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第二章 リュータと不思議な他種族

第二十四話 リュータとそれぞれの後日談

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 あれから俺はみんなに別れを告げ、一人荒野をさ迷っていた。

「なんて事はなく、普通に街中を歩いて国境を目指しています」

 獣人王国フェニルアラミンの最北西端の街、そして国境の街ウーティ。
 その街は俺が知らなかっただけで、中心部から国境まで10㎞も離れていた。
 俺はアベリア王国南東の街ババビアルカを目指して、現地の人たちに別れを告げ、ついでに石像の撤去をお願いして、歩き続け、今に至る。

「あのね、『ステータス』さん」


 [時速2km(平均よりかなり遅い)]


 って、やかましいわ!!

 なんなの、何なのこの子!
 スキルのレベルが上がった途端にやる気出しちゃってまぁ、なんと迷惑な。


「いや、と言うか、神様、いい加減にしてください」

 [おや、バレちゃったっすか]

「[アナウンス]の時から怪しいなとは思っていたんですけどね」

 [おおー、さすがっす! さすがっす!]


 そんな感じで始まりました、神とのトーク。

「それで、結局俺に何をさせたかったんですか?」

 [よくぞ聞いてくれたっす! いいすか、まずは・・・]

「長そうなので簡潔にお願いします」

 [ダメっす。聞くっすよ。でないと、禿げるっす]


 なんて強引な!?


***

 神様のお話の要点をまとめると

 1.魔物的なモンスターが脅威なのは事実。
   これは俺がこの地で実体験したから、まぁ分かる。

 2.信仰心の復活を希望。
   神々がケンカをして生物をほったらかした為に荒廃してしまったので、信心を取り戻してほしいそうです。身勝手すぎませんかね。

 3.勇者はいる。
   強力な神々により召喚された誰かさんが、どこかにはいるそうです。少なくとも俺の近くにはいない。

 4.自分が何神様か、分からない。
   意外なことにこの神様、自分が何を司っていたのか忘れた模様。なんか、殴られて記憶を失ったらしい。まじかー。


***

 [僕は、自分を 「笑いの神」 だと思ってるっす!]

「つまり俺は 「笑いの神の使徒」 って事か。いやいや、それ絶対ゴールデンタイムのテレビでいじられる役だよね!?」

 [今も似たようなものっす。芸人っすね]

 あ、そっすね。
 ちなみに俺がこの地に生まれ落ちたあの石碑は、いわばワープのゲートみたいなものらしい。
 楔として各地に打ち込んであり、神様はそれを目印に転移させるそうです。
 つまりエルフの里にもかつて転移してきた人がいると言う事か。少なくとも801年以上前の話になるんだろうけど。

「しかし、なんで俺は何度も色々な場所に転移したんだろう?」

 [君がすぐ死んじゃうからっすよー]

「へー、そうなんだー」

 [セーブも取ってなかったから、ランダム移動になってるっす]

 へー、そうなんだー。


 は?



 聞けば、最初に宿屋に泊まれば、その宿屋がセーブポイントになるそうだ。セーブポイントはあくまで俺に分かりやすい言葉になっているだけで、本当は何かこう、すごい名前らしい。
 そう言えば、最初の街ババビアルカではギルドの社屋に、次のウーティでは一人暮らしのモグラであるアンデルス君の家に転がり込んだ。
 そしてエルフの里では宿がないので兵舎と神社に泊めてもらっていた。

「何? 今死ぬと、ワーム車で立ち寄った最後の休憩地点まで戻される?」

 [そうっすね。セーブはマメにして欲しいっすね。セーブ、大事っす。相手から引き寄せられる場合もあるっすが、ね]

 そうだね、セーブは大事だね。上書き保存とか、大事だよ。
 あれ? 涙が・・・。


***

「俺、何度でも生き返るの!?」

 [制限はあるっすよ]

「そ、そうなのか。いや、待てよ。もしかして・・・」

 『ステータス』を、『調査』!



