131 / 375
捕まった後のお話
41.見掛けました。 <亀田>
しおりを挟む課長席の電話を取ると、くぐもった息のような声が聞こえて来た。
何だ?間違い電話か……?
『……亀田!飯行くぞ、ロビーまで来い!……』
篠岡か?
「いや、メールチェックするから無理」
定時に帰る為に俺は休憩時間を雑事や情報収集に充てている。朝は他の奴より一時間早く来て先ず経済新聞と菓子関係の専門紙を読む。それから一般の新聞にざっと目を通し必要があればその部分をスキャンして保存する。大量に溜まったメールを重要度の高いものから選別しチェック、部下からデータで提出された報告書に目を通しメールで返信。必要があれば打ち出して指示を書き加え付箋を貼って置く。そして机に上がっている書類も同様に処理し……ここで漸く朝イチの打合せの内容を頭で纏める。必要があればメモをPCで作成。データで送る方が無駄が無いのだが……やはりちゃんと紙にしてお互い顔を合わせて指示を出す方が『抜け』が少ないから、どうしても紙に出力してしまう。思いついたらメモも追加できるしな。タブレットでもそう言う作業は可能だが、俺にはやはり紙媒体の方が体に馴染むと言うか、シックリ来る。
始業後の午前中はそんな感じで部下への指示や打合せ、電話対応や他部署との調整で埋まってしまう。そうしてPCをほったらかしにしている午前中に溜まったメールや電子データの報告物等に目を通す事に昼休みを充てているのだ。これまでも上司やクライアントに声を掛けられなければ、昼休みはほとんど雑用をしながら机に張り付いているのが定番だった。
『そんな悠長な事、言ってて良いのかね?』
既視感のある言い回しに思わず、ピクリと反応してしまう。
『大谷ちゃんが見慣れないイケメンと……』
「すぐ行く」
受話器を置いて俺は立ち上がった。
別に昼飯くらい誰と行こうと構わない。大谷を信用しているし、其処まで束縛しようなんて考えてはいない。そう、俺は単に篠岡に誘われて昼飯を食べるだけだ。おそらく同じ方向の店へ向かう事になるかもしれないが……邪魔する訳じゃなし、そんな偶然、あったとしてもさしたる問題ではないだろう……きっと。
ほとんど脊髄反射で返事をした俺は「ちょっと外、出て来る」と辻に言い残し、廊下に出てから小走りでエレベーターに駆け込んだのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,551
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる