよね、って違うよばーかばーか」

 と、叫んで全部叩き壊した。ザ・八つ当たり。

 結局、一番原始的な叩き割ってうまいこと処理するを敢行。
 手元部分は『生活魔法』で丸くして持ち手部分を作るのだが、それも失敗して刃も丸くすること数本。
 結果残ったのが2本。

 そしてここからが本題。
 刃がチビた時はどうしようかと思い、ミスって刃が丸くなってたヤツに砥石イメージで魔法をかけてみたのよ。
 結果は、刃がちゃんと出来た。すごい鋭い刃が、まるで今磨かれたかのようなピッカピカの刃が。
 つまり、最初に丸みを帯びたナイフっぽく加工して、後から刃の部分を研磨すればよかったと。

「あああああ、叩き壊したナイフかえちて・・・」

 そうは言っても、もう、元には戻らないんですけどね・・・、はぁ。

「割れたナイフは戻らない、うん、覚えたぞ」

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