 タナベ=リュータ Lv20 MP38
 筋力 19
 敏捷 18
 魔力 44
 生命 16
 器用 16
 信仰 7

 スキル:ステータス、生活魔法、解説+、棒術+、収納+、魚人式古代泳法+、流体操作+
 残数:73



「残数・・・」

 もうこの表現だけでもなえるのに


「73!? ななじゅうさん!?」

 [あー、君、キノコ食べ過ぎっすね]

「キノコ!?」

 まさかのダンジョン産エリンギやマイタケが1upキノコでした。

 [普通、あんなにバカスカ食わないっすよ。キノコって当たると怖いんすよ?]

「いや、俺、『鑑定』様を、信じているから・・・」

 [そんな事言うから信仰が下がるっすよ]

「俺、そこまで神様を軽んじてはいないんですけどね」

 [それは信仰かなって思う数字っすよ]

 何それ、初耳ぃぃぃ!!
 そして何しれっと自分のステータスを、俺のステータスに混ぜ込んでくれてんのさ!!


 それに、数字が低いです。
 思ったよりも低い神様からの評価に気持ちが折れそうです。



***

 結局のところ、記憶を失っているらしい神様からはロクな話が聞けなかった。
 だが、近況の確認はできた。

 [エルフの里は生まれ変わったっすね。これで少子化問題も解決っす]

 へー。って、シルちゃん平然としていたけど、やっぱり里のピンチだったんだ。

 [ちなみに彼女、処女っすよ]

 へー。子供や孫がいるのに・・・、は?

 [里のみんなが自分の子供だと言ってたっすねー。未婚の母っす]

 な、なんじゃそりゃーー!!
 俺の理想、あそこにあった!?

「まぁ、いいか」

 [あっさりっすねー。そこもまたいい所っすよ]

「はいはい。お褒めに預かり恐悦至極ですわー」

 [魔人を撃退したのは健闘賞っす。正直、そこまで求めてなかったっす。いいっすね、[神的いいね]ボタンを押しちゃうっす] いいね!! いいね!!

 褒め方、雑ぅ!

 [獣人王国もキラーマンティスと相打ちとは恐れ入ったっすね、えらいえらい]

 雑! 俺の健闘の評価が雑いよ!!

 [勇者、しなくていいって言ったっすよ。なのになんで英雄みたいになっちゃうっすか。あんな羨ましくない石像まで建ててもらって、あれ、見るのきついっすね]

 知りません。石像は本気でやめて欲しいです。
 ああ、でもグラトニーイールは神様が立ち向かえって言ってた気がしたから行ったんだよね。

 [あいつの呪いは君には効かないっすからね。そこは任せるつもりだったっすよ]

 初耳、多すぎやしませんかね。
 いや、そうか。死んだグラトニーイールの方には『鑑定』使ってなかった。

 [グラトニーイールは弱ると『過食』の呪いをばらまくっすよ。それなのに呪わせる前に瞬殺っす。反則っす]

 『生活魔法』のあの使い方は?

 [想定外っすよ!! なんすか、何なんすか!! あの魔法はもっと平和的に使われるべき魔法っすよ!?]

 俺もそうは思うけど、訴えかけられても知りませんがな。


 と、色々と聞きはしたけど、結局のところおさらいみたいな感じで、思ったよりも有意義な情報は出てこなかった。


 [そろそろお別れっす]

「そうなんですか?」

 [君が溜め込んでくれた信仰心にも限界があるっす]

「へー、え? 何それ?」

 [では更なる活躍をそこそこ祈ってるっすよー]

「いや、ちょっと」

 最後の最後に、突っ込みどころ、多いってば!!


***

「身分証を提示しなさい」
「はい・・・」
「む、大丈夫かね?」
「はい、なんとか」

 ちょっと電波な神様の所為で疲れただけです。お気になさらず。
 しかしあれからペースを上げて歩いて2時間、やっと地上に出たと思ったらまさかの荒野。
 そこにぽつねんと立っているのが関所のようで、ドワーフの男性が守衛をしていた。

「ほう、第7級ハンターか。言葉も分かるようだし、優秀なようだな」
「ありがとうございます」

 言葉、言葉ねぇ。

「君なら大丈夫だろう、タナベ=リュータ、通って良し!」
「ありがとうございます」

 ターナさん、ご不在のご様子。

 そして俺は今、栄光の第一歩を踏み出した。


 そんな感じで帰ってきました、アベリア王国!
 ここ、この土、まさにアベリア!

「いや、意味分かんね」
「ここから向こうの街まで1時間かかるぞ。行くなら急いだほうがいい」
「ひゃい!? あ、ありがとうございます!」
「またのお越しを」

 俺の奇行を見ないふりしてくれたドワーフ兵さんにお辞儀をして、俺は歩き出した。

 そして着いたのは、村?
 石壁などなく、ただ木の柵で覆われただけの簡素な村が、そこにはあった。

「おかしい、ババビアルカはこんな所じゃなかったはず」
「おい、お前、まさかリュータか!?」
「え? あれ? ガルフ?」

 最初に世話になったハンターの先輩、ガルフがいる。
 やっぱりここは、ババビアルカだった?

「お前、どうしてこんな所に・・・いや、そんな事はいい!! また会えたな!」
「あ、ああ、うん。そうだけど、どうしたんだ?」
「おーい!! ジョンソン! ステファン!! リュータが来てくれたぞーーー!!」

 え? ジョンソンさんいるの? って、あの走ってくるの、ジョンソンさんだ!

「ジョンソンさん! 大ケガでハンター引退したって聞いてたのに大丈夫なんですか?」
「ああ、リュータ! お前さんのお陰でピンピンだよ! また会えて、オイラ、嬉しいよ!」
「リュータ! 久しぶりですね!」
「ステファンさん! あ、そうだ。お二人とも、おめでとうございます」
「っ!? あ、ああ・・・、ありがとう! 君も無事でよかったよ・・・うぅっ」

 そしてあれよあれよと言う間に、何故か歓迎会と言うムードになった。


***

「そうか、クワトリ少佐、軍役復帰したのか」
「ああ、もぐもぐ、そうだ、もぐもぐもぐ、ごっくん。ゴクゴクゴク。ぷはー。ガッガッガッ。それでよー。もぐもぐ」

 ・・・。

「おい、話すか食うか、どちらかにしなさい!」
「お? おお、すまんすまん」
「それで、街のみんなはどうなんだ?」
「幸いにもアンタ以外に死者が出なかったからな。呑気なもんだったよ。ま、アンタも死んでないなら誰も死んじゃいないんだが、ね」

 と、言う事らしい。

「まさかギルド間でのやり取りがないとはねぇ」
「身分証明書にはなるが、国をまたいでまではやってねーよ」
「国内だといけてんの?」
「電話、あるしな。いくら最北端のド田舎とは言え、この村にもあるからな」

 あるんだ、電話。
 明治時代に電話、あったんだな。
 しかし魔法があって電力会社なんてないこの世界で話。たぶん翻訳されているから俺の知る最も近い言葉になってるんだろうけど。

 ・・・、待てよ?

「ガルフ、『電話』」
「あん? お、おお!? なんだ、頭の中でジリリリリン! ジリリリリン! って鳴り響く!?」
「取ってみな」
「と、取る? 良く分からんがアンタの所為か。どれ・・・」

 - もしもし、俺俺、俺だよ -

「うお!? なんだよこれ!?」

 - 『電話』の『生活魔法』だよ -


 ・・・ ・・・。



「「なんじゃそりゃー!!」」




 と言う訳で、クワトリ少佐の脳内に直接アクセスして謝り倒しましたとさ。


***

「この村、オビヒロ村の生活もいいもんだな」
「そうだろう? 魔物的なモンスターも少ないし、土地はあまりまくっているしな! 耕し放題だぞ!!」
「獣人王国も近いし、俺としてはベストプレイスかも」

 異世界に来て、冒険して、戦って、人々を救って、畑仕事をやって。

「うん、俺、この世界、好きだわ!!」

 そう言いながら、俺は今日もせっせとクワを振るのだった。




 - 第一部 完 -
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