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第2章
婚約式
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煌びやかな照明に色とりどりの花々。
光の間というネーミングにふさわしく、いたるところにクリスタルの装飾品があり、反射光もあふれて眩しい。
鴨井あすかの妹、鴨井すみかの婚約式だ。
あすかさんじゃないのにこんな派手な事をするとは……妹は控えめな性格に見えたが、同じ類だったのだろうか。
しかし、先程から主役の2人に笑顔はなく、仕方なしの政略結婚の雰囲気だ。
(それにしても、あの母親は相変わらずだな。)
鴨井あすかの母親は、あすかの結婚式においても派手さ極まりなかった。花嫁の母が、真っ赤なドレスを着るなど前代未聞だろう。今日もまた、娘よりも目立つ特大のパールを耳からぶら下げていて、香水の匂いが目に見えるように漂っている。
今のところ、誰も俺だと気付いていないようだ。
まあ、そりゃそうだ。
あのあすかさんが、自分で飲みものを取りに立つことなどない。案外ラッキーな役回りだったかもしれない。
それにしても、主役の2人はどうなるのだろう。
女の方は俯き、男は仏頂面のままだ。
周りの親族、とりわけ父親クラスの男性は友好的に相手を敬っている。
その為、ビールが繁盛した。
ビールは瓶で別の係りが提供する。俺はカクテルやワインの係だったため、忙しくて仕方ないほどではなかった。
それでも何かと慣れない環境に手間取り、2時間はあっという間に過ぎた。
たちまちバレなかったようだ。
こんなところで彼女達に絡まれたくはない。
ホッとしながら後片付けに入ると、
「冨樫さん、ちょっといいかしら?」
と、三条さんに呼ばれた。
「先程の婚約式の方で、鴨井すみかさんってご存知かしら?」
「……い、え……、知りませんが。」
嫌な予感しかせず、嘘をついた。
三条さんの眉毛がピクッと動いたが、
「……そう。あちらがあなたのことを知りたがっていたの。念のために、はぐらかしはしたのだけど……。ただ、『元気になられたのですね』と、おっしゃってたわ。心当たりはある?」
ーーああ、なるほど……。看護師として知りたいって感じか?だが……。
「いいえ、知らないです。多分人違いで
しょう。目も合っていませんし、他人の空似というやつじゃないですか?」
まんまと頷くわけにはいかない。
俺はもう、以前の冨樫諭ではない。
捨てた自分と関わりたくはない。
体調もかなり良くなった。
もうあの病院に行くこともないだろう。心配してくれるのは有難いが、今は他人の事を考えている暇はないんじゃないか?自分の心配をすべきだろ。
あの妹のことだ。姉には言うまい。
騒ぎになることは目に見えているのだから。
様々な人と関わるこの職場だが、3ヶ月経った今でも知り合いに見つかることはなかった。
依子の職場にいた人も披露宴会場で見かけたが、俺には気づかなかったし、なんなら昔手を出した女にも気づかれなかった。
もしかしたら本当に『冨樫諭』はいなくなったのかもしれないと、妙な自信がついてきたが、それは空回りだった。
ある会社の親睦会で、高原を見た。
ーーーなんで!?あいつ?
高原が帰国している。
ということは、依子も日本に、このホテルにいるのかもしれない。
そう思うや否や、見つけた。
会場の隅で、壁の花と化しているその姿を。
光の間というネーミングにふさわしく、いたるところにクリスタルの装飾品があり、反射光もあふれて眩しい。
鴨井あすかの妹、鴨井すみかの婚約式だ。
あすかさんじゃないのにこんな派手な事をするとは……妹は控えめな性格に見えたが、同じ類だったのだろうか。
しかし、先程から主役の2人に笑顔はなく、仕方なしの政略結婚の雰囲気だ。
(それにしても、あの母親は相変わらずだな。)
鴨井あすかの母親は、あすかの結婚式においても派手さ極まりなかった。花嫁の母が、真っ赤なドレスを着るなど前代未聞だろう。今日もまた、娘よりも目立つ特大のパールを耳からぶら下げていて、香水の匂いが目に見えるように漂っている。
今のところ、誰も俺だと気付いていないようだ。
まあ、そりゃそうだ。
あのあすかさんが、自分で飲みものを取りに立つことなどない。案外ラッキーな役回りだったかもしれない。
それにしても、主役の2人はどうなるのだろう。
女の方は俯き、男は仏頂面のままだ。
周りの親族、とりわけ父親クラスの男性は友好的に相手を敬っている。
その為、ビールが繁盛した。
ビールは瓶で別の係りが提供する。俺はカクテルやワインの係だったため、忙しくて仕方ないほどではなかった。
それでも何かと慣れない環境に手間取り、2時間はあっという間に過ぎた。
たちまちバレなかったようだ。
こんなところで彼女達に絡まれたくはない。
ホッとしながら後片付けに入ると、
「冨樫さん、ちょっといいかしら?」
と、三条さんに呼ばれた。
「先程の婚約式の方で、鴨井すみかさんってご存知かしら?」
「……い、え……、知りませんが。」
嫌な予感しかせず、嘘をついた。
三条さんの眉毛がピクッと動いたが、
「……そう。あちらがあなたのことを知りたがっていたの。念のために、はぐらかしはしたのだけど……。ただ、『元気になられたのですね』と、おっしゃってたわ。心当たりはある?」
ーーああ、なるほど……。看護師として知りたいって感じか?だが……。
「いいえ、知らないです。多分人違いで
しょう。目も合っていませんし、他人の空似というやつじゃないですか?」
まんまと頷くわけにはいかない。
俺はもう、以前の冨樫諭ではない。
捨てた自分と関わりたくはない。
体調もかなり良くなった。
もうあの病院に行くこともないだろう。心配してくれるのは有難いが、今は他人の事を考えている暇はないんじゃないか?自分の心配をすべきだろ。
あの妹のことだ。姉には言うまい。
騒ぎになることは目に見えているのだから。
様々な人と関わるこの職場だが、3ヶ月経った今でも知り合いに見つかることはなかった。
依子の職場にいた人も披露宴会場で見かけたが、俺には気づかなかったし、なんなら昔手を出した女にも気づかれなかった。
もしかしたら本当に『冨樫諭』はいなくなったのかもしれないと、妙な自信がついてきたが、それは空回りだった。
ある会社の親睦会で、高原を見た。
ーーーなんで!?あいつ?
高原が帰国している。
ということは、依子も日本に、このホテルにいるのかもしれない。
そう思うや否や、見つけた。
会場の隅で、壁の花と化しているその姿を。
